【インタビュー】Kvi Baba『Happy Birthday to Me』| 「みんなに聞こえちゃうくらい大声の独り言」

Kvi Babaが本日5/29(金)に最新EP『Happy Birthday to Me』をリリースした。タイトルからも分かる通り、本作からはKvi Babaの大きな変化が感じられた。どの楽曲からも、自身の奥にある哀しみと向き合い、しっかりと大地に立つようなメンタリティを漂わせている。破滅的で自己嫌悪に満ちた1stアルバムからわずか8カ月で発表された作品とは思えないほどだ。今回のインタビューでは、『Happy Birthday to Me』の制作過程と、Kvi Babaが現在の心境に至る経緯を訊いた。

取材・構成 : 宮崎敬太

写真 : Yuuki Maxim

「死」に近づいたことで見えてきた現実

- 『Happy Birthday to Me』は非常にポジティブな作品ですね。1stアルバム『KVI BABA』をリリースしてからどんな心境の変化があったのでしょうか?

Kvi Baba - 今回も前作同様、今思ってることをそのまま歌にしています。根っこの部分は変わってないんですが、自分を取り巻く状況が変わってきたので、それが曲調に影響を与えているんだと思う。

- 状況が変わったというのは?

Kvi Baba - 前作を出した後、デビュー以来お世話になってたレーベルを抜けたんですが、その直後に体調を崩してしまって。これまでもかなり不健康な生活を送っていたけど、幸い大きな病気や怪我は経験したことなかったんです。でも今回は……。入院中にベッドで発作を起こした時は、本気で「死ぬかもしれない」と思いました。この感覚は、これまで「自殺したい」とか「死んでしまいたい」と思っていた感覚とはまるで別種のもので。死という抗えないものに少しだけ近づいたことで、これまでとまた違う景色が見えるようになったんですよね。

- その変化が『Happy Birthday to Me』というタイトルにも反映されてる?

Kvi Baba - そうですね。ここまで生きてきた自分を褒めてあげようと思ってこのタイトルにしました。こんなふうに思ったのは生まれて初めてですね。これまでは「まだ生きんのかよ、俺」と本気で思ってた。生きてる自分を否定し続けていました。だけどリアルに死に近づいたことで、自分を少しだけ俯瞰で見られるようになった。そしたら、音楽で自分を表現して、さらに良い状況が生まれてる現実を受け入れられるようになった。そういう意味では若干ボースティングしてると言えるのかも(笑)。

- 20歳とは思えないほど達観していますね。

Kvi Baba - いやいや。

NORIKIYO、SALU、AKLO、ZORNに訪れたラッパーとしての変化がKvi Babaにも

- 今作もBACHLOGICさんとタッグを組んで制作されたんですか?

Kvi Baba - BL(BACHLOGIC)くんとUK a.k.a AMP Killerくん、俺の3人で作りました。

- 具体的にどのように進行したのか教えてください。

Kvi Baba - 3人でスタジオに入って、バイブスがおもむくままに制作しました。例えば"Fight Song"なんかはUK a.k.a AMP Killerくんが何気なく弾いたギターに反応した僕がフリースタイルして、同時進行でBLくんがビートを打ち込んで完成させちゃう、みたいな。ある程度形になったらすぐレコーディングして。これまでもそうなんですが、「こういうリリックを書きたいからこんな感じの音が欲しい」みたいなことは一回も言ったことないし、逆もまたしかり。BLくんやAMP Killerくんとは日常的な会話ばかりですが、そういう中で二人は僕の微妙な心境の変化を感じ取ってくれてたみたい。

- ラップは「フリースタイルで」と話していましたが、今作の歌詞は即興で作られたとは思えないほど素晴らしい。これまでの作品の延長線上にありつつ、内面の哀しみとしっかりと向き合い、前を向こうとしている。しかもナルシシズムも感じられない。他者も共感できる優しいリリックだと思いました。

Kvi Baba - 「フリースタイル」というと語弊があるかもしれない。確かに歌詞の大部分は、スタジオでマイクの前に立った時に頭に浮かんだものを即興で歌にしています。でもそれは俺が日常的に考えていること、生きてて感じていることが出てきている。だから日々、生きていることが作詞作業の一部で、スタジオに入ってそれを吐き出してるとも言えるかな。ちなみに今回のEPに収録されたリミックスやボーナストラックを除く4曲は、10曲以上録った新曲から厳選したものです。

- なるほど。ちなみにBLさんはKvi Babaさんの変化に対して何か言ってましたか?

Kvi Baba - BLくん、一緒にがっつり組んで制作していると、ラッパーが変わる瞬間がわかるらしいんです。「あ、こいつ変わった」みたいな。メンタリティとか、アーティストとしての自覚とか、スキルとかいろんなことが複雑に絡み合ってるから、その変化を一言で表現することはできないんですけど。僕は今回のレコーディングでその変化があったみたい。「1曲録るごとに変わっていったよ」と言ってくれました。BLくんはあまりそういうことを言わない人なので、内心かなり嬉しかったですね。

音楽をやってなかったら今頃どうなっていたか……

- "No Clouds"、"By Your Side"は一聴するとラブソングのように捉えることもできます。でも、個人的には"No Clouds"はKvi Babaさんの現在の晴れやかな心境を歌ってるように感じたし、"By Your Side"は今まで向き合えなかった自身の内面と寄り添う歌だと思いました。

Kvi Baba - 確かに通り一遍のラブソングという感じではないかも。僕は「僕と君」という表現を歌詞の中でよくするんですが、常に1対1を想定してないし、1対複数のこともあれば、「君」と言いつつ自分に歌ってることも、あるいは「君」が神様や自然、世界そのものの場合もある。そこは聴く人が自由に捉えてもらっていいと思っています。僕は自分の中にある表現したいことを、「僕と君」というストーリーで歌詞にしているというイメージですね。

- なるほど。これらの曲はすごく前向きな心境を感じました。

Kvi Baba - そうですね。昔は下を向いてぶつぶつ独り言を言ってたというか、唸ってたというか、泣いてたというか。今は斜め上を見てるイメージ。 真上とも、真っ直ぐとも言えないところに僕の捻くれた性格が表れてる(笑)。独り言には変わりないけど、みんなに聞こえちゃうくらいの大声になった、みたいな。それに、僕は歌ってるという自覚も出てきましたね。

- Kvi Babaさんの変化は、常に自分としっかり向き合って真摯に音楽を制作していたからこそ訪れたと思います。

Kvi Baba - 確かに音楽をやってなかったら今頃どうなっていたのか……。本当に僕には何もなかったんですよ。そういう意味では音楽のおかげで変われたというところは確実にあると思います。

- この作品を聴いて、改めて自分の気持ちを形にすることの大切さを感じました。

Kvi Baba - 今の世の中、質はともかく情報の量が多すぎるから、インプットだけしてると、いつの間にか自分の気持ちがわからなくなっちゃうってことは確かにあると思う。パンクしちゃうというか。僕は、気持ちを吐き出す作業そのものが芸術だと思ってるんです。「音楽をやる」とか、「歌詞を書く」とか言うとすごく高尚なイメージがあると思うけど、もっと気軽に、歯磨きするような感覚でやってみたらいいんじゃないかな。絵でもいいし。なんでもいい。アウトプットすることは大事だと思いますね。

内面の孤独や哀しみと真剣に向き合うほど、自分だけの戦いとは思えなくなってくる

- 個人的には"Talk To Myself"がすごく好きでした。

Kvi Baba - まじですか。"Talk To Myself"を直訳すると自分自身のために話す、みたいなことで。なんでこういう歌を作ろうかと思ったかと言うと、自分のためにしたことが結果的に誰かのためになったりするんじゃないかと思うようになったからです。それは体調を崩したりする中で、僕が気づいたことの一つでもあるんですけど。誰かが嬉しそうな顔をしてたら、友達や周りの人もなんだか嬉しい気持ちになりますよね。もちろん感じ方は人それぞれ違うと思うけど、大枠ではそれほど差はないはず。だったら、自分が笑顔になるような曲を真剣に書けば、結果的に誰か一人くらいは笑顔になってくれるんじゃないかって。僕の中には、決して消えない孤独や哀しみがある。それと真剣に向き合ってると、だんだん自分だけの戦いとは思えなくなるとこがあって。だからと言って、誰かのために何かしてあげたいとは思ってないけど。そんなふうに考え出すと表現が嘘っぽくなっちゃうんですよね。

- その感覚はすごく共感できます。

Kvi Baba - 「誰かのために何かしてあげたい」「誰かを笑顔にしたい」というのは、結局その人のエゴというか。誰かの笑顔を見て自分が満足したいだけだと思うんですよね。だからこの曲はあくまで自分のために書いたもの。おまけで、誰かが何か感じてくれたらいいなってニュアンスです。

- リリースに先駆け、NORIKIYOさんとVIGORMANさんが参加した"Fight Song"のリミックスが公開されました。

Kvi Baba - 前々から尊敬していたNORIKIYOくんと、大阪の先輩であるVIGORMANくんにお声がけして、今回参加してもらうことになりました。

- VIGORMANさんは同じ大阪で、歳も近いですよね?

Kvi Baba - はい。イベントで一緒になることもあったので、お互いに存在は知ってました。でも10代の頃の僕はとにかく自分の殻に閉じこもっていたので、基本的にほとんど誰とも親しくならなかったんです。ちゃんと話すようになったのは最近ですね。あとみんな僕の曲を聴いてくれてるからかもしれないけど、僕がどんな奴かわかった上でコミュニケーションしてくれるんですよ。音楽で繋がってる感じはありますね。それはNORIKIYOくんも同様です。

- しかし、このリミックスはかなり素晴らしい出来でした。

Kvi Baba - 僕からは特に何も説明してないんですけど、二人とも曲のテーマをしっかり汲み取ってくれました。それぞれめっちゃリアルですよね。

- ボーナストラックとして収録されている"Decide"にはRYKEYさんが参加しています。

Kvi Baba - この曲は1stアルバムの時点で完成していたんです。でも諸般の事情で出せなくて。念願叶ってようやくお披露目になりました。RYKEYくんは人の心を震わせる達人だと思う。これは、今回のEPに参加してくれたNORIKIYOくんとVIGORMANくんにも言えることだけど、僕はそういうアーティストが好き。人と人で向き合って、心を震わせる表現をしたい。そうすることが俺自身のためにもなると思う。

- 今後はどのような活動を予定してるんですか?

Kvi Baba - 実はもうアルバムを出せるくらい曲ができてるんです。どういう形でリリースするかは決まってないけど、期待しててもらって良いです。楽しみにしててください。

Info

Kvi Baba 『Happy Birthday to Me』 2020.5.29(金) Digital Release!!
-収録楽曲-

1. Fight Song ※先行配信中
2. No Clouds
3. By Your Side
4. Talk to Myself
5. Fight Song (Remix) feat. VIGORMAN & NORIKIYO
6. Decide feat. RYKEY

All Song Produced by BACHLOGIC
All Song Mixed by Hayabusa
Additional Guitar:UK a.k.a. AMP Killer
Art Work by JUN INAGAWA
Art Design by HIROCK

▶配信リンク
https://sme.lnk.to/kvb_hbtm

RELATED

【インタビュー】JUBEE 『Liberation (Deluxe Edition)』| 泥臭く自分の場所を作る

2020年代における国内ストリートカルチャーの相関図を俯瞰した時に、いま最もハブとなっている一人がJUBEEであることに疑いの余地はないだろう。

【インタビュー】PAS TASTA 『GRAND POP』 │ おれたちの戦いはこれからだ

FUJI ROCKやSUMMER SONICをはじめ大きな舞台への出演を経験した6人組は、今度の2ndアルバム『GRAND POP』にて新たな挑戦を試みたようだ

【インタビュー】LANA 『20』 | LANAがみんなの隣にいる

"TURN IT UP (feat. Candee & ZOT on the WAVE)"や"BASH BASH (feat. JP THE WAVY & Awich)"などのヒットを連発しているLANAが、自身初のアルバム『20』をリリースした。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。