【インタビュー】butasaku 『forms』 | 春の宙吊り
シンガーソングライターのbutajiと音楽家の荒井優作によるユニットbutasaku。2012年のイベント共演をきっかけに親交を深めていった両者は、それぞれの活動を行いつつも少しずつ一緒に曲を制作していき、11曲を収録したアルバム『forms』としてこの春に結実した。
『forms』=形と名付けられたこの作品はどのような形をしているだろうか。音楽で言う形とはジャンルのことだろうか、それともまたもっと別のものを指すのだろうか。butasakuの奏でる形についての話を、2人の出会いから紐解いていこう。
取材・構成 : 和田哲郎
- よろしくお願いします。アルバムを作ったのは少し前と聞いたんですけど、時代性も関係ないというか、すごく強度がある作品になっていると思いました。そもそもお二人って、いつ頃からの知り合いなんですか? 世代は結構違うじゃないですか。
荒井 - 俺は1995年生まれ。
butaji - 私は88年だから、7個くらい違うんですね。うん。
荒井 - あまり気にしたことがなかったな。
butaji - 一番最初に会ったのはBULLET’Sですよね。2012年にイベントでご一緒したんですよね。荒井さんがDJで。
荒井 - 西麻布の。もうなくなっちゃいましたよね。butajiの弾き語りのライブがめちゃくちゃよくて、話しかけたらbutajiが『シティーボーイ☆(city boy)』っていうアルバムをくれて。僕もMPCで作ったアンビエントの作品を渡して。
butaji - 『フォレスト』だよね。
- どういうことを話したか覚えていますか?
butaji - なんだろうね。荒井さんがサンクラに挙げていた曲の感想をいったような気がするな。でもそれぐらいだよね。いきなりどかどかいっていないと思う。
荒井 - でもbutajiは出会った最初からすごい笑い方してたよ。
butaji - やばいやつの笑い方してた(笑)。
- そこから定期的に会うことはあった?
butaji - まあたまに連絡とりあって会っていたよね。でも7歳違うっていうのが響いてきてるんだけど、今(笑)。
荒井 - 7年違うのはやばいね(笑)。
- 荒井くんは落ち着いているからそんな感じ全然しないですね。
荒井 - 知り合った頃は18歳か19歳で大学1年生だったかな。でも何して遊んでたっけね。
butaji - なにしてたっけな。
- 別に曲を作ろうというのではなく集まっていたと。
荒井 - いや、わりと最初から一緒に作りたいですねというノリで遊んでいて、それで最初に作ったのは2015年。
butaji - 2015年末に"picture"のトラックが送られてきた時って結構唐突だったね。荒井さんから、「butajiに合うと思うから」って。
荒井 - ああ、そうだそうだ。
- "picture"は2015年だったんですね。なんで荒井くんはトラックを送ろうと思ったんですか?
荒井 - いや、まったく覚えていないんですけど……。でも、トラップキットを使っているものだったので、なんとなくトラップみたいな様式ではあったんですけど、ラップする感じでもないし、こういうトラックに合わせられるシンガーってbutajiくらいしかいないんじゃないかって思ったんだと思いますね。たぶん。
- 実際送られてきたbutajiさんはどうだったんですか?
butaji - すぐ返さなきゃって思ってましたけどね(笑)。意欲の面で。やりたいから(笑)でもすぐリアクションできたよね。
荒井 - うん。butajiは"picture"に限らずいつもレスポンスはめちゃくちゃ早くて。だからそういうところでストレスになったことがない。
butaji - 何か送って、それが叩き台になればいいと思っているから、とりあえず返信しておこう、みたいなことはある。ゼロだったら何もリアクションできないじゃん。とりあえず送っておいて、ここはこうということが言える方がいいなと思ってるから、そういう気持ちですね。
荒井 - かっこいいな。
一同 - (笑)
- 自然発生的な感じで始まっていった。
butaji - 2015年の頃から、もっともっと継続して作りたいなと思ってたけどね。
荒井 - うんうん。2015年はbutajiに提供しようみたいなノリで最初から作れるほど技術がなかったので、そういう意味で送れてなかったかな。
butaji - 2曲目に入っている"atatakai"とかは俺が勝手にのせたんだもんね。荒井くんがサンクラにあげていたトラックに、俺が「ちょっとメロディのせてもいい?」って聞いてのせたんだもんね。拾ってきたものにメロディを付けてみたという感じでした。
荒井 - すごいよかった。
- この作品って全体として統一感がすごくあるなと思っていて。でも今のお話を聞くとそれぞれランダムに作られていって、という気がするのですが、いつからしっかり形にしようと思ったんですか?
butaji - アルバムというパッケージで考えたのは一番最後の方だと思う。2020年か19年か。
荒井 - 4~5曲できたぐらいからさ、EPを作りましょうみたいな感じになって、それがいつの間にかアルバム作ろうっていうことになったんじゃないかな。
butaji - ここにこういう曲があったらいいよねみたいなことがあったのかな。流れで聴いたら繋がるような形で埋めていった感じ。全部の完成が2020年なんですよ。
荒井 - 10月とか。
butaji - 作っている側は、近いところで見ているからかもしれないけど、統一感と言われるとあんまり分からないところがあるんですよ。
荒井 - あ、ほんと?
butaji - やっぱり一曲一曲違うよねとは思う。
荒井 - それはわかる。でもまとまってるじゃん。
butaji - まとまっている、まとまってるんだけど。一曲一曲の振れ幅って結構あるんじゃないかなと思う。
荒井 - ああ、そうかもねえ……。僕の場合は1回、1回トラックの制作方法を、なるべく変えるようにしてるから、そういう意味では、たしかにバラつきはあるかも。
butaji - アプローチが違うよね。
荒井 - butajiも歌詞はさ、時期によって方法論みたいなものが違ったりするよね
butaji - そうそう、全然違ったりする。でも、多重録音はキーなのかもね。アルバム通して、ボーカル、コーラスの。
- 確かに一曲一曲のトラックのテイスト、"silver lining"とかハウスですしもちろん違うんですけど、全体的にベースレスというのは共通しているのかなと。
荒井 - ああ、間違いない。それはそのとおりだと思いますね。"silver lining"は最初からハウスっぽい曲を作ろうと決めてから作ったんで、ベース入れましたけど、基本的にベースレスですね。結局、ベースを入れるとボトムの部分で方向性が定まってきちゃうんで邪魔くさいというか(笑)。今までボトムが規定するグルーヴにあまり興味がなかった。ボトムやリズム隊といった部分がグルーヴを担うというよりか、楽曲全体、楽曲そのもののグルーヴに興味がありました。それをグルーヴと形容するのは適切ではないかもですが。だからベースレスっていうのはほんとそのとおりですね。
butaji - "picture"からそうだったもんね。統一感と言われるとそこなのかもしれないですね。ベースってコードの基音じゃないですか。コードを決める音だから、それがない分、コードワークを自由にできたんですよ。"picture"ってさ、コード進行でいうと、一つのループじゃない?同じコードが続いていくんだけど、メロディを考える際にBメロのところでコードを変えたんですよ。トラックとしてはAメロ、Bメロ、サビとずっと同じコードなんだけど、そういうことができるのはベースがなかったからだと思います。そこで浮遊感みたいなものが出ていると思います。それで展開も作りやすかった。
荒井 - なるほど。
- シンガーにとってベースがないトラックというのは、自由度みたいなものが発揮しやすいものなんですか。
butaji - これは発見だと。気づけてよかったなって思った。一番最初から。"forms"もさ、実は僕が想定しているコードに置き換えるとカノン進行みたいに結構変わってる。半音ずつ「テンテンテンテン」みたいなメロのところで切り替わっていくコードを当てたら、メロディーにはわりとしっくりくるんだと思うんだけど、それが、ベースがなくて一つのコードのループだけでメロディが動いてるっていうのが、僕にとって発見だった。
荒井 - "forms"もさ、一応ベースは入れてるんだけど、定まった等間隔な打ち込みというのではなくて、即興で昔のシンセのプラグインをいじって「ズワーン…ブイーン…」みたいな(笑)。そういうグルーヴ。DAWの時間軸といかに協働するか、離れるかっていうその繰り返し。
butaji - "picture"も俺がBメロにしたところでは、すごい低いところでベースが鳴ってるじゃん。めちゃくちゃ低いところ。
荒井 - そうだね。意識的にやってた。
butaji - でもそれがコードを規定するくらいの音程ではなかったから、それでメロディが動きやすかったのかもしれないね。
荒井 - そうなんだよね、コードを規定するくらいのベースを入れると、ウワモノとかそういうメロディの繊細さが失われちゃうというか。ぶつかっちゃったりするので、それがすごい嫌だったりするっていうか。
butaji - ぱきっとする。これがコード進行ですって分かるといきなりパッケージになっちゃう。ほとんどの音楽がそれで作られているんだけど。
- トラップミュージックとかそうですね。
butaji - 何が独特かというとそことの違いだと思いますね。
- "sleep tight"とかは弾き語り的なトラックじゃないですか。ベースレスというと、弾き語り的なものもベースレスになると思うんです。butajiさんは弾き語りもやられるけど、それとbutasakuのプロジェクトって、同じベースレスの中でも違うものなんですか?
butaji - 実は僕がライブで弾き語りをするときは、ベースがあると思って弾いている。実際はないんだけど、頭ではあると思って弾いている。だから、今初めて気づいたところかもしれない。うん。ライブはけっこうコードを意識している。
荒井 - 同じベースレスでも、弾き語りだとより直接的に身体というものが出るじゃないですか。
butaji - ゆれるもんね。揺らぐから。
荒井 - butasakuはさ、パソコンで作っているからさ、もう少しそういう次元が抽象的かもしれない。抽象的というか、直接的な身体からもうちょい離れたところにあるかもしれない。
butaji - そうだね。
荒井 - だからさ、MPCとかで全部作っていたらまた違った形になっているかもしれない。
butaji - リアルタイムで入力して? でもそれにしてもさ、1回それで録音しちゃうと、もう曲の間の揺らぎはないわけじゃん。何回聴いても、同じところでズレることを規定させて聴いちゃう。弾き語りってパッケージじゃないから、何回弾いても何回もずれる。4分とか5分で録音しちゃうと、ループして聴くと同じところで同じタイミングでずれるじゃん。だから録音物とライブの違いなんじゃないかな。
荒井 - BPM的な時間性、時間の形式があるかないかってことすかね。いいなあ弾き語り。やってみたいっす。
一同 -(笑)
butaji - 僕は最近は、声がどれだけ気持ちよくちゃんと出せるかっていうところしか気を使わないですね。コードが置いていかれる時もある。ギターを弾いてるのか弾いてないのか、という時もあるし。だから、それもbutasakuの影響だと思います。自分の声をループさせて、その上で簡易的にトラックを作って、その上で歌ったりとか。折坂さんの"炎"をカバーした時は、そういう方法で演奏しましたね。メロディはコードワークに基づいて作っていくんだけど、キーしか残ってないアプローチでやってみたり。butasakuで得たことを、そういう手法でライブにも持っていき始めていると思う。
荒井 - それはいいね。いいなあ……。
- (笑)。コラボレーションとなると、やっぱりどうしても一人でやるよりも制限される部分というのが出てきちゃうのが普通だと思うんです。けど、逆にそれがないというか、その制限がない中でやっていた感じがするのかなと思ったんですけど、どうですか?
荒井 - 結局、butasakuで作るときはbutajiが歌うっていうことがまず大前提にあるので、そこの制限みたいなのは、僕にとってはものすごくいい方向に働いたっていうか。要は一人で作るだけだったら、基本的には自由。自由っていうか、一人で自分勝手にやっていればいいんですけど。butajiが加わることによって、自分だけのものじゃなくなるからっていうところで、よくわからん自意識やこだわりから抜け出せたところがあって。それはめちゃくちゃよかったですね。
- 実際のトラックのどういうところに作用しているのですか?
荒井 - まずbutajiが歌う余白を常に担保しておかなきゃいけないっていうところ。それと、butajiの歌詞と歌の繊細さを、どれだけ潰さず活かせるかという、まあ普通のことなんですけど、そういうところで作用していたと思いますね。あと、"silver lining"や"in my brain"は、butajiの『告白』以降のシングル群を聴かなきゃ絶対生まれなかったと思います。
butaji - 俺はけっこう荒井さんに投げてお渡ししておくっていう感じだったから、あんまり制約を感じたことはなかったかな。
- 1回歌ができたのを送って、その後のやり取りはどういう感じで進んでいくんですか?
butaji - 「これいいね」みたいな感じですよ。
荒井 - 雑すぎでしょ(笑)。
一同 - (笑)
荒井 - けっこうお互いフィードバックしあわなかった?
butaji - でも、ボツにした曲以外は違うということはなかった(笑)。
荒井 - まあ、ねえ。
- 曲はどれくらい作っていたんですか?
butaji - でもプラス2曲、3曲くらいじゃないんですか。アルバムには。
荒井 - 僕がトラック投げて、「これはちょっと」みたいなのはけっこうありますけど。butajiが歌を乗せたところまで漕ぎ着けてボツになったのは3曲かな。
- お二人的に、どういう作品になったと考えているのかというのは、すごく興味があって。これはR&Bなのか、なんなのか。
butaji - 僕が聴いてきた、影響を受けてきたR&Bではないと思った。
荒井 - 僕はけっこうR&Bのひとつの形だとは思っていて。ただ、それが例えばアンビエントR&B的な系譜かっていうと、それは誤読かなっていうか、誤解されるかなって。そこともちょっと違うっていうか。例えば、butasakuの制作をしてるときに武満(徹)をずっと聴いていて、どっちかっていうとそういう水脈があるんじゃないかなと思っている。R&B…かなあ?みたいな。まあ、正直マジでどうでもいいんですけど…(笑)。でも僕は最初、R&B作りたいなという思いがざっくりあって、でもそんな直球のR&Bにはならなかったという感じです。
butaji - 何でしょうね。何かが合わさった感じがするけど、R&Bなのかなーとはちょっとは思う。R&Bにしては、ボーカルの感じが日本人っぽい。日本人でもR&Bやっている人はいるんですけど(笑)。ボーカリゼーション的にあまりR&Bの要素は感じないというかね。コーラスグループっぽいなと思いますよ。
- メインボーカルがいないコーラスグループみたいな。
butaji - そういう雰囲気はあると思う。でも、どこかに繋がっていくと思う。おおもと辿ったら全部同じだから(笑)。
一同 -(笑)
荒井 - 結局、ジャンルはあくまで……
butaji - そこはね、こちらでは考えてないところだよね、別に。R&Bを目指してやってみたけど、違うものが入ってくるというのはありうるよね。だからそれを活かしているんですよね。
荒井 - ジャンルってものにさ、興味ある?
butaji - でも演歌とか言われないようにはしたい。
一同 - (笑)
butaji - 演歌は素晴らしいけど、俺とは違うからさ。こう、全く違うものとは言われたくないでしょ。これじゃないよっていうものに決められるのは嫌じゃない?
荒井 - いやー、なんでもいい。本当になんでもいいかな、それは。めちゃくちゃどうでもいいというか。だから本当は、これはR&Bですとか、こういうジャンルですって言えないし言いたくもない。言いたくないけど、そう言うと便利なので使ってるだけ。って感じですね。
butaji - そうねえ、便利だと思う。
荒井 - 「そういう感じなんだ、聞くかあ」みたいな。
butaji - でも差異はあると思うよね。聴かなきゃわかんないからね。そんなもんですよねえ。
荒井 - でも、R&Bが好きな人にbutasakuがどう聴かれるのかは、めちゃ興味がある。あと、単純に僕がR&Bが一番好きなんです。でも日本だと最近はR&Bって滅亡するんじゃないかってくらい盛り上がっていないので。あと二年後くらいにR&Bブームになったらいいなみたいな、よくわかんない願望はあります。街中全員がR&B聴いていますみたいな。それってすごく豊かな社会だなと思うので。
butaji - そう聴いてもらって全然いいと思うけどね。
- 完成して聴いたときに、2人でどういう作品になったとか、そういう話も特にしていないんですか?
butaji - すごいいいアルバムだね、みたいな(笑)。
荒井 - そうそう、これいいのできたねって(笑)。
butaji - まず一聴してそう言ったし、俺は三ヶ月後にもう一回それを言っていたと思う。
- その「いい」というところをもう少しブレイクダウンすると、2人にとってどういうことになるんですか?
荒井 - うーん、なんでしょう。その音、その楽曲と人の間に特異な時空が生まれる可能性があるってことですかね。音楽によって感覚の質が変容する、その可能性に賭けているところが僕にはあって。とはいえ、いろんな要素があるとは思います。
butaji - そうだね、細かい要素はたくさんあると思う。でも俺は結構、すごい綺麗な空間をあつらえられたなと思っている。外部とどこで接続してるんだろう、みたいな。それぞれのジャンル、それぞれの音楽とどうやって接続しているのか分からないというのがまず不思議だなと思うし、それができたのがいいことだったんじゃないかとは思うけどね。発想元がどこから来ているのかというところが、最近の中ではわからない方だと思う。着想元みたいなところ。
荒井 - 着想元はまあ、ライフスタイルじゃないですか(笑)。
butaji - そうだと思うけどね、うん。
荒井 - ライフスタイルっていうか。けっこうbutasakuのアルバムのどこがいいかは、言葉で説明できなくもないんですけど、なんか言うとすごいつまんないんで、言わないっす。
- (笑)。
butaji - 決まりきったことしか言えないんですよね、俺は。型にはめちゃう感じがあるし、言葉にして型にはめていくってこともあるから、自分でそれを言っちゃうと、そうかもねって自分でも納得しちゃうんですよね。
- 宙に留めておきたいと。
butaji - そう。
荒井 - 宙にとどめておきたいというのは、『forms』ではわりとあるかも。『forms』自体に。
butaji - そういうコンセプトかもしれない。
荒井 - 和田さんは『forms』のどんなところが他の作品と違うと思いますか?
- 言葉で説明してしまうと、記号的なところからすごい軽くなっているというか。今ってそれこそSpotifyとか、すべてがジャンルだし、すべてがいろいろなムードの中にすぽっと入っているけど、そういうものからは無縁のところにあるようなものだからこそ、やっぱり強度が生まれているのかなって。説明するとやっぱりダメですね(笑)。
butaji - アルバムを全体通しで聴いてる人がどれくらいいるかもわからないけど、単曲で聴いても結構、自分から当てに行ってない感じがするかな。うん、宙に浮かせる感じがする。
荒井 - 宙吊りになることは自分にとってめっちゃ重要。宙吊りになることで人って変わっていけると思うんで。もしくは単に宙吊りになって、これ何か不思議だなとか、なんでだろうってなる感覚が好きなだけかもしれないです。
butaji - 日常生活してて「不思議だな」の方がさ、常の気がするけどね。完結してるものの方が少ない。丸く収まってる物の方が少ない気がする。
荒井 - でも、不思議さにもいろんな種類があるわけじゃん。
butaji - どこを不思議に思うかなんじゃない。そこについて疑問を持ってないけども、疑問が湧くっていうことが、難しいことなのかもしれない。済ませていることがあるもん。
荒井 - そうしなきゃ日常生活を送れないもんね。
butaji - そうだろうと一応仮定しておくっていう。
荒井 - 宙吊り的なものって、日常にメスが入れられるってことに近いかもね。
butaji - なにかそういうところがあるよね。普通そう思っているところをそうしておかないっていうのはあるよね。普通そう思われてるけども、実はそうじゃないんじゃない? みたいなところから考え直しているところがある。考え直してるというか、そう思ってる。最初から。
荒井 - 「音楽」って感じ。「音楽」……。
butaji - なるほど、メスだったのか。だいぶ観念的な話になってきたね(笑)。
荒井 - 「音楽」って…(笑)。
butaji - 渡されるんだ、それで。
荒井 - いや、刺してる。切り裂いてる。
butaji - オペでもないんだ。
荒井 - いやオペみたいなもんだと思うよ。オペだったらそれは成功ってことなんじゃないかな。だって作品を発表して、人がそれを聴いているわけだし。そのオペが良いものなのか悪いものなのかは別として…。
butaji - 発表がオペ。キーワードがだんだんやばいことに(笑)。
- Podcastでもそんな話しているんですか?
butaji - いや、全くしていないっすね。
荒井 - この曲作ってどうだった?みたいな具体的な話で。
butaji - 観念的なPodcastは誰も聞かなくなるんじゃないかな(笑)。
- 歌詞について聴いてみたいんですけど、butajiさんソロの作品の歌詞だと、それってやっぱりbutajiさんの世界を表象するものじゃないですか。でもbutasakuってなるとまったく違うものが入ってくるのか、それともbutajiとしての世界の中で書いたのか、どちらになるのでしょうか?
butaji - butasakuの中で、ソロの作品にはない譜割りというか、細かい拍にパッセージがあったりして、そこにメロディにはめるための歌詞を試行錯誤するというのはあったと思うんですけど、でも根底にある世界観はもう俺だから、変わんないんですよね。
荒井 - かっこいい(笑)。
butaji - 俺が書いてるから。俺がいるから、そこに。変わんないんすよ(笑)。だから2015年から2018年にかけて考えていたことになると思います。最終的には。そこは歌詞を書く上のテーマだから、結局変わんない感じがした。もうちょっとでも、butasakuの方は言葉の実験が多々あったなと思いますけどね。ソロの方であんまり実験っていうのを最近していなかったから、そこは違うなと思いますけどね。でも結構、荒井さんのトラックに喚起されてるところもあったからね。初期の"atatakai"も"picture"もトラックから喚起されてという感じだったからね。3シーズンくらい、このアルバムの中で曲作りの期間があったんですけど、一番最初に作っていた"picture"、"atatakai"くらいのときは…
荒井 - "time"も。
butaji - "time"は最後に書き直したんだよね。歌詞も。
荒井 - そっか。いろいろエディットしなおしたもんね。
butaji - "picture"、"atatakai"については、わりと僕から離れてるかなと思う。あんまりこういうこと書かないよねっていう気がする。写実的というかトラックから喚起されているものだと思う。で、年々自分のことしか書けなくなってきたという感じはある。その後の曲はね。俺の考えてる、俺のことについてみたいな。
荒井 - ソロで?
butaji - いやbutasakuで。
荒井 - 歌詞は書いたことないからわかんないけど、自分のことしか書けなくなることって、つまらなくなることでもあるんじゃないかな。
butaji - テーマが毎回同じみたいなこと?
荒井 - いや、えっと、扱っている対象がさ、シンプルに自分のことばっかり歌っていても、見えてくるものって限られているっていうか。例えばフィクションって形式がそうだと思うんだけど、一度自分から離れることによってわかることもたくさんあるじゃん。
butaji - 俺はね、リアルじゃないと歌えないんですよ。
荒井 - なるほど。
butaji - 自分の中で、物事っていうのは抽象的なものなんですよ。僕がテーマにしている、何を歌いたいかっていうことも、あまり自分で具体的に口に出せるものじゃなくて、でもなんとなくもう分かってるの。でも、それは文体とかもあるし、歌詞の文体とか、それは虚構だったりしてもフィクションだったりしてももちろんいいと思うんだけど、その一曲の中で、フィクションであっても、道徳というか、ルール、文脈っていうんですかね。その1曲の中でそれが決まらないと嘘くさいなって思っちゃうんです。1曲の中に、これはこういう決まりがあるから、こういうことを言うはずないじゃんっていう。自分が感じてるルール以外のことが出てきちゃうと気持ち悪くなっちゃう。
荒井 - それはあるよね。俺の場合は、例えばトラックを作る上でも、自分の中のルールや価値観が自ずと反映されてくるっていうか、要は越えちゃいけない一線が良くも悪くもあって。これを越えたらあかんとか、これをやったら全体が崩れちゃうとか。
butaji - 今言葉にしちゃったからそうだなと自分で思っちゃったけど、もうすこし違う点で、恥ずかしいって思っちゃう気もする。自分が考えていないことを歌うことが、何か違うだろうみたいな。感情の動き方かもしれない。自分が読んで、「こいつこんなことを思うか?」みたいなことかも。奥行きとかだと思う。あと重みとか。言葉の重み。
まあ、その1曲の中のルールみたいなところについて言うと、butasakuでは作詞の点でけっこうチャレンジもしていたと思います。それはやっぱり自分で考えるOK以外のOKがあるよねって思っていたから、それは共作の機会で、知らないことを知れるっていうことに委ねていきたい。そう思ったから、いろいろチャレンジしていましたけどね。歌詞についてはね。
荒井 - 僕もbutajiと同意見です。トラックにおいて。共作ってめちゃくちゃいいなって思っています。
- なるほど。
荒井 - すみません、話すのを面倒くさがりました。単純に。
- (笑)。
荒井 - 結局、共作の醍醐味は、「OK」のバリエーションが増えたり変わったりすることだと思います。あと人について普段とは違う角度から考えられること。
butaji - 結構おれは書き直しているからね、歌詞を。完成してやめて、完成してやめて……
荒井 - ソロは書き直さないの?
butaji - 全部を書き直すことはない。butasakuは全部書き直しているから。3曲くらい。でもそれは自分にないものを探せたと思う。どっからきているんだろうという、大筋が分かったら全部かけるんだけど、そこを掴むのが大変だった。どれだけ入り込めるかなって。それはやっぱり元々が自分でないものというか、自分が気付いていないところだったりするから、そこを自分の中に取り込むまで時間がかかったってことかな。それがトラックから喚起されていくものってことですね。僕の中で。その理解度を高めるまでに、それぐらい必要だったってことですね。書き直すということは。
荒井 - 今思い出したっていうか、butajiの歌詞の話じゃないんだけど、『forms』が何がいいかみたいな話なんですけど。僕は京都に住んでいるんですけど、京都も一週間ぐらい前からすごいあったかくなってきて、春っぽくなってきて。ほぼ一緒に住んでる先輩の小松千倫と二人で「春ってほんとすごいな」って話をしてて(笑)。春の風とかってヤバいじゃないですか。問答無用でもっていかれるというか。『forms』もそんな感じだったらいいなって、思った。スっと、春だ、みたいな。春やばいな、みたいな。
butaji - やっぱ関係なくやってくるからじゃない。おかまいなしにやってくるから、気つかったりしないじゃん。「ちょっと寒くしときましょうか」みたいな。
荒井 - ないない。勝手にきちゃうから。春やべー、みたいな。
butaji - やっぱ友達いなそうだもんねえ。
荒井 - 春? 春が? すごいなそれは(笑)。
butaji - 社会性がないというか(笑)。社会性というか、接続していないという感じだよね。
荒井 - 春はねえ。社会性はないよね。
butaji - っていうのを俺はbutasakuのアルバムについて言っていたんだけど(笑)。
一同 -(笑)
butaji - やっぱりどこに接続しているかわからないからね。そういうものがいきなりやってくるって結構不思議なことですよね。
- そういう爽やかさっていうのはあるかもしれませんね。
butaji - こういう驚きがなかったら別にって感じじゃないですか。ほかのこういうのがあったら気づかないだろうし。だから、びっくりするような違和感ではないし、穏やかなものだとおもうけど。
- 驚かそうともしないですしね。
butaji - でも、これは明らかに違うんだよね。やっぱり、けっこうなカウンターパンチみたいなことが起こりうるんじゃないですかね。そういうものだと思う。でもすごく穏やかな顔をしている。雪降っちゃったね今日は。
荒井 - 僕が住んでいる京都の山の方は雪が降るんですけど。まさか東京で雪とは…。
butaji - すごい日にきちゃったね(笑)。寒い日に。外から、他の人からレビューをするのと、自分から言うのって全然違うじゃないですか。だから、いろんな要素があるのに、自分から限定しにいっちゃうのが勿体ないなと思って。俺らが言ってしまうことでそう聞かれちゃうから。
荒井 - それはあるよねえ。言葉で簡単に説明できるなら、たぶん音楽なんてやってないですからね。それはジレンマとしてめっちゃある。
butaji - だからその要素みたいなものを見いだせる人は、すごく豊かなんじゃないかと思います。リスナーとして。その奥行があるということを気づけるだけの素養があるんじゃないですかね。そういう土壌がなかったら何聞いてもわかんないけど。気付けるって、知識とか経験値がないと気づけないから。
荒井 - 経験値があって気付けるものとさ、経験値とかなくても素直だったら気付けるみたいなさ…
butaji - トトロみたいな。
荒井 - 自分の話になっちゃうんだけどさ、自分のソロライブやったりすると、例えばエクスペリメンタルたくさん聞いてますみたいな人よりも、たまたま会場にいましたって人の方が、面白がってくれたりする傾向があって。なんか、そこらへんを歩いている人にbutasakuを聞いてほしい。
butaji - それはそう思う。だから感性の話だと思う。普段なにを考えているかとかが鍵になるんだろうな。
Info
butasaku “forms” release party
<京都公演>
2022年5月3日(火・祝)
京都 soto
OPEN / START 18:00
ADV ¥3,000 / ¥3,500
butasaku
空間現代
Whatman
予約をご希望の方は、下記WEBフォームより予約をお願いします。
http://soto-kyoto.jp/220503reservation/
<東京公演>
2022年5月3日(火・祝)
下北沢 SPREAD
OPEN 18:00 / START 18:30
U23 ¥2,000 / ADV ¥3,000 / DOOR ¥3,500 (All +1drink)
※再入場可 *再入場毎にドリンク代頂きます / A drink ticket fee charged at every re-entry
butasaku
mmm
Kazumichi Komatsu
speedy lee genesis
予約をご希望の方は、メールでの予約をお願いします。
spread.ticket@gmail.com 宛にメールをお送りください。
件名に「05/08チケット購入希望」と記載の上、本文に氏名と人数をご記入ください。
※ ご予約される方は "05/07 23:59" 迄にご連絡ください。
※ ご購入いただいた方は開催当日お名前の分かる身分証明書を受付にて確認させて頂きます。
※ 止むを得ずキャンセルされる旨をメール頂いた方にも配布しますので、キャンセルの場合は必ずご連絡頂きますようお願い致します。
【リリース情報】
アーティスト:butasaku
タイトル:forms
各種配信サービスにて配信中
https://linkco.re/93pQrd5T
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