【イベントレポート】『City Connection powered by Manhattan Portage』|都市生活の息苦しさを音楽で開放させたデイイベント

Manhattan Portageが主催するイベント『City Connection』が7月18日に恵比寿・LIQUIDROOMで開催された。会場では新型コロナウイルス感染症の厳重な拡大防止対策が取られ、フロアはソーシャルディスタンスが保たれるように床をテープで仕切り、観客もマスクを着用し、声出しも禁止となった。なにかと制限の多い昨今ではあるが、良質な音楽を大音量で聴くのはやはり楽しい。

オープニングDJのLITTLE DEAD GIRLが鳴らす開放的なダンスミュージックの振動をLIQUIDROOMのフロアから感じると、観客も楽しみ方を見出していく。心地よいリフレインの反復と鳴り響くキックに合わせて体を揺らし始めた。LITTLE DEAD GIRLは2000年代前半に西ロンドンを中心に盛り上がったブロークンビーツムーブメントのクラシックであるSeijiの“Loose Lips feat. Lyric L”から、Peggy Gouの最新ナンバー“I Go”に至るまで幅広い年代のダンスミュージックを巧みにミックスして楽しむ雰囲気を高めていった。

Photo by Masanori Naruse (これ以降も全て)

最初のライブアクトは東京・世田谷を拠点に活動するヒップホップクルー・KANDYTOWNのメンバーとしても知られるRyohu。1曲目は昨年リリースされたアルバム『DEBUT』でも冒頭を飾る“The Moment”。ゴスペルの祝祭的なコーラスやピアノフレーズで構成されたトラックに、寸分違わぬRyohuのラップが乗るとグルーヴを生み出す。続く2曲目は同アルバムと同じ曲順で“GMC”。これらのナンバーは冨田ラボと共同作曲したもの。都会的な雰囲気を纏うRyohuの口から放たれる「車で街をローリング」というリリックは否が応にも観客を盛り上げた。そんな時は声出しができないフロアに向けて、ハンドクラップを促す。制限下でもライブならではの一体感は作れると感じさせた瞬間だった。

2017年リリースのEP『Blur』の収録曲“The More, The Better”を挟み、人気曲“Shotgun Shuffle, Pt. 2”、“Downtown Boyz 2.0”、さらにFLYING KIDS“幸せであるように”をサンプリングした“Cloud”を披露した。MCでは「今日は声を出せないということで、手拍子を使って共有したいと思ってるんで。みなさんよろしくお願いします」と話し、ハンズアップと手拍子でコールアンドレスポンスを行う。その流れから“Ain't No Holding Back”のイントロが流れ込んでいく。さらに『DEBUT』収録曲“Anytime, Anywahere, Anyone”、“Foolish”に続く。この2曲のプロデューサーであるTENDREは、前述のEP『Blur』に共同プロデューサーに名を連ねている。

“Wash (Put a Melody)”、“Level Up”とアップリフティングな楽曲から、Ryohuの代表曲“All In One”に。ラップのリズムの中にメロディーを織り交ぜたこの曲のフロウはRyohuならでは。トラップ以降のヒップホップシーンでは歌うフロウが一般化したが、彼はFNMNLの事前インタビューで話していた通り、10代から下北沢のバンドシーンと密接に関わっており、同時にアンダーグラウンドなヒップホップシーンで活動するラッパーでもあった。そんな彼の中ではさまざまなカルチャーが自然にクロスオーバーしていて、自然と現在のオルタナティブなスタイルにたどり着いたことが想像できる。ちなみに次の“誰?”はペトロールズのトリビュートEP『WHERE, WHO, WHAT IS PETROLZ??』の収録曲、ラストの“Forever”は「亡くなった友人のことを歌っています」という。もちろんその友人とはKANDYTOWN、BANKROLLのメンバーであるYUSHIだろう。インタビューでは東京をテーマにRyohuのバックグラウンドを知ることができるので、こちらも是非とも読んでもらいたい。

切り裂くようなスクラッチで登場したのはDJ BAKUだ。今回はiri“24-25”、土岐麻子“Flame (mabanua Remix)”などメロディアスなナンバーをセレクト。その中におなじみの激烈スキルのスクラッチルーティンを織り交ぜる。後半は四つ打ちやハウスのBPMにシフトしていき、自身の楽曲“JAPONEIRA feat. mabanua”、次のアクト・D.A.N.の“Zidane”、Disclosure“Ultimatum feat. Fatoumata Diawara”など夏らしいダンスチューンが巧みにつなげていった。ラストは惜しまれつつも先日亡くなってしまったBiz Markieの“Let Me Turn You On”。曲中でBizが「say well」とコールする場面では多くの観客が手を上げて反応していた。

ステージの緞帳が開くと大量の機材に囲まれたD.A.N.の姿が。櫻木大悟(G, Vo, Syn)、市川仁也(B)、川上輝(D)に加え、Black BoboiやKID FRESINOのライブでもおなじみの小林うてな(Steelpan, Syn)がサポートメンバーとして参加した。SEが鳴り響く中、市川が“Ghana”のベースラインを弾き始めると、櫻木は「D.A.N.です。よろしくお願いします」と手短に挨拶し、川上がリズムを刻み始める。派手な楽曲ではないが、D.A.N.のプレイはあまりに正確で、繊細で、グルーヴィ。

4人が織りなすアンサンブルに観客は圧倒される。だがこれはまだ始まりにすぎない。

2曲目の“Sundance”では櫻木がシンセサイザーを演奏する。短いフレーズを反服した音色がうてなのスチールパンに重なることで心地よいメロディの響きが生まれた。そこにバンドの推進力になっている市川のベースが加わる。さらに機械では生み出せない川上の生ドラムがバンド全体にダイナミズムをもたらす。“Take Your Time”からは篠崎奏平(Pad, G)も合流。5人編成でリズムや音の絡まりがさらに複雑になっていく。“Floating In Space”ではその篠崎のパッドから出されるインダストリアルでありながら、プリミティブさも感じさせる打音が楽曲のアクセントになっていた。

“Aechma”は冒頭で市川がチェロを演奏する。荘厳なアンビエントでスタートするこの曲は、川上のドラムが打ち鳴らされると途端にドラムンベース的な様相を帯びてくる。さらにスチールパン、不協和音のシンセサイザーも加わり、どんどん盛り上がっていくが、中盤でリズムが変わる。四つ打ちの重いキックから、ハイハットが加わり、さまざまな音のテンションも少しずつ上がっていく。最高潮になった瞬間、シンバルを合図にスネアが入り、バンドは美しいメロディのダンスミュージックを奏で出す。篠崎やうてなは複数の楽器を使い分け、もはや誰がどの音を出しているのかわからないほどになっていた。ラストは新曲“No Moon”。この曲でも市川はチェロを弾いていた。複雑な構成でアヴァンギャルドだが、ダンスミュージックのシンプルな快感もある楽曲だった。音源では精緻でインテリジェンスな印象が強いが、D.A.N.のステージにはバンドの息遣いと荒々しさを感じさせるものだった。

ZOMBIE-CHANGはDJブースからめちゃくちゃにぶち上げてくれた。昨年発表した『TAKE ME AWAY FROM TOKYO』でエレクトロミュージックにシフトした彼女。この日はDJプレイをベースに、同作の収録曲“JE NE SAIS PAS”など自身の楽曲ではマイクを持って歌うスタイル。ただ全体的なサウンドのイメージは5月に発表した新曲“GRANNY SQUARE”をイメージしてもらえるとわかりやすい。“I CAN'T GET TO SLEEP”や“WE SHOULD KISS”といった過去のニューウェーブ的なナンバーも、ハードなテクノとミックスされるとこれまでとは違う面白さが出てくる。このテンションは電気グルーヴのライブに通じるものがある。“TAKE ME AWAY FROM TOKYO”ではDJブースを乗り出して、がっつりと観客を煽り倒し、フロアも呼応してハッピーな空間を作り出した。そこからZOMBIE-CHANGはガバにシフト。ガバのキックのまま“GOLD TRANCE”へ。オリジナル以上に凶悪なレイヴサウンド化していた。余談だが、このあたりから私の取材用レコーダーがキックの振動でぐるぐると回っていた。ラストは“ROCK SCISSORS PAPER”。東京のキッチュな狂気を同時に体験させるパフォーマンスだった。

トリの向井太一はオーバーサイズのジャケットをスマートに着こなして颯爽と登場し、今年リリースの最新アルバム『COLORLESS』から“BABY CAKES”、“Ups & Downs”、“What You Want”を立て続けに歌う。彼が面白いのはパフォーマンスやスタイリングから日本の90年代のJ-POPの歌手然とした佇まいを感じさせるが、それらがブラックミュージックの最新トレンドを踏まえた今の感覚でアップデートされていること。そのサンプリング感覚がライブパフォーマンスからも強く伝わってきた。長引く自粛生活などネガティブなニュースが多い昨今だが、向井は「今週も最高だったなと思えるようなそんな1日にしますので、最後までお付き合いください」と謙虚に話す。

バンドメンバーは、村田シゲ(B)、山下賢(D)、Geroge(Machine)という超のつく実力派揃い。彼らとともにプレイされたラブバラード・“Confession”、“Ooh Baby”では、向井太一の普遍性ある歌の魅力を堪能できた。ちなみに“Confession”の共同製作者はGrooveman Spot。続く“Sorry Not Sorry”と“眠らない街”は都会的なムードをグルーヴィに歌うR&B曲だ。そしてファンにとってはおなじみの初期の名曲“SPEECHLESS”も。体を揺らせるノリを歌で作れるのも彼の大きな魅力と言える。向井が「みなさん、後半も楽しめまますか?」と話すと浮遊感溢れるハウストラック“Great Yard”が始まる。キックの音に呼応して、観客の手拍子も一層大きくなった。これまた初期からの人気曲“Slow Down”ではハンズアップでのコールアンドレンスポンスで声を出さずにライブの一体感を演出した。

この日の『City Connection』の開催をめぐる演者や裏方の苦悩は、最後の向井のMCに集約されるだろう。「こういう大変な時で、このイベントもやるかやらないかみたいな、すごくいろいろ考えて開催されたものだと思ってます。そんな中、みなさんの前で、こんな時間に歌えて幸せです。本当にありがとうございます」。そしてイベントは「またすぐこうやって目の前で歌えるように、最後は心を込めて歌います」というMCとともに披露された“リセット”で幕を閉じた。(宮崎敬太)

City Connection Instagram

https://www.instagram.com/cityconnect1983
City Connection Twitter

https://twitter.com/cityconnect1983

MUSIC BOX by City Connection

https://www.mixcloud.com/cityconnection

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