【インタビュー】XXX|一つの方法に限定しない

今年6月末、渋谷WWWにて韓国のヒップホップグループXXXの緊急来日公演が開催された。

ビートメイカーFRNKのジャンルレスなビートと、ラッパーKim Ximyaのテクニカルかつ攻撃的なラップを持ち味とする二人は、韓国のシーンでも異色の存在として知られている。そんな彼らに、FNMNLではライブの翌日に話を聞くことが出来た。

メインストリームのヒップホップとは一線を画した独自の音楽を追求するXXX。彼らが今のスタイルに辿り着くまでが分かる、貴重なインタビューとなっている。

取材・構成 : 山本輝洋、和田哲郎
通訳 : akari

- 昨日のイベントでは他のアーティストはご覧になりましたか?

Kim Ximya - ちょっとしか見られませんでした。楽屋にいたのであまり会えなくて、挨拶もあまり出来なかったです。

- 以前FNMNLでメールインタビューをしたときにClarence Clarityをフェイバリットにあげていましたが、最近はどのようなアーティストが好きですか?

FRNK - Thom Yorkeですね。今回のアルバムが凄く良かったです。

- アルバム『Second Language』について伺いたいと思うんですけど、GQ Koreaのインタビューで「チャート1位を取ろうと思って制作した」とおっしゃっていましたよね。それで実際に今までのアルバムと作り方を変えたところはありますか?

FRNK - 『Second Language』を作ったときは、XXXが今後やっていく方向性が決まったときだったんですね。それを大衆に見せるような気持ちで作りました。

- 『KYOMI』や『Language』と比べて音もポップになっていましたよね。今後はそういう方向に進んでいきたいということですか?

FRNK - 『Language』と『Second Language』は同じ時期に作ったんです。『Language』を作り終わった後に期間が空いたので、『Second Language』はもう少しポップな気持ちを出していこうという気持ちでした。

- お二人での制作はどのような流れで行なっていますか?

FRNK - 最初は簡単なビートを送って、それに自然にラップを乗せて、それを後から編集して、それを繰り返すという流れですね。

- FRNKさんはよくインタビューでJ Dillaがルーツにあるとおっしゃっていますが、そこから今のXXXのエクスペリメンタルなサウンドに至るまでにはどのような影響がありましたか?

FRNK - J Dillaがヒップホップを始めたきっかけで、最初は似たような音楽をやっていたんですが、今はもうJ Dillaはいないじゃないですか。前に彼がインタビューで「色々なアーティストに影響を受けたけど、似たような音楽をやる必要は無い」と言っていたので、彼の言葉に習って自分の影響を自分なりにやっていきたいから今のようなサウンドになりました。

- そもそも、XXXはどのような音楽を目指して結成したグループですか?

FRNK - XXXを結成する前も色々な曲を作っていて、その中の一つだけでも会社やリスナーに気づいてもらえれば良いという気持ちでXXXを始めました。

- では元々一つのジャンルだけでなく雑多なことをやっていたんですね。

Kim Ximya - FRNKがR&Bやトラップなど色々な音楽を作っていて、レーベルに入ってからXXXでどのような音楽をやっていくか考える機会があったんですね。そこから今の形に至りました。

- レーベルに入ったときはどのような話し合いやミーティングをしたんですか?

FRNK - 最初はただ音楽を作ってライブをしていただけなんですが、レーベルの社長が「今の曲も良いんだけど、FRNKのトラックのホストMCとしてXimyaがラップしていたり、XimyaのアルバムをFRNKがプロデュースしているという言い方も出来る音楽だ。だから、“これがXXXだ”と敢えて言えるような音楽じゃない」と言われました。結構腹が立ったんですが(笑)、それを言われたことをきっかけにXXXらしさを考えることになって、その結果として完成したのが『KYOMI』です。そこから今のようなスタイルになりました。

- 社長の言葉をきっかけに、具体的に自分たちの中で変わった部分はどの辺りですか?

Kim XImya - 二人で同じラインに立つということですね。どちらかが前に立ってどちらかが後ろにいれば一つのグループに見えないので、一つになるということがスタンスとしてあります。作業の仕方も先ほど言ったような「簡単なビートでラップをして、それを編曲する」というやりとりをルールとして決めています。

- 最初にビートがあって、その上にラップをすればもっと普通のヒップホップのような感じになると思うんですけど、ビートにラップが乗って返ってきたときにFRNKさんはどのような作業をしているんですか?

FRNK - 一度壊すようなこともやってみますが、あまり決まっていなくて結構自由にやっていて。ラップは良いけどビートが微妙なときはもう一度トラックを作り直すこともします。逆にラップを書き直してもらうこともありますし、一つの方法に限定せずその時々にやることは違いますね。

- ラップの歌詞は普段どのような部分からインスピレーションを得ますか?

Kim XImya - 大体日常生活から得ています。

- ラップは攻撃的なテイストが多いですが、普段の生活の中でフラストレーションを感じることはありますか?

Kim Ximya - お金のことですね。とりあえずはその部分です。

- XXXと同時期に活躍しているアーティストで好きな人はいますか?

Kim Ximya - もちろん、僕たちが一番良いんだけど(笑)

FRNK - 友達のCousin Stizzは好きですね。友達があまりいないんですが(笑)

- 去年のGQのインタビューで、Kimさんが「ラップはもうあまり聴かなくなっていて、ラップが音楽の中で最も深みが無いジャンルのように感じている」とおっしゃっていたと思うんですが、その言葉も流行りに乗じて似たようなものが沢山出てくる状況に思うところがあってのものですか?

Kim Ximya - 高校生ぐらいからヒップホップはあまり聴かなくなっていて、アメリカのヒップホップにも同じようなものが増えているところがあって。ヒップホップというジャンル全体に疲れが出てしまって、全部同じように感じてしまったんです。そこからあまり聴かなくなっています。

- 現行のヒップホップを聴かなくなってもスタイルを徐々に変化させて、スキルを上げることが出来るのはどうしてですか?

Kim Ximya - ヒップホップを聴かなくても曲を作れるのは、FRNKが作る音楽が「ヒップホップだ」と言えるものじゃないからです。色々なものが混ざって作られている音楽なので、そのトラックなら出来るんです。

- 前のインタビューでも「トラップをやらないのは自分が育った環境と違うから」とおっしゃっていましたよね。「歌詞のインスピレーションは日常で感じること」とのことでしたが、やはりラップにおいてはリアルであることが大事という考えですか?

Kim Ximya - そうですね。ラッパーとラップ自体が合っている、ということが一番大事だと思っています。

- 今度Injury ReserveのUSツアーにサポートアクトとして参加するとのことですが、そのオファーは彼らから来たものですか?

FRNK - アメリカのエージェンシーから連絡が来たんです。具体的にどういう経緯で決定したのかは分からないですね。

- XXXの音楽とInjury Reserveは相性が良さそうですよね。

Kim Ximya - 同じような雰囲気があるアーティストと一緒にやれるのがとても嬉しいですね。僕たちにとっても初めてのUSツアーなので。

- 日本でもライブをやっているし、以前SXSWにも出演していましたよね。もちろん韓国でもよくライブをやっていると思いますが、それぞれの国でのリアクションの違いはどのようなところですか?

Kim Ximya - ヨーロッパの人たちはすごく盛り上がってくれて、最近のフランスでのライブでは初めて観たアーティストも楽しんでくれました。昨日の日本でのライブはみんな音楽を真剣に聴いているような雰囲気を感じられましたね。韓国では僕たちを知って来てくれる人と知らない人たちの2種類がいて、僕たちを知ってる人たちはどこの国の人よりも応援してくれるんですが、知らない人たちは「よく分かりません」みたいな反応です(笑)

- 韓国のアーティストは海外で高い人気を持つ人も多いと思いますが、XXXは今後どのようなユニットになっていきたいと思っていますか?

FRNK - いいエージェンシーと出会えたらUSツアーをしたいですね。韓国の中では、今それぞれソロアルバムを制作しているので、それを頑張って作っていきたいです。

- 最後に、日本には数回来ていると思うんですが、日本で好きな場所ややりたいことはありますか?

Kim Ximya - スケジュールがタイトで、観光がまだ出来ていないんです。とりあえず観光をしたいですね。

FRNK - 前に一度旅行で来たことがあるんですが、取り敢えず買い物をしました(笑)

- ありがとうございました。

RELATED

【インタビュー】OMSB "toi" | 嘘くさくなく低音はデカく

NHK Eテレの番組『toi-toi』のテーマ曲として制作されたOMSBの新曲“toi”。ふとした日常の描写の中に彼の想いが込められた本楽曲は、OMSBがこれまで描いてきたテーマの延長線上にあり、より深く、より大きさを感じさせる楽曲となった。番組のパイロット版を見て深く共感したという彼が、制作の過...

【インタビュー】Siero │ 俺、もう全部やる気なんすよ

昨今のラップシーンで、「アングラ」という呼称をよく見るようになった(※)。ジャンルでいえば、rageにはじまり、pluggやpluggnb、new jazz、glo、jerkなどなど有象無象のビート様式の集合体としか言えないが、そこに共通すると思われるのは、デジタル世界のエッジを踏破せんとするオタク的態度、また地上に蔓延するハイファイな既製品を拒まんとする皮肉的態度である。 伝統的な意味での「アングラ」といえば、王道に対する邪道、有名に対する無名、ようするに、わかる人しかわからない玄人好みの芸術領域なのだといえよう。その意味で、現代のアングラシーンのギシギシ歪んで耳の痛い808のテクスチャは理解されうるし、弾きっぱなしのブラス音源のチープさも諧謔として楽しめる。 ところが、国内でもにわかに形成されてきたアングラシーンの一角といえようSieroに話を聞けば、とにかくメインストリームのステージで光を浴びたい、そんな成り上がりの夢を恥ずかしげもなく語りだす。彼にとって「アングラ」は邪道ではなく、単に王道へのステップだ。どうやら、フラットに引き伸ばされた世界においても、かつてインターネットの無い時代に叫ばれた〈comin’ straight from the underground〉というような垂直方向の物語は有効らしい。 事務所に飾られたPOP YOURS特製ジャケットを見ては「俺もここに名前縫われて〜」と衒いのないSieroであるが、ラッパーとしての彼の魅力といえば、華やかな未来を描く情熱と、その同じ夜に枕を濡らすセンチメンタルとが同居したところにあるだろう。あるいは、その嘘の吐けなさにあるだろう。きっとその言葉が、夜の闇や地下の闇を貫いていくと信じて、Sieroは多弁に語る。 ※この呼称については議論があろうが、限定的には、USを中心とした2020年代のSoundCloudラップの潮流として認められる。USのシーンについては、プレイリスト「UNDERGROUND RAP 2025」や、instagramのゴシップメディア「Hyperpop Daily」などが参考になるだろう。

【インタビュー】PRIMAL『Nostalgie』 | ラップは自己主張

PRIMALは、00年代の国内のインディ・ラップの興隆を象徴するグループ、MSCのオリジナル・メンバーだ。私はかつてPRIMALのラップについてこう記した。「いくつもの問いがあふれ出しては、彷徨っている。そのことばの放浪が、PRIMALのフロウの核心ではないかと思う。(中略)脳内で延々とループする矛盾と逡巡が、オン・ビートとオフ・ビートの狭間でグルーヴを生み出し、独特のリズムを前進させる。目的地を定めないがゆえのリズムのダイナミズムがある」。 1978年生まれのラッパーの14曲入りのサード・アルバム『Nostalgie』を聴いてもその感想は変わらない。声音やフロウのキレには驚くほど衰えがない。そして、労働者、家庭人、ラッパーという複数の自己のあいだで生じる葛藤や懊悩を豊富な語彙力を駆使していろんな角度からユーモラスにラップする。リリックもライミングも相変わらず支離滅裂で面白く、若いころにハードコアで鳴らしたラッパーの成熟のあり方としてあまりにも特異で、それが本作の最大の魅力だ。 彼は、2007年に『眠る男』、2013年に『Proletariat』という2枚のソロ・アルバムを発表、『Nostalgie』はじつに12年ぶりのアルバムとなる。2016年に東京から移住した釧路/札幌で制作された。札幌のヒップホップ・グループ、Mic Jack Production(以下、MJP)のビートメイカー、DOGG a.k.a. DJ PERROやHalt.、あるいはMichita、ながさきたけし、荒井優作らがビートを提供、YAS I AM、MAD KOH、RUMI、漢 a.k.a. GAMI、BES、SAWといったラッパーが客演で参加している。カヴァーアートは、MSCのメンバーで、グラフィティ・ライターのTaboo1が手掛けた。 このインタヴューは、PRIMALと、彼の盟友、漢の対談動画の収録直後に、ふたりと仲間が青春時代を過ごした東京・高田馬場の居酒屋でおこなわれた。PRIMALはいま何を考えているのだろうか。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。