【インタビュー】Moses Sumney | ひとつだけじゃ足りない

LAを拠点とするシンガーソングライターのMoses Sumney。両親が宣教師という家庭で育った彼は、幼少期をガーナで過ごし、その後アメリカに帰国し、多重録音を駆使した音楽制作をスタートする。

R&Bやソウル、ゴスペルなどに加えカントリーからの影響を受けた彼のサウンドは大きな注目を集め、2014年にデビューEP『Mid-City Island』を、2017年にはBon IverやUnknown Mortal Orchestraなどを擁するインディーレーベルJagjaguwarと契約を果たし、デビューアルバム『Aromanticism」をリリースした。

そして6月に東京・キリスト品川教会グローリアチャペルで初来日公演を、自身のルーツにもなっている教会という特別な場所で敢行、ライブ前の彼に話を聞くことができた。

取材・構成 : 和田哲郎

- 来日公演は教会で行われますね。あなたはもともと教会に通っていたと思いますし、ビデオにも教会が登場しますが、教会はあなたにとってどういう場所ですか?

Moses Sumney - 両親共に宣教師だから、教会育ちなんだけど、教会で音楽を演奏するなのが好きなのは別に宗教的な理由ではなくて、静かな感じが好きなんだ。

- お父さんは牧師で教会を作るためにアメリカに渡ったそうですが、家庭自体は厳しくはなかった?

Moses Sumney - 結構厳しかったけど、厳しすぎるってほどではなかったよ。いわゆる皆がイメージするような牧師さんの家庭ほどの厳格さではなかったよ。音楽はゴスペルかレゲエがかかってたね。

- 子供の時に聴いていて、印象的だったアーティストは誰ですか?

Moses Sumney - 親はKirk Franklinをよく聞いてたね。僕は子供の頃はカントリー一色だったよ。10歳くらいまでGarth BrooksとかFaith HillとかRandy Travisとかばっかりだったね。

- カントリーミュージックのエッセンスはあなたの楽曲によく現れていると思うんですけど、子供とカントリーミュージックってあまり結びつかないイメージがあります。

Moses Sumney - 家族も友達もカントリーミュージックを聴いていなかったから、なんで惹かれたんだろうね(笑)ラジオで聞いてたんだよね。

- あなた自身静かな子供だったっていうのも影響してますかね。

Moses Sumney - 静かでシャイな子供だったよ(笑)。あまりしゃべるほうじゃなかったね。しゃべるよりも書く方が好きだよ。

- その時から曲を作るというより、とにかく曲を書いていたと別のインタビューで読んだのですが、それは歌詞だけを書いていたのか、もしくは実際どういう曲にするかみたいなスケッチがあったんですか?

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Moses Sumney - 楽器が全然弾けなかったから、歌詞を思い浮かぶままに書き留めつつ、頭の中では音が全部鳴ってたよ、ただそれを音符で書き留めるってことはできなかったね。歌詞として自分の曲をイメージしながら覚えていられるように書いておいたって感じだね。

- 頭の中で鳴っていた曲は、今のあなたの曲とつながっている部分はありますか?

Moses Sumney - ないね(笑)当時のものはもっとポップだったよ。割とトラディショナルな曲作りに基づいたバース、コーラス、ブリッジみたいな構成の曲だった。結構R&Bみたいな曲とかロックっぽい曲も作ったりしてたけど、比較的わかりやすい、聴いた人が呑み込みやすい音楽だったんじゃないかな?

- 10歳の頃、ガーナに引っ越して6年間過ごしているときに結構アメリカのポップミュージックを聴いていたそうですが、ガーナの6年間は今の自分にとってなにかフィードバックをもたらしている?

Moses Sumney - ガーナにいる間もずっとアメリカの音楽ばかり聴いていたから、僕が作っている音楽には伝統的なガーナの音は表れてないと思う。地元の音楽を聴いていなかったからね。

- 離れてしまったからこそ、よりアメリカ的なものが強調されていると?

Moses Sumney - ないものねだりってやつだよね(笑)

- アルバムのテーマは「愛の欠如」ですが、ミュージックビデオでも愛から自由になりたい、束縛されないためのものっていうふうにおっしゃっていて、愛を多面的にとらえている感じがします。

Moses Sumney - つまりは、こういうことに気付いたってことなんじゃないかな。要するに、愛っていうのは色々な形で存在し得るけど、全く存在しなくなることもあるっていう。

- なるほど。それは個人的な経験として?もしくは社会全体として愛が足りないと思いますか?

Moses Sumney - 両方だね。

- 最近、そう感じた瞬間はありますか?

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Moses Sumney - 要するに僕は観察する立場なんだと思う。世の中にはラブソングが沢山あるけど、僕からするとそれぞれのラブソングに複雑みが欠けるなと思っていて、惚れちゃいました、別れましたっていう両極端な曲が多いけど、その狭間にある愛とか、愛するってものの許容力とか愛する能力とか愛せない無能な感覚とか、そういうところを掘り下げると、そのポピュラーな音楽の中においてもより幅広い愛にまつわる会話ができるんじゃないかと思ったんだ。人々は色々な形で愛というものを経験しているから、恋しちゃいました、だめでしたっていうだけではないっていうところを掘り下げたくなったんだよね。

- なるほど。実際、曲を作るときも自身の経験を反映させることが多いですか?

Moses Sumney - 自分のことや自分たちの生活に起きたことではなかったとしても、周りの人の経験だって自分たちとつながっていると僕は思っているから、たとえ個人的な話ではなかったとしても、僕が書いていることは全て自分に何かしらの形で関わっているストーリーだと思って曲を作っているよ。

- 楽曲制作に関してなんですけど、特徴的なものとして多重録音があげられると思います。全て独学で学んだそうですが、そういうスキルを学ぶモチベーションっていうのはなんだったのですか?

Moses Sumney - 生きていくために必要だと思ったからね(笑)。歌もちゃんとならったことなかったけど、高校で合唱隊に入って、そこでハーモニーとか合唱っていう概念は学んだよ。自分もその動機付けみたいなものはわからないよ。人は好きになったらやるでしょ?好きだからやりたいってそれだけだったと思う。そこは理性というより直感だったね。

- アルバムのジャケットに頭がなかったり、他のシングルのジャケットも顔が隠れていますよね。頭部は理性を象徴していて、人間を人間たらしめている部分でもありますが、時に理性が邪魔になる場合もありますよね。そういった考え方をこのビジュアルは反映させていると思います。一方頭がなくなったら人は死んでしまうわけで。

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Aromanticismのジャケット

Moses Sumney - 言っていることはすごく分かるよ。僕が考えてたことそのものではないとしても素晴らしい解釈だよ。僕自身の解釈と違っていても全ての解釈は本質だし、本当だし、真実だと思う。ただ、自分の顔を出さなかった理由っていうのは自分でもはっきりわからない。ただ、なんか顔を出したくないっていう思いと自分の作ったアートに自分の顔を出すっていうのが僕はトゥーマッチな気がしてしまうんだ。そういう意味で今まで隠れてきたわけなんだけど、この作品に関して言うと、親密感みたいなものが1つのテーマでもあったので、人間の体、フィジカルさをそこに出すことは、そのアルバムが持ってる親密性とつながると思う。だけどそこに頭まで出してしまうと、作った人の人格、人間性とあまりにも直結してしまうから僕としては親密感を訴えつつ、作った人間との距離感を出したいというところでこのアートにおいては頭だけ見せない、肉体性は出しつつ頭は出さないっていう形を取ったんだと思う。

- なるほど。あなたの作り出していくものは、親密感と距離とか二面性を感じます。別のインタビューでも、音楽を作るときは天国を想像して書くけど、歌詞を書くときは地獄を想像して書くって答えているのを読んだんですけど、それも二面性じゃないですか。常に昔から、物事を二面性、多面的にとらえる側面っていうのはあったのですか?

Moses Sumney - 二面性っていうのは意識しているよ。ひとつだけだとなんか足りないんだよ。少なくとも2つ、時にはもっと必要だね。自分のアートにおいても、生活においても、とりあえずラブというのがまずあるとすると、ラブがない状態とラブがある状態、それも2つの世界だし、天国的な世界と地獄的な世界、喜びと悲しみ、こういうものって共存しているというよりかは分かち難いものだと僕は思っているから、当然そこは多面になるよね。

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- わかりました。James Blakeなど様々なアーティストとコラボしてきたと思いますが、今後誰かひとりコラボレーションしたい人がいたら最後に教えてください。

 

Moses Sumney - 他の人と一緒に仕事をするの好きなんだよね。勉強になるし、新しいこと常に学べるしね。誰かひとりだとAnimal CollectiveのPanda Bearかな。

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