今月の25曲 | 2019年8月編 Selected by 高橋アフィ、CH.0、鳥居真道、Lil Mofo、和田哲郎
昨年よりスタートした好評の連載企画「今月の25曲」。様々な形で音楽に携わるレビュアー陣が、その月に聴いた音楽から5曲を紹介するコーナー。
レビュアーとして登場するのは、TAMTAMのドラマーでDJとしても活動し、好きな音楽は新譜という高橋アフィ、京都を拠点に活動するDJでKID FRESINOとのパーティ『Off-Cent』も話題のDJ CH.0。さらにトリプルファイヤーのギタリストで他アーティストへのライヴ、楽曲への参加も行う鳥居真道、東京を拠点に国内外で多くのギグをこなすセレクターのLil Mofo、FNMNLの編集長・和田哲郎の5名。
新譜だけでなくその月に聴いた楽曲ならなんでもOKという、ゆるい縛りの中から5人がセレクトした楽曲がこちら。
高橋アフィの5曲
1. Channel Tres - Black Moses feat JPEGMAFIA
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Channel Tresが2nd EPリリース!というわけでタイトル曲です。重心が激低いダンスミュージックで今作も最高!この曲は鬼才ラッパーJPEGMAFIAをfeat.し、久々の(?)四つ打ちではない楽曲なのですが、いつも以上に気だるげでゴリゴリ、しかもJPEGMAFIAのテンション高めのラップが入ってきて聴く嬉しさ抜群。EPはどの曲も適当なスピーカーでは再生できない超低音ベースばかりなので、家のスピーカーで踊りながら愛聴しています。
2. Meinl Cymbals - Christian Lillinger - "C O R"
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逆にビート・ミュージック!ドイツ出身、フリージャズ方面で活躍するドラマーChristian Lillingerのシンバルメーカー”Meinl”によるライブ動画。どうしてもグルーヴィーにダンサブルになりやすいビートを、ギリギリまで解体/しかしカオスにはさせないリズムの極限値です。個人的にはDAWで音をチョップしまくったあの感じにも聞こえ、Chirs Daveみというかビートの魔術な雰囲気も感じてます(もちろん、最終的に踊らせるChirs Daveとは方向は違いますが)。軽めで短い音がポイントで、その乱打感と無機質さの混ざりっぷりが「コントロールされたカオス」な質感になっていると思います。
この曲は入っていないのですが、同じコンセプトの今年出たアルバム『Open Form For Society』おすすめです。一曲目から破茶滅茶シリアスで心折れそうになる…、けれどその後リズムが始終かっこよく、アブストラクトながら意外なほど聴きやすくオススメです。
3. vfJams with Lenny "The Ox" Reece & The Lesson GK
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ドラマーLenny "The Ox" Reeceとそのバンドのスタジオライブ動画。こちらはスティックメーカーのチャンネルです。手のフレーズもすごいのですが、バスドラムの絶妙なヨタり/ダイナミクスの均等さがMPCやらサンプラーの雰囲気を感じました。そして打ち込み感出すときにはハイハットのニュアンスを均一にそれっぽくなるという(ドラマー用の)ライフハックです。
4. The Comet is Coming - Final Eclipse (live @Great Wide Open)
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この記事が公開されている時にはだいぶ昔のことになるんですが、今年のフジロックで観て一番衝撃を受けたのがこのバンド、現行UKジャズの中心人物シャバカ・ハッチングス率いるThe Comet is Comingでした。ジャズと言いつつノリは、Death GripsやBoredomsにも近いような、暴力的なまでにダンサブルでトライバル!これはライブで観ないとわからない、むしろ音源とは一体なんなのかという体感系のライブで、観ることが出来て本当に良かったです。
個人的に、現行UKジャズの評価の難しさの要因の一つが、この「ライブでぶち上げるタフさ/ラフさ」だと思っていたんです(先々月書いたEzra Collectiveとかも)。しかしThe Comet is Comingの盛り上げ方を観たら、バンド的というよりもクラブ・ミュージックの流れで考えた方がわかりやすい気がして、そうなると演奏の癖ではなく音楽性であり、積極的に評価すべき要素なのかもなと。パンキッシュでサイケデリック、という感想を抱いたライブでした。
5. Brittany Howard - He Loves Me (Official Live Session)
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アラバマ・シェイクスのボーカル/ギターのソロ作のスタジオライブ動画。ドラムは現在ファンキーなビート叩かせたいNo.1なNate Smith。ファットでダンサブルな演奏に定評がある彼ですが、ここではこれでもかと音を歪ましています。「ライブ音源でエフェクトを使用している」とも言えるんですが、「大きな音量だと耳には歪んで聞こえてしまう」という現象あるそうで、「実際生で聴くドラムの迫力」に近い≒再現性が高いとも?
とはいえ、この質感はアラバマ・シェイクス印でもあり、歪みまくるほどの迫力/勢いがかっこよさです。そしてこれだけ歪んだ音なのに崩れて聞こえないアンサンブル&ミックスが匠の技!
高橋アフィ
TAMTAMのドラムの他、文章やDJ等。好きな音楽は新譜、趣味はYouTube巡り。
CH.0の5曲
1. Channel Tres - Sexy Black Timberlake (SG Lewis Remix)
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今夏リリースされた Channel TresのEP「Black Moses」収録の「Sexy Black Timberlake」(https://youtube.com/watch?v=KrGmm2jRCPs…)をSG Lewisがリミックス。原曲はマットな質感のダンストラックでしたが、Remix後は見事なまでにアフロテイストのハウスに昇華されていて、これは一本取られました。この夏クラブでも何回かプレーしましたが、50khtz〜70khtz辺りの低域がいい具合に機能して箱鳴りも抜群◎
2. Àbáse - Align feat Wayne Snow
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2017年にRosieで受けた衝撃が記憶に新しい Wayne Snow参加楽曲という事でチェック。とは言いつつも、8分を超える楽曲の中で彼が登場するのは僅か1分程度。5分を過ぎた辺りから差し込まれるヴォーカルは、あくまで全体を構成するバンドサウンドの一部に過ぎないといった感じなんですが、その引き算具合がまた抜群のアクセントになってます。これまで時間をかけてJazzを聴いてこなかった自分にとって、大きなターニングポイントとなりそうです。
3. Jidenna - Babouche ft. GoldLink
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作品全体からダンスホールやソカのリズム感とアフリカ音楽への傾倒が感じられる作品の中にあって、このストイックなバウンス感が良い意味で周りから浮いた存在感を放っていて印象深かったです。客演に定評のある GoldLinkがまたここでも抜群に良い仕事してます。
4. Yuri Shulgin - Nothing In The City
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先日KID FESINOとやっているDJパーティーOFF-CENTを約半年ぶりに開催したんですが、ゲストで来て頂いたCOMPUMAさんがプレーされていたのを聴いて以降、もう何回も聴いている1曲です。とにかく展開が鮮やかで、1曲の中に複数の音楽要素が詰め込まれていながらも終始スムースかつグルーヴィー。曲後半にやって来る展開については、ここではあえて書かないでおきます…。
5. David Begun - This Is America (SpottieOttieDopalicious)
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先月この企画で取り上げてから特に反響の多かった Childish Gambino - Summertime x Frontin' [esentrik edit]に続いて、今月もブレンド/エディット物を1曲。『Childish Outkast』と名付けられた今作は、その名の通り Outkastと Childish Gambinoの諸作品を大胆にマッシュアップした内容。Childish Gambinoこと Donald Gloverが製作を手掛けるドラマ「Atlanta」で挿入歌に使うだけあってか音楽的な相性は抜群で、それぞれの原曲にはない不思議なハマり具合が好きでした。余談ですが2020年春からシーズン3・4の撮影が始まる「Atlanta」の公開が楽しみで待ちきれません。
本企画連動のSpotifyプレイリストもまだまだ更新中! 是非チェックを!
CH.0
京都を拠点に活動するDJ。2017年 KID FRESINOと共にDJパーティー『Off-Cent』をスタート。
その他、数々のアーティスト・ビートメーカーの作品へのスクラッチ参加に加え、
自身のMixCloud上で多数のMIX音源を公開。現在、自身初となるアルバムを制作中。
https://www.mixcloud.com/channel-0/
鳥居真道の5曲
1. Q - I Get Tired
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Qという非常に検索しづらい名前のシンガーによる『Forest Green』から。端からエゴサーチを放棄したネーミングがクールじゃないか。個人的にエゴサーチというものはできることならしたくないのだが、一度癖になってしまうとなかなか止めることができない。したところで良いことなんてひとつもないけれどついついしてしまう。だからQという名前を見て、ああ、その手があったかと感心してしまった。また、昔であればミステリアスな雰囲気を醸し出すためにメディアの露出を避けるというやり方が、現代においては検索に引っかからなくするという方法に取って代わりつつあるのかとも感じた。
そんな与太話はさておき、肝心の曲だが、とにかく音の荒み具合に非常にショックを受けた。歪んだ無骨なドラムにSteve Lacy調のギターが絡むシンプルなトラックが虚無的。Odd Future関連の音楽を聴いたときになんて虚無的な人たちなんだろうと思ったものだが、QはOFにあった可愛げとユーモアがあまり感じられず、カラッカラに乾いている。ファルセットでしゃくったときの声色がジェフ・バックリィを思わせ、それも好ポイント。今後より音楽的に飛躍する予感がするので逐一フォローしていきたいと思う。
2. Peyton – laylo/crazy4U
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Stones ThrowからリリースされたPeytonの新曲。Peytonはヒューストン出身のシンガー。2016年リリースの『Peace in the Midst of a Storm』は評判が良かったがなぜかスルーしてしまっていた。力の抜けた鼻声混じりの歌唱が好み中の好み。聴いていると人を駄目にするソファーに体を沈めたときのような心持ちになってしまう。けれどもここでタイピングをやめるわけにはいかない。CHASE OF NAZARETH製の環境音楽っぽいループで構成されたエレガントなトラックも良し。繊細なレイヤーがもはやミルフィールレベル。
3. Willie Griffin - I Love You
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Spotifyのアルゴリズムによってレコメンドされて聴いたところ虜になってしまった。アルゴリズムの精度たるや恐るべし。
イントロがループっぽく聴こえるし、音質も相まってローファイ的な何某かと思ったが、歌を聴くとどうも違う。George McCraeの「Rock Your Baby」をアシッド・フォーク的な解釈でカバーしたような感じと言ったら良いか。性別不詳な歌声も耳に残る。そして、左チャンネルのアコギの単音弾きの奇跡的な素晴らしさ。何か気の利いたことをしたくなるのが人情というものだが、朴訥な単音弾きで十分だという判断の潔さたるやあっぱれ。
この曲がリリースされたのは1984年とのこと。Willie Griffin唯一のシングルだそうだ。今年の頭にエジンバラのレーベルAthens Of
The Northによって再発された。とっても良い仕事をしたことを心より讃えます。
4. Bakar - Hell N Back
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口笛が爽やか!中学生の頃、夏休みにSugar Rayの"Every Morning"を毎日聴いていたことを思い出さずにはいられない。マーク・ロンソンの解釈によるモータウンといった感のアレンジも良し。やはりエイミー・ワインハウスのプロデュースで披露していたイギリス風味のビンテージ・ソウル・マナーのサウンドを連想させるが、Bakarはイギリス人とのことでなんとなく納得。そんなに簡単に納得して良いのかという話もあるのだが。いやしかし、大人になると夏って秒で去っていきますね。もっともっとサマーチューンを聴いていたかった。お気に入りをまとめている頃にはもう晩夏。
5. Salami Rose Joe Louis - Cumulous Potion (For the Clouds to Sing)
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たまたま見つけた良い感じのプレイリストに選ばれており気になった一曲。プレイリストの作成者にCOSとクレジットされていた。COSとはMarc Hollanderが在籍していたベルギーのプログレバンドでもなければ、シカゴのウェブメディア、Consequence of Soundでもなく、H&Mグループのブランドのことで、日本にも店舗があるらしいが、今回調べてみるまで知らなかった。H&Mよりも少し高級志向らしい。それはさておき、Salami Rose Joe LouisはLindsay Olsenによるプロジェクトで、Bandcampによれば彼女は数年前まで気候科学の研究をしていたとのこと。既に2枚アルバムをリリースしており、好事家の間では評判だったようだ。モグリだったことを猛省したい。
この曲はBrainfeederよりリリース予定のアルバム『Zdenka 2080』からの先行カット。The High Llamasに「Shuggie Todd」という曲があるが、「Cumulous Potion」にもややそんなところがある。けれども、High Llamasに見られるオタクの遊び(ディスではないです。念のため)のようなところはあまり感じられない。「Cumulous Potion」は我々の深層部分を刺激するような曲。こういうちんまりしていて少し不思議(SF)で可愛らしい曲って本当に素晴らしいものだと思いませんか。「きっこっこっこ」というかわいいクリックの音が入っているのも衝撃。途中、2拍分のブレイクが挿入されるので2番以降のクリックの頭が3拍目にくるのも衝撃的。
チルだローファイだと言って甘く見ていると彼岸に連れて行かれること必至。甘く見ていなくても連れて行かれること必至。アルバムが楽しみだ!
鳥居真道
1987年生まれ。トリプルファイヤーのギタリストで、バンドでは多くの作曲を手がけている。また他アーティストへのライブやレコーディング参加、楽曲提供、選曲家としても活動。ピーター・バラカン氏はじめ多くの方とDJイベントも定期的におこなっている。
Lil Mofoの5曲
1. Junes - Blue Moon
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楽しみなリリース。
2. Unpure Impulse - "message to the atf and the border patrol"
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幸せチルな日常にふとものたりなさを感じたときは、煮物とかしながらPCを開いてこういうのを聴いてます。
3. N&a&a - Donny
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ありがとう!!て感じのブートレグです。
4. Santi - Raw Dinner
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Santiのアルバムから新しい映画風MV。Rapid FireをみたときははじめてA$AP RockyのPesoをみたときみたいなドキドキを感じたけど、今作も自らディレクションして独自の凝った世界観と今っぽさとナイジャ的なエレガントさがみつどもえで魅力的いい感じです。
5. Tapes - Flying
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LukidとのユニットRezzettとしても活躍するTapesの新作レゲエ。10/27の日曜夕方から、新宿のCLUB OPENでTapesを囲んでパーティーするので、よかったら遊びに来て下さい。去年はOPENのサウンドシステムに加えてアンプを3つ配置して、フロアを音がグルグルまわるというやばいライブを披露してくれました。
Lil Mofo
リヨンのラジオ局、LYL Radioで2ヶ月に1本番組を担当しています。
10/27、11/9に自分のパーティーをやります。
https://soundcloud.com/lil-mofo-business
https://www.mixcloud.com/lilmofo/
http://lyl.live/show/lonely-only/
和田哲郎の5曲
1. Deb Never - Surf feat. Gunna
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ShlohmoやD33Jなどを擁するWediditのシンガーDeb Neverの新作。心待ちにしていましたが予想以上にシンプルだけど、飽きのこない感じで、夏の気だるい時に愛聴していました。ローテンションなボーカルと、音数の少ないギターに対して、歪むほど強烈なボトムスの組み合わせだけでもバッチリなものができるんだなあという。
2. Young Thug - Swimming
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Young Thugのデビューアルバム『So Much Fun』。どんな内容になるかと思いきや、彼の多彩なフロウを活かしつつサウンド的にもモダンなラップの洗練の極みというくらいの完成度で、最近では珍しく19曲収録にも関わらず、ずっと聴けるものという感じでした。サウンドのパターンなどは出尽くした感じのあるラップシーンにおいて、生演奏などを用いずにアップデートができるんだなと思わせてくれた1枚でした。
3. Shy Glizzy - Waikiki Flow
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ワシントンD.C.の実力派ラッパーShy Glizzyの新作『Aloha』の収録曲。アルバムタイトル・曲名共に夏感で満ち溢れていますが、曲自体は全くそんなことなく、硬質なビートに淡々としつつもグルーヴィンなGlizzyのラップが最高というもの。こういう鳴りをしているビートをもっとたくさん聴きたいと思う今日この頃です。
4. Tems - Try Me
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ずっとナイジェリアなどのアフロビーツのアーティストは追ってきましたが、最近はいわゆるアフロビーツというだけではなくて、そのサウンドを昇華しつつモダンなR&Bに落とし込んでいるアーティストも増えてきていて、改めてまた面白いなと思うようになっています。自身でトラックもプロデュースしているナイジェリアのシンガーTemsの新曲も、アフロビーツというよりアフロの要素を取り入れたハイブリッドなR&Bという趣きでとても好きな1曲でした。
5. A$AP Rocky - Babushka Boi
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スピード感、メンフィスサウンドをアップデートしたサウンド、MVとカウンターパンチとして最高な1曲でした。
和田哲郎
FNMNL / shakke-n-wardaa