【インタビュー】16 『ツキトタイヨウ』 | 孤独と仲間と音楽

佇まいや口調は物静かで物腰も柔らかいが、スパッと核心を突く鋭い発言を返してくる。それがとても印象的だった。福岡を拠点に活動する2000年生まれのラッパー、16がファースト・アルバム『ツキトタイヨウ』を完成させた。

16は2020年に結成された福岡を拠点に活動する8人組のヒップホップグループ、Deep Leafのメンバー。彼らは昨年ファースト・アルバム『infinite』を発表、ANARCHYとの共作曲“Atsuryoku”も収録している。そして本作は、ANARCHYが主宰/所属するレーベル/クリエイティヴ・チームTHE NEVER SURRENDERSからのリリースとなり、ANARCHYが初めてトータルプロデュースを担当した作品でもある。全てのビートはDJ JAMが制作した。

『ツキトタイヨウ』は、孤独を味方にする音楽に感じられる。ビート/トラックの基調はトラップだが、アンビエントやニューエイジを好む人にも響くかもしれない。東京に滞在中だった16に話を訊いた。

取材・構成 : 二木信

写真 : 蜷川実花

- はじめてのソロアルバムを作り終えた感想はどうですか?

16 - 自己紹介になるようなアルバムになったのは大きいです。自分が伝えたい世界観やどういう気持ちに寄り添って曲を作りたいかっていうのがまとめられたと思います。

- 以前リリースしてMVもあるDeep Leaf名義の16さんのソロ曲”intro”や、今回のソロ作品から強く感じたのは孤独でした。孤独というのは、表現する上で重要な動機やインスピレーションだったりしますか?

16 - そうですね。いちばん下に落ちちゃったときに、上げる音楽じゃなくて、横にいて支えてくれたり、背景になってくれたりするような音楽を作りたくて。それはビリー・アイリッシュを聴いたときに思いました。僕が知らないだけかもしれないけれど、ああいう音楽は日本のヒップホップにはあまりない表現だと感じて、日本にもそういう音楽が欲しいなって。孤独って全員が持っているものだけど、それを見せなかったとしてもいいし、隠していてもいいじゃないですか。でも、絶対あるもの。これからいろんな曲を出していろんな自分を見せたいですけど、孤独は軸にあるかもしれないですね。

- HIPHOP DNAのインタヴュー動画だったと思いますが、16さんがBillie Eilishに言及していたのは印象的でした。

16 - ただ、僕のなかの大前提、根底にある部分はヒップホップです。ANARCHYもそうだし、日本のヒップホップも大好きです。だけど、自分が音楽を作るってなったときに人と同じものを作っても面白くないし、他ジャンルからいろんなものを吸収してヒップホップに落とし込んで、ヒップホップの新しさや面白さを増やしていきたくて。

- 最近インスピレーションを受けた音楽はありますか?

16 - けっこう昔の音楽を聴いたりするんですけど、最近は蜷川実花さんの映画『xxxHOLiC』のサウンド・トラック『ATAK025 xxxHOLiC』(渋谷慶一郎が制作)が面白かったですね。僕、Rage=レイジがけっこう好きなんですけど、それと近いものを感じましたし、音と画が重なったときの衝撃や鳥肌に興味をひかれるんです。

- 『ツキトタイヨウ』のジャケットの写真は、その蜷川実花さんが撮っています。そして今回ANARCHYが全面プロデュースを手掛けたのは、やはりいろんな意味で注目される点かと思いますが、意外性のある内容になったと感じました。

16 - それは自分も感じていますね(笑)。

- 本人もそうなんですね(笑)。どうやって出会ったんですか?

16 - 去年の4月20日にDeep Leaf で、“LALALA (Hip Hop Musical)”という曲を出したときに、ANARCHYに曲を送ったら返信が来て。「いま何歳でどこで何をしているのか?」って。それで東京にANARCHYのライブを観に行って初対面して、そこから曲をいっしょに作ろうってなって、ビートが送られてきて。その後、福岡にANARCHYが会いに来てくれてスタジオにいっしょに入って作ったのが“Atsuryoku”でした。

- 展開が早いですね。

16 - 出会ってから制作までけっこう早かったですね。最初にDeep Leafで作った曲が“LALALA”だし、なんなら8人が集まって僕が全員を知ったのが、“LALALA”を作ったときですから。リーダーのLOX(BLACK BACK)がいろんなヤツに声をかけて、Deep Leafの人数を増やしていったんですよ。

- ええ、そうなんですか。それは面白い。HIPHOP DNAのインタヴュー動画を観ると、LOXさんは完璧にプロデューサーですもんね。

16 - そうですね(笑)。

- LOXさんがどのようにして、それぞれの才能を見抜いて8人を集めて行ったのかが気になりますね。

16 - 僕も他の人も(福岡)市内に住んでいたけど、地元はバラバラなんです。僕の地元の周りにもラップをしている人がたくさんいたわけじゃないし、そういう話ができるわけでもなくて。でも、それぞれの地元や、いろんな地区の学校にラップ好きな人はポツポツいるじゃないですか。そういう福岡のいろんな地区のラップ好きを集めたのがLOXなんです。あるとき僕の地元に来たLOXを友達に紹介されて、「ラップしようぜ」って誘われて、僕とDialck、LOXと何人かでラップを始めたのが最初ですね。そのときは本当にただのラップ少年で、曲を作ったこともないし、ビートを流してラップしている感じでした。それから日本の曲をリミックスしたり、自分たちでYouTubeからビートを探して曲を作ったり。

- やはりその集結の仕方が面白いですね。16さんは高校1、2年生のころにヒップホップにハマったらしいですけど、どんな少年だったんですか?

16 - 小さいころから音楽は好きでした。親戚に音楽をやっている人がいて、そういうライヴを観に行くと刺激があったし、ダンスも自分がやるわけじゃないけど、観るのも好きで。あと、サッカーをずっとやっていましたね。Deep Leafのメンバーの8人中5人はサッカーをやっていて、別々の学校だけど、試合で対戦するから顔見知りだったヤツもいたんです。

- メンバーの距離感がすこし見えてきました。

16 - だから、サッカーに喩えながらラップの話もしますね。同じチームに強いヤツがいたらプラスじゃないですか。だから、僕が今回ソロアルバムを出すこともそうやって捉えてくれているからやりやすい。LOXが個性を大事にする、ということを言い続けているから、みんながポジティヴなマインドでやっていて吸収できることがいろいろあって楽しいです。みんなで音楽を作り始めてから、毎日熱中して尋常じゃない数の曲を作っていたと思います。特に『infinite』を作った1年前はDeep Leafのスタジオに集まって1日で8曲とか作って、みんなで夜に鑑賞会をしていましたね。走る人が走るのが好きだから走るのといっしょで、生きて生活して音楽を作る、そういう感覚です。

- スタジオがあるんですね。

16 - 福岡市内にみんなでお金を出して借りたんです。アルバムに入っている“Alice in wonderland”はそのスタジオについての曲です。森の中で木の根っこに支えられているような面白い家で。外からこの家を見たらどうなっているんだろうかと想像して書いて。ビートを作ってくれたDJ JAMさんがそのスタジオまで来てくれて作りました。中にいる自分を外から見た視点はどこか『不思議の国のアリス』みたいに思えてそういうタイトルにしました。フィクションだとしても、僕のなかでは見えていることだから。

- Deep Leafのアルバムを出したあとの手ごたえや反響はどうでしたか?

16 - 福岡でラッパーが増えた気がします。福岡のシーンは若くてフレッシュで、ヒップホップが昔より若い子の身近になってきていると感じます。Deep Leafだけじゃなくて、NOKEY BOYZのDADAくんだったり、O.A.KLAYだったり、いろんな人たちが団結しているというか、誰が福岡のシーンを盛り上げるかの勝負みたいな感じですね。

- 福岡のヒップホップの活気を感じているということですね。

16 - Deep Leafとしてアルバムを出す前も親不孝通りのThe Voodoo Loungeの向かい側にあるThe Dark Roomという場所で自分らで主催したイベントをやったりしていて。ただ、最初にやろうとしたときにちょうどコロナになってしまって。それで、Deep Leafでの最初のライブはインスタライブでやったんですよ。あと、去年4月の『RUDE SPECIALS』というイベントで¥ellow Bucksさんの前座が、Deep Leafがはじめて呼ばれたライブです。そのオーディションがあるんですけど、僕らのときは、たぶん10組ぐらいだったけど、いまは20組とか30組ぐらいオーディションに応募してくるみたいです。

- Deep Leafが結成された2020年からいままでの間にすごいスピードでいろんなこと起きているということですよね。そして、ANARCHYとの共同作業も新鮮な体験だった思うのですが、実際どうでしたか。「Words by」というクレジットにも彼の名前があるのが興味深いな、と。

16 - 曲そのものというより、どう伝えるかをいっしょに話し合って作っていきました。ANARCHYは本当に“言葉師”で、言葉を1個変えるだけで、こんなに伝わることがちゃんと伝わって、情景が見えるようになるんだってびっくりしました。だから、僕の言葉に力を乗せる手伝いをしてもらった感じです。例えば、“Phone”は好きなモノに対してのラヴ・ソングで、歌いたいことはあったんですけど、歌詞が変わったときに伝えたいことが自分でも明確にわかって。

- あと“ピンクのファー”というのはまずタイトルが面白いですね。

16 - この曲もいっしょに作りましたね。ちょっと背伸びをするような歌詞になっているというか、ラッパーは曲を書いたときにそこに到達できていなかったとしても、歌うときまでに到達できるように、毎日自分を磨くことが大事だと教わって。

- それはANARCHYというラッパーのイメージにとても合致するアドバイスですね。

16 - 音楽はみんなが自分の一番を作るだけなので、これからも僕は僕の音楽をやっていきたいですね。

Info

1 Alice in wonderland
2 High
3 dont
4ピンクのファー
5 for you feat. Deep Leaf
6 逆さまの地球
7 Phone
8 通知
9 月と太陽

Produced by ANARCHY
Words by 16 & ANARCHY
Music by 16 & DJ JAM

All songs mixed by D.O.I
All songs mastered by Hiroshi Shiota
Photo by Mika Ninagawa
Artwork by KENSHIN

RELATED

【インタビュー】Minchanbaby | 活動終了について

Minchanbabyがラッパー活動を終了した。突如SNSで発表されたその情報は驚きをもって迎えられたが、それもそのはず、近年も彼は精力的にリリースを続けていたからだ。詳細も分からないまま活動終了となってから数か月が経ったある日、突然「誰か最後に活動を振り返ってインタビューしてくれるライターさんや...

【インタビュー】Tete 『茈』| 紫の道の上で

長崎出身で現在は家族と共に沖縄で生活するTeteは、今年3枚の作品を連続でリリースした。

【インタビュー】Keep in Touch | R&B / ダンスミュージックにフォーカスした新しい才能を

ダンス・クラブミュージック、R&Bにフォーカスをあてたプロジェクト『Keep In Touch』をソニー・ミュージックレーベルズ/EPIC Records Japanがスタートさせた。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。