【インタビュー】Rex Orange County | 僕の歌っていることは全部自分の知っていること

日本でもその名前を聞く機会が多くなったアートスクールの名門ブリットスクール。AdelleやKing Kruleなどをはじめ、FNMNLでも取り上げたLoyle CarnerやTom Mischなどの人気アーティストを生み続けているブリットスクールから、またも新鋭が世界に羽ばたいている。

20歳のAlex O'ConnorによるプロジェクトRex Orange Countyは、ソウルやポップ、AORから現在のヒップホップまでに通じるキャッチーかつ爽快な音楽性で高い注目を集めている。Tyler, The CreatorやChance The Rapper & Social ExperimentのPeter CottonTaleの楽曲にも参加するなどUSのアーバンミュージックシーンでも大きな注目を集める彼は、今年SUMMER SONICで初来日を行う。

来日を前にFNMNLのインタビューに答えてくれたRex Orange Countyは、ブリットスクールについてや、影響を受けたアーティストなどについて答えてくれた。

質問・構成 : Hironori Hayasaka

通訳 : Mariko Kawahara

- あなたはイギリス生まれですが、ステージネームのRex Orange Countyにはアメリカの地名であるOrange Countyが入っていますが、なにか理由があるんですか?

Rex Orange County - これは僕の名字であるO’Connor(オコナー)と関係しているんだ。イニシャルがOCだし、『THE O.C.』というオレンジ・カウンティを舞台にした(アメリカの)テレビドラマもあるんで、そのことについてなんだよ。

- あなたは17歳で、Rex名義でデビュー・アルバム『Bcos U Will Never B Free』をリリースしていますが、やはり幼少期から音楽が好きだった?また幼少期はどんな子供でしたか?

Rex Orange County - 音楽は好きだったよ。学校で楽器を弾いていたし、音楽の授業が楽しみだった。だから、音楽は昔から好きだったんだ。他の科目には興味がなかったけど、ドラムといった楽器のレッスンを受けられるようになると興味を示すようになった。ピアノのレッスンはかなり小さい頃に短期間受けていたけど、その後学校で歌ったりドラムを叩いたりした。ピアノも弾いていたけど、その後は独学だったね。とにかく、常に楽器に興味があったし、音楽を聴くのが大好きだった。ポップ・ミュージックもソウル・ミュージックも、当時聴いていたものは何でも好きだったよ。覚えていないけど、何でも好きだった。

- 音楽一家だったんですか?

Rex Orange County - イエスでありノーでもある。確かにうちの家族は音楽に対してオープンでね、祖父はシンガーで、GILBERT & OSULLIVANのオペラとかを歌っていた。姉はクラシックを歌っているし、チェロを弾いている。音楽の勉強をしたんだ。父親はピアノを弾くし。みんな音楽に対してオープンだけど、別にロック・スターの親戚がいたとかいうわけじゃなくて、単に独学でやっていたんだ。学校でドラムを叩いたり、友達と一緒にバンドを組んだりしていた。ドラムで知りたいことをいろいろ覚えていたんだ。作曲自体は誰からも学んでいないよ。学校でも教わらなかったし。単に、他のソングライターの音楽を聴きながら学んだだけさ。あと、ピアノでコードを弾いたりして、独学で学んだんだよ。

- そして、あなたはブリットスクールに入学したわけですが、具体的にはどのようなことを学んでいるんですか?

Rex Orange County - 音楽を。僕はしょっちゅうドラムを叩いていたんで、ライヴをやらないといけなかった。理論も学んだし、音楽関連の他の科目も勉強した。自由に音楽をやることが出来たんで、良かったよ。

- どういったタイプの音楽をやっていたのですか?

Rex Orange County - いろんなテーマの下にライヴの準備をしていたんだ。テーマはある年代の音楽だったり、あるアーティストの音楽だったりした。ポピュラー・ミュージックをかなり教わったけど、ワールド・ミュージックやエスニック・ミュージックも教わった。かなり幅広かったから、勉強するにはいいところだ。あまり学校って感じじゃなかったな。僕には合っていたよ。

- ブリットスクールからはAdeleやKing Kruleなどイギリスを代表するアーティストが生まれていますが、他の学校と比べてなにが良いのでしょう?たくさんいいアーティストが生まれる秘訣はなんだと思いますか?

Rex Orange County - 理由はわからないな。なぜなんだろうね。僕を含めてあそこに行った人達は、特にレコード・レーベルを紹介されたわけじゃないんだ。スーパースター養成学校というわけではないんだよ。ただここの卒業生に共通しているのは、やる気があって、ちゃんとしたヴィジョンを持っていて、自分で曲が書けることなんだ。そしてそれを生かしてくれる人を見つけて、素晴らしい活動をしているんだな。でも、なぜそういう人達がブリットから出て来るのか、他の学校と比べてブリットのどこが良いのか、僕にはわからない。要は単なる学校であって、映画『FAME』みたいなのとは違う。僕には合っていたし、他の人達にも合っていたのさ。

Loving Is Easy - Press Shot

- ちなみにあなたはまだ20歳になったばかりですが、ご自身の経験が曲作りに生かされることはありますか?例えば、恋愛とか?

Rex Orange County - もちろん!僕が言っていることは全部、僕が知っていることなんだ。他人の気持ちになって語るのは難しいよ。僕自身の気持ちを語る方が楽だもの。

- そして、2017年には早くも2ndアルバム『Apricot Princess』をリリースしました。あなたの楽曲は“Television / So Far So Good”などを筆頭に、どこか懐かしい雰囲気をもった楽曲が多いように感じます。

Rex Orange County - 僕が聴いている音楽のほとんどはクラシック・ポップ・ミュージックで、これは息の長いものだからじゃないかな。僕に影響を与えた人達の音楽が当時のものだったから、懐かしい気がするんじゃないかな。わからないけど、そういうことだと思う。

- 曲作りの際に、影響を受けているアーティストというと?もしいたとしたらどのように影響を受けている?

Rex Orange County - 『Apricot Princess』について言うと、Stevie Wonderの曲からの影響が大きいんだ。彼のサウンドや作曲や楽器編成に関してだよ。曲によっていろんな楽器が使われていて、まるで旅のようだ。彼のアルバムはたとえ10曲でも、クレイジーな5分間の曲ばかりで、どれも違っていた。音楽のリリースの仕方やサウンドという点で、彼から多大な影響を受けている。すごい影響を受けているから、アルバムにはいろんなサウンドの曲が入っている。彼以外だったら…。僕の大好きなアーティスト全員の音楽のリリースの仕方や、彼らが僕にとっていかに素晴らしいかを受け止めて、彼らを見習っているのかな。僕がベストだと思ったサウンドにしようと心がけたんだ。僕にはベストなサウンドに聞こえたよ。

- 最近の音楽は聴かないのですか?

Rex Orange County - もちろん聴くさ。新しい音楽だってよく聴いているよ。みんなが頑張っているのは素晴らしい。とってもインスパイアもされるから、きっと影響されているんだろう。以前も影響されていたのかもしれないけど、今の方が新しめの音楽に間違いなく影響されているね。

- 例えば誰ですか?アーティスト名を挙げていただけますか?

Rex Orange County - もちろん。Kendrick Lamar、Young Thug、Tyler, The Creatorといったラッパーとか。別に僕がラップを始めようとしているわけじゃないけど、彼らの表現方法やハーモニーがいいんだ。彼らが使っているコードの中から僕がいいと思ったものを使ったりしているし、彼らのエナジーを取り入れているのかな。

NME Under The Radar

- Tyler, The Creatorの名前が挙がったところで、彼のアルバム『Flower Boy』に参加したことも話題になりましたね。このコラボはどのように実現した?

Rex Orange County - 彼からメールをもらったんだ。自己紹介して、彼が聴いた僕の曲について説明してくれた。それでしばらく2人で話していたら、彼が今取り組んでいる曲に参加してみる気はあるかと彼が言ったんで、結局僕はそっちへ行ってやることになったんだ。素晴らしい経験だったよ。彼は本当に素晴らしいヤツだけど、当時の僕にとってはクレイジーなことだった。アーティストとして知っていた人に初めて出会ったんだからね。素晴らしかったよ。

- 実際に、彼と会って作業したんですか?それとも、ファイルを交換したとか?

Rex Orange County - いや、2年前の8月に実際に会ったんだ。LAで3〜4日間一緒だに過ごしたんだよ。ヨーロッパを離れて1人で飛行機に乗ったのはその時が初めてだったけど、一緒に作業したんだ。

- 最近ではSocial ExperimentのメンバーPeter Cottontaleの楽曲に、Chance The Rapper、Daniel Caesarとともに参加していますよね。このコラボはどうでした?

Rex Orange County - あれは良かった。以前、僕とマネージャーでSocial ExperimentとChance The Rapperについて話をしていたんだ。その後、彼らがロンドンにいるという話を誰かから聞いたんだ。彼(Chance The Rapper)は確か『Wireless』に出ていて、Social Experimentはスタジオをブッキングしていて、特になんのためということもなく音楽を作っていて、新しいアーティストを探しているということだった。それで僕が行って、Social ExperimentのNicoとPeterに会ったんだ。彼らはたくさんの音楽に取り組んでいて、そのうちの1曲が“Forever Always”だった。彼らに僕の曲をいくつか聴いてもらったんだ。その時はわからなかったけど、どうやら彼らはそれを気に入ってくれたみたいで、この曲をやりたいかと訊かれたんだよ。なんのためだかわからなかったけど、とりあえず行ってレコーディングしたんだ。2時間で自分のリード・パートとハーモニー・パートをレコーディングして帰ったんだよ。そしてそれから約1年後に、曲が送られて来たんだ。1年も経っていないかもしれない。自分が本当にフィーチャーされていたなんて知らなかったけど、それから1週間後にリリースされたんで嬉しかったよ。

- ヒップホップやR&Bのような自分とは違うジャンルのアーティストとコラボすることで得られたものはありますか?

Rex Orange County - あるよ。あの曲に参加出来て嬉しかった。さっきも言ったように、当時はなんのためだったのかわからなかったけど、結局あの曲に参加したんだな。僕は常にオファーに対してオープンだ。彼らの音楽を好きだったら、コラボするだけの価値はあるもの。

- ファッションについてもうかがいます。FNMNLは音楽だけでなくファッションについても発信しているので。ファッションについて心がけていることなどありますか?

Rex Orange County - ファッションは好きだよ。そんなにこだわってはいないけど、きちんとした身なりにすることは心がけている。好きなブランドは…。Evisuジーンズが大好きなんだ。最近ハマっている。日本のメーカーだってことは知っているよ。若い頃からSupremeといったブランドが好きだったけど、最近は…。靴はNikeが多いな。スニーカーではNikeがお気に入りなんだ。Levi’sも履くし。Eagleも結構着るし。とにかく、きちんとした身なりでいたいんだ。

- Summer Sonicで来日しますが、今回が初来日になるのでしょうか?

Rex Orange County - そう、すごく楽しみにしているんだ。

- あなたはデビュー・アルバムで“Japan”という曲を作ってますよね。

Rex Orange County - あれは僕があのアルバムの曲作りをしていた時のことで、確か元々は“You”とかいう至ってシンプルなタイトルの曲だったけど、そういうタイトルにするつもりはなかったんで、別のタイトルに変えたかったんだ。それでたまたま、あのタイトルにしたんだよ。特に日本と関連した曲じゃないんだ。

- では、日本についての曲ではないんですね?

Rex Orange County - ああ、違うよ。単に差し替えたタイトルがたまたまそれだったんだ。僕はいつだって、自分が行きたい国をタイトルにしたかったけど、当時は日本に興味があったんだな。

- 日本に来たら、ライヴ以外に何をしたいですか?

Rex Orange County - 色んな都市を観たいよ。コーヒーを飲むところで、クラシック音楽を大音量でかけているところがあるって聞いたことがあるんだ。なんて言うところだか覚えていないけど、なんか素晴らしそうじゃないか。誰とも話をせずに音楽を聴いてコーヒーを飲むなんてさ!

- レコード喫茶ですね(笑)確かにそういう場所は存在します。

Rex Orange County - 時間があったらそこに行ってみるかもしれない。

- 今日はどうもありがとうございました。

Rex Orange County - こちらこそ、どうもありがとう。

Info

Apricot PrincessRex Orange County『Apricot Princess』

7/20(Fri) on Sale
LABELS:  Beat Records
国内盤CD  2,000円(+税)解説・歌詞対訳冊子封入

入手困難だったカラー・ヴァイナル仕様のアナログ盤も7/27(金)に発売

商品ページ

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