【インタビュー】No Music | みんながYesと言ってるときにNoと言えること

韓国・ソウルにて、ここ数年爛熟を迎えているアンダーグラウンド・クラブ・シーン。その代表的なパーティーが 新都市 - シンドシというスペースで行われている 『No Club』だ。トラップやヴォーグ・ハウスから、K-POPまで横断するスタイルは、ほかに類をみない。

『No Club』をオーガナイズする No Musicクルーのうち4名(Seesea/Selfie/Cong Vu/DJ YesYes a.k.a. Park Daham)は、今年5月18日に行われた新宿BE-WAVE『めちゃくちゃナイト』とのジョイント・パーティーのために来日、本インタビューはその開催直前に収録されている。現在の韓国クラブ・シーンから社会状況まで、じっくりと語ってくれた。

取材:DJ TASAKA、panparth、misato

通訳:キム・サンウ

構成:panparth

撮影 : Kanghyuk Lee aka Snakepool

panparth - まずは、どのように現在のシーン、そして “No Club” が始まったのか聞きたいです。

Cong Vu - 僕とPark Daham、Sataの3人で、自分たちがかけたい音楽を流すベニューが必要だと思って始めたんです。いろいろなクラブを点々としながらパーティーするのにも疲れてて。そんななか、友達が “新都市” をオープンすることになって、そこを拠点に、定期的にパーティするようになりました。

Cong Vu

Seesea - Cong Vuはそれ以前からフットワークのDJをしてたけど、新都市が出来る前は、そういう音楽をかけられるクラブがCakeshopくらいしかなかった。

TASAKA - その自由さは、新都市がソウルの歓楽街から離れた、乙支路三街(ウルチロサンガ)にあるというのも影響してるのかな?

Cong Vu - そうだと思う。ソウルのなかでも、江南(カンナム)と乙支路では人の構成が異なるし、クラブがたくさんある梨泰院(イテウォン)や弘大(ホンデ)と、乙支路三街まで来る人のライフスタイルも別。例えば弘大にはいろんな店があるけれど、乙支路三街は、ほかに出来ることがあまりない。わざわざそこまで来る人のテンションって全然違う。特別なところ。

TASAKA - ソウル以外の地方でDJすることはある?

Selfie - 例えば大邱(テグ)とかにもヒップホップやテクノの大きなクラブはあって、やったことあるけど、人はあまり来なかった。最近はアンダーグラウンドなシーンも出来てるみたいだけど。

Selfie

TASAKA - 4月にNo ClubでDJした時に印象的だったのが、ダンスフロアで女の子がすごく元気なところ。東京でもベルリンでも、あんな様子はいままであまり見たことなくて。

Seesea - No Clubのメンバーに女性が多いからかな。

Selfie - もっと多くの女性を呼びたいなと思っていたら、自然とそうなっていった感じ

TASAKA - SeeseaとSelfieは、同時期にDJを始めたの?

Seesea - 3年前くらいにMIIINというDJと、なんで女性がやってるパーティがないのか、という話をして。じゃあ自分たちで始めようと思って “BICHINDA” (ビチンダ)を結成した。それからさらに多くの女性DJが活動できるようにしたいと思って、DJのワークショップを開いたの。そこに、まだブレイクする前のYaejiも来てたり。

panparth - そうなんだ!

Seesea - YaejiがみんなにDJの仕方を教えてた。そのワークショップにSelfieも来て。

Selfie - でも私はDJがやりたかったわけじゃなくて、友達がみんなやってるから気になって行っただけ。でも気付いたらこうなった (笑)

Seesea - NG.AEも来てた。その後、Park DahamとCong Vuに「一緒にやろう」って誘われて、『No Club』を始めるようになった。

Seesea

Cong Vu - 最初の頃僕はフットワークをかけてたんだけど、それだけ流しててもお客さんがつまらないだろうなと思って、パーティごとにテーマを決めるようになったんです。

TASAKA - 例えばどんなテーマ?

Cong Vu - 今回はNew Orderばかり流すとか (笑)。あるとき、ちょうどSM Entertainmentのグループばかり聴いてたので、K-POP縛りでやってみようということになったんですけど、そのときの雰囲気がすごく良かった。オーディエンスが魂から反応していると思った (笑)。それからK-POPもかけるようになって。

TASAKA - K-POPも流れるパーティって、ソウルでは珍しいのかな?

Selfie - ゲイ・クラブではよく流れてる。あとは『アジョシ(親爺/おじさん)・クラブ』的なところ。最近の若い子は、わざわざそういう場所に行ったりしてる。

TASAKA - Seeseaはよくポンチャック(※注1)もミックスしてるよね。それまでに似たような選曲をしてた人っていたのかな?

Seesea - Tigerdisco(※注2)は前からポンチャックをかけてたみたい。私の場合はアシッド・ポンチャックーーもっと狂ったことをやりたいと思ってる。昔、韓国の観光バスでは、走ってる車内でポンチャックをかけて踊る文化があったんです。主婦たちが集まって、ピクニックに行くとか言って、ホントの目的はバスのなかで踊ること (笑) 。90年代くらいに禁止されちゃうんだけど。

DJ YES YES

panparth - Seeseaは、プライド・パレードでもDJしてますよね。いまの韓国社会の動きは、みなさんにとってどう映ってますか。大統領が罷免されて代わったり、ここ数年で大きく動いていますが。

Seesea - 朴槿恵が罷免されたその日に、Cong VuはDJの冒頭で、そのときの裁判所の録音を流してたね。

Cong Vu - うん。

misato - その頃、 新都市”のパーティで少女時代の “Into The New World” を合唱して泣いてる子がいたのをInstagramで見たんです。いまの世代の子たちにとって世情の歌になってるんでしょうか。

Cong Vu - 色々な経緯があって罷免に至ったわけだけど、そのなかでもきっかけとして大きかったのは、梨花女子大学で始まったデモ(※注3)でした。そのときに学生たちが歌ったのが、いままでの運動にあったような民衆歌謡ではなく、少女時代の “Into The New World” だった。だから 新都市”でもプレイしたんです。

TASAKA - 5月頭のTokyo Rainbow PrideでSeeseaがDJで来たときに『日本でのLGBTプライドのアンセムってどんなのがあるの?』って聞かれた時も思ったんだけど、日本の歴史上、ポップソングが何かのムーブメントの象徴になったことってあまりないんだよね。あったほうがいいな、作れたらいいかもなって。

NG.AE

Cong Vu - そういう曲は、来るべき時になったら出てくると思う。誰かの意図とは関係なく、時代を象徴する曲は現れる。

TASAKA - “No Club” “No Music” という、パンクっぽい否定の “NO” を掲げるのはなぜ?

Cong Vu - 僕が名付けました。Daham(DJ YesYes)とメッセージをやり取りしてると、いつも『この人がイヤだ』とかそういう話ばかりで (笑) 。音楽をやり続けるのって大変なことも多いし、いろんなしがらみと関係なくやりたいと思って。つねに考えているのは、みんながYesと言ってるときにNoと言えること。

KISEWA

Seesea - 私、いま初めて由来を聞いた (笑)。タワーレコードのキャッチコピーから取ったんだと思ってた (笑)

misato - 『No Music』のみんなは、DJ活動のかたわら、ほかの仕事をしているんだよね。Selfieちゃんはアクセサリーブランドの “Seoul Metal” 、Seeseaちゃんは家具の制作をやってるし、ほかにもトラックメーカーだったりレーベルオーナーだったり。そのなかで、どれをメインとして捉えてますか。

Jaehwan Lee (Designer)

Seesea - もちろん、お金が発生するのがメインだと思ってます (笑)

Selfie - それが私にとっては “Seoul Metal” 。職人として何かを作り出すという意味では、DJと同じ感覚かもしれない。

Seesea - 私は、普段の仕事をしている自分とDJは完全に分けてる。“Seesea” は家具を作らない (笑)

TASAKA - じゃあ最後に。NO CLUBをこれからどうしていきたいですか? 今後の展望とか、呼びたいゲストとか。俺はSeeseaと曲作りたい!

Kanghyuk Lee aka Snakepool (Photographer)

Seesea - おー!

Cong Vu - 僕が考えているのは……もしほかに、いまのクラブで活動できなくて、僕らに合う人がいたら、No Clubでデビューできるようにしたい。ほかに望んでることはないかな。

Seesea - いまソウルに呼びたいのは、大阪の行松陽介(注4)

DJ YesYes - うん。

Seesea - あと韓国の市場にいる “ポドゥリ” 。50くらいのおばあさんなんだけど、太鼓を叩きながらラップをするんです。YouTubeに映像がたくさんあるから、見てみて。

Playlist by No Music

Selfie

1. Dat Oven - "Icy Lake (Original Arena Mix)"

2. Sega Bodega - "Nivea"

KISEWA

3. FineArt & My Nu Leng - "Border"

4. DJ Zinc - "Voodoo"

NG.AE

5. Faizal Ddamba Mostrixx - "Ancestral Match"

6. T5UMUT5UMU - "Astral Tokyo"

Seesea

7. Johann Electric Bach - "無限的李榮杓 feat. Drake (무한적이영표; Leemitless)"

8. 잘못된 만남 (busya goangoang medly) - "박태준"

Cong Vu

9. BLACKPINK - "뚜두뚜두 (DDU-DU DDU-DU)"

10. (G)I-DLE - "LATATA"

DJ Yes Yes

11. 坂本慎太郎 - "まともがわからない"

12. Minchanbaby - "これが本当の"

(※注1)韓国で生まれた中高年層向けの大衆音楽。チープなリズムボックスが鳴る上で、さまざまな曲が歌われるスタイル。日本でも90年代から、電気グルーヴによる紹介などで知られるように。

(※注2)すでに「めちゃくちゃナイト出演のために3度来日しているソウルのDJ。韓国や世界各地のディスコ、シティポップ、ファンクなどをmixしている。

(※注3)2016年、梨花女子大学内の経営陣による生涯教育支援事業に反対するためのデモが発生。朴槿恵元大統領の共犯にあたる崔順実(チェ・スンジル)の娘、チョン・ユラの不正入学疑惑にも繋がり、大統領の弾劾に至る大規模な運動に発展する。

(※注4)このインタビューの後、7月15日に 新都市で開かれたパーティで “No Music” のメンバーと共演。

RELATED

【インタビュー】PRIMAL『Nostalgie』 | ラップは自己主張

PRIMALは、00年代の国内のインディ・ラップの興隆を象徴するグループ、MSCのオリジナル・メンバーだ。私はかつてPRIMALのラップについてこう記した。「いくつもの問いがあふれ出しては、彷徨っている。そのことばの放浪が、PRIMALのフロウの核心ではないかと思う。(中略)脳内で延々とループする矛盾と逡巡が、オン・ビートとオフ・ビートの狭間でグルーヴを生み出し、独特のリズムを前進させる。目的地を定めないがゆえのリズムのダイナミズムがある」。 1978年生まれのラッパーの14曲入りのサード・アルバム『Nostalgie』を聴いてもその感想は変わらない。声音やフロウのキレには驚くほど衰えがない。そして、労働者、家庭人、ラッパーという複数の自己のあいだで生じる葛藤や懊悩を豊富な語彙力を駆使していろんな角度からユーモラスにラップする。リリックもライミングも相変わらず支離滅裂で面白く、若いころにハードコアで鳴らしたラッパーの成熟のあり方としてあまりにも特異で、それが本作の最大の魅力だ。 彼は、2007年に『眠る男』、2013年に『Proletariat』という2枚のソロ・アルバムを発表、『Nostalgie』はじつに12年ぶりのアルバムとなる。2016年に東京から移住した釧路/札幌で制作された。札幌のヒップホップ・グループ、Mic Jack Production(以下、MJP)のビートメイカー、DOGG a.k.a. DJ PERROやHalt.、あるいはMichita、ながさきたけし、荒井優作らがビートを提供、YAS I AM、MAD KOH、RUMI、漢 a.k.a. GAMI、BES、SAWといったラッパーが客演で参加している。カヴァーアートは、MSCのメンバーで、グラフィティ・ライターのTaboo1が手掛けた。 このインタヴューは、PRIMALと、彼の盟友、漢の対談動画の収録直後に、ふたりと仲間が青春時代を過ごした東京・高田馬場の居酒屋でおこなわれた。PRIMALはいま何を考えているのだろうか。

【インタビュー】SEEDA『親子星』| お金にしがみつかず輝く

日本のヒップホップ/ラップ・ミュージックでは近年も充実したアルバムの発表が続いているが、一方、リスナーが世代で二分化される傾向も感じる。

【インタビュー】Mndsgn | 音楽はただ生きてることの副産物

LAのビートシーンを代表するアーティスト、Mndsgn(マインドデザイン)

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。