【インタビュー】in the blue shirt 「10min DTM powered by raytrek」| ブチ抜きと平熱

2010年代前半、Maltine RecordsやTREKKIE TRAXといったネットレーベルの隆盛の中で頭角をあらわし、関西を拠点に活躍するトラックメイカー・in the blue shirt。自身の作品ではこれまでにアルバムを3枚リリースし、そのほか執筆、対談、イベント主催などを通してDTM文化の一端を担ってきた。

あくまで「兼業作家」だと説明された氏のキャリアは、2023年に会社を辞めることで「セミ無職」となる。今回、「10min DTM powered by raytrek」の収録を機に、実質的に「専業作家」となった(?)in the blue shirtの現在地点を捉えるべくインタビューを行った。自身の環境の変化について、関西シーンを巡る状況について、そして「ブチ抜き」について。氏の止まらないマシンガントークの中には、創作を称揚するピュアな思いとユーモアが詰め込まれている。

取材・構成:namahoge

情報提供:サードウェーブ

 - 京都精華大学の講師着任を機に前職を辞め、京都に戻られたとブログで拝読しました。いよいよ音楽が本業になったと。

in the blue shirt - 本業っていうわけでもないんですよ。ブログにも書ける話と書けない話があるわけで……ただ「大学の先生になることなんて普通に生きていたらないやろ」ってことで、会社を辞めたというのは一番大きい変化ですね。最初は大阪から通っていたんですけど、京都精華大学はむっちゃ北の方にあって、大阪から行くには距離があって。でも結局、京都に越してきてから、前職と業務委託契約が締結されて、月に一回会社に通っています(笑)。

 - ブログ後にそんな展開が。

in the blue shirt – 一度辞めた会社にまた継続して使ってもらうっていうのは、仕事を真っ当に評価されたということだし、名誉なことではありますよね。

 - 「音楽が本業ではない」というのは、仕事のバランスが変わったということなんですね。

in the blue shirt - 仕事に関しては掘り下げればいろいろあって、興味ある人からするとめちゃくちゃエキサイティングな内容があるんですけど(笑)。でも、「本業じゃない」と言いつつ、世間的にはちゃんと「はい、音楽で食っています」みたいな感じは出そうと思ってます。「いや、僕なんて……」って謙遜しすぎるのはあんまり良くないな、みたいな。

 - ちょうど有村さんが就職されるタイミングのインタビューを拝見したのですが、「音楽で生活するという考えはありますか?」という質問に「それはないです」と答えていました。「就職しても結局ずっと音楽やってるし、変わらない」というような。

in the blue shirt - 本当になにも変わらなかったんですよね。大学には金を払って通っていたけど、今度は給料がもらえるようになって金銭的に余裕が出来たくらいですね。

 - 仕事を辞めた以降も同じですか?

in the blue shirt - いや、そこは感覚的に相当変わりました。今まで生活における仕事量があんまりにもキツキツすぎたんで、なんというか、「適切な稼働量ってこのぐらいだよなあ」みたいなのを思いましたね。30代まで駆け抜けた仕事の密度を考えると、今は相対的に暇で暇でしょうがないっていうか、暇さっていう一点だけでだいぶ視界が開けたというか。

 - 視界が開けた。

in the blue shirt - 今まで音楽は永遠のサブやったんですよ。大学生になってから音楽を始めて、在学中も就職してからも朝から晩まで音楽やるわけにはいかないんで、空き時間でやるわけじゃないですか。これまでは音楽は空き時間にやるものという刷り込みがあったのですが、、今は「俺ってずっと音楽してていいんだ」と思えるようになって、そういう意味で変わったなーって感じがします。

 - 3rdアルバム『Park with a Pond』(2022)のセルフライナーノーツ的なブログに書かれていた心情から、変わらざるを得ない状況にあるのかなと。

in the blue shirt - なに書いてました? 結構昔なんですよね。

 - いや、去年ですよ(笑)。

in the blue shirt - めっちゃ昔に感じるんですよね。いろいろありすぎて(笑)。

 - (笑)。アルバム制作の要点として2つ記されていました。ひとつは「打算を無くして思いを詰めたい」、もうひとつは「人の本心は容易に捉えられないが、別に問題はない」。

in the blue shirt - あー、「打算」がテーマやったんで。

 - 前者について、「打算」をなくして制作できる理由に「兼業である」という旨が書かれていたんです。

in the blue shirt - それは相当大きかったと思います。音楽で飯食うってなったら、セールスがどれぐらいやとか勘定しなきゃしょうがないわけじゃないですか。今月なんぼ仕事していくら入るとか。音楽以外に仕事をしているとそういうのを一切しなくていい。そういう意味で余暇の音楽っていうのは全然趣きが違うわけですよね。仕事を辞めた今もまだ余暇の気持ちが抜けきっていないので、そんなにモードは切り替わっていないんですけど、そのうち変わるんでしょうね。打算を脱臭するのは無理になっていくんじゃないですかね。

 - それは危惧として捉えているんですか?

in the blue shirt - うーん、最近周りとよく話すんですけど、たとえば関西で音楽やっていてアルバム出すじゃないですか。別になにも起こんないんですよ。まず中央に向けて投げてないから、中央の軸で僕の作品が巨大なステージに乗ることって、ほんまにないんですよ。逆に「作品出してもどうせ誰にも聞いてもらえないんや」って音楽始めたてでよくありがちな、ネットに上げても再生数3とかでなんやねんっていう絶望感も、自分にはないんですよ。そこそこの数の作品をリリースしてきた上で、体感として「アルバム出して人生変わるんじゃい」みたいなのがないということがもうわかっていて・・・。一方で、SNSのフォロワーはまあまあいて、出しさえすれば結構な数の人間に聞いてもらえる。みんな聞いてくれて感想を言ってくれて楽しいなって。だから、「ブチ抜く」っていうか、スターダムにのし上がるみたいな大事件も起こらないし、逆に出して何の意味があんねんとも思わなくて、「これでずっといけんなー」っていう安心感と、「この感じでずっとやっていて大丈夫なんか」って不安が半分ずつあるんですよね。現状の自己満足回転みたいなので作品がひたすら作れて自分は楽しいんですけど、もうちょっと「ブチ抜かなあかんのじゃないか」っていう懸念があります。最近その議論を周りの関西人とよくしていますが、近いことを考えている人は多いと思います。

 - インタビュー前に、関西在住のトラックメイカー・sober baerさんが「ブチ抜く」というワードを多用していると仰っていました。

in the blue shirt - あいつもう、「ブチ抜きてえっす」しか言いませんもん(笑)。

 - 「打算」とは少しニュアンスが違うとは思いますが、有村さんも「ブチ抜く」ことが必要だと考えはじめている。

in the blue shirt - いや、ブチ抜かなくてもいけちゃうからこそ、能動的にブチ抜き欲みたいなのを外部から注入しなきゃヤバいんじゃないかというか、かなり贅沢な悩みだと思うんですけど、もっとリスクを負わなきゃいけないんじゃないか、みたいな。それこそエモラッパーとかって、ある種のブチ抜きですよね。XXXTentacionのアルバムって命の灯火みたいなものじゃないですか。それがブチ抜きの極地で。自分は今、それの真反対なんですよ。別にサボってるわけじゃないですけど、もうちょっとやりようがあるじゃないかな・・・みたいな。

 - 有村さんはサブスクの収益だけで生活しているアーティストとは状況が異なるわけですよね。

in the blue shirt - そうです、そうです。自分が真の専業じゃないっていうのは、別にアーティストとして曲が売れなくても生活が沈まない理由があるからなんですよ。大学の収入もありますし、制作仕事もいろいろやっていますから、自分の作品の評価いかんで人生ごと沈没してしまうみたいな危機感はないんです。昔はそれをすごくポジティブに捉えていましたが、今は「あれ? ずっとこのままで大丈夫なのかな?」ぐらいの感じですね。

 - かといって、オリコンをガチで狙っていく、みたいなモチベーションがあるわけでもない。

in the blue shirt - そもそもそういう欲は存在してないんで。やりたくないことやってもしょうがないじゃないですか。別に「タワマンに住みたいんじゃい」とは思わないですから。

 - これもまた別のインタビューからなんですが、ご自身のことを「サスティナブル・ヤクザ」と称していて。

in the blue shirt - ぶはは(笑)。それは今でもそうですよ。やっぱサスティナブル過激主義者なんで。続けるやつが一番ヤバいっていうのはずっと思っています。「アンチ・ブチ抜き」としてのアイデンティティを強く持ってやってきたんですけど、パンデミック下であまりにも力強い作品がいっぱい出てきたんで、これまでの自信が、「あれ?」みたいな……、その時代の熱いパトスがほとばしってる作品ってあるじゃないですか、エネルギーヤバいな、っていう。自分もやらなあかんのかな、でもそれって俺にとっては何だ? とか、今でもできてんちゃうの、みたいなのを考えていて。

 - 「熱いパトスのほとばしってる作品」というのは、どういうものがありましたか?

in the blue shirt - いっぱいありますけど、やっぱPAS TASTAの音楽はブチ抜きやな、って。単純に技術がすごいだけでなく、やっぱなにか「すごいこと始めたるんじゃい」っていう、「じゃい」がある。

 - 有村さんにとって、「じゃい」の精神が自己の内にないことが問題であると考えている。

in the blue shirt - そうです、そうです。

 - 「じゃい」も「ブチ抜き」もあくまで外部的なものとして見ていたが、「音楽」が人生のメインに据えられた今、うっすらと必要性を感じはじめた……というのが現況ということですかね。

in the blue shirt - それをアイデンティティとしていたところが、「あれ、ちょっとなさすぎじゃね」って不安になっている感じですかね。

 - それこそ、「ヒットチャートに載りたくて音楽を始めた」というアーティストもいるかと思いますが、有村さんの場合、音楽を作ろうという原体験はなんだったのでしょうか?

in the blue shirt - きっかけは友達がelectribeって打ち込みの機材でハウス作っていて、あまりにも面白そうだったんで「これをやろう」と思って始めました。だからといってハウス作るわけじゃなくて全然関係ないもんでしたけど、だんだん面白さが正しくわかってきて、そのまま続けているという感じなので、外的なモチベーションは特にないですね。

 - 音遊びみたいなものが原点にあると。

in the blue shirt – 最初は仙人みたいな、山にこもって一人淡々と音楽作るみたいな孤高の存在に憧れていて、「それが一番かっけー」って思っていたんですけど、自分はそうなれないなって感じたんですよね。作ったら早く友達に聞いてほしいっていう感覚が今でもあって。そもそも、最初から友達とのやり取りで音楽を作っていたんで。人に聞いてもらったら楽しいですよね。で、その当時は関西の打ち込み電子音楽のシーンがすごく盛んで、「曲作ってみんなに聞かせることこそが豊かなことなんや」って思い始めたですよ。普段何してるかも知らない、本名も知らない人たちが集まってずっと音楽の話をしていて、その人の出す音楽を聞くわけじゃないですか。不思議な感じなんですよね。よくある、飲みに行って旅行に行って、みたいな人付き合いに匹敵するどころか、なんならそれよりも密度が濃いというか。こいつのことなんも知らんけど、作った音楽聞けばめっちゃ知った気になるなって。自分すごい喋るのが好きなんですけど、立ち回り的なことはあんまり得意じゃなくて。でも、このおしゃべりな感覚が、音楽通して消化される感じがあって、この感覚が原点かなと。

 - 音楽を介したコミュニケーションがあったと。

in the blue shirt - たとえば家で有名な作品聞いてもその作り手と喋る機会なんてないじゃないですか。これが野良で音楽やっていると毎日あるんですよね。サンクラで曲みつけて「かっけー」と思っていたら、その人がクラブにいて、話してみて、みたいな。そういう経験をしまくっていました。多くの人と知り合いましたが、作者と曲がちゃんと合っていて、「こんな人がこの曲作っているのか」と驚いたことが一回もないなって気づいたんですよ。意外性みたいなものがほんまに一度もなくて・・・。かなり暴論ですけど、音楽から得られる情報って相当あるんやなって。トーフさんが「音楽作ると自分がわかる」って話を、本当にずーっと昔からしていて。で、それは自分も100%同意で。それと同じくらい、誰のどんな曲にも人となりがある。

 - 〈Potluck Lab.〉というDTMerが音源を持ち寄って技術交換するイベントも主催されてますね。

in the blue shirt - 作品ベースで人間をセットで見て、っていう特殊なコミュニケーションをするのは、すごく楽しいし豊かなことなんで、なるべくいろんな人にやってほしいと思ってやっています。っぱ〈Potluck Lab.〉で集まった人たちはその後も自分の関係ないところでみんな長いこと仲良くしていて。やっぱそうだよな、これって楽しいよなって思うんですよね。

 - たとえばラップをする人であれば、言語的な情報として相互理解が促されるというところがあると思うのですが、トラックメイクの観点で非言語的なコミュニケーションを図るというのはすごく特殊ですよね。

in the blue shirt - ラップも大好きなんですけど、自分がやるにはもっとふんわりした形で、というのがいいんですかね。「俺はこんな人間でこんなことしてるんです」って自分語り的な要素が多すぎると人によっては苦手に感じたりすると思うんですよ。だからちょうどいい形でやっているというか。

 - 『Park with a Pond』のセルフライナーノーツに記された要点のもうひとつが、「人の本心は容易に捉えられないが、別に問題はない」ということでした。人の心を池になぞらえる人間観は、今話されたこととも繋がっているように思います。

in the blue shirt - まあ、たとえば野球と宗教と政治の話をするなみたいなことが、世間ではありますよね。友達と普通に仲良くなる時に、そいつの政治的な思想が何で好きな野球チームはどうで、って別に知らなくていいじゃないですか。それがあの時は無理やり明かされた、というか「明かすべき」となった時に、すごく嫌だと思ったんです。コアな部分というか聖域というか、そういうものがあった状態で楽しい感じになってほしい……。それは別に上辺のコミュニケーションでやり過ごせというわけではないし、政治が大変なことになっているならみんなで政治の話をせいや、というのも間違ってないなと思うんですけど。本質とか聖域みたいなものを程よくオブラートに包んだ状態で、深い相互理解に至り、かつ平和にいたいなあ、と。池のモチーフは、人それぞれにそういう部分があって、その部分は「知らんでいいよ」ってことなんですよね。

- 池をモチーフにしたのは、聖域そのものを肯定したいがためだった。

in the blue shirt - 開示の程度というか、別になにも支持政党をシェアしなくても本当に深い相互理解には絶対至れるはずじゃないですか。「池の水抜くなや!」みたいなんが。

 - 2ndアルバム『Recollect the feeling』(2019)リリース時のインタビューでは「めっちゃ頑張って歌ってるけど何も言ってへんみたいなのがヤバい」と仰っていて。今もボーカルチョップで無意味化された歌モノという作風は変わらないと思うのですが。

in the blue shirt - 音楽的には押し付けがましい部分もあると思うんですけどね。そもそも音って強制力があるし、自分もいわゆる「エモくなる」とされるテクニックは積極的に使ってますし。

中塚武さんとの対談でも自身の音楽を「〈泣き〉の要素に偏っている」と仰っていましたね。ここで疑問だったのが、歌にこだわりつつも意味の伝達を断ち切るような作風は、有村さんの中でコミュニケーションの不可能性を前提にしているのか、むしろ泣きメロ的なエモーションからコミュニケーションの突破口を探っているのか。

in the blue shirt - 完全に後者です。非言語でいけると思ってるんで。最近は”言語化“という言葉が流行っているように感じますが、それ一辺倒ではダメなんじゃないかという話です。

 - ライターとしては耳が痛いですが(笑)、そういう風潮はありますね。

in the blue shirt - 自分も過剰に考えとかをベラベラ喋る人間ではありますけど、それでも言語化できへんから音楽やっているんですよね。

 - 音楽の方が雄弁であると。

in the blue shirt - や、雄弁は言い過ぎですけど、機能が全く違うんですよ。やっぱ音楽は抽象なんで。最近は抽象的な、音楽的なものが軽視されすぎているなと思います。軽視というか、言語化的なものと、ロジックでは表現できない抽象的なものっていうのは両輪で、どっちも面白いわけですよ。後者の面白さの最たる例が、作品を通したコミュニケーションだと考えています。別に音楽じゃなく、絵でもなんでもいいんですけど。「こういう奴がこういう作品つくるんだ」っていうのを繰り返すと、作品への理解も、人間への理解も深まるっていうか。それが私の活動の骨子というか、メインになるかもしれないですね。

 - 「楽しい音楽を作ってます」と自己紹介されていましたが、コミュニケーションの諦念というよりは、もっとピースなバイブスなんですね。

in the blue shirt - そうです。有名なマンガの主人公と一緒ですから(笑)。

 - (笑)。そのバイブスは、トマソンスタジオから配信した『Music Unity 2020』のライブセットからも伝わってきます。

in the blue shirt - いやー、あれは過剰なピースの押し売りみたいなところはありますけどね(笑)。まあ、トマソンスタジオの配信って強がりみたいな感じじゃないですか。もちろんやっている時は本当に楽しかったんですけど、(コロナ禍で)おもんない時期だったわけじゃないですか。過剰に面白いって言うことによって、どうにかせなあかんこともあるんだなって、改めて思いますね。

- 自分、あの動画めちゃくちゃ好きで。コロナ禍という背景もあって、見る側のコンディションによっては泣けてさえくるようなパワフルさがありますよね。

in the blue shirt - 今見返すと「うるさ」って思いますし、あれ見て「泣きました」って言われても「嘘つけ」って思ったりもするんですけど(笑)、たまに「この人は本当にあの動画に感動したんやな」みたいな人に出会ったりするんですよ。それに、当時のイカれてた自分によって、自分の認知が歪められた説も結構あって。根拠はないんですけど、クラブに来る若いお客さんとかにアレを求められるような感じもあって、そうすると、自分もピースな気持ちを作って臨むじゃないですか。でもそれはピエロを演じている感じでも全然なくて、自分のやりたいこととそんなに相違ないなって思えたりもして。そういう意味では昔より自覚的になったかもしれないですね。

 - ライブ中の一言「音楽おもろすぎワロタ」も印象的でした。やはり〈Potluck Lab.〉のような活動も、売れるとか売れない以前に、「おもろすぎ」な音楽をサスティナブルに創作し続けようというメッセージなのかと。

in the blue shirt - そうですね。音楽を続けられる要素として、頑張って上に上にあがっていくっていうモデルがありますけど、ジャンルや活動形態によってはそれをイメージしづらかったりするので、友達に聞かすっていうのがモチベーションを維持しやすいのかなって。シーンっていうほどでもなく、友達が聞いてくれるから音楽を作るみたいな。

 - それこそ「ブチ抜き」か否かという話に近づいてきますね。「絶対バズらせる」と、友達の外側に拡散することを念じて曲を公開すると、その反響次第ではひどく落ち込んだり。

in the blue shirt - ブチ抜こうという場合って、想定しているリターンがあって、それをアンダーするかオーバーするかっていうのがすごく気になってしまうわけじゃないですか。基本的にそれはアスリート的な、格闘家的な感覚で、リングで相手を煽りまくって「負かしたるわ」みたいな、勝てば大きいが負けると大変ですよね。要するにレバレッジをかけている状態なんですよ。ブチ抜くためにはそういうリスクを負わないといけない。けど、自分はそこにビビってベッドせずにいる部分がある。リスクの方を重く見ていて、レバレッジをかけた結果、音楽辞めちゃうみたいなことになる損失の方が全然デカいなとは思います。

 - スモールサークルの中で完結していることの健康さもある。

in the blue shirt - 勢いがあるうちに「ブチ抜くんじゃい」って気合い入れて活動するのも素直に応援できます。逆にみんなに対して「音楽辞めんなよ」って、勝手に取り越し苦労してるところもある(笑)。

 - ある種中堅的な立ち位置になってきて、若手アーティストにエールを送ることにも自覚的なのかなと思いました。リミックスのリリースに関してもunlucksiさんやquoreeさんなど若手にアプローチしていますよね。

in the blue shirt - unlucksiくんは音源のリンク送ってくれて、「ええやん、これ正式に出そうよ」ってこっちがお願いしたんですよ。quoreeはマルチネのライブで見て結構食らって。雑な説明をすると、quoreeは僕よりハッピーさが脱臭されているんですけど、共通する部分がデカくて、なんかやってもらおうと思っていたんですよね。

 - Twitterではよく「今の日本の電子音楽おもろい」ということを発信されていますけど、それも若手へのエール的なところがあるのかなと。

in the blue shirt - いや、他意なくそう思ってるんですよ。

 - 面白いと思っているポイントはなんですか?

in the blue shirt - やっぱりガラパゴスというか、UKとかと一緒で人口の規模感が小さいわけじゃないですか。そこから明らかに面白いものが生まれているというか。UKってガラージがあってグライムがあって、ドリルがあって、ラップするにしてもトラック作るにしても歴史ある「道(どう)」があるんですよ。で、アメリカだったらブチ抜く対象が明確にある。アメリカンドリーム的なものはロケットみたいなもんで、どこまでも飛んでいく可能性があって。日本はそれが明らかになくて……みんながよくNewJeansとかを引き合いに出して日本の音楽と比べたりするのも、結局は中央に対する不満のあらわれでもあるじゃないですか。でも、アメリカンドリーム的な、中央がないにも関わらず音楽やってる奴がめっちゃいるっていうのはすごい豊かなことだと個人的に思っていて。商売でいうと食えないといってもよいノーチャンスの音楽をこれだけの人がやっているのは土壌が育まれているっていうことなんですよ。それはかなりポジティブなことだと思っていますね。みんなガラパゴスを悪く言いがちですけど、言い過ぎにも思えて。批判はあっていいですけどね。まあ、「日本の音楽がおもろい」とまで言ってしまうとちょっとアレなんですけど、電子音楽って限定すると、やっぱ面白いと思いますよ。

 - それこそ「本業・音楽家」として、そのシーンに対して取り組んでいきたいことはありますか?

in the blue shirt – 最近よく思うのが、たとえば「筋トレした方がいいですよ」って言われて、それを疑う奴いないじゃないですか。それと同じぐらい「音楽作った方がいい」と思っているんです。素人が筋トレしても飯は食えないけど、健康にいいのは自明じゃないですか。そういう意味で、音楽に限らず自己表現的なことをちゃんとすることによって人生良くなるのは明らかやぞ、って思ってます。自分の体験の押しつけ的なところもあるんですけど、みんなやった方がいいと言いたくて。

 - 創作というと、〈Free Assotiation〉という映像作家向けのプロジェクトも行っていますね。

in the blue shirt - それも一緒ですよ。自分の曲で映像を作ってもらうというのは、作品でのコミュニケーションがしたいっていうのが一つなんですけど、もう一つ、構造上の問題を解決したいなと思っていて。自分は音楽にまつわる映像作品がすごく好きなんですけど、ミュージックビデオってめっちゃカロリー高いじゃないですか。3分とか4分とかの曲にフルCG、もしくは手書きでアニメーションを作るにせよ、ちゃんとしたカメラで撮影するにせよ、予算にして下限100万みたいなオーダーになってくる。クライアントワークを請け負っている映像作家は売れっ子になるほどスケジュール的に厳しくなって、自主制作ができなくなるっていうジレンマがあるんですよ。皆さんの持っている豊かな技術やアイディアをうまいこと世に出すような仕組みが作れないかなと考えた時に、結局はカロリーの問題なんやなってことに気がついて。要するにフル尺のMVを頼むっていう固定観念があるから、向こうがやりたいアイディアがあっても予算も時間も都合がつかなくなるわけで、こういう悲しいすれ違いを、時間を自由にすることで解決しようと思ったんですよね。「3秒でもいいからなんかしてください」っていうので依頼して、さらに「納期無限」って言っているんで……。「納期無限」って頼んでないのと一緒じゃないですか。それでも意外とみんなやってくれたので。仕事で頑張るのもいいけど、本当に取るに足らない自主制作を見せてほしくって。見たい人の新作を見られる上に、自分の作品使ってもらえるっていう、〈Free Assotiation〉は得しかないですね。

- とにかく人に創作をやらせたい、というのが一貫しているんですね。大学講師もそうですし。

in the blue shirt - そうそう、一緒なんですよ。同じことしかしてないんで。モチベーションが一緒というか。

 - 有村さんが理想とする社会像にちょっとずつ近づけようということでもあるんでしょうか。

in the blue shirt - 最近、「ブチ抜き」問題の一つの僕の回答が、「ブチ抜く」っていうのを個人の単位で見るからそういうことになるんやな、と。それこそ学生に自分の音楽面白精神を布教して、30人面倒見て3人がそういう生き方を身につけたんやったら、生み出してる総エネルギーみたいなのは自分でブチ抜くよりもデカいんやないか、全体で見たときの点数を集めたら個人のブチ抜きに該当するぐらいの点数になっているんやないか、みたいなことを考えていて。

 - 元気玉みたいな。

in the blue shirt - そうそう、元気玉みたいな。選手としての限界を悟って育成に回るみたいなスタンスで後進の育成に興味がある、みたいに言われるとちょっと違うなと思っていて。その意味でも、かなり野心的というか、「俺もブチ抜きたいんやな」みたいな。「ブチ抜き」の見方が違うだけで、自分の影響で発生したものであれば、「俺がブチ抜いている」とも言えるんで、これは性格的にもいいかもな、みたいな。

 - あくまで自分もプレイヤーでいながら。

in the blue shirt - プレイヤーだし、ブチ抜きてえ、みたいな。

 - (笑)。

in the blue shirt - いい言葉ですねえ。「ブチ抜き」という語彙を与えてくれたsober bearに感謝したい。

 - 完全に今日のキーワードになりました(笑)。

in the blue shirt - でも、関西で「ブチ抜きたい」っていう感情を持っている奴が現れたのがポジティブですよ。それって要するにこっちにいても何か大きな波を起こせるかもしれないって思えるくらい状況がよくなっているってことじゃないですか。いい意味でも悪い意味でも、自分は考えたことすらなかったんで。

 - それこそ過去には関西でもtofubeatsさんらが上の世代にいて、ブチ抜いていったじゃないですか。

in the blue shirt - まあ、こういう考えもあって。関西にいた頃のトーフさんやokadadaさんを見ていて、すげえ人たちだって思うわけですよ。けどそれって、井の中の蛙的な話かもしれないわけじゃないですか。だって実際にトーフさんがメジャーデビューする前だったら「神戸でやっている人」でしたし、okadadaさんやって、大阪の異様にDJが上手いお兄ちゃんっていうだけで、例えるなら、全国大会前の地方予選のすげえ選手みたいな感じじゃないですか。けど、実際に2人が東京に行って、中央のレベルでもすごかったっていうのが分かって。結局地方にいる問題って、中央とのレベル差が分からないことなんですよね。過剰にイキったり過剰に卑下したりするのは、中央の最前線とのレベル差が測れないことから来る問題であって、だからトーフさんやokadadaさんみたいに地方の物差しと中央の物差しを一致させる存在がいることによって、すごく視界が開けたんですよ。井の中の蛙って基本的に悪い意味でつかいますけど、その井のレベルが十分に高くて、中央と相似になっていたらいいなと思ってて。そういう意味でも、なるべく自分を通した時に物差しとして十分機能すればいいな、と。「有村であそこか」みたいな。「俺は有村よりイケるから東京行ったら通用するな」みたいな、そういう尺度として機能したい。ちっちゃいローカルシーンで人数いないですけど、いい感じのものの捉え方ができる場所を作れたら、スムーズに行けるじゃないですか。ローカルのレベルが高ければ、いたい人はいればいいし、ブチ抜きたい人は中央にブチ抜きにいけばいいので。自分がいけるかいけないかってなった時に、ちゃんと尺度があった方がいいよねっていう。

 - それも元気玉的な、誰かの「ブチ抜き」の構成要素になりますね。

in the blue shirt - 自分自身がブチ抜けるかっていうのは、今の平熱でずっとやる中でのプラスアルファな悩みではありますよね。今やる気がある限りは大丈夫なんだけど、なくなってからちょっと考えなきゃいけないですね。

 - なるほど。今日はお付き合いいただき、ありがとうございました。最後になにか今後の予定があれば。

in the blue shirt – 2枚EPを作っていて、もう大体土台はできているし何をやるかも決まっているので、手を動かすだけなんで、今年中くらいにはリリースできると思います。あとは出演がいっぱいあるんで、現場でお会いしましょう。

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