【インタビュー】加藤ミリヤ | KMさんは一緒に音楽を作ってて「楽しい」って感覚を思い出させてくれる
KMプロデュースのシングル“KILL MY LOVE”、Yo-Seaを客演に迎えた“BE MY BABY”など、2022年の加藤ミリヤは自らのルーツであるヒップホップ/R&Bを見つめ直している。4月から毎月シングルリリースを重ねる中で、「やっと自分のスタートラインに立てた」という彼女。今回は新曲“オトナ白書”、そしてKMとの出会いがもたらした示唆など、幅広く自由に話してもらった。
取材・構成: 宮崎敬太
撮影: 横山純
「人種の壁こえたい」と思って日サロに通ったJC時代
- ニューシングル“オトナ白書”はどのように生まれたんですか?
加藤ミリヤ - この曲はLilyのエッセイ集『オトナ白書』のテーマソングで。彼女とはずっと「一緒に何かやりたいね」と話してたんです。そしたら彼女が書いてる本のテーマが「ギャル」だと知って。ギャルものにはつい反応しちゃうんですよ。そしたら本の発売が9月で、9月は私のデビュー月だから「じゃあ一緒にやろう」みたいな感じでとんとん拍子に決まりました。
- ジャケで女子高生の制服を着たのはなぜですか?
加藤ミリヤ - 曲を作りながら、当時の自分を思い出しちゃったんですよね。女子高生で歌手やってて、制服着て現場行ってたな、とか。今ってギャルとかY2Kとかあの時代がリバイバルしてるじゃないですか。私は今年で34歳なんですけど、同世代の女性たちに当時の私たちのパワーを思い出してほしい気持ちもあって。そこを視覚的に打ち出してみようと思いました。
-「懐古趣味ではなくアップデートしながら初期衝動を思い出す」みたいな。
加藤ミリヤ - うん。だからサウンドも必然的に現行のヒップホップになりました。私が高校生だった時は、ギャルブランドのカテゴリーの中に、Bガールが着るブランドがいっぱいあったんです。今はもう無くなっちゃったみたいですけど。50Centの“In Da Club”が出た中2くらいからいわゆるBガールっぽいファッションをする子が出てきたんです。ヒップホップ聴いてなくても、超Bガールな格好した女の子がいっぱいいたんですよ。私もこの時期に本格的に音楽にハマって。USチャートの上位はヒップホップ/R&Bばかりだったから、おのずとそっちに憧れるようになって。「あたしも肌黒くなりたい」「人種の壁こえたい」と思って日サロに行ってましたね。
- 人種の壁こえたくて日サロ行くJCはアツいですね。
加藤ミリヤ - でしょー(笑)。
- “オトナ白書”はヴォーカルのキーの高さにすごく2022年っぽさを思いました。
加藤ミリヤ - この曲はWABISABIさんがビートを作ってくれて。何曲かストックをいただいた中から、一番メロディが鳴りそうだと思ったこのビート選びました。今回初めてオートチューンを使ったんですよ。このビートを選んだ時から決めてました。あの鳴り感が今はしっくりくる。ヴォーカルのキーに関してはまず家でいろいろ試してみたけどどれも引っかからなくて、結果これになった感じ。ヴォーカルのミックスもいつもはちょっと(高音域を)丸めたり、ローや倍音感を出してもらったりするんですけど、今回は高音ギリギリ攻めたくて「イヤホンで聴いてて耳が痛くなる感じで」ってD.O.I.さんにお願いしました。
- 今回の“オトナ白書”、KMさんプロデュースの“KILL MY LOVE”、Matt Cabさん&Matzさんプロデュースの“BE MY BABY feat. Yo-Sea”とヒップホップ/R&Bのリリースが続きましたね。
加藤ミリヤ - 4月から毎月配信でシングルリリースしてるんですが、最初は自分がこんなにヒップホップ/R&Bの曲をやるとは想像もしてなかったんですよ。むしろ模索してた。で、今9月になってやっと自分のスタートラインに立てた感じ。「あ、ここだな」って。
- そう思えたのはなぜですか?
加藤ミリヤ - KMさんとの出会いが大きかったですね。去年出したアルバム『WHO LOVES ME』の“DEVIL KISS”という曲で初めてご一緒したんですけど、すごく制作が楽しかったんですよ。ただ一回目の時は私自身に「自分がJ-POPに属している」という意識があって。自分でもすごく印象に残ってるんだけど、“DEVIL KISS”のフックのトップラインをKMさんの案ではなく、自分の案を採用したんです。「覚えやすいから」って理由で。もちろんあの曲は気に入ってる。KMさんと出会った曲だし。ただKM色に染まり切らなかったなという気持ちも同時にあって。
- ミリヤさんの言う「『自分がJ-POPに属している』という意識」が非常に興味深いです。
加藤ミリヤ - 私はCDを売ってた時代の歌手なんです。その感覚がある。ソニーに所属してる、看板を背負ってる、みたいな。でもここ3年くらいで世の中は完全にサブスクに移行して、メジャーとかインディーズとかの垣根がなくなった。(CDを売るという感覚からサブスクで活動するという感覚へ)マインドを切り替えるには腹をくくる必要がありました。
- CDは聴いてもらうまでのプロモーションが重要だったけど、サブスクではいきなり音を聴いて判断される。リスナーには関係ないかもしれないけど、アーティストからすると、これはプロモーション面でもクリエイティブ面でも大転換ですよね。
加藤ミリヤ - そうなんですよ。そんな時、私が1リスナーとして「面白いな」「いいな」と思うのは(作り手が)楽しんでる音楽だったんです。実際そういう音楽が売れてると思うし。ただこれを自分で言うのもあれなんですけど、私は器用貧乏なとこがあって(笑)。“Goodbye Darling”みたいなバラードも作れる。あの感じも確かに自分なんですよ。「じゃあ自分はどういう音楽やっていくんだろう?」みたく悩むというか、模索してた時にKMさんと制作することができたんです。そこで「ああ、この感じかも」って。だからもう一度オファーして、夏に再度ご一緒できることになりました。
KMは一緒に音楽を作ってて「楽しい」って感覚を思い出させてくれる
- “KILL MY LOVE”は思いっきりKM節ですよね。
加藤ミリヤ - はい。今回はKMさんに思い切り乗っかろうと(笑)。そのほうが絶対に面白いから。私が張り切り出すと良くも悪くも「加藤ミリヤ」になっちゃう。それにこれまでは聴いた瞬間に「ミリヤだ!」ってわかる曲を作るのが狙いだった。でも今回は逆。むしろ「ミリヤなんだ!?」ってなるくらいが良かった。
- KMさんのDiploっぽさとミリヤさんの歌の良いところが絶妙にミックスされていると思いました。
加藤ミリヤ - 今回は夏だし、シンプルに「踊りたい」って感じが良かったんですよ。いちいち全部に意味を持たせなくてもいいというか。歌詞は今回も結局意味を持たせちゃったけど、別に意味ないことを歌ってもいいじゃん、音が鳴ってるとこに全部歌詞とメロディーをつけなくてもいいじゃん、とか。自由さを感じたビートでしたね。
- では、どんなところがKMさんの魅力でしょうか?
加藤ミリヤ - 言葉にするのが難しいな……。“KILL MY LOVE”を一緒に作ってて、KMさんは最初から完成形が明確に見えてたんですよ。最初にミーティングした時、「ミリヤでこういうことをやる」「展開はこんな感じ」「歌詞やヴァースの細かい部分に(ミリヤ)節があるからそこでらしさを出してほしい」とおっしゃってて。で、待ってたらあのすごいビートが送られてきた(笑)。プロデューサーとしてのビジョンにも、トラックのクオリティにも驚かされたんですよ。そこがすごく楽しかった。やっぱり私の中で、KMさんの魅力は音楽を作ってて「楽しい」って感覚を思い出させてくれることですね。
- ちなみにミリヤさんはBeyoncéの『Renaissance』を聴いてどう思われましたか?
加藤ミリヤ - 世の中の評価はものすごく高いし、音楽的な高さと勇気には感動したけど、私はBeyoncéに圧倒的な歌唱でドヤ顏のR&Bをやってほしかった(笑)。ボソボソって始まったり、ラップするって感じよりかは。そういうBeyoncéで育ったから。
自分の生き様をちゃんとお腹に落として表現するのが大事
- R&Bの話題が出たので質問なんですが、最近ヒップホップとR&Bの距離が遠い気がしませんか?
加藤ミリヤ - わかる!昔はラッパーとシンガーが一緒に曲を作るのは当たり前でしたよね。たぶんオートチューンの影響だと思うんですよ。当時は「ここに歌欲しい」と思ったらシンガーを呼んでたけど、今はラッパーも歌がうまいし、そんなに歌えなくてもオートチューンがあるから、自分で歌っちゃおうみたいなノリなんじゃないかな。
- R&Bの湿度高めなロマンチック感が好きなのでちょっと寂しいんですよね。あとメロディはめっちゃスイートなのに、実はしょうもないこと歌ってる感じとか。それこそ「そんな意味ない歌詞をそんな超絶技巧で歌い上げる?」みたいな(笑)。
加藤ミリヤ - 確かにJay-Zの曲にMary J. Bligeが参加することで表現に厚みが出たりしてましたもんね。私、昔からMary J. Bligeが一番大好きなんです。あの「おりゃー」って感じ(笑)。あと自分ではできないけど、憧れはAaliyah。子供の頃に声を重ねてみたりして、なんとか真似してみたけど全然あの感じになりませんでしたね。
- 最近アブストラクト系のR&Bがリバイバルしてきてるし、Aaliyahに影響を受けたテクスチャが多い気がしてます。
加藤ミリヤ - そういえば今思い出したんですけど、KMさんと音楽の話をしてた時、さっきみたくBeyoncéの話題になって。KMさんは「彼女っていろんなことをやるし、たまにダーティになったりするけど、結局品がありますよね。僕にとってのミリヤさんはそのイメージです」って言ってくれてたんです。ちょっと例える相手が良すぎますますけど(笑)、その感覚はめちゃくちゃわかると思いました。私は何をやっても優等生っぽくなっちゃう。だからこそ下からのし上がってきたやつらの音楽に対しての憧れがすごく強いんですよ。私にないものだから。私が中指を立てるのにどれだけ時間がかかったことか(笑)。でもそういう自分の生き様をちゃんとお腹に落として表現するのが大事だなってその時思いました。
- 海外と比べたら日本は圧倒的に豊かで平和ですもんね。でも中流のリアルも当然あるわけで。そういう現実を受け止めたアートという意味で、僕は以前のインタビューでミリヤさんが名前を挙げてたJorja Smithのような、トリップホップに影響を受けたUKテイストのR&BをKMさんプロデュースでやってほしいです。
加藤ミリヤ - そうなったら奥さん(Lil'Leise But Gold)に歌詞とメロを書いてもらいたいな。
- それは超激アツなアイデア……。
加藤ミリヤ - 奥さんにはまだお会いしたことないんですよー。
- 素敵な方ですよ!ちなみに最近気になってる日本の若いアーティストはいますか?
加藤ミリヤ - ダントツLANAちゃんですね。ああいう生意気そう感じの子をずっと待ってた。かなり上から目線な意見で申し訳ないけど(笑)。LEXくんの妹というのがなかったとしても、彼女は世の中に出てきたと思う。子供の頃のMichael Jacksonみたい。日本だったら子供の頃の美空ひばりさん。LANAちゃんには歌謡っぽい歌い回しもあると思うんです。注目してるっていうか一緒に曲を作ってみたいですね。
- これからのミリヤさんの活動が楽しみです。
加藤ミリヤ - 再来年のデビュー20周年に向けて私が楽しいと思うことをどんどんやっていきたいです。
Info
「KILL MY LOVE」Streaming Now!
■オトナ白書(楽曲)
2022.9.21 Digital Release
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YELLO