【メールインタビュー】Spencer. 『Are U Down?』|ずっと楽器を演奏していたかった

次世代のNYのインディペンデントなシーンで注目されるシンガーソングライターのSpencer.。NY郊外のロチェスターで生まれ育ったSpencer.はレゲエやソウル、R&Bなどが流れる家庭で過ごしたことで、自然と幼少期から楽器を演奏する生活を過ごしていた。10代でイーストマン音楽学校のサマー・ジャズ・プログラムに参加した彼は、独学でビートメイクも身につけ、大学生だった2018年にリリースしたEP『Want U Back』がヒットしたことがきっかけで大学を中退。Snail MailやClaudなどともにブルックリンの新しいコミュニティを担う存在と目されている。

ルーツであるR&Bやヒップホップ、ソウルなどのエッセンスを洗練させてまとめあげたデビューアルバム『Are U Down?』を9月にリリースした彼にメールインタビューを行った。

質問作成・構成 : 和田哲郎

- 初めまして、日本のメディアFNMNLです。Spotifyなどのプレイリストであなたの曲をよく聴いていたので、今日は話を聞けて嬉しいです。今住んでいるブルックリンの状況はいかがですか?

Spencer. - やあ!元気かい?ブルックリンは少し肌寒くなってきたけれど、僕は秋という季節を楽しみにしているよ。

- あなたが生まれたNYのロチェスターという街について教えてください。この街からあなたは音楽的なインスピレーションを得ていましたか?

Spencer. - ロチェスターはあまり大きな都市ではないんだけど、音楽やアートシーンに対するリスペクトがちゃんとあるんだ。だから僕は高校生の頃から、ラッパーや、バンドや、プロデューサーなどといった地元のアーティストたちを見ていて、その頃から音楽を作りたいと思うようになったよ。

- あなたのミドルネームはMiles Davisから来ているということですが、普段家ではどんな音楽がかかっていたでしょうか?特に印象的だった曲やアーティストはありましたか?  

Spencer. - 僕の父親はゴスペルや昔のソウルやファンクがすごく好きで、母親はレゲエが好きだった。家ではよくMaxwell、Bob Marley、Kirk Franklin、Earth, Wind & Fireなどがかかっていたよ。僕は家族に恵まれていると思うよ!

- 音楽活動を始めるにあたって最初に手に取った楽器はなんだったのですか? そしてどのように今のような多彩な楽器やボーカルを身につけて行ったのでしょうか?

Spencer. - 4歳か5歳の頃にピアノを始めた。中学生になってからはジャズバンドでトランペット演奏するようになったんだけど、その時に、自分のセクションだけではなくて、曲の全部のパートで自分の楽器が演奏できたらいいのにと思っていたんだ。それでベースを始めたんだ。ずっと楽器を演奏していたかったからね(笑)。歌うことは、ずっと気軽に歌っていたから自然に身に付いていった。でも歌うことをちゃんとやり始めてから、自分の声というものを見つけるまでには何年かかかったよ。

- 1人で全てを完結させるアーティストは、完璧主義者の人が多い印象がありますが、あなたは自分を完璧主義者だと思いますか?もしそう思うエピソードなどあれば教えてください。

Spencer. - 自分のことを完璧主義者だとは思わないけれど、自分にとって大切なものを作っている時は、自分で主導権を握りたいと思うね。他の人とセッションをしている時は、自分のアイデアを主張したり、新しいアイデアを試したりすることが難しい時もあるからね。

- Spotifyのフェイバリットプレイリストを見ましたが、音楽を聞いている幅もとても広いですよね。ジャンルを超えて音楽を聴くようになったきっかけはなんでしょうか?もしくは最初からジャンル分けなどは気にしていなかったのでしょうか?  

Spencer. - ありがとう!様々な音楽を聴くのは、友人たちが様々なアーティストを紹介してくれたおかげだよ。だから僕はほぼ全ての音楽を楽しめることができるんだ。自分のサウンドの限界を押し広げているアーティストや、期待以上のことを成し遂げるアーティストを見ると僕はすごく魅了される。だから僕は常に新しい音楽を探しているんだ。

- 今回のアルバムもですが、Spencer.さんが影響を受けてきたソウルやヒップホップなどのオーセンティックなサウンドを、ベッドルームでパーソナルにまとめあげていると感じますが、自身のサウンドの特徴を自分の言葉で説明するとどのような形になるでしょうか?

Spencer. - そうだね、ソウルとヒップホップだと言うね。僕のサウンドの最も核心にあるのはヒップホップだと思うけど、ジャズとファンクとインディーが一緒くたになったものも僕には聴こえる。

- アルバムについては、先行シングルの”MyLuv”や”Lonely As I Ever was”でも、シンプルなサウンドは変わらずですがよりディテールが緻密になっていると感じられました。自身の中でアルバムを作る中で最も大事にしたことはなんでしょうか?

Spencer. - それぞれの曲が同じサウンドにならないようにしたんだ。1人の人が作ることのできる様々なサウンドや、それらのサウンドに対する解釈というものを表現したかった。僕が好きなのはそういうアルバムなんだ。

- アルバム制作の中で最も印象的な楽曲はどの曲でしょうか?

Spencer. - “MyLuv”だと思う。一日中コードを書こうとしていて、結局、何も書けずにいたところに、友達が家に遊びに来たから、一服して、(テレビゲームの)『スマッシュ・ブラザーズ』をやることになった。僕は、コーラスとヴァースを書き留めるためにゲームを中断しなくちゃいけなくて、僕たちはゲームをやりながらその音楽を何万回と聴いていたんだ。

- このアルバムを制作中はNYもロックダウン中だったと思いますが、ロックダウンの影響は作品の内容や制作に対して影響はありましたか?

Spencer. - 影響はもちろんあったよ。僕はロックダウン中は地元のロチェスターにいて、両親の家にいたんだ。そしてアルバムの曲を、両親の家の地下室で夜中の12時から朝6時までの間に制作していた。ロックダウン中は、気が散る要素もなかったし、自分の考えやアイデアを曲という形に変換できるくらい孤立した状態だったから作曲にはもってこいの時期だったよ。

- ブルックリンのあなたが友人たちとともに作り上げているコミュニティーは大きな盛り上がりがあるように見えますが、コミュニティ内部の空気感はいかがでしょうか?そもそもコミュニティという認識があるのかというところ含めて教えてください。

Spencer. - そう思うよ!僕が遊んでいる人たちで、音楽を作っている人たちからはいつも刺激を受けるし、その人たちは僕の親友だと思っているからね。バンドのTriathalonや、Claud、そしてSnail Mailのリンジーなんかは、お互いの音楽をサポートし合って、コミュニティを育んでいきたいと思っているんだ。

- 同じブルックリンに住んでいるアーティストの中で個人的に最も影響を受けているアーティストは誰でしょうか?理由と一緒に教えてください。

 Spencer. - Triathalonのアダムだと思う。彼は僕をいつも限界まで頑張るようにプッシュしてくれるし、僕のプロジェクトを応援してくれるから、頑張ろうという気にさせてくれるんだ。彼は真の親友だよ。

- 今後あなたがどのような制作スタイルで作品を作っていくかとても興味がありますが、やってみたい制作方法はありますか?

Spencer. - 次のアルバムでは、ループじゃなくて、トラックを通して全ての楽器が演奏できるようになりたい(笑)まずはドラムがもっと上手くならないといけないんだ。

Info

abel: BEAT RECORDS / 4AD
artist: Spencer.
title: Are U Down?

release date: 2021/09/10 FRI ON SALE
アルバム配信リンク: https://spencer.ffm.to/areudown

RELATED

【インタビュー】tofubeats『NOBODY』|AI・民主化・J-CLUB

2024年4月26日に発表されたtofubeatsによる最新作『NOBODY』。本人の歌唱はもちろん、ゲストボーカルによる客演もゼロ、そのかわりに全編でDreamtonics社の歌声合成ソフトウェアSynthesizer Vを使用したという本作は、このように書いてみると字面上、アノマリーな作品という印象を受けるものの、作品を聴けばtofubeats流のストロングスタイルなハウス作品であるということがわかるはずだ。

【インタビュー】butaji × Flower.far “True Colors” | クィアの私たちを祝福する

私が私らしく生きるために、私たちが私たちらしく生きていくための歌。6月のプライドマンスに合わせた、シンガーソングライターのbutajiとタイのシンガーFlower.farのコラボレーションシングル“True Colors”はそんな一曲だ。

【インタビュー】Daichi Yamamoto 『Radiant』 | 自分から発光する

夕方から突然の大雨に襲われた6/9の恵比寿LIQUIDROOM。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。