【インタビュー】Tohji|ローカルからではなく、グローバルに突き刺す日本からのヒップホップ
Mall Boyz (Tohji, gummyboy)「Higher」のMVが3日で3万回以上再生され、新曲「Rodeo」がSoundcloud全ジャンルのNew&Hotチャートで1位になり、得体の知れない存在感を放つ楽曲が話題を呼ぶ21歳のラッパーTohji。Tokio ShamanやGR8のパーティなどを沸かし、Spiky JohnがMVを手がけ、そしてSEEDAからのフックアップなどもあり、シーンでの期待が高まっている。彼のラップは既存の日本語ラップとは確実な手触りの違いを感じさせ、一言では言い表せないその魅力は、タグ付けされる前のフレッシュなスタイルとも言える。
Tohjiは都内で仲間と一軒家をシェアしながら生活をしている。まだ言語化されていない魅力の源泉を探るため、彼の自宅に向かい、リビング、彼の部屋、屋上、近所の居酒屋と場所を変えながら4時間近く対話を続けた。その断片的な言葉を集めることで、彼の感性に近づくことができた。そこで気づいたポイントが2点ある。
まずひとつ。「John LennonやBob Marleyのクラスに行きたいから、クラブの隅っこでトラップのマネをしてもしょうがない。(そうなるための方法は)わかんないけど、俺だったらなれると思っている」「THE BLUE HEARTSのような歴史に残る曲が作りたいんですよね」と撮影時につぶやいていたことからわかったが、今までの即物的なヒップホップとは違って普遍性を模索していることが大きい。彼は日本語ラップ・シーンではなく音楽史、つまり歴史と向き合っている点が異質なのだ。
もうひとつ。インターネット普及以降、海外のヒップホップと瞬時にコネクトできるようになったことが大きい。ニューヨークで生まれた文化は、もはや世界中に偏在する状況になり、SoundCloudを使えばインディペンデントでも世界中のラッパーやトラックメーカーとコラボレーションが簡単にできるようになった。そういった感覚は、地元の仲間と一緒に上がっていく今までの日本語ラップから変化して、最初から世界と対話を行うグローバルなヒップホップとなったと言える。そしてこの状況は日本だけではないはず。
初めて聴いた音源、初めて行ったクラブ、一番アガったライブなど……。Tohjiの魅力だけでなく彼の視点を通して、世代によってヒップホップの捉え方が変わったことを伝えたい。
取材・文:高岡謙太郎
写真:山田春日
2010年代からヒップホップを聴き始めた世代
- まずは日本語ラップを聴き始めたルーツを教えてください。
Tohji - 日本語ラップとの最初の出会いはあんまり……。中学の頃、Eminemとか50centとか聴いていて、それ以外を聴きたくなってTSUTAYAに面出しされてた日本語ラップのアルバムを借りたんですけど……すげぇ微妙で食らいましたね(笑)。通っていた中学は中高一貫の学校で、高2の先輩が音楽を教えてくれるみたいなのがあって、「お前これ知ってる?」みたいなノリで教わったものをよく聞いてました。そこで妄走族、鬼、(キング)ギドラとかにハマりました。やんちゃ目の先輩のグループと仲良かったから結構みんなで遊んでました。
- やんちゃな先輩とクラブにいったりしていましたか?
Tohji - いや全然。年確(年齢確認)がないカラオケにみんなで行って、酒飲んで先輩が(Lamp Eyeの)「証言」をラップしてたり。 学校内には生徒しか入れない溜まり場があって。壁に「第何代ナントカ」とか落書きが書いてある部屋で、みんなで溜まってそこで音楽を知ることが多かったですね。俺が入った頃から厳しくなって、昔は何でもやりたい放題やったったんですけど、そういうノリが嫌いな生徒が2ちゃんとかに書いて保護者が騒いで部屋がなくなっちゃって。
それで溜まり場にいられなくなって外で溜まるようになりました。だから、クラブに行くよりどこかの河川敷に集まって 、スピーカーで妄走族をメチャかけるみたいなノリ(笑)。あとはパラパラをかけてアガったり。ドンキで七輪買ってきて肉焼いたり。先輩は酒以外に脱法ハーブとかもやってたっぽいけど、俺ら中学生にはやらせないようにしようみたいな謎のモラルがありましたね。「キメてテレビ見ると4チャンと5チャンの間に閉じ込められるから危ないよ」みたいな(笑)。あとは鬼とかTHA BLUE HERBとか詩的なノリのやつもみんな聴いてましたね。
初クラブは年上の溜まり場
- クラブに行くまでの過程はどういった流れでした?
Tohji - 先輩たちは自分たちのノリで楽しむ感じだったから、クラブやパーティで遊んでなかったんですよね。俺は結構そういうのに興味があったから、フェイクIDを作るのがうまい奴がいて。そいつに頼んで行ったんですけど、クラブはマジで年上の人しかいなくて……。話すことねえし……みたいな。その時はあんまりだったけど、今は楽しい。ちょうどいい感じがめっちゃある。
- 20代前半が集まるクラブがなかったということ?
Tohji - そうですね。今は自分でもパーティやるし、いっぱいあるから楽しい。トキマ(ラッパー釈迦坊主の主催するパーティTokio Shaman)や、bed(惜しくも1月に閉店してしまった池袋のクラブ)でやってるBlock(TYOSiN、TYOGhOSTなどが出演するパーティ)より前はクラブでモッシュをするノリがあまりなかったんですよね。だからそのふたつとかめっちゃ楽しい。
- Tokio Shamanも釈迦坊主以外、出演者が全員20代前半らしいですね。お客さんも10代後半から集まっていて。Tohjiくんが前回出演したときはトリから2番目で。
Tohji - 最初、俺はSleet Mageと仲良くなって、釈迦さんを紹介してくれて曲を聴いてもらって出始めました。むっちゃ女の子が多いしバンギャっぽかったりゴスっぽい子もいて最初ビックリしたっす。それと来ている女の子たちは、(写真や動画を)ネットにむっちゃあげるんです。ネットでバーっと広がるからどんどん人が増えてくんですよね。だから凄いポジティブな空気があそこにはありますね。
- では、初めてラップしたきっかけは?
Tohji - (自分には)できると思っていたんですけど、やってなくて。だるい感じになったら嫌だから、下積みっぽいことするならやらない方がいいかと思っていて。でも、Lil Yachtyとかが出てきた頃から、「俺らの思ってることをそのままパッとやって跳ねる流れになってきてるな」と思ったんです。昔でいう「Source(Magazine)の5本マイクを全部聴け!」みたいなのがなくなった感じがするんですよね。
インディでもネットを介して世界とコラボ
- ヒップホップマナーが変わる感覚があったということ?
Tohji - やりやすい。それでサンクラに曲をあげ始めて。そうしたらアメリカのやつとかがコンタクトを取ってくるから楽しい。最初、トラックをアメリカのビートメーカーに送ってもらっていて。トラックを買うという感じじゃなくて、お互いに有名じゃないからタダで作って、お互いのアカウントにアップしていました。その後から日本人とやるようになりましたね。
- いきなり海外の人とつくるのは珍しいんじゃないですか?
Tohji - あの頃はそうだったと思うけど、今はみんな多いんじゃないですか。なんか、海外のビートメイカーの中のひとりが「俺がお前のことを88risingにプッシュしてやれるから。俺の持ってるパイプでどうにかしてやる」って豪語してきて。後日「今どんな感じ?」って聞いたら、Twitterで普通にメンションとばしてるだけで「なにそれ…」みたいな(笑)。なんか変なやつが多いから楽しい。
言語でなく感覚から広げていく
- 日本語でラップしていても海外と繋がるんですね。いままでの日本のラッパーでは、地元を制してから自分の陣地を広げていく感覚があったと思いますが、いきなりグローバルから繋がっているのが違いますね。
Tohji - そうですね。日本とか海外は関係なく、まずは同じフィールの人を制してから、そこから違うフィールの人を制していきたい感じですね。やっぱりトラップがメインになってからその国ごとの感じが結構出るようになって面白いなと思えるようになりましたね。90年代っぽいノリになるとリリック中心になっちゃうけどトラップになるとトラック含めてその国っぽい感じになるからフラットで楽しい。
例えば、ロシアのトラップだと寒々しい林の中で上半身裸で叫んでる感じの曲があって、それはアメリカにはない感じだけどいい。”It G Ma"もそういうノリで海外に伝わったと思うし。リリックがわからなくてもバイブスで伝わる音楽が面白いと思うんですよね。
- Tohjiくんのラップはサグなスタイルを俯瞰しているようにも思えますが、自分的にはどういうスタンスでしょうか?
Tohji - あんま嘘つきたくないって感じかな。こうしたいからこうって感じじゃない。日本国内でっていう意識ではないからかもしれないですね。SoundCloudで知り合った会ったことないアメリカのトラックメイカーとか、dosingってクルーとか、ガイジンの友達に伝わるといいな〜って思うことがある。
- “ I'm a godzilla duh”、“mAntle f**k”などではボースティングをしていますが、あきらかに視点が違いますよね。
Tohji - 自分の無意識も含めて、嘘をつかないっていうのが大きいですね。自分は無理にラッパーっぽくしなくても、そういうカルチャーで育っているからあえて振る舞わなくても、いろいろな自分がいるからそれを全部曲に出せばいいと思ってる。たぶん「自分はラッパーだからラッパーっぽくないことはしない」っていう人もいるけれど、その人も絶対ラッパーではない自分がいるから。そうなると表現として弱いんですよね。
- アメリカのラッパーは「ラッパーっぽいラッパーになりたい」と思ってラップしているわけではないみたいな感覚ですかね?
Tohji - そう。俺はお笑いが好きなんですけど、(ビート)たけしやまっちゃん(松本人志)は成るべくして成っていて、最近の芸人は「芸人になりたい」と思ってやっているから、そこが違う。アメリカでもラッパーっぽくしようとしてるやつもいるだろうけど。ただ、すげえ奴らは違う。Lil Peepは、ロックが好きな自分がいて、トラップも好きな自分もいて、それを全部やる。Post MaloneもXXXTentacionも。まあベタにね。ただ、日本ではそういうやつらが海外で出てきてから「あ、許可出ました!僕らも始めます〜!」みたいな感じでやるじゃないですか。俺はそういう感じではやってない。
- 自然体で表現するために考えていることやコツはありますか?
Tohji - やっぱり自分がキレていられるように。やっぱり良い人と出会って話していたら高まるけど、嫌な感じの人と会っていると下がるから。自分が楽しいというか、乗っている状態にいたい。スパークしている感じ。俺がまっすぐ人と接したら、みんなもまっすぐ接してくれるから。
(表現に)そのまんま出ている感じがいいんですよね。アトランタのトラップの感じや、ウクライナのレイヴの感じとか。そいつらのノリがそのまま出ていて、研ぎ澄まされてかっこよくなって、結果普遍的なノリになる。そういうことを考えていますね。東京の感じだったら、俺だと思うし。
現実との距離感が近いものがかっこいいと思っていて、ヒップホップにはそれがある。ロックンロール!とか言って自分の悩みを歌ったとしても聴き終わったあとに「で…?」ってなるんですよね。「で…?」ってなる音楽は好きじゃない。でもFrank Oceanが自分の孤独とか悩みを歌うと刺さるんですよ。Soulja Boyの楽しさもホンモノだし。ヒップホップは「金稼いで車買ってスニーカー作るぜ」だったり夢の描き方にリアリティがあるから。だからヒップホップは現実に突き刺さっている感じがする。
あとはSoundCloudがデカいですね。音楽を知れるし俺も発信できるし。逆に昔の人は作品をリリースした後の手応えをどうやって感じていたのかが気になりますね。コメントや再生数がわからないから、ざっくりとしたCDの売り上げしかわからないわけじゃないですか。
- 昔のアーティストの実感は、周りの反応や雑誌のレビューなどになるのかな。逆に音源にコメントを書かれて嫌だったことは?
Tohji - いや全然。オモロ!みたいな。作風に影響とかはないですね。無意識ではあるかもしれないけど。
https://www.instagram.com/p/Bt1My8gFjOh/
臆することなく、海外とリンク
- インスタで確認しましたが、最近自宅の屋上でPVを撮影していましたね。
Tohji - 屋上で撮影していたのは、Mall Boyzの「Higher」って曲。Spiky Johnに撮ってもらって、みんな呼んで。LEXとかwho28、YUNG HIROPONとか。ヘリコプターくらいのデカいドローンを使っていたのと屋根の上でバンバン盛り上がって騒ぎすぎたから、通報されて警察が来て(笑)。ドローンの撮影許可を取ってたから大丈夫だったけど。
- 今までで一番盛り上がったライブ体験は何ですか?
Tohji - たしか2013年かな。高1の頃、Tyler, The Creatorがリキッドルームに来た時に行ったんです。その時はカリフォルニアブスみたいなスカした客が多くて「しゃべえな」って思ってイライラしてて。それからライブが始まって、めっちゃモッシュしてた時に知らない客の腕とか舐めてたんですよね(笑)。そしたらOdd Futureの奴らもオモロがって俺をインスタにバンバンあげてて。いつかTylerに会ったら「あの時のキッズだぜ!」って言ってやろうかなって思ってます。
- 海外のラッパーを早い段階で見てるんですね。音楽的な偏差値が高い。
Tohji - この間は一人でロンドンにふらっと行きました。ロンドンでDrakeを見に行った時は、Young Thugとか出てきて。あとグライムのAJ Traceyも見に行ったんですよ。Circus Tokyoより小さいくらいの箱に、シークレットゲストでStormzyが出てきた瞬間、ワーって盛り上がってみんなめちゃくちゃ前の方に押し寄せて、女の子とかドミノ倒しみたいになって。1曲だけやってサッサと帰ってましたね。
- いきなり海外の現場に紛れ込むのはどうやって探したんですか?
Tohji - 「AJ Tracey LIVE」とかで普通に検索して(笑)。その時にLil Yachtyも来てたけど、秒でチケット売り切れてて。Drakeはロンドンで週に5公演とかやるんですよね。場所は東京ドームみたいなアリーナのO2だから全然チケットが取れる。ヨーロッパ中を周って毎日1億円ぐらい稼ぐっぽいです。
その時、PALACEとかSupremeの店の前で自分の曲が入ったUSBを配ってたんです。まだ1、2曲しか無い頃だったけどとりあえず何か起きたらいいなと思って。 そうしたらスイスのブランド「Sports Club」のやつらにひっかかって。 彼らにNTS Radioに連れてってもらったら、 そこにいたベトナム人とお互いアジア人だから盛り上がって。それが最近になってリンクして、最近来日したEternal Dragonzがそのベトナム人周りと仲良かったり。それから「Sports Club」はいつも服を送ってくれて、俺も普段から着てるし。
- ひとりでふらっとロンドンに行けるのは、グローバルに活動できる強みですよね。
Tohji - この間、小袋(成彬)くんもロンドンに行ってたし、また遊びに行きたいな。それと今度tomadさんにサポートしてもらってベトナムに行くんです。それで自分がピックアップされたというのも変な話ですが。ベトナムの映像とファッションのクルーと一緒になんか作ります。あと韓国。
- それはすごい。tomad君のようなある種ギークな人がネットからグローバルな活動をするというのは分かるんですが、その下の世代となるTohjiくんのようなギークではない人がインターネットに当たり前に接しているのが今ならではなのかな。tomadくんとTohjiくんは10歳の世代差があるわけで、世界とつながる感覚は変わってる気がしますね。ネットが世界中で一般的になって、どういった音楽のゲームをやっていくかかが今ならではかな?
Tohji - だから(ネット以降)フラットに国とか関係なくやり取りができるようになって、「じゃあどうする?」みたいな気分が今かな。そこで天下取れたら今までで一番すごいと思う。
- tomadくんだけでなくTREKKIE TRAXなど、ヒップホップではない人も注目していますね。
Tohji - CYKのKotsuくんとか。「お前らが普段かけてるのと違うんだけど…」みたいな(笑)。たぶん俺のことをヒップホップというか、ストリートカルチャー、クラブカルチャー、ユースカルチャーみたいなくくりで見ているのかも。
しっくりくるように研ぎ澄ます
- では今後やりたいことはありますか?
Tohji - 自分の中のイメージに追いつかないですね。もっと曲作りたいし、ライブしたい。いい音楽作って、楽しいライブしたい。いつも考えていることなんですけど、自分の中で流れている時間の感覚を濁さずに曲に落とし込みたいのは常にありますね。トラップを最初聴いたときはしっくり来た。車に乗って聴いたり歩きながら聴いたりしているときに、見ている街中や自分が考えていることと、しっくりハマるんですよね。Lil babyとかFrank Oceanは自分が今無意識に思っていることをリズム感とかビジュアル全部でそのまま形にしてくれたので、しっくりきて気持ち良い。「これ!これ!」みたいな。良いミュージジャンやアーティストはみんなそうだと思うんですよね。
- ちなみに今の自分の作品はしっくり来ていますか?
Tohji - 作ったときは常に最高にしっくり来てるし、もっとしっくり来させたいですね。永遠にそうなのかもしれないけど。
Info
Tohji
https://www.youtube.com/channel/UCVQ9Xs4Ur0yw-Volz93k36w
https://soundcloud.com/11_tohji_11
https://www.instagram.com/_tohji_/
https://twitter.com/_tohji_
Tohji presents Platina Ade
03 / 25 MON
OPEN/START18:00 / 18:00
ADV./DOOR¥2,500 / ¥2,800 (税込 / ドリンク代別 / オールスタンディング)
未成年割引チケット:¥1,000 (税込 / ドリンク代別 / オールスタンディング)
※未成年割引チケットは入場時受付にて年齢の確認出来る写真付きのIDをご提示下さい。IDがない場合は差額分をお支払い頂きます。
LINE UPTohji / Mall Boyz / Raffy Ray&LIL KAVIAR (Briza) / dosing / gummyboy / kamui / k_yam(N.O.S.) / Loota →NEW / NTsKi / Sleet Mage / stei / TYOSiN / + SECRET GUEST