【インタビュー】どんぐりず 『4EP3』| より深くダンスミュージックへ

チョモと森のふたりからなるユニット、どんぐりずの最新EP『4EP3』がリリースされた。本作は全4部作となるEPシリーズの3作目。これまでの2作で“ダンス”、“インディーポップ”とコンセプチュアルな打ち出しをしてきた彼らが放つ次なる一手は、テクノ、ドラムンベース、UKガラージ、ブレイクビーツ、ダブなど雑多なジャンルを吸収、昇華した全5曲である。本作の随所から感じ取れるクラブミュージック的質感を、彼らはどのようにして獲得したのだろうか。すでにはじまった猛烈な暑さの夏、場所や規模を問わず暴れまわるであろうどんぐりずの現在地点について率直な質問を投げてみようと思う。

取材・構成 : 高橋圭太

撮影 : 寺沢美遊

- まずは直近のニュースとして『POP YOURS』への出演、おつかれさまでした。

森 - ありがとうございます!

- どうでしたか? 2日目のトップバッターだったわけですが。

チョモ - “トップバッターだからなぁ”みたいな緊張感はふたりとももってましたけどね。今回の新EPからの曲もできてすごいよかったです。ああいうところで映える。

https://www.youtube.com/watch?v=5H2UD34-YWA

森 - ブチ上げだったね。

- すでに貫禄のステージというか、大箱ライブへの慣れと対応力を感じました。

森 - イェーイ。うれしいです。

- さて、本題である新作『4EP3』のお話を伺う前に、前作、前々作の成果と反省点から振り返ってみたいと思います。いかがでしょう、『4EP1』と『4EP2』出してみての成果という部分では。

チョモ - 成果というとむずかしいけど、『4EP1』の制作で得たことは直接的に『4EP3』に活きていると思ってて。いま、どんぐりずはがっつりダンスミュージックの方向に向かっていて。これまではヒップホップの2人組という感覚があったんですけど、最近はもっとダンスミュージックのほうにどんどん寄ってきてる。『4EP1』はそうなる前に作ったダンスミュージック、という感じですかね。好きだし作ってみよう、みたいな感じ。だから好きな曲は多いけど、制作においての反省はなくはないですね。それは『4EP2』もしかり。

森 - たしかに。『4EP1』はオレもいっしょですね。めっちゃ好きです。『4EP2』も楽しくできたけど、もっとグッといけたなぁって思います。ユルい部分があってもいいっしょ、って作り方もそれはそれでいいんですけど、いま考えると、もっとおもしろいことできたんじゃないかなと。

- それはリリックとサウンドの両方に言えることですか?

森 - リリックはけっこうノリでいいんですけどね。曲の展開とか、ひとつひとつの音とか、どういうムードにフォーカスするのか、そういうのが意外とムズい。

- なるほど。加えて『4EP2』から新作までのあいだに外仕事としてBIMさんへの客演曲”Anchovy”と、MONDO GROSSOの楽曲”B.S.M.F.”にも参加していますね。こういったコラボレーションワークから受けるインスピレーション、自分たちにとってのインプットはどんなところだと思いますか。

チョモ - 制作段階ではシンプルにコミュニケーションの部分と、“こういうバイブスで曲作るんだぁ”って知れるってのが大きくて。自分たちのインプットとして持って帰るのは、共作した曲をライブでやったりするときのほうがむしろあるんじゃないかな。1曲作っただけじゃわからないことがいっぱいあって、制作後に参加したアルバムを通して聴いたり、そのあとのライブだったりでわかることのほうが多いかな。

- 大型フェスへの出演も同様の影響があるように思います。

チョモ - たしかに。この1年はめちゃくちゃ勉強になりましたね。いろんなアーティストを観て得るものがたくさんあったっすねぇ。

- なかでも特に印象に残ったアーティストは?

チョモ - 踊ってばかりの国ですね。渋谷WWW Xでツーマンをさせてもらって。もとから面識はあったんですけど、まさかツーマンができるとは。以前から好きだったのでうれしかったし、ちゃんと真正面から食らいましたね。

森 - そうだね。かなりエネルギーを感じたっすね。音楽の。あと、これはアーティストじゃないけど、川崎でレイヴパーティーがあって。それがヤバかった。

チョモ - ゆるふわギャングやMONYPETZJNKMNとかヒップホップのひとたちも出演していたんですけど、メインはテクノのDJのかたたちで。そこで音楽をひたすら聴いて、踊って、刺激を受けましたね。はじめての感覚。

森 - そのふたつと、渋谷WOMBでやったMONDO GROSSOのリリースパーティー。客演で出たんですけど、パーティー自体、めっちゃ盛り上がってて。自分たちも“うわっ、楽しい!”みたいな。そういうクラブの楽しいパーティーと野外のレイヴが重なって、そこで受けた刺激がそのまま『4EP3』の感じにつながったんじゃないかなって思います。

- たしかにこれまでの作品にくらべて『4EP3』はよりレイヴ感、ダンスミュージックの高揚感みたいなものを感じます。ちなみに制作期間は?

チョモ - 今年の3月くらいから5月までの期間で集中して。

- そもそも『4EP』シリーズの作り方として、ストックありきというよりは、そのときどきの自分たちのムードや、やりたい方向性が尊重されるという形で作っているんですね。

チョモ -『4EP1』、『4EP2』は先にコンセプトを決めてから作ったんですけど、『4EP3』はもう完全に自分たちのいまやりたい方向性という感じ。

森 - でも、その作り方のほうがアガるんですよね。

―『4EP1』であったら“ダンス”、『4EP2』であったら“インディーポップ”と、各EPごとにテーマが示されていましたが、本作のテーマは?

チョモ - うーん、でも今回は結局“クラブミュージック”みたいなことかなぁ。あえてコンセプトを先に考えずに作ったけど、たぶん聴いたひとは『4EP3』のイメージみたいなものが強く残る作品になってると思いますね。

- 制作方法の面で前作、前々作と大きくちがう点はどんな部分でしょう。

チョモ - あきらかにちがうのは、今回の楽曲は全体的にシーケンス寄りというか。オレの使っているDAWソフトはCubaseなんですけど、そこまで電子音楽とかテクノとかを作る感じじゃなくって。でもそのなかでもだいぶパラメーターをいじってる。“ギュイーン”みたいなサウンドも全部線で書いたり。説明しづらいけど、そういうのはこれまでそんなにやってこなかったから。

- サウンドに関して、ふたりでの制作においてどんな役割分担でやってるのかもお訊きしたくて。

森 - ヤバいアイデアを思いついたら、それをおたがい伝えてますね。たとえばオレが“こんな感じのがやりたい”ってなったら、それをチョモに伝えて。オレは楽器もできないんで、リファレンスになるような曲を聴いてもらって、そのどの部分がヤバいかっていうのを伝える。“この感じがいい”とか“この太さがいい”っていうニュアンスで言ってるかなぁ。あとは構成も“ここは言葉を入れたいから空けてもらいたい”とか。『4EP3』に関しては音を抜く部分だったり、引き算をふんだんに使ったっすね。これまでは言葉で詰めてたけど、今回はクラブミュージックだから、イントロとアウトロを長くしたりも。

- なるほど。森さん的にクラブミュージックへのイメージは引き算のイメージだと。

森 - 引き算もそうだけど……反復してる感じ? オレ、ダンスラップも好きなんですけど、そういう楽曲って声はボイスサンプル的にずっとループしてたりするじゃないですか。あの感じっていうか。そこまで詰め込まなくていいんじゃないかなと思って作ってましたね。それより、1個のテーマがあればいいっていうか。特に”Funky Grandma”なんかは音としてパキパキの感じだったからだいぶ引いたっすね。選ぶ言葉に関してはこれまでどおり響き重視で。気持ちいい、耳障りがいいというのがいちばん重要ですね。あとは、そんなにむずかしいことを言わないようにしています。“痛いの痛いの飛んでいけ”とか“いないいないばあ”も言葉としてキャッチーじゃないですか。しかもむずくないし。

チョモ - 自分としては、そもそもこれまでと土台がちがったので、メロディーを乗せるのも全部新鮮でしたね。声の処理に関してはダンスミュージックに近づいていけばいくほど、生の声を乗せるっていうより、エフェクト感が強いほうがおもしろいかなと。声のエフェクトを想定して曲を作りたいっていうのは最初にあって、それが実現してきている。それはいまも試行錯誤の途中ですけどね。オートチューン系もあれば、ラジオ系のエフェクトもあったり。あと個人的にディレイとリバーブがかなり好きなので、そこを強烈に出したいなというのはあって。

- ちなみに今回の制作でふたりから挙がったリファレンスはどんなアーティストだったりするんでしょうか?

森 - なんだろうな……。やっぱりUKのアーティストが多いっすけどね。”Bomboclap”は完全にUK。ちょっとラスタカラー入っている感じの。あと、”Oto mafia”とかは90年代のドラムンベース……Roni SizeとかGoldieのあの感じのイメージ。

チョモ - ”Funky Grandma”だけはノーリファレンスで、レイヴパーティー後に自分がノリで勝手に作ったやつですね。

- 個人的に『4EP3』でいちばんインパクトを感じたのが”Funky Grandma”で。聴きどころである後半のピアノのブレイクも、派手にしようと思えばもっと派手に出せる部分じゃないですか。でもそこをあえて抑えたミキシングにしているのも、さっきおっしゃっていたクラブミュージック感かなと思っていて。

チョモ - あリがとうございます!

- 全体的な音響についてはどんなイメージで考慮しましたか? 聴き手としては大きめの箱向きというか、これまでの作品にくらべて空間的に広がっているような印象を受けました。

チョモ - そこはある程度想定しましたね。高域から低域までちゃんと出したい、みたいなことも考えたかも。これまではヘッドフォンとかイヤホンで聴いたり、部屋のスピーカーで気持ちよく鳴る感じをイメージしてたんですけど、今回は高い音もちゃんと出したほうが、クラブで鳴ったときに効果的だなって思って。

- どんぐりずのこれまでの作品ってミックスのエンジニアに依頼ってされてるんですか?

チョモ - いや、入っていなくて、全部自分たちでやってます。で、これまでの作品は小泉由香さんにマスタリングをお願いしていて、めちゃくちゃお世話になったんですが、今回のEPはマスタリングも自分たちでやっていて。今回からそういう環境作りをしようと。自分たちのスタジオでふたりで聴いてみて、そこで最高の状態であれば現状は問題ないかなという形に落ち着きましたね。これはMONDO GROSSOの大沢(伸一)さんに背中を押してもらった部分もあって。音響について相談したときに“自分たちでやってみたら?”って言ってもらえたので。『4EP3』を作るにあたって、大沢さんからのアドバイスはかなり大きかったと思いますね。

- そしてデビューから続く『4EP』シリーズも次作が4部作のラストになるわけですが、現状の見通しみたいなものは?

森 - あるっすね。

チョモ - あるっけ?

- ハハハハハ! 具体的な言葉が出てこない!

森 - まぁ、いまちょうど制作中の曲があって。

チョモ - ほんとは去年のうちに4作全部リリースする予定だったんですけどね。

森 - そうなんです。無理でしたね、普通に。すいません! でも『4EP3』を作ってみて、オレらはより深くダンスミュージックのことが好きになったんですよ。これまでよりディグって聴くようになったし。そういうのが活きるかもしれないし、あえて外す可能性もある。とりあえずは『4EP3』の反響次第って部分もあるし、ぜんぜん関係ないアイデアが思いつくかもしれないし。

チョモ - あとはもっとふざけたいよね。音をカッコよくするのは絶対条件で、そこによりふざけを。自分的にもうひとつふたつ衝撃を受ければ道は開けるんじゃないかなとは思ってるんだけど。

Info

■『4EP3』(EP)

2022年6月1日(水)配信リリース

<音楽配信リンク一覧>

https://jvcmusic.lnk.to/dongurizu_4EP3

<収録曲>

01. I'm Fine

02. Funky Grandma

03. Oto mafia

04. Bomboclap

05. こんなかんじ

■どんぐりず 東阪ツアー

<東京公演>

2022年11月19日(土) 東京・渋谷WWW X

OPEN 17:00 / START 18:00

問い合わせ:クリエイティブマンプロダクション 03-3499-6669 (月・水・木 12:00~16:00)

<大阪公演>

2022年11月23日(水・祝) 大阪・味園ユニバース

OPEN 17:00 / START 18:00

問い合わせ:YUMEBANCHI(大阪) 06-6341-3525 (平日12:00~17:00 )

<チケット情報>https://eplus.jp/sf/detail/3393990001

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