識者が振り返る2020年上半期の重大トピックVol.2|渡辺志保

識者が振2020年の上半期は新型コロナウイルス感染症によって全世界的に、あらゆる領域の活動がストップ、もしくは著しく制限された半年だった。音楽やファッション、アートなどのカルチャーの領域でも、もちろん大きな影響は出続けており、まだライブやイベントを中心に正常化には至っていない状況だ。

そしてさらにはアメリカでの複数の警察官による黒人殺害事件をきっかけに、再びBlack Lives Matterの抗議活動も盛り上がりを見せ、NonameとJ. Coleによる論争に派生、ジャンル名などの変更も行われるなど、音楽シーンにおいても重大なトピックとなったのは間違いない。

FNMNLではそんな激動の2020年の上半期を識者が選ぶ重大トピックで振り返る企画をスタート。第一回目の高岡謙太郎に続き、2回目は主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳に携わる音楽ライターの渡辺志保が登場。

渡辺志保が選ぶ2020年上半期の重大トピック

1.出産

めっちゃ個人的なトピックですが、今年の3月に人生初の出産を経験しました。予定日から一週間遅れた上に本陣痛が約30時間も続き、途中、このままお腹の中から出てこないのでは…と思ったほどでしたが、無事に産まれてくれて何よりです。出産直前・直後は川上未映子さんの『きみは赤ちゃん』を何度も読み、都度、涙を流していました。また、出産してすぐは、これまでの自分が世界から消滅して、母というアンデンティティがインストールされたまるっきり新しい自分になってしまうんじゃないか、という漠然とした怖さがあって、ジェーン・スーさんの『これでもいいのだ』、能町みね子さんの『結婚の奴』などを読み、世の中には多様なマインド、そして多様な家族を持つ女性がいるのだ!と、ゆっくり自分を奮い立たせていました。それぞれみんな、向いている方向性は異なるものだ、だから私も、マイペースにこれまでの自分と新しい私を融合させていけばいい、ということを再確認しました。

これまで一日24時間を自分のためだけに使っていましたが、今ではその24時間を息子とシェアしているという感じで、とにかく仕事と育児のバランスを探りながら毎日を過ごしています。隣に息子を寝かせた状態で、リモートでラジオ番組の収録をすることも多いのですが、スタッフの方にも色々とご協力いただき、なんとか成立しているという感じです。たまに息子が泣いてしまうこともあり、本当に肝を冷やすのですが…。あと、子供を産んでからさらに頭の回転が鈍くなった感じがありまして、どうしたものかと思っています。

結婚したときにも思いましたが、家族が増える(それがどんな形であれ)、というのは人生の醍醐味の一つであると実感しております。

2.Black Lives Matter

今回の運動の高まりを受けて、色々な方に話を伺ったり、映像作品に触れたり、書籍を読んだりしています。これまでの自分を振り返ると、「すでに知っている」「すでに理解している」という奢りがあったのではと恥いる思いです。日本にいる私に、一体何ができるのだろうかと毎日のように感じていますが、学び続けることが一つの答えかなと思っています。Jamila Woodsの“BALDWIN”という曲は、今回のBLM運動を受けて改めて聴き返した楽曲の一つ。「私の友達はみんな、(トニ・)モリスンや(コーネル)・ウエストを読んでいるというフックのリリックに触発されて、やはり読書は裏切らないわ、とばかりに、読書に励んでいます。Nonameのブック・クラブにも影響されて、彼女の推薦図書『RACE MUSIC』も電子書籍で購入し、今まさに読み進めているところ。

そして、若いヒップホップ・リスナーやアーティストの方にも、その裏側にある歴史や背景を少しでも知ってほしいと改めて思いました。普段、何気なく触れているラップという手法やヒップホップ・カルチャーに由来するファッション、ラッパーたちのヘアスタイル…そういったものにも全て深いバックグラウンドが存在し、その多くの場合は痛みや葛藤、搾取が伴います。ちなみに、本問題を考えるにつれ、文化の境界線や、社会と人種ということもより考えるようになりまして、どなたかに教えを乞いたくてたまりません。

上半期印象的だった音楽作品

Run The Jewels 『RTJ4』

リリース時期は元から意図していなかったとはいえ、こんなにも時代を映し出すアルバムがあったか!と久々に感じました。Killer Mikeが「I Can’t Breathe」とラップし、Gangsta Booがフックで参加している“Walking In The Snow”や、Pharrellが「ドル札に書かれた奴隷所有者を見てみろよ」とフックで歌う“JU$T”、RTJ流にストリートを描いたMVが印象的な“Ohh La La”など力強いアンセムばかりです。

渡辺志保

音楽ライター。広島市出身。主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳に携わる。これまでにKendrick Lamar、A$AP Rocky、Nicki Minaj、Jaden Smithらへのインタヴュー経験も。共著に『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門」(NHK出版)などがある。block.fm「INSIDE OUT」、bayfm「MUSIC GARAGE:ROOM101」などをはじめ、ラジオMCとしても活動中。

毎週月曜 22時〜 block.fm「INSIDE OUT」

毎週木曜 21時〜WREP「DJ’S PLAYLIST」

毎週金曜 27時〜bayfm「MUSIC GARAGE:ROOM101」

YouTube 「HIP HOP DNA PANEL」など

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