今月の25曲 | 2019年5月編 Selected by 高橋アフィ、CH.0、鳥居真道、Lil Mofo、和田哲郎
昨年よりスタートした好評の連載企画「今月の25曲」。様々な形で音楽に携わるレビュアー陣が、その月に聴いた音楽から5曲を紹介するコーナー。
レビュアーとして登場するのは、TAMTAMのドラマーでDJとしても活動し、好きな音楽は新譜という高橋アフィ、京都を拠点に活動するDJでKID FRESINOとのパーティ『Off-Cent』も話題のDJ CH.0。さらにトリプルファイヤーのギタリストで他アーティストへのライヴ、楽曲への参加も行う鳥居真道、東京を拠点に国内外で多くのギグをこなすセレクターのLil Mofo、FNMNLの編集長を務める和田哲郎の5名。
新譜だけでなくその月に聴いた楽曲ならなんでもOKという、ゆるい縛りの中から5人がセレクトした楽曲がこちら。
高橋アフィの5曲
1. Moses Boyd - On The Spot with Femi Koleoso, Kwake Bass, Richard Spaven and Joe Armon-Jones
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現行UKジャズの若手注目株Moses Boydのスタジオライブ動画。4人のドラマー+キーボードのぶつかり稽古みたいな演奏です。
それぞれざっくり紹介すると
・Moses Boyd:UK新世代ジャズシーンの中心人物の一人。初期の方はエレクトロでメカニカルなビートを叩いていましたが、現在は変則アフロビート的な演奏が主軸な印象。チューバ奏者Theon Crossとリズム隊を組むと無敵感があります。gqomのプロデューサーとのコラボ曲がおすすめ。
・Femi Koleoso:Ezra Collectiveのメンバーであり、Jorja Smithのサポートなども務めるドラマー。「野性味溢れるオラオラ系」という説明でいかがでしょうか。詳細は後述。
・Kwake Bass:ビートメイカーでもあるドラマー(Against The Clockにも出ている)。ビートシーン以降のヨレやズレや訛りを入れたドラミングを得意としており、Joe Armon-JonesやWu-Luでも叩いています。
・Richard Spaven:Jose JmaseやFlying Lotusのサポートでも活躍するドラマー/プロデューサー。UKエレクトロ直系の硬くソリッドなグルーヴと、エレクトロのミニマルさをそのままかっこ良くドラムに置き換えるセンスが素晴らしい。ちなみにソロ作、滅茶苦茶かっこ良いので是非とも!
・Joe Armon-Jones:Ezra Collectiveのメンバーであり、ソロでも活躍するキーボディスト。Ezra Collective含めてJoe Armon-Jonesの参加作はメロディが良い気がしてます。「4人が同時にドラムを演奏すると、いったいどうなるのか。そうです、カオス!」みたいな演奏なのですが、帳尻を取り続けるJoe Armon-Jonesのプレイが素晴らしいです。ベースからリフ、和音まで使いこなし、楽曲に仕上げています。
このカオスの原因は、「企画のかじ取りの甘さ(もう少しルール決めるべきだった)」もありつつ、Femi Koleosoの暴走かなと思います。アクセントの位置をそれぞれずらしていき、4人で複合的なビートを作ろうとするMoses Boydに対し、一人で暴れ続けて混乱状態に…。また彼だけ共通のクリックを感じていなさそうで、そのズレもなんとも。が、彼はバッドなドラマーかと言うと、そうでもない所がアンサンブルの面白さだと思います。(下の動画へ続く)
2. Ezra Collective - You Can't Steal My Joy (6 Music Live Room)
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先ほどの動画で演奏していたキーボのJoe Armon-Jones、そしてドラムのFemi Koleosoが参加するUKジャズのバンドEzra Collectiveのスタジオライブ動画。またしてもドタバタ突っ走るドラムの暴走っぷり!なんですが、Ezra Collectiveだとむしろ良いアクセント。これこそアンサンブルの妙、あるいはバンド・マジック!前のめりなドラムとミニマルに刻み続けるベースの噛み合わせで、スピード感とダンス・ミュージック的なグルーヴが両立しています。
もちろん基本的には上手い方々なので、あくまで「場所によっては合わないこともある」「しかしすごく良くなる時もある」みたいな話程度だと思ってください。とはいえ、4人で叩いた時のあの感じが、そのままEzra Collectiveの面白さと繋がってしまう不思議がありました。
3. Jitwam - busstop
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今イチオシのJitwam、アルバムが出ました!シンガー兼トラックメイカー、というアーティストが増えつつある中、圧倒的な混乱感というか、歌いたいしトラックとしてかっこよくしたいし演奏もしたい、みたいなほとばしる思いを感じられる曲がたまりません。ビートシーンからインディロック、ハウスからヒップホップまでシームレスに繋がってしまう作品でもあるし、単純に好きなものを混ぜただけかもなと思える衒いの無さに感動しました。
4. Kneebody – Band Clinic and Interview
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現代ジャズの猛者が集うUSのジャム・バンドKneebodyの演奏解説動画です。即興演奏中に特定のフレーズを演奏することで、言葉無しに/音楽の流れの中で、ソロやらブレイクやらテンポアップの合図を出していく、という技術の解説。文字で書くとわかりづらそうなんですが、動画で観ると非常にわかりやすく、同時に導入は滅茶苦茶大変そう、となんとも悩ましい所です。
音楽のゲーム化の一種とも言えますが、むしろ目的は「全員がそれぞれの細かなフレーズに注目しながら演奏する状態を保つ」「各々のフレーズが自律して動いている感覚をつける」という気もしてきます。ソリストとしてのみ振る舞うと後ろから切りつけられる緊張感というか、バッキングだけれど攻めていく気持ちを保つというか。
と書きましたが、「構造をわかりながら聞くとより面白い」という意味で、ゲームとしてちゃんと楽しい所も重要ですね。この動画30分近くあるんですが、本当にあっという間!最後の実演は単純に聞くと高度なインプロなんですが、実は至る所で合図が出されていくスーパープレーの連続ということがわかり、確実にKneebodyの音楽をもっと楽しめるようになっている自分がいます。
ちなみにKneebody、最近ベーシストが脱退し、現在ドラマーがベースも同時演奏するバンドとなっています。しかもベースも超上手い!パワーアップした雰囲気すらあるので、今後も大注目です。
5. King Klavé Ft. Keyon Harrold & Javier Santiago perform Saturn Return
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映画『CU-BOP』で大活躍していた(U)nity、そのドラマーAmaury AcostaのプロジェクトKing Klavéのライブ動画。Keyon Harroldは各所で大活躍のトランペッターですが、ディアンジェロ&ザ・ヴァンガードのメンバーというとわかりやすいでしょうか。Mac Miller “Stay”でも吹いています。Javier SantiagoはNY拠点で活躍するキーボディスト、昨年出たアルバム『Phoenix』はヒップホップ/ビートシーン以降の感覚を詰め込んだサイケデリックなジャズで個人的に愛聴しています。
という3人のライブ動画。トランペット、キーボ&シンベ、ドラムのトリオです。全員が紛れもなくビート・ミュージック以降の感覚を持っているのですが、リズムがゴリゴリになるのでなく、むしろかなり抽象的、ダンスミュージックとしては不思議な状態に。しかしリズムを浮遊させることで、サイケデリックにうねり絡み合っていく演奏が素晴らしいです。結果フライロー等と同じような、音が上でぐるぐる回っているようなぶっ飛び感覚があります。
高橋アフィ
TAMTAMのドラムの他、文章やDJ等。好きな音楽は新譜、趣味はYouTube巡り。
CH.0の5曲
1. Skepta - Bullet From A Gun
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去年ぐらいから自分でトラック作り始めて分かった事なんですけど、以前この企画でも取り上げたOctavianやSkepta周辺のビートメーカーって、サンプルリバースの使い方が抜群に上手いですよね。手法としてはもう随分前からあるものだと思うんですが、ループとしての形は崩さず、且つサンプルを逆回転させた時の違和感をいい塩梅の違和感を生んでる。小節にしっかり言葉を置いてくラップとの相性も抜群。リリース間近のアルバムが楽しみです。
2. 88GLAM - Lil Boat (Remix / Animated Video) ft. Lil Yachty
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NAVとの絡みやGunnaとのコラボレートでその存在は何となく認識していた88GLAM。昨年11月に『88GLAM2』の続編的な内容になるんでしょうか。とにかくハッとさせられるシンセ使いにヤラレて、ここ最近ずっと聴いてます。
3. Vince Guaraldi Trio - Linus And Lucy
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5月頭のGWは地元を離れて静岡で過ごしたんですが、以前OFF-CENTでもゲスト出演してくれたDJ 光さんが、浜松市内でDJをやっているのを聞きつけて現場へ遊びに行ったとき、教えてくれたのがこの曲でした。たまにDJでもプレーすると言ってたこの曲、実はスヌーピーで有名なピーナッツのテーマソングらしいんです。どちらかと言うと、この曲がと言うよりこれをクラブでかけちゃう遊び心と光さんの奇想天外な発想に触発され、今月の5曲に選んでしまいました。
4. KNZZ - knockin' on the heaven's door
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まだ直接話したことは無いんですが、ラッパー的歌唱センスとウィットに富んだエピソードトークを人づてに聞かせてもらう事が多く、何度もブチ上げられて来ました。久々に復活?のQRON-P氏のトラックもカッコよく、ラップの内容も言わずもがな。
ここでは詳しく書けませんが、この間、友達からこの曲の後日談を聞いて思わず目頭を熱くしたのを覚えてます。
5. Ari Lennox - BMO (Audio)
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ミニアルバム"Pho"で最初に彼女を認識したのが2016年。この頃はどこかインディーズ感が抜けなくて、トラックも荒削りな感じがあったけど、ソウルフルなサンプル使いが好きで、DJでもよくかけてました。
そこから3年。デビュー当時を知る人ならおそらく誰もが驚く成熟ぶりを見せていて、歌もサウンドメーキングも進化して再び登場!ここまで首触れる歌モノってここ最近あったでしょうか?
本企画連動のSpotifyプレイリストも更新中!是非チェックを!
CH.0
京都を拠点に活動するDJ。2017年 KID FRESINOと共にDJパーティー『Off-Cent』をスタート。
その他、数々のアーティスト・ビートメーカーの作品へのスクラッチ参加に加え、
自身のMixCloud上で多数のMIX音源を公開。現在、自身初となるアルバムを制作中。
https://www.mixcloud.com/channel-0/
鳥居真道の5曲
1. Cate Le Bon - The Light
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Cate Le Bonはウェールズの出身のシンガーソングライター。5月24日リリースのアルバム『Reward』から先行リリースされた"The Light"は、カンタベリー〜レコメン系を愛聴する人の琴線にひっかかるはず。なんといっても音のレイヤーの美しさ。引き算の美学によって組み立てられたドラムのパターン(打ち込み?)、バックビートに合わせてホワ〜ンと響くパッドとサックス(で合ってます?)、「図と地」の地と化したピアノ、チャーミングなベース、そして間隙を縫う力の抜けたギターの絡み。心からこういうサウンド・デザインに憧れる。でも実際に自分で取り組んでみると想像以上にしょぼくなってがっかりする未来が見えている。そういった意味では奇跡的なサウンドといって過言ではない。Cate Le Bonの歌唱はNicoが引き合いに出されるようだが、Dagmar Krauseも入っているように思う。いやはや本当に素晴らしい楽曲。年間ベスト暫定1位。
2. Blue Material - Cosmic Thunder
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Blue Materialは元TOPSで、Exit Someone、Vesuvio Soloとしても活動しているThom Gilliesを中心に結成されたグループ。"Cosmic Thunder"は4月19日にリリースされたデビュー・アルバムからの1曲。Daryl Hall & John Oates的な和声感覚を携えたポップス、といったら良いのでしょうか。やはり気になるのは音質だろう。これってカセットテープに過入力して作った音なんでしょうか。アルバム全編がこの調子だが、これを勇気と言わずとしてなんというか。あっぱれ!でも、イヤホンで聴いてるとだんだん結構しんどくなってくるのでスピーカーで聴きたいと思います。
3. Puto Tito - Mestre Das Artes
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ポルトガル、リスボンの先鋭的なダンス・ミュージックをリリースするレーベル、Princípe所属のPuto Titoのデビュー作『Carregando a Vida Atrás das Costas』からの1曲。Puto Titoは現在19歳で、こちらのアルバムは14歳のときに制作した音源をまとめたものとのこと。恐るべし。左チャンネルのパーカッションは3連だが、その他のフレーズのサブディビジョンは16分。それらが互いに干渉しあってリズムが屈折し第3のリズムが発生しているように感じられる。あまりにもクールなものだから、ちょっと背伸びして入店してみた服屋さんにいるときのようにドキドキしてしまう。
4. Faizal Mostrixx - Chicken Groove
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Faizal Mostrixxはウガンダのカンパラ出身のミュージシャン。ダンサー、コレオグラファーとしても活動しているそうだ。こうしたミニマルなパーカッション、土着的なフレーズ、そして電子楽器の音が混ざった音楽が本当に好き。うっすら入っているパーカッションやSE的な音の重ね方の妙味。同じくウガンダのバンドNIHILOXICAなど、Nyege Nyege Tapesの諸作品が好きな方はぜひ。すこし趣向は異なるがVince Staplesの『Summertime '06』の質感を愛して止まない人にもオススメしたい。
5. KOTA The Friend - BACKYARD
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KOTA The Friendは日本人っぽい名前だけどブルックリン出身で、1992年生まれのラッパー。ラウンジっぽいオルガンと小鳥のさえずりの可愛らしさに耳を引かれた。また、トラップマナーのビートが心地よく、体を縦に揺らさずにはいられない。初夏にうってつけの爽やかな曲。トラックはKOTA The Friend本人が制作している模様で、まさに文化系殺しのトラックといえよう。ラップも好バイブス。人から舐められたくないという理由で、こうしたお洒落でやや軟派な曲に反応することを自粛していたけど、自分の体に正直に生きて30代を乗り切ろうと思う今日このごろです。
鳥居真道
1987年生まれ。トリプルファイヤーのギタリストで、バンドでは多くの作曲を手がけている。また他アーティストへのライブやレコーディング参加、楽曲提供、選曲家としても活動。ピーター・バラカン氏はじめ多くの方とDJイベントも定期的におこなっている。
Lil Mofoの5曲
1. Ty Dolla $ign - Purple Emoji feat. J. Cole
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自分タイダラー大好きおばさんだったことを思い出しました・・!!ブシ全開の歌い出しから泣けるね・・!!
2. Tiji Jojo - PLAYER 1
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めっちゃかっこいい!!音楽的にも世界観的にも大好きで期待しかないです・・!!
3. CJ Fly - Bird
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今月ラップでいってみます・・!!忘れた頃あらわるプロエラの才人。アーロンローズもいい曲出してたんだけどMVあるしこちらを紹介させてもらいます。
4. Skepta - Bullet From A Gun
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これはシブすぎて抗えず・・!!日本のクラブでもかかってる?かかってそう!!
5. Lady Leshurr - Your Mr
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流れでUKものをもう一本・・レイーシャぶしのたまらないJAY1のリミックスです。もと曲も相当シブいのでぜひチェックしてみて下さい・・!!
Lil Mofo
DJお休み中につき、ブッキングは受け付けてません。
ミックス等の制作は(たまりすぎてて受け付けてませんが)少しづつやってます。
ぜひチェックしてみてください。
https://soundcloud.com/lil-mofo-business
https://www.mixcloud.com/lilmofo/
http://lyl.live/show/lonely-only/
和田哲郎の5曲
1. Denzel Curry - Ricky
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Denzel Curryのニューアルバム『ZUU』からの1曲。Curryは先日の来日公演でもラッパーとしての身体能力がめちゃくちゃ高い人だなと思いましたが、この曲もその身体能力が十二分に発揮されてますね。バウンシーなノリを感じるトラックに、ただ前のめりなだけじゃなくて、グルーヴィンなラップがとても素晴らしいです。アルバムも最高。
2. GoldLink - Zulu Screams feat, Maleek Berry & Bibi Bourelly
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今年の2月にGoldLinkが88risingと契約するという発表(その後どうなったのかは謎)があったときは、よくわからなかったですが、最近出ている新曲を聴くとそれも納得というか、新作ではGoldLinkはアフロビーツをやるという意気込みが伝わる楽曲ばかり。つまり88risingがアジア系ディアスポラのための音楽だけではなく、アフリカ系移民のための音楽にもフォーカスしはじめたと考えるとその繋がりも理解できます。UK在住のナイジェリア系プロデューサーMaleek Berryとドイツ・ベルリンのシンガーBibi Bourellyをフィーチャーしたこの曲は、アフロビーツというより90年代のアフロハウスを思いだす疾走感のあるトラックに、落ち着いたテンションのGoldLinkのラップがハマった1曲。元々エクレクティックなテイストを好んでいたGoldLinkが、盛り上がるアフロシーンとリンクするのはとても自然な流れで、アルバムも楽しみです。
3. Kojey Radical - Can’t Go Back
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GoldLinkからの流れで、こちらもロンドンを拠点にするガーナ系移民の2世となるアーティストKojey Radicalの新曲もよかったです。同じくロンドンのシンガーMahaliaとの楽曲などでも名前は見かけてきましたが、ピアノとホーンが作り出すうねるようなグルーヴのトラックとキャッチーなゴスペルライクなフックの組み合わせは、わかってはいるけどテンション上がってしまいますね。
4. Full Crate - LowKey feat. Jay Ink (Charly Black Remix)
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昔何かの本で、日本の90年代ではダンスホールレゲエでめちゃくちゃオシャレな人たちが踊っていたという記述を見て、かなり意外な印象を受けたことがあったんですが、たまにこういうキュートなダンスホールを聴くと、なるほどなーと腑に落ちる感覚になります。トラックのミニマルさもバッチリ。
5. Young Nudy & Pi’erre Bourne - Disptach feat. DaBaby
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“Magnolia”をはじめとして、今の一部のラップにある浮遊感あふれるムードはPi’erre Bourneの功績がとても大きいんだなと、改めて実感させられたアトランタのラッパーで21 Savageの従兄弟のYoung Nudyとのコラボプロジェクト。ラップのアルバムがどんどんコンピレーション的な流れになってきているのに逆行しているわけではないでしょうが、きっちりとサウンドコンセプトで1枚のアルバムとしてまとめあげた快作でした。
和田哲郎