【特集】Cornelius『Mellow Waves Visuals』| 映像と演奏のシンクロによってライブを完成させる

音を視覚化した軌跡を辿る映像集

「活動の完成形となるのはライブパフォーマンス」だという、Corneliusこと小山田圭吾。まずは楽曲を制作し、すべての楽曲を映像化。MVをライブのステージ上に投影し、演奏とシンクロさせることで、彼ならではの世界観が浮かび上がる。30年近いキャリアとともに作風が徐々に抽象化され、ゆるやかに音が積み上がっていくかのような楽曲たちは、国内外のファンを魅了させ続けている。

音と映像とシンクロさせるライブパフォーマンスは、現場だけでなくブルーレイディスクに収録され、自宅でも鑑賞できるようになった。2019年7月31日にリリースされる映像集『Mellow Waves Visuals』をデッキに挿入することで、夢の中でまどろむようなひとときを何度も体験できる。

DVDでの映像集『SENSUOUS SYNCHRONIZED SHOW』以来、10年ぶりとなる本作は、Corneliusのアルバム『Mellow Waves』(2017年)関連の活動を映像を含めて多角的に捉えることができる一枚だ。

収録される映像は、アルバム『Mellow Waves』収録曲全曲のMV、2018年のツアー最終日となる東京・国際フォーラムでのライブ、国内国外ツアーのドキュメント映像、企画展「AUDIO ARCHITECTURE:音のアーキテクチャ展」で流れた“AUDIO ARCHITECTURE”のMVなど。近年の集大成的なリリースを目前にした小山田圭吾に、映像と音楽の関係性について伺い、柔らかな口調で語ってもらえた。

取材・構成 : 高岡謙太郎

撮影 : 寺沢美遊

音と映像を同期させる試み

アルバム収録曲すべてのMVを制作してリリースを行うという、ここまで映像表現に対して意識的なメジャーアーティストは稀だろう。そしてMVはライブ会場の雰囲気と合わさることによって表現を完成させる、この独自の美意識を持ったライヴ形式は、アルバム『FANTASMA』の頃から始まったという。

「『FANTASMA』の頃は、自分で映像を作っていて。いろんな映画やコレクションしていた映像を、自宅にあるVHSのビデオデッキ2台を使って、サンプリング的な手法で編集して作っていました。そのVHSテープ一本にまとめた映像をビデオデッキに入れて、再生ボタンを押してライブが始まるという形式です。それに僕は手応えを感じて、当時そういうライブをやっている人がいなかったのもあり、続けていくようになりました。『Point』から独自のメソッドで音楽を作るようになったのに合わせて、映像のサンプリングは一切やめて、きちんと撮影してオリジナルの映像作品を作るようになりました。なので、現在のライブパフォーマンスの原型は『Point』から始まっているかな」

自身で編集したビデオテープをライブに投影する手法は、小山田本人の発想から。当時ならではのステレオ入力を活かした宅録的なアイデアがあった。

「音と映像の同期の方法を思いついたのが大きいですね。VHSのステレオの音声信号の片方に同期のクリック音を入れて、片方にバックトラックを入れて。そのクリック音をドラマーの荒木さんが聴きながら演奏すると、完全にシンクロして演奏できる方法を思いつき、それが意外にうまくいって。『FANTASMA』を海外でリリースしてから海外ツアーも増えたのもあり、言葉のわからない状況で曲の世界観や雰囲気を理解してもらうのに効果がありました」

ライブに投影されるMVは、宣伝目的でつくられたアーティストの顔やロゴが大写しになるPV(プロモーション・ビデオ)としてではなく、単体の映像作品として楽しめるクオリティの仕上がり。ゆらめくようなモノトーンの楽曲の世界観を拡張させる映像作家は、辻川幸一郎、中村勇吾、groovisionsを中心に、彼らの美意識を引き継ぐ世代を超えた作家も参加するようになった。

「辻川くんは、もともと彼が映像を作る前から古い友達です。一番世界観を共有できていてずっと一緒に作っています。groovisionsの住岡さんは、前のアルバム『Sensuous』から作ってもらっていて、彼もレギュラーですね。中村勇吾さんは今回のMellow Wavesから参加してもらいましたが、デザインあでも一緒にやっている方です。大西(景太)さんや水尻(自子)さん、梅田(宏明)さんは、勇吾さんが企画したオーディオアーキテクチャ展に参加した新しい映像作家で、みんなそれぞれ面白くて。大西さんは30代で、中学生の頃に『Point』を見て映像を作り始めたそうです。若い世代はデジタルネイティブで、最初から身近にパソコンがあって編集したりCDを作ったりしていたからか、またちょっと違った感覚がありますね」

映像と溶け込むかのような演出方針

Corneliusのライブは舞台演出でテクノロジーを活用するが、最先端の技術を起点に活動しているわけではなく、バンドのパフォーマンスに見合った技術を取り入れているという。例えば、現在の音楽フェスのステージでは、巨大なLEDディスプレイが映像演出の標準になっているが、本人たちの世界観に合わせてプロジェクターによる映像投影を選んでいる。

「別に先端テクノロジーを使っているわけではないんですよ。今、先端的な表現をするなら、真鍋大度さんやインタラクティブな感じなのかな。ただ、僕は別にそこに興味があるわけではない。プロジェクションは今は古くて、LEDの方が画質はきれいだし。演者の顔をはっきり見せたいならLEDの方がいいと思うんですよね。僕らはプロジェクションであえて演者の顔に映像をかぶせていて、演者ひとりひとりを見せたいというよりも、ひとつの世界観をステージの上に作る感じなので、自分のやりたいこととテクノロジーを擦り合わせながらかな」

そのライブ形式のロールモデルとなったのは、意外なバンド。「一番大きいのはクラフトワークだね。かなり古い段階から映像を使ったライブをしていて。横並びで4人並んでいるのも彼らを意識しています」。テクノミュージックの始祖的存在でもあるドイツの電子音楽バンドで知られるクラフトワーク。余計な要素を剥ぎ取ったライブパフォーマンスは、テクノやプログレなどのジャンルを超え多くの音楽ファンに支持される。言われてみると、共通項が思い浮かぶが表出される表現が違うので意外な結びつきに思えてしまう。

打ち込みを人力に変換することで生まれる音

キャリアとともに作風を徐々に変化させ、挑戦を続けるCornelius。『Pitchfork』誌に毎回アルバムのレビューが掲載されるほど海外評価も高く、国内外問わずファンを魅了させる不思議な耳触りの楽曲たちは、作曲方法にも一般的なバンドとは違った独自のメソッドがあった。

「基本は生演奏なのでわりと古いタイプのロックバンドの形式だと思うんです。でも、録音されている音源は、最初にプログラミングで作って、それを人間に置き換えて演奏しているので、そこが普通の作曲とは違うかな。シーケンサーに任せるのではなく、人力で演奏している方が音がそこで生まれている感じがあって自分は好きなんですよ。ただ、指が五本以上ないと演奏できない曲もできてしまうので、そこは完全に再現ではなく演奏しやすいように置き換えていますね。基本的に楽曲を構築的に作っているから、音が鳴るべきところで鳴らなければいけないし、抜くべきところでは抜かなければいけないから、そこは踏襲しつつ人間が演奏できるように翻訳し直している感覚ですね」

手癖で楽しませて自己をキャラクター化するミュージシャンとは違い、自身の手癖を俯瞰した上で自覚的に楽曲を制作している。本人の音楽との真摯な向き合い方が聞き手の心を動かしているのだろう。そこには執着することから離れていく面白さがある。

「人間が普通に演奏すると手癖が出てしまい、ありきたりな音楽になりがちなんです。自分はそういうものからもっと自由になりたいというか、なるべく逸脱したい。それを人間に置き換えると非常に演奏しにくいことになるんですよ。それによって今までに聴いたことのない響きやフレーズが生まれてくるので、そこが面白味を感じるところ。実際に演奏してみると、どうやってこのフレーズを思いついたんだろうという違和感や面白さが生まれると思うんです」

また作曲方法だけでなく、空間を意識した音の配置の気遣いも彼ならでは。あくまでライブの際に大音量のスピーカーで聞かれることを意識している。こういった作品の細部への気配りが海外フェスに継続して招聘される一因なのだろう。

「自分が音を入れるべきところはなんとなく決まっていて。普通に楽器を弾いている人なら、本人っぽいフレーズは誰でもあって。それっぽいスケールを行き来すれば、その人らしくなる。ただ、自分は『Point』あたりから、こういった独自の作曲のメソッドができた。その上で同じ帯域や同じタイミングで鳴らないようにしたり、いろいろ工夫していますね。音が鳴るステレオの空間の中で、上下と左右、近さと奥行き、時間軸があって、その中でどう作っていくかを意識しています」

過去の音質を現在に引き寄せるリマスター盤

作曲方法だけでなく、メディアへの録音状態にもこだわりがあり、今回、映像集のブルーレイディスクのリリースに合わせて、94年発売の1stアルバム『The First Question Award』と、2001年発売の4thアルバム『Point』も、リマスターCDとして世に出ることになった。やはり過去の作品は現在と比べると音の手触りが違うそうだ。

「映像集のリリースは、VHSから始まっています。DVが出たての頃だったから画角も4対3で年代を感じたけど、今はハイビジョンのブルーレイになって画質も良くなって、過去からの作品を並べてみると差がはっきりわかりますよね。ただ、音に関してはパッとわかりにくい。『Point』は10年以上前のアルバムで、そんなに音質は古く感じなかった。2000年代頭だと、マスタリングの技術も確立されて、CDに録音する音も安定してきているから、今聴いてもそんなに変わらないかな。でも、90年代に作った『The First Question Award』はCDというフォーマットが世に出て間もない頃なので、音質もだいぶ古くて音圧もない。それをマスタリングして今の音質に近づけられたかな」

ソロワークだけでなくコラボレーションも継続して行われ、六本木のデザイン専門施設21_21 Design Sightで開催中された企画展「AUDIO ARCHITECTURE:音のアーキテクチャ展」だけでなく、今後は作曲したTVアニメ『サ道』の主題歌がお目見えの予定だ。小山田自身も「たまに近所のサウナに行きますよ」というサウナフリークでもある。また、TVアニメ『キャロル&チューズデイ』の新オープニングテーマ“Polly Jean”の作曲・編曲を務め、ジャンルを横断しながら自身やコラボ相手の世界観を拡張させている。音楽と映像を行き来しながら、作品を作り続けるCornelius。今後はどういったジャンルや手法、映像との接点を持つのか。まだまだこれからも表現の形式をゆるやかに増やしながら楽しませてくれるだろう。

Info

2019年7月31日発売
「Mellow Waves Visuals」 WPXL.90203 ¥6,500(without tax)
https://cornelius.lnk.to/mwv

「The First Question Award」 WPCL.13066 ¥2,400 (without tax)
https://Cornelius.lnk.to/tfqa

「Point」 WPZL.31631/2¥3,700(without tax)
https://Cornelius.lnk.to/point

ドラマ25(毎週金曜深夜 0:52~放送)『サ道』の番組主題歌。テレビ東京ほかにて放送中!
Cornelius 「サウナ好きすぎ」
■各配信サイトはこちら
https://Cornelius.lnk.to/ssPu

Cornelius Performs Point
8/6(火)@恵比寿 LIQUIDROOM SOLD OUT!
8/12(月)@大阪 サンケイホールブリーゼ SOLD OUT!
8/21(水)@東京 オーチャードホール SOLD OUT!

Cornelius Performs Point US & CANADAツアー
9/24(火) Echoplex Los Angeles, CA
9/27(金) The Fillmore San Francisco, CA
9/29(日) Revolution Hall Portland, OR
9/30(月) The Crocodile Seattle, WA
10/2(水) The Imperial Vancouver, BC

Fes出演
8/10(土)  INCHEON PENTAPORT ROCK FESTIVAL 2019 @Songdo Moonlight Festival Park、韓国
8/24(土) WORLD HAPPINESS 2019 @ YSアリーナ八戸

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