夢を叶えるTy Dolla $ignの言霊

Wiz Khalifa率いるTaylor Gang Records所属のシンガー・ソングライターTy Dolla $ign(以下“Ty$”)が、地元LAのラジオ局Real 92.3の番組『Big Boy's Neighborhood』に出演した。10月27日にアルバム『Beach House 3』(以下“BH3”)をリリースしたばかりのTy$は、休む間もなくJeremihとのコラボ・アルバム等の制作活動に励んでいる。しかし、この日は終始リラックスした様子で、憧れのJohn Mayerとの共演やいくつかのプライベートな事柄、そして“Beach House”というタイトルの由来と哲学について語ってくれた。

一番好きな曲は“Famous”

BH3で特に気に入っている曲を尋ねられると、Ty$は迷いながらも、同作で1曲目に収録されている“Famous”を挙げている。アコースティック・ギターとボーカルのシンプルな構成に加え、その主題も気に入っているようだ。

「みんなも共感できるだろ。周りの(有名)人を見て、『クラブに行ってボトルを空けたい、Instagramに写りたい』みたいな。落ち着け、お前はいつもどおりでいいんだ、真似しなくたっていいんだよって。」

なお、同曲以外にもBH3には“Famous”と付くトラックが5つあるが、これらの制作過程ではパーソナルにならなければならなかったため、作るのが難しかったことも打ち明けている。

憧れのJohn Mayerとの共演が実現して

“Famous”には、Ty$が長らく共演を切望していたシンガーソングライターのJohn Mayerが参加している。彼とはInstagramを通じて繋がり、アナハイムでの公演の翌日に連絡しスタジオに来るよう打診したところ、「向かってるよ」という返事が返ってきたという。セキュリティも帯同せず一人でスタジオに現れたMayerは、「お金は要らないからもっとやろうぜ」といった具合に気さくだったそうだ。

さて、Kevin Gatesのごとく2つの携帯電話(うち1つはプライベート用で、交際相手のLauren Jaureguiが壁紙)を持つTy$は、BH3に収録されている楽曲“In Your Phone”に因んだゲームをすることに。携帯電話に関する4つの要求(誰かに電話を掛けさせよ、テキストの会話を公開せよ、有名人の誰かに電話せよ、秘密の写真を公開せよ)が書かれたルーレットを回し、John Mayerとのテキストの会話を公開することになった。以下がその内容である。

Ty$「ありがとう、ブロ。アルバムが出たよ。クソ、あんたが俺のファッキン・アルバムにいるなんて未だに信じられない」

JM「ありがとう、ブロ」

Ty$「俺が必要なときはいつでも力になるぜ、G」

JM「これ、誰?」

というのはパーソナリティーのBig Boyの冗談で、

Ty$「俺が必要なときはいつでも力になるぜ、G」

JM「もう聴いてるよ。ビーチの効果音がすごくいいね(LOVE THE BEACH SOUND EFFECTS)」「なんて素晴らしいんだ。俺の実績にようこそ。誘ってくれてありがとう。こんな素晴らしい(GREAT)音に加われて最高だ。おめでとう。時間を掛けた価値があったよ」「どんな気分?」

Ty$「最高だよ、ブロ。超ハイだし、みんなが気に入ってくれてる」

John Mayer以外にも、前作『Free TC』に引き続き多数のゲストを迎えている今作だが、それだけの客演を集めたことについては、次のように話している。

「全部、愛なんだ。音楽を作ってる俺の好きな人に絞って集めただけ。『あいつは今ホットだから』とか、タイミングで選んだんじゃない。俺が好きな人とやっただけだよ。」

多作はYGの影響?

「いつものようにクラブで100本ボトルを入れたぜ」という“Blasé”のフックとは裏腹に、パーティーやクラブは好きでなく、とにかく音楽を作っていたいというTy$。そんな彼は、キャリア初期に犯した失敗として、自らの音楽をラップトップで眠らせてしまったことを挙げている。そして、その間違いに気づかせてくれたのはYGだったのだという。

「YGが『クラブに行ってパフォーマンスしようぜ』とか、『パーティーに行こうぜ』とか言ってきて、俺はクラブもパーティーも嫌いなんだけど、(中略)“Toot It And Boot It”が出て、YGは1曲で1万ドルとか稼ぎ始めたんだ。でも俺に入ってきたのは400ドルだけだった。俺には娘がいて、その母親に『どういうこと? 音楽は売れてるけど、お金は?』って言われて、母さんにも同じことを言われたんだ。だから、どこかでやり方を変えなきゃいけなかったんだよ。」

客演も含めて多くのヒット曲を持つ印象のあるTy$だが、多作になった背景にはこのようなエピソードがあったのだ。以来、頭の中にある音楽は出し惜しみしないことを心がけているようだ。

フットボールには苦い思い出

ワーカホリックなTy$も、海外に行くことは「音楽をやっていなければできなかった経験」として楽しんでいるようだ。これまでに行ったお気に入りの場所としてはクロアチア、ジャマイカ、ハワイを挙げており、今年12月には初めてアフリカに行くのだそう。旅行先では写真を撮ったら引きこもりたいというインドア派なBig Boyとは対照的に、アウトドアを楽しんだり、スノーボードに興じたりすることを話し、アクティブな一面を覗かせるが、アメフトには苦い思い出があるのだそうだ。

「(スポーツは)野球を少しかじったのと、フットボールを1試合だけやった。誰かが空中でタックルしてきて、ポールか何かまでぶっ飛ばされたよ。フットボールはクレイジーだ。」

アメフトと同様にバスケットボールも苦手であることを明かしているが、12歳の娘がバスケットボールをやっており、試合の応援には毎回駆けつけているのだとか。

夢を叶える言葉

今作BH3だけでなく、Ty$はこれまでに“Beach House”と名の付く作品を複数リリースしている。その名前の由来について、以下のように語ってくれた。

「子供の頃、俺と弟と妹はよく両親と一緒に車で出かけて、パロスベルデスっている小さなビーチ・コミュニティーに行ってたんだ。そこに行っては丘に登って、両親が目をつけてる小さな土地を見つけた。そこで俺はよく空想の家の話をしたんだ。母さんも『キッチンはここね、ここなら山も夜景も海も見えるから』なんて言ってた。俺らは1階建てのアパート育ちだから、2階に上がりたいなんて話してたんだ。でも13か14の頃に両親は離婚しちゃって、母さんと一緒に住んで、母さんが父さんを悪く言うから父さんのことが一時期嫌いで、何年も話してなかった。でも、そのビーチに家を持つっていう夢がずっと頭に刻まれてたんだ。音楽を始めた時は、本当に、多くの人は俺が成功するなんて思ってなくて、家族にも友達にも『ちゃんとした仕事を見つけな』って言われてたけど、気付けば俺はラジオに出てた。だから2作目のミクステを作った時、ビーチハウスを実現したいから“Beach House”って名付けようと思ったんだ。インタビューで好きなアーティストを訊かれた時も『John Mayerと仕事したい』って言ったら現実になった。口に出したことは実現するんだよ。」

Ty$の活躍の背景には、音楽への情熱や努力に加え、こうしたポジティブな哲学があるのかもしれない。彼は今、ロングビーチにビーチハウスを所有しており、次にビーチハウスを買う場所としてマリブビーチを考えているそうだ。なお、思春期に仲違いした父親とはその後仲直りし、BH3にもホーンで参加している。

奧田翔(おくだ・しょう)
1989年3月2日宮城県仙台市出身。会社員。BH3で好きなのは、ベタだが“Love U Better”。

https://twitter.com/vegashokuda

http://ameblo.jp/vegashokuda/

RELATED

新作『Featuring Ty Dolla $ign』をリリースしたばかりのTy Dolla $ignがゴージャスな『Tiny Desk (Home) Concert』を公開

先週金曜日にニューアルバム『Featuring Ty Dolla $ign』をリリースしたばかりのTy Dolla $ignが、NPRの人気ライブシリーズ『Tiny Desk Concert』の家バージョンに登場した。

Thundercatが最新作よりMac Millerに捧げた"Fair Chance feat. Ty Dolla $ign & Lil B"を公開

Thundercatが4/3(金)にリリースする最新作『It Is What It Is』から、Ty Dolla $ignとLil Bが参加した"Fair Chance"を先行公開した。 Thundercatと同じくファンク・バンドのメンバーとして活動していた父と、Isley Brothers...

Thundercatの3年ぶりの最新作『It Is What It Is』 がリリース決定 | Flying Lotusとの共同プロデュースでChildish GambinoやTy Dolla $ignなども参加

2017年にリリースしたアルバム『Drunk』が高い評価を得たThundercatが、3年ぶりとなるアルバム『It Is What It Is』をリリースすると発表した。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。