今月の25曲 | 2019年9月編 Selected by 高橋アフィ、CH.0、鳥居真道、Lil Mofo、和田哲郎
昨年よりスタートした好評の連載企画「今月の25曲」。様々な形で音楽に携わるレビュアー陣が、その月に聴いた音楽から5曲を紹介するコーナー。
レビュアーとして登場するのは、TAMTAMのドラマーでDJとしても活動し、好きな音楽は新譜という高橋アフィ、京都を拠点に活動するDJでKID FRESINOとのパーティ『Off-Cent』も話題のDJ CH.0。さらにトリプルファイヤーのギタリストで他アーティストへのライヴ、楽曲への参加も行う鳥居真道、東京を拠点に国内外で多くのギグをこなすセレクターのLil Mofo、FNMNLの編集長・和田哲郎の5名。
新譜だけでなくその月に聴いた楽曲ならなんでもOKという、ゆるい縛りの中から5人がセレクトした楽曲がこちら。
高橋アフィの5曲
1. A-WA - "Hana Mash" (Recorded Live for World Cafe)
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「バンド的にカッコ良い4つ打ちとは」を日夜掘っていて、こちらはイスラエルの姉妹トリオのライブ動画。ミニマルな低速の4つ打ちとサイケで小粋なギターが素晴らしい上で、やはり核はシンベですね。迂闊なイヤフォンでは再生されないような超低音&サスティン長めのもこもこ音で、圧と隙間を両立しています。ベースラインというよりも音響で勝負しており、その潔さもクールです。
ちなみに音源ではここまでベースの音が爆発しておらず(それはそれでタイトで良い)、ライブアレンジだと思うと、ますますチャレンジングなことしているなと驚きました。
2. Daniel Maunick - "One Nite Stand"
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良質なブラジリアン・フュージョン/ファンクなどをリリースしているレーベルFar Out Recordingsのプロデューサー(Azymuth, Marcos Valle等々)Daniel Maunickのソロ作より。ちなみにインコグニートのギタリストJean-Paul “Bluey” Maunickの息子でもあります。「こういう程良い感じのが欲しかった」と思わず言ってしまう小粋でいなたおしゃれなディスコです。「スラップベースも好きだけど、シンベも気になる…」そんなあなたにぴったりのまさかの両刀使いだったり、多数の打楽器が登場したりと、様々な要素がてんこ盛りなんですが、そこをバランスよくまとめ上げるプロデューサーセンスが流石!エレピやシンセの使い方にAzymuthリスペクトも感じられてよかったです。
3. ENVY* - "DEAR, MOM."
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インドネシアのラップグループ。LAビート/現代ジャズ風のイントロから重低音トラップへ進むイントロが最高!トラックの完成度の高さに負けないマイクリレーも、各々キャラ立ちしつつも全員でろでろな雰囲気でカッコ良いです。アルバムはバンドキャンプで投銭なので是非とも!全曲尖っている凄まじい完成度です。
4. Sinkane - "Everybody" (Live on KEXP)
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スーダンにルーツを持つSinkaneのライブ動画。音源は多人数が暴れまくる、バーフバリみたいな「人数もスケールも音も全部デカい」圧が素晴らしかったのですが、ライブでは5人編成。しかし同じくらいのスケール感出ていて圧巻です。ひたすら暴れまくるギターに加え、キーボのシンセソロが聴きどころ!アナログ(系)のシンセサイザーという所を上手く使った、ソロとノイズを行き来する演奏が素晴らしいです。アフロなサイケロックという感じで、ぶっ飛び系ながらリズムもしっかり効いており、ライブを生で観たら滅茶苦茶楽しそうですね…!来日してほしい!
5. Juls, Tiggs Da Author, Santi - "Maayaa"
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Goldlink “U Say (Feat. Tyler, The Creator & Jay Prince)”などでprod.を行なっているJuls。健康的なチル感というか、「風が通って過ごしやすい」的なリラクシンな雰囲気が素敵です。リバーブやミニマルなフレーズによるサイケ感は多少ありつつも、基本低音&リズム中心のすっきり感ゆえの開放的な音像なんですかね?各フレーズはどちらかというと渋いし音色も素朴といえば素朴なんですが、最終的にモダンな質感になっているセンスの良さでした。
高橋アフィ
TAMTAMのドラムの他、文章やDJ等。好きな音楽は新譜、趣味はYouTube巡り。
CH.0の5曲
1. fleet.dreams - "EKG" (Club Mix)
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近ごろは気分的にローファイと言えばヒップホップよりハウス、そんなマイブームがしばらく尾を引いていたこの頃。仕事の合間に、Bandcampのあの広くて深すぎるElectronicコーナーの海を何となくサーフしていると、ローファイサウス・サイケデリック・ブギーもしくはエレクトロニック・ソウルとも呼ばれる興味深い派生ジャンルに出会いました。
ニューオリンズのバンドACT RIGHTSのヴォーカルAJIT D'BRASSとプロデューサーの COLTON R. MAYがタッグを組み、FLEET DREAMSがALL CITYから6曲入りのEPがリリース。温かみのあるレトロなシンセサイザーの音色と、ヴォーカル&コーラスのレイヤーが本当に綺麗でうっとりしてしまいます。
2. HNNY - "I Want To Know What Love Is"
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スウェーデンのAxel BomanによるレーベルStudio Barnhusから、彼の相棒Kornel Kovacsと、自身の変名HNNYによるスプリット・シングルから。
大胆にカットアップされたヴォーカルの正体は、マライア・キャリーの“I Want To Know What Love Is”。この間、神戸のNagomi Barというクラブで友達のDJ2人とパーティーを主催した時、明らかに様子のおかしな曲がかかり始めたので、コースターを覗きに思わずブースまで走って行ってしまいました。
3. TIGA & THE MARTINEZ BROTHERS - "Blessed" (Virgil Abloh Futurejazz Remix)
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これまで音楽とお笑いばかり追って生きてきたせいでファッションには疎い自分ですが、それを横目に見てもこの Virgil Ablohという男がルールの時代となりつつあるのは何となく感じていた中ですが、この人の音楽プロデューサー/DJとしての側面を正しく認識している人は一体どれぐらいいるんでしょうか。
Kanyeのクリエイティブディレクターをやって来た経歴から、音楽的な素養も相当なものだと思うんですが、このMARTINEZ BROTHERS×TIGAの『BLESSED EP』のリミックス12インチでは、その手腕を遺憾なく発揮してます。
アフリカンリズムとドープなファンクネスの融合、それでいて古っぽさを感じない絶妙なバランス感覚にただならぬ才気を感じました。
4. Catching Flies - "New Gods ft. Oscar Jerome & Jay Prince"
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MR.グッドミュージック叔父さん Giles Petersonからのサポートで注目が集まっているマルチインスツルメント奏者/プロデューサー Catching Fliesのデビューアルバム「Silver Linings」から。個人的フェイバリットラッパー Jay Princeが、シネマティックなトラックの上を自由に行き来する様は、僕と同じようなファンの方には必聴の内容と言えそうです。
5. IDK - "Porno"
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2017年にリリースした『IWASVERYBAD』以降、メキメキと頭角を現してきている印象があるIDKのニューアルバムから。客演のPush Tのラップに“Drop It Like It's Hot by Snoop Dogg ft. Pharrell” を現代版にアップデートした様なトラックとの相性は悪いはずもなく、かと思えば後半のBoombap展開にほっこり。そこでまた J.I.Dを配置する辺り、人の使い方が本当に上手だなと感銘を受けました。
本企画連動のSpotifyプレイリストもまだまだ更新中! 是非チェックを!
CH.0
京都を拠点に活動するDJ。2017年 KID FRESINOと共にDJパーティー『Off-Cent』をスタート。
その他、数々のアーティスト・ビートメーカーの作品へのスクラッチ参加に加え、
自身のMixCloud上で多数のMIX音源を公開。現在、自身初となるアルバムを制作中。
https://www.mixcloud.com/channel-0/
鳥居真道の5曲
1. Surprise Chef - "Blyth Street Nocturne"
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ポコポコリズムボックスが楽しい風変わりで湿度低めなインストのファンク・チューン。Surprise Chefはメルボルンのバンドで、自宅スタジオにて気合のテープ一発録りで音源を制作しているそうだ。Vulfpeckがいうところの"Low Volume"感覚というか、ちんまりしたサウンドテクスチャが心地よい。
David Axelrodがインスピレーション・ソースとのことで、現行のバンドではBADBADNOTGOODと共通するところだが、Surprise Chefのほうがもっとチャーミングな印象。フレーズもシンプル極まりない。ちょっとエチオピアのR&Bにも通ずるところも。途中で出てくるシンセも可愛らしい。
2. The Du-Rites - "Gittin' Sound"
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我らがTom Tom Clubの現行メンバーの一人、Pablo MartinとNY出身のラッパー、プロデューサー、ドラマーであるJ-Zoneによるインスト・ファンク・プロジェクトがThe Du-Rites。
打楽器が歪み方がナスティー過ぎてびっくり。これぞまさにフリーク・アウト感覚。Beastie Boysのインスト集『The In Sound from Way Out!』収録曲をタガの外れたTchad Blakeが録音した感じと言ったら良いのでしょうか。8分音符を3-3-2でグルーピングしたグルーヴもアフロ風味で良いじゃない。
3. Sessa - "Tesão Central"
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サンパウロ出身のSSW、Sessaが今年の6月にリリースしたデビュー・アルバム『Grandeza』から、パーカッションと女性コーラスのみというシンプルな曲をご紹介。この曲は本人の歌唱がフィーチャーされているわけではないのだけど、Tom Ze的なレフト・フィールド的な感覚があってとっても好み。とにかくパーカッションの譜割りが謎すぎて脳みそが溶けてしまいそう。一体どういう構造になっているんですか!
4. T. Dyson And Company - "First Time"
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2012年にChocolate Industriesからリリースされた『Personal Space (Electronic Soul 1974 - 1984) 』っていう名コンピがありましたよね。そこに収録されたT. Dyson And Companyのまた別の曲がNumeroの新作コンピ『Visible and Invisible Persons Distributed in Space』にセレクトされており、これがまたすごく良いのです。ちょっとヨット・ロック調というか、"What a Fool Believes"や"Steal Away"、"Love Will Keep Us Together"を連想させるコーラスが本当にキュート。そして、間奏のスラップ・ベースが謎すぎて感動を禁じえない。
5. Synthia - "Tonight You Might feat. Lady Wray"
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ニューヨークのBig Crown Recordsからの新たな贈り物が届きました。SynthiaはBig Crown関係者によるプロジェクト名とのことで、この曲のプロデュースはThe Dap-Kingsの一員Homer SteinweissとBig Crownの創設者Leon Michelsが担当。ガラージ映えのしそうなボーカルを披露するのはレーベル所属のLady Wray。
個人的にオールタイム・ベスト・ビートに入れたいほど好きなMtumeの"Juicy Fruit"にオマージュ捧げたであろうビートに反応しないわけにはいかない。Pharrell的なポップネスがインディーマナーでちんまりと仕上がっているのも好ポイント。100点差し上げます。
鳥居真道
1987年生まれ。トリプルファイヤーのギタリストで、バンドでは多くの作曲を手がけている。また他アーティストへのライブやレコーディング参加、楽曲提供、選曲家としても活動。ピーター・バラカン氏はじめ多くの方とDJイベントも定期的におこなっている。
Lil Mofoの5曲
1. Boreal Massif - "Weather In August"
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無慈悲なエクストリーム・ドラムンベース野郎Pessimistと、彼のS/T LPでも共作してたプロデューサーLoop Factionによる新作プロジェクト。どこまでも続く曇り空てきな、ざらついたブレイクビーツ・ダブ・ベース・アンビエント・ドローン・・。ふたりの美学が溶け合った結晶のようなLPから、一度叩きのめしたフロアのゾンビたちを蘇らせ次のゾーンへ誘う丸太いかだのような??一曲。
2. FITH - "l'au-delà"
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夏の間きいてた新譜サイケ?です。ほかの曲もかっこいいな。
3. DWART - "Keep In Touch" (Far East Mix)
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リスボンの人なんだって。すごいかっこいいです。
4. Flanders - "Homers Odyssey"
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あのネタのUKガラージ。マヌケすぎる、くそ真面目なとこでかけたい!!オールドスクールのエッセンスを詰め込みつつも、エモみは省いた無機質な仕上がりが案外新鮮な一枚です。
5. Joey G ii - "2003, South London"
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NYのOrphan.から、まさに「サウス・ロンドンの28歳」てかんじのJoey G iiのEPです。ピルがぬけきらないまま、川面に朝日がきらめくのを友達とみてるような。または、そんな日を思い出しているような。ぴったりはまったReckonwrongによるReckonwrong印のリミックスワークもすばらしいです。
Lil Mofo
リヨンのラジオ局、LYL Radioで2ヶ月に1本番組を担当しています。
https://soundcloud.com/lil-mofo-business
https://www.mixcloud.com/lilmofo/
http://lyl.live/show/lonely-only/
11月9日(土)初来日のJohn T. Gastを新宿Openに招いてレイヴを開催します。ぜひチェックしてみて下さい。
https://www.residentadvisor.net/events/1322410
和田哲郎の5曲
1. Mahalia - "What You Did feat. Ella Mai"
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先行曲も素晴らしかったUKのR&Bシンガー、Mahaliaのデビューアルバム『LOVE AND COMPROMISE』から、同じくUKのElla Maiをフィーチャーした"What You Did"の大ネタ使いっぷりが素晴らしかったです。Cam’Ronの2002年の楽曲"Oh Boy feat. Juelz Santana"と同じネタのRose Royceの"I'm Going Down"を巧みに抜き差しすることで、いやらしい使い方にならずに、スムーズになおかつインパクトは絶大という形に。アルバムもよかったので、単独公演待ってます。
2. slowthai & Denzel Curry - "Psycho"
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UKとUSのダークさもありつつエネルギッシュなラッパー代表という感じのslowthaiとDenzel Curryによるコラボ曲。2人なら間違いなくこういう感じという不穏なストリングスがうなりをあげるバンガーチューンで最高でした。UKとUSのラップの垣根もなくなって、徐々に融合していってる感じが面白いなあと。
3. Father - "Handful"
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Fatherの音楽にはいつも独特の軽さがあるなと思っていて、それはラップのフラットなテンションのせいなのか、声質なのか、両方ありそうだが、今回の楽曲でもヘヴィーなビートに対して、ひょうひょうとしたラップを乗せていて最高です。アートワークもバッチリ。
4. Sheff G - "We Getting Money"
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前述もしたが、それを最も感じるのはいわゆるNY Drillシーンに登場したラッパーたちの楽曲だろう。今年このシーンからヒットしたPop Smokeの"Welcome To The Party"もロンドンのビートメイカー808Meloが手がけており、ラップもグライムからの影響が感じられるダークで低いフロウが特長的だ。そんなシーンの中心人物であるSheff Gのアルバムもダークなサウンドでバッチリでした。もちろんDrillという名前がついている通り、シカゴのDrillシーンの影響は大きいのですが、それがさらに変化して自然とUKと接近しているのはなぜなのでしょうか。アルバムからのヒット曲"We Getting Money"は、太田裕美の"赤いハイヒール"をサンプリングしていて、不穏さのなかに奇妙なねじれも発生していて、めちゃくちゃ耳に残ります。
5. Monsune - "Outta My Mind"
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カナダの・トロントのプロデューサーScott ZhangによるプロジェクトMonsune。ミュージックビデオのプロデュースも自身でということで、少し安っぽく切ない映画タッチのMVと、アーバンなタッチの楽曲がいい塩梅で、気づいたらなんども聴いてしまいました。
和田哲郎
FNMNL / shakke-n-wardaa