【ライヴレポート】Miguel | R&Bの現在進行形を体現するアーティスト

センシュアルってなんだろう、セクシーってなんだろう、口説くときの音楽といえばR&Bだけれど、そもそもいまの時代、どこからどこまでがR&Bなんだろう。10月3日、ショートドレッドに鎖っぽい装飾がついた黒いパンツ(=だいぶロック寄り)といういでたちのMiguelを見ながら、そんな思いが頭をよぎった。もう4作も出しているが、初来日公演だそう。少し感じの悪いことを書くと、筆者はフルのライヴパフォーマンスは3回目、ショウケースなどを含めるとその倍以上の回数の彼のステージを観ている。風の強かった木曜日の六本木に駆けつけた同胞の方々に朗報を伝えると、この夜のMiguelはぶっちぎりに最高だった。なんかもう、「Miguelの完成形」に達していた。

取材・文 : 池城美菜子/Minako Ikeshiro

撮影 : Naoki Yamashita

1曲目は最新作『War &Leisure』のファースト・シングル"Criminal"。大半の音を処理できるキーボードを省き、リック・ロスらの声がプレレコーコディングされたトラックを下敷きに、バックはドラマーとギタリストだけというロック寄りの珍しい構成。Miguel、漢である。最新作をプロモートするツアーがアジアに来た形なので、セットリストのうち6曲が『War &Leisure』からの曲だったうえ、3曲目の"Banana Clip"で最初のハイライトがきて、終盤のクライマックスに向かっていくタイミングで"Caramelo Duro"、"Pineapple Skies"、"Skywalker"を配置していた。次に多かったのが、彼のブレイクスルーになった2012年のセカンド・アルバム『Kaleidoscope Dream』(勝手な邦題;『万華鏡の夢』)の曲。この7年間ずっと聴き続けた作品だから、"The Thrill"や"How Many Drinks"のイントロを聴いただけで、めくるめくMiguelワールドに入り込んだ気になった人は多いのではないか。

MCの合間にしょっちゅう舌を出す、明るい31歳。だが、Miguelはわりと苦労をしていまの地位に立っているアーティストだ。アメリカではJive Recordsが07年に『All I Want is You』で大々的に売り出したものの、インディー時代のレーベルから契約の問題で横槍が入ってしまい、曲と同じタイトルのデビュー・アルバムが出たのは2010年だった。この時期にショウケースで数曲を披露する彼を観たが、同じ頃、サードアルバムでやっとブレイクしたRihannaと近い売り出し方をしていて、それがうまく行っていない印象だった。いい曲をいい声で歌うのにもったいないアーティストだと思っていた。ちなみに、『All I Want is You』のタイトル曲は、いま英語のウィキペディアで「Sleeper」(=スリーパー・ヒット。時間が経ってから評価される曲)と書かれている。12年に本来の音楽性に理解を示したRCAへ移籍したのが吉と出て、『Kaleidoscope Dream』で大ブレイク。翌年のグラミー賞では"Adorn"がソング・オブ・イヤーを含む3部門にノミネートされ、ベスト・R&Bソングを見事に受賞。それ以来、ずっとグラミー賞の常連となり、名実ともにR&Bを代表するシンガーとなった。

どっぷりR&Bな「万華鏡タイム」が繰り広げられたのが、ライヴの中盤。「日本に来るのは2度目なんだけど、空港に着いた瞬間にこの人たちは同種だと思ったんだよね」と言って、「みんなドラッグは好きかい?」と叫ぶミゲル。外国人が多いフロアーから「ウォー」という反響があったけれど、まぁ、これはおきまりのMCで、日本ではお酒やセックスを含む「酩酊状態で楽しむこと」だと取ったほうがいいだろう。その"Do You‥"(別のタイトル;"Drugs")ではMusical Youthの"Pass the Dutchie"を入れてレゲエに展開。2013年、万単位の観客を魅了したんモンティゴ・ベイのレゲエ・サンフェスでのパフォーマンスを思い出した。"Come Through & Chill"を挟んで、"Adorn"。地声はそれほど高くないのに、ファルセットとビブラートを駆使して全身全霊で歌う様は神々しいほど。彼の歌声は、本国アメリカではよくPrinceとの類似性を指摘される。きっと光栄なことなのだろうけど、ミゲルの歌声はもう少し乾いているし、なにしろMiguel自身、Princeに寄せるようなことはあまりしていない。

3作目『Wild Heart』からの"Waves"でクールダウンしてから、2Pacの"I Get Around"で小休止。と思いきや、デビュー作の"Quckie"を乗せてきた。「19才のとき、30代半ばの女性と浮気して当時の彼女を傷つけたときに作ったんだ」と"Sure Thing"を紹介。以前にも聞いた話だが、19才で恋多き男だったことより、これだけ完成度の高い曲を書いた事実のほうが大事だろう。エキゾティックな外見は、父方がメキシコ系だから。「じいちゃんとばあちゃんがアメリカに移住してくれなかったら、いまの俺はいなかった」とも。そのラテン・ヴァイブスに全開にした"Caramelo Duro"も良かった。初めてのグラミー賞を受賞したあと、伝統的なR&Bの枠からはみ出した曲を積極的に作り、いい意味でファンを裏切ってきた人でもある。『War & Leisure』はその傾向をさらに強め、"Pinaeapple Skies"や"Skywalker"はポップ寄りだ。2018年には、EDMシーンの大人気DJ、KYGOと"Remind Me to Forget"をヒットさせて、新しいファン層も開拓している。

‥‥そうなんだけれども。実際にライヴで聴くと、Miguelからだだ漏れしているのは正真正銘、繁殖力に満ちたR&Bの汁だった。ああ、ロックやポップ、EDMまでを飲み込みつつ、R&Bの枠を押し広げているのがMiguelなのだ、と思った。インドア派で観念的なR&Bを進化させているのがFrank OceanやSolangeだとしたら、肉体派のMiguelは積極的に他ジャンルと交合して新しい音、観客を獲得していく。アンコールの"Pussy is Mine"の官能美、いやらしさと言ったら。録音された歌声もすばらしいけれど、ライヴのほうがずっと生々しくて、感情と力強さは倍増して、体を預けて聴いていると叫び出したくなるような艶かしさがあった。Miguel自身、この夜は手応えを感じた様子だったから、願わくばすぐに日本に戻ってきてほしい。そのあいだ、こちらは「R&Bの現在進行形」を体現するMiguelの動向をチェックしていよう。

Info

Miguel
2019年10月3日(木) EX THEATER ROPPONGI
OPEN 18:30 / START 19:30
企画・制作・招聘: Live Nation Japan 協力:Sony Music Japan International

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