【メールインタビュー】Howie Lee | 中国のように制限されればされるほど、音楽はかけがえないものになる

「アジアがこれからヤバいことになる」、なんとなくそれを実感し始めたのが4-5年から自分がブッキングしている海外アーティストが韓国、中国、インド、東南アジアなど、少しづつ周るところが増えているのを見たとき。また身近なアーティストでもあるfoodmanからもDo Hits(Howie Lee主宰のレーベル)の存在や欧米のプロモーターからも日本のシーンについて聞かれたり、もう一方のメインストリームでは88risingが凄まじい勢いで上昇していくのを横目で見て、凄いなとは思いつつもネット越しで見ている程度で実感としては薄かった。しかしHowie Leeを実際に東京・幡が谷Forestlimitで見た瞬間、その「ヤバさ」を体感した。そこには後に知り合うYonYonもいて、2人とも最前線で彼のパフォーマンスを食い入るように見ていたのを覚えている。その衝撃が上海ALLと渋谷のWWWβとの交換プログラム上東にまで繋がっている。間もなく再来日するHowie Lee、そしてNYEの一環として開催される上東の第3回にも出演するYonYonも交えインタビューを行った。

質問・構成 : 海法 進平 [WWWβ / melting bot] / YonYon [BRIDGE]
写真 Ash Lin

Part.1 海法進平

Howie Leeは北京で生まれ育ち、アジアの音楽特集の一環で行われたSTUDIO VOICEとluteのインタビューで「ゴミを聴いて育った」と語るように、外からの情報が政府によって規制されている中国という特殊な環境で西洋音楽に触れ、「もてたい」という一心でギターを手に取りバンド活動から音楽キャリアを始める。

デザインを学ぶために渡英した時にUKのダンス・ミュージックに影響を受け、現奥さんであるVeeekyと出会い、台北に移住後、レーベルDo Hitsを始動、プラットフォームとしてローカルのアーティストをリリースやイベントを通し、アジアの音楽シーンの潮流へとコネクトしながら世界へと進出を果たす。その一方で中国ポップスの楽曲制作、映像制作、個人の活動では上海はSVBKVLTやLAのAlpha Pup 、そしてDo Hitsからコンスタントに作品を発表し、日本ではMaltineのShinamo MokiやLISACHRISのリミックスを行っている。様々な活動を通してマルチなタレントを発揮しているが、ヴィジュアルからサウンドまでを手がける器用なプロデューサーに留まらず、”Made In China”のユーモアと美学を惜しげもなく打ち出す姿勢は、88risingに提供したミュージック・ビデオにもよく現れている。

音楽における西洋コンプレックスが未だ根強いアジア諸国において、マーケット、クリエーション共に「自分達」を見つめなおさなければならない、Howie Leeはそんな気運を高め、現在のグローバルなムードを高いレベルで反映したアーティストであると言えるだろう。日本の現状を見ると、政治、経済、社会、どの点においても閉ざされていくような閉塞感が漂う一方、かつてアジアの中で文化の先陣を切っていた日本を今その一つとして感じる時、新しい壮大な景色と可能性がそこには見えてくる。

 

- 初めてForestlimitで見た時にあなたのDJを見て強烈な体験をしました。ジャングル、グライム、フットワーク、トラップ、アフロ、ビートなど、様々なリズムのレイヤーにMade In Chinaのユーモアや美学を惜しげもなく、自身のローカルを打ち出した独自のスタイルは今も鮮明に記憶に残っています。何故Made In Chinaがあなたにとって重要なのでしょうか?

Howie Lee - それは他に選択肢がなかったからかな。UKのダンス・ミュージックに影響はすごい受けてるんだけど、僕は中国で生まれ育っている。どこも同じだけど自国の美学的なことはローカルでは当たり前で触れにくいから、外に向けるってことだけじゃなくて、内に向ける意味でもみんなが簡単に理解出来ることを取り入れなければならないと思っている。

- 世代にもよりますがまだ西洋コンプレックスはアジア各国に根深く残っていると自分も含め僕は感じています。それを打ち砕きたい、そこから解き放たれたいと言う思いはあなたの中にありますか?

Howie Lee - 僕が若い頃は伝統や田舎の音楽を拒絶する風潮が強くて、多くの人が音楽やファッション、どのジャンルにも同じことを感じていたと思う。中国は凄くいろんなことが制限されているから、一時、西洋から輸入したものすべてを崇拝しなければならない時代があった。けど何故そうなってしまったのかを自分で掘り下げたら、2つの大きなことがわかった。まず、伝統的なものがクールではないと思うのは、本当にクールなものを実際に見たことがないからという理由だけで、それは常に表面上にあるわけではないからね。精神性から感じることが必要だね。第2に西洋に実際行ってみて、クールではないものもたくさん見てきたわけだ。僕は文化が植民地主義であることに気づくまで、音楽がほとんど西洋のものであるかのように教育されてきたし、けど今は彼らが作ってきた枠を壊して、「我々」の方法で音楽を作ったり演奏する必要があるのかなと、それはとても難しいけどね。僕はある種の快適なゾーンでもある「枠」から抜け出すのが楽しいんだよね。

- 日本だと"Made In Japan"のユーモアを食品まつり a.k.a. foodmanが体現していると思いますが、シンパシーは感じますか?日本の音楽に興味を持ったことはありますか?

Howie Lee - foodmanは大好きだよ。ジャジーだよね。彼の出す音もユーモアのセンスも大好きです。彼のプレイを見ると、人間的なものを凄く感じるんだ。それが”Made In Japan”であるかは僕にとってはそんなに重要ではなく、それで十分かな。彼は自分のしていることに自信があるからね。日本の映画も見るし、音楽も聴いてる。北野武はアイドル的な存在で、音楽であればDJ Krushと喜多嶋修は自分に大きな影響を与えている。FoodmanとはNYEのパーティで一緒にセッションもするから、楽しみにしてください!

- 去年上海を訪れた際に上海ALLを始め、とてもオープンなバイブスと未来への高揚を感じました。次々とローカルの新しいアーティストが世界へ飛び立つ中、中国の音楽シーンを今どう感じていますか?

Howie Lee - 中国のようにいろんなことが制限されればされるほど、音楽はかけがえのないものになるんだろうね。人々がかつてとは違って、西洋が向かっている道を辿らないようにしているんじゃないかな。なぜなら僕達は彼らにななれないし、地理的にも彼らから遠く離れているから。ゆっくりと新しい文化を醸成するのに良い時期だと思う。次に何が起こるのかを見ていきたいね。

- 海外でギグをすることが増えていますが、これまでに一番面白かった発見はなんですか?以前、どこであろうと自分のギグがあると中国人のオーディエンスが何人かは絶対くるみたいなこと言ってたのを覚えています。

Howie Lee - そうだね。彼らは僕を見て故郷を思う気持ちがあるんじゃないかな。DJをそこまでやらなくなったから最近はあんまり海外でやらなくなってるけど。特に西洋でギグするときは自分の曲をプレイしたいね。というのもオーディエンスがいつもとちょっと違うものを見に来てると思うから。特にヨーロッパだとモダン・クラシックやエクスペリメンタルの美学をよく理解しているから、普段やらないようなことも試せるのが楽しい。それは中国やアジアのオーディエンスが分かってないというわけではなく、音楽的なバラエティやインフラがまだここにはまだ少ないから、これからだと思う。クラシック聞いてる人やジャズやワールド・ミュージックを聞いてる人達とまだ大きなギャップがあるし、もうそういう時代じゃないでしょ。

- 次のステップはどう考えてますか?よりライブに集中したいとのことですが、どう発展していくのでしょうか?

Howie Lee - 今はゲームのエンジン開発者もある台北のTeomとのオーディオ・ヴィジュアル・ショーが主なプロジェクトで、歌ったり、楽器を弾くのがとにかく楽しいし、自由を感じる。僕はとにかく歌いたいんだ。

Part.2 YonYon


私が初めてHowie Leeの存在を知ったのは、韓国のアンダーグラウンド・ミュージックシーンにて一早くネット文化(インターネットミュージック)を取り入れたクルー、SUBBEATのストリーミング・ラジオ「substream」で彼のプレイを聴いたときのこと。確か、3-4年前くらいだったと思います。そこには、韓国のアーティストを中心に日本のmushibaさんや、Firedrillさん、Trekkie Traxとも交流が深い当時USに住んでいたHojoくん(今は台湾在住)、なども出演していて、今では当たり前になっているアジア国間でのクロスオーバーしクリエイションするスタイルをいち早く取り入れていて、当時学生だった私は衝撃を受けました。

「個々にプロデューサーとして活躍しているDJ陣がそれぞれ自身の楽曲を中心に組み立てている中、中国の民謡っぽいサウンドからトラップに変化させる組み合わせに耳を疑っていたら、Howie LeeがDJ SETを放送していたのです。」その時の衝撃が忘れられなくて、いつか生で観てみたいなとずっと思い続けていたら3年前のForestlimitにて開催された「K/A/T/O MASSACRE」に来日してくれて、ムズムズを解消できました。

Forestlimitは幡ヶ谷の地下にあるミステリアスな小箱で、扉を開けた瞬間から異質な音楽が流れている、実験的なんだけどどこか居心地の良い空間です。Howie Leeとは私が一方的にファンすぎてずっとFacebookでメッセージをやりとりしていた仲でしたが、実際に会った私に気さくに挨拶してくれました。「日本でのライブが叶って嬉しい」と言い残してブースに入り、Cueボタンを押した瞬間に雰囲気が一変して、まるで別人の様に音楽に集中していたのをよく覚えています。そのセットはおそらく全曲、自身によるエディットだったと思います。とても未来的で、中国の民族楽器とジャングル、フットワーク、トラップ、グライムそしてテクノと繋がれていきましたが、1曲足りともShazamに出てきませんでした。

伝統的な楽器サウンドが、電子音楽と融合されて、ぐちゃぐちゃにMIXされたものなのに、クールにまとまっていて、どれも新鮮すぎて終始踊り叫んでいました。そんな彼と2018年平成が終わるタイミングで共演できるなんて、私にとっては夢のような話なんです。しかも、中国の上海ALLのメンバーまで合流するなんて最高。今後、より日本の音楽シーンがアジアのアーティストとの交流を支持するような雰囲気になると嬉しいです。

 - あなたは、シンガポールに本拠を置くDarker Than Wax(DTW)、上海のSVBKVLT、自身のDo Hits(北京)の3つのレーベルが交流し、イベントの主催やアーティストのブッキングをサポートするmagic triangleの活動をかなり前からしていましたね。少し古い質問かもしれませんが、何をきっかけにこの3人が集まって、何を目標に交流することを始めましたか?今もその活動は続いていますか?

Howie Lee - アジアのアンダーグランドで何が出来るかを模索していた時期だったから何かやってみようっていう試みだね。まだみんな良い友達だよ。長い交友関係がこの3つにはあって、特にインディペンデントという部分で共通していることがたくさんある。SVBKVLTのGazは8年も前から知ってるし、Shelter(現ALL)のころから自分をブックしている。とても近い関係にあるね。Darker Than WaxのDeanはインターネットで繋がり、北京や台湾でもプレイしてもらった。彼はポジティブな人でとても好きだよ。Do Hits自体がそこまでイベントとしてやらなくなったからイベントは少なくなったね。

- Do Hitsは北京のレーベルですが、多くの台湾アーティストがリリースしています。その理由は何ですか? Do Hitsを通して多くの中国アーティストが世界に出ています。今の目標は何ですか?

Howie Lee - 台湾の人が多いのは僕の奥さん(Veeeky)が台湾にいるから。2年間そこで一緒に住んでて。自分達の音を発信する基地としてレーベル自体はすごく楽しかったけど今は休止に近いかな。というのもイベントを北京でやるのも難しいし、なので今は個人の活動に専念してる。

https://soundcloud.com/dohits

- ソウルのSUBBEATとの出会いで何か変わったことはありますか?彼らを通じて、日本や韓国のアーティストの距離が縮まったと実感できますか? 日本ではどなたか仲の良いクルーや界隈はいますか?

Howie Lee - そうだね。SUBBEATは最高だよ!Monday Studio、Dootaeも、Lobotomyもね。ソウルに行くといつもよくしてくれる。日本だとFoodmanだね。台北でプレイした時に僕の家に泊まってるし。あとはDaisuke Tanabeも一緒にギグしたし、みんな良い友達です。

- パートナーのVeeekyさんとの出会いで、自身の音楽活動に何か変化がありましたか?彼女のブランドのSCVの世界観と、Do Hitsのヴィジュアル面と何となく共通するものが感じられます。

Veeeky

Howie Lee - ほとんどのアートワークは彼女の仕事だね。一緒に住んで一緒に働いて、僕はすごく変わったと思うな。お互いがお互いの一部になっている感じがあるね。

- 日本によく来日しているMeuko! Meuko!さんのトレーラー映像を撮影するなど、映像作家としての活動もされていることを知っています。音楽活動とレーベル運営だけでも大変に見えますが、もともと映像編集などはしていたのでしょうか。それとも何か始めるきっかけがあって、ヴィジュアル面にもこだわる様になったのでしょうか。

Howie Lee - ヴィジュアルを作るのは大好きだね。音楽とヴィデオを作ることは全く変わらない。私はDIYが好きだから、何でも自分でやりたがるんだ。映像を撮るのに人を雇ってお金をたくさん払うより自分でやったほうが納得いくし、学ぶことはいつだって楽しいから。

Info


WWW New Year Party 2019 - Parallel Dynamics -
2018/12/31 mon at WWW X / WWW / WWWβ
ADV ¥2,800 | DOOR ¥3,500 | U23 ¥2,500
Ticket outlets RA / iFLYER / e+ / LAWSON / WWW

at WWW X - WHEREABOUT -

Daniel Bell [Accelerate | Detroit]
Yoshinori Hayashi [Smalltown Supersound / Going Good]
STEREOCiTI [Waveguide / Mojuba / Groovement / Berlin]

at WWW - Local DX World -

Special Guest (TBA)
Howie Lee [Do Hits | China]
Nídia [Príncipe | Lisbon]
Foodman - New Year Set -
Yousuke Yukimatsu
LIL MOFO
E.L.M.S.

at WWWβ - 上東 Vol.3 - supported by STUDIO VOICE

33EMYBW - LIVE [SVBKVLT | ALL Shanghai]
Osheyack - LIVE [SVBKVLT / Bedouin | ALL Shanghai]
YonYon
CHANGSIE
Mars89 [南蛮渡来]
Mari Sakura
1017 Muney

https://www-shibuya.jp/schedule/009714.php

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