【インタビュー】Sean Miyashiro | 88risingの作る「アジア」と日本との距離
Rich BrianやHigher Brothers、Jojiなどアジア圏出身のアーティストを次々にUSのメインストリームヒップホップ・R&Bシーンに送り込んでいる集団88risingだ。設立者であるSean Miyashiroは元々Viceが運営していたダンスミュージック情報サイトThumpの立ち上げに携わり、その後OkasianやDumbfoundeadなどの韓国系アメリカ人ラッパーのマネジメント会社を設立。その後YouTubeチャンネルとして88risingをオープンさせ、Rich BrianやHigher Brothersなどを発掘し、アジア系アーティストにとっては厳しかったアメリカのヒップホップシーンに食い込んでいっている。
88risingの初めての東京公演に帯同していたSean Miyashiroになぜ88risingが、かつてない前例となったのか。そしてKOHHとの関係性がクローズアップされる日本との距離感についても話を聞いた。
取材・構成:和田哲郎
撮影 : 西村満
通訳 : 金田あい
- 昨年は88risingとして初めてのフェスやツアーも開催し、Jojiのアルバムがアジア人として初めてビルボードチャートで1位になったり、かなり大きい年だったと思います。改めて振り返っていかがですか?
Sean Miyashiro - クレイジーだったよ。88risingを始めて、“It G Ma”がヒットしてから4年が経つけど、最初は「手当たり次第とりあえずやってみよう」という姿勢を大切にしてきた。でも段々成功してきて責任感が生まれてきたんだ。プレッシャーというより88risingをより良くしていきたいっていう責任感だ。今は朝起きると「俺、すごいことやってるな」って実感出来るんだけど、4年前は朝運動して、色々なアーティストの楽曲を聴いて「俺もこんなことが出来たらな」みたいな憧れがあった。それが実現できているのが、今でも信じられないよ。
- なるほど。
Sean Miyashiro - 日本には人の心に刺さるアーティストが沢山居て、もちろん他のアジアの国にもいるんだけど、特に日本のアーティストはそれに長けてると俺は考えてる。今後の目標は、日本人のアーティストや日本の物を海外に発信出来たらと思ってる。例えばアメリカ人はアジアといえば絶対に日本を思い浮かべるし、日本の文化は世界的に見てイケてるんだ。それはストリートだけじゃなくてヒップホップもそうだから、今後はそういったものを俺たちの方で発信したいな。
- 88risingと一番関係が深い日本のアーティストといえばKOHHだと思うんですが、KOHHと88risingの関係性はどんなものですか?また、KOHHをSeanさんはどのようなアーティストだと見ていますか?
Sean Miyashiro - 彼はロックスターだ。だけど人柄も誠実だし、賢くて優しい。人間的にもすごく出来た人だから、誰でも彼のようになれる訳じゃない。KOHHのためなら是非助けていきたいって今後も思ってるよ。俺がKOHHと一緒にアメリカのツアーをやったとき彼はすごく喜んでいたし、そうやってお互い助け合っていけるような存在になりたいよ。アメリカで1000人以上の前でも良いライブをこなしていて、彼はプロフェッショナルだと思った。Frank Oceanとも“Nikes”で一緒にやっていたし、Frank Oceanが認めたアーティストってことは「ただのイケてるやつ」じゃなくて「かなりイケてるやつ」なんだよ。KOHHと88risingの関係は本当に親密だよ。
- 今後KOHHが88risingからリリースしていく可能性もありますか?
Sean Miyashiro - もちろんだよ。いつでも歓迎だ。彼にも日本のクルーがついてると思うから、依頼があったら是非88risingから出したい。俺はアメリカのノウハウを知ってるからアメリカでは役に立てると思うけど、日本のクルーほど日本でのやり方は分からないから、そこは日本のクルーに任せた方が良いと考えてるよ。
- 他にSeanさんや88risingのクルーが注目している日本のアーティストはいますか?
Sean Miyashiro - 正直、そんなに日本のアーティストは知らないんだ。でも日本の音楽シーンは面白いと思ってて、名前は忘れたけど良いロックバンドやソロの女性アーティストは良いなと思ったし。やっぱり宇多田ヒカルは、すごく質の良い音楽を作っているアーティストだと思う。日本では若い世代が海外の音楽から影響を受けてると思うから、今後色々面白い楽曲を作っていくんじゃないかって思ってるよ。正直俺は音楽についてすごく勉強して来た訳じゃないから、たまたま聴いて「良いな」と思ったものを拾ってきたんだ。運命を感じる楽曲と出会って、こうやって今みたいに色んなアーティストを集めていって助けるっていう形になってるけど、KOHHも俺たちのコミュニティに居たから発掘することが出来た。今後はもっと積極的に色々なアーティストの音楽を自分から聴こうと思ってる。逆に、オススメの日本人アーティストがいたらチェックするよ(笑)絶対に良いアーティストはいると思ってるけど、まだ誰かは分かっていないんだ。誰かいるかな?
- BAD HOPですかね。とても有名です。
Sean Miyashiro - 何歳くらい?
- 20代前半です。
Sean Miyashiro - いいね。どこかと契約してるの?
- いいえ、自分たちでリリースも行っています。
Sean Miyashiro - 88risingに興味を持ってると思う?
- 持っていると思いますよ。
Sean Miyashiro - 是非会ってみたいな。曲も聴いてみるよ。俺たちはヒップホップも好きだし、ポップミュージックも好きなんだ。R&BでもエクスペリメンタルR&Bでもいい。パンクでもいいよ。なんでもいい、良ければ他はどうでもいいんだ。
- 去年はアメリカにおけるアジアンカルチャーの地位の向上を象徴するような動きとして『クレイジーリッチアジアンズ』がありましたし、BTSやBLACKPINKなどのK-POPアーティストがアメリカでも成功を収めていますよね。アメリカにおけるアジアのポジションについてはどのように考えていますか?
Sean Miyashiro - 『クレイジーリッチアジアンズ』はとても重要だと思ってるんだ。なぜならアジア系の観客が殺到し、それが興行収入にも現れてヒットしたからね。マーケット的にも、アメリカの市場でアジア系が興味を持ってお金を出すようなアジアの文化を発掘していこうというモチベーションに繋がったと思う。BTSやBLACKPINKも、88risingのテイストやヒップホップとは違うけど良いとは思う。アジアのヒップホップがアメリカで上手くやろうとするのはとても難しいことなんだ。良いと思っても他のコミュニティーから批判を受けたりすることが多いから。88risingもアメリカで人気は出てきてるけど、そういった部分でチャレンジすることが課題になってる。
- アメリカのヒップホップシーンはアフリカン・アメリカンだけで殆ど完結も出来るし、アジア系のアーティストが成功するのが本当に難しいですよね。そんな中でRich BrianやHigher Brothersは垣根を簡単に超えたように見えます。そのような成功の秘訣はどこだったと思いますか?
Sean Miyashiro - まず、“Dat $tick”は良い曲だったけど、アメリカ人にとっては彼のルックスと、サウンドそして、あの歌詞のギャップがジョークみたいに思われてしまったんだ。ラッパーのリアクションビデオがあって、その後彼が“Glow Like Dat”をリリースしてアメリカでもバイラルヒットした。“Dat $tick”に比べて真面目な曲だったから、それが凄くよかったんじゃないかな。Rich Chiggaって名前も良くなかったね、脅しのメールも来たし。だからRich Brianに変えた訳じゃないけど、前に進もうと思って改名をした。そういった彼の踏んできたステップが成功の秘訣だと思う。
- JojiもFilthy Frankという名義でコミカルなYouTuberをしていましたよね。Jojiになってからはよりパーソナルでシリアスな自分の問題を歌っています。88risingのアーティストに共通するのは、クールなだけじゃなくてちょっとファニーなところもありつつ、シリアスな面もちゃんと見せるような多面性があるのかなと思います。その辺りは狙ってというか、そうした多面性を持ったアーティストが88risingらしいと考えられていますか?
Sean Miyashiro - あえてそういったアーティストを厳選したわけじゃないけど、たまたまファニーなサイドと真面目なサイドがある人たちが集まったんだ。Higher Brothersも面白いサイドを持っているし、88risingはアーティストと密にコミュニケーションをとって彼らがやりたいことを形にするようにやってるから、彼らが成長できるように取り組んでいるよ。まさかJojiがBillboardで1位を取るとは思っていなかったけど、彼らのお互いの親密さが表れてそういった形になったんじゃないかな。
- 別のインタビューで「88risingはデジタルメディアでありレーベルでありビデオプロダクションであり、アジアのカルチャーの代理店としても動いている」ということを言っていて、かなり柔軟に形を変えていますよね。そこが88risingの成功の鍵だと思うんですが、次に88risingとしてチャレンジしてみたいことを教えていただけますか?
Sean Miyashiro - 音楽は今のままキープしていくけど、大きくやっていきたいのは映像だ。映画のようなものを撮影したいんだ。台本のアイデアも考えているし、一つの話を作れたらいいと思ってる。あとは日本のローカルの人々が見ている日本を、アメリカや他の国の人に紹介出来るようなものを映像化していきたくて、一人一人の日本人がどういう生活や日々を送っているかを外からは見ることは出来ないから、そういったものに力を注いでいきたい。日本のバーテンダーを取り上げた動画とかは作ってきたけど、それだけじゃなくてもっと日本の知らない部分やもっとローカルな部分があると思う。88risingはまだ規模が小さいから、もう少し大きくなったらそういうことをやっていきたいと思ってる。
- Higher Brothersに顕著だと思うんですが、88risingのMVなどに特徴的なのはアジアのエキゾチシズムみたいなものがありつつ、ビートはトレンドに沿ったトラップなどをベースにしていますよね。エキゾチシズムというのは非アジア系の人が感じるものというか、もっと別の言い方をすればステレオタイプなアジアのイメージをあえて逆手にとっているような気もしていて。そういったアジアのエキゾチシズムの打ち出し方とトレンドとの配合の仕方は、戦略的に意識したものですか?
Sean Miyashiro - “Made In China”とかは彼ら自身が作ったんだ。すごくアジアっぽい感じだよね、でも彼らのアイデアだよ。正直、あれはちょっとやり過ぎだったと思う(笑)必ずしもアジアのエキゾチックなものとトレンドを組み合わせようとは心がけていない。Higher Brothersは2月にアルバムが出るんだ。史上最高の中国人アーティストだと思うよ。そのアルバムはマジでヒップホップなんだ。トラップだけじゃなくて、ブーンバップやオールドスクールなサウンドもやってる。ScHoolboy QやJ.I.D.をフィーチャーしてて、ヤバいアルバムになるよ。良い質問ばかりで、知識が深いよね。FNMNLと88risingで何か一緒にやらない?。88risingはオープンだから、ぜひコラボしたいと思ってるよ。
このインタビューは雑誌Cyzoとの共同取材という形で行われた。Cyzo最新号には東京公演の模様を含めたレポートが掲載予定となっている。