【インタビュー】GOODMOODGOKU & 荒井優作 | 『色』の違う場所からのコラボレーション
GOKU GREEN改めGOODMOODGOKUと、ビートメイカーの荒井優作によるコラボEP『色』が8月にリリースされた。同作はメロウで陶酔的、ミニマルでサイケデリックな世界に、私たちが住んでいる空間が塗り替えられるようなコンセプチュアルな作品だった。
元々は全く交わらない場所にいた両者の出会いのきっかけとなったのは、昨年リリースされたコンピレーション『T.R.E.A.M. presents~田中面舞踏会サウンドトラック~』に収録された"Roll Witchu"だった。当時はラッパーを辞めようとしていたGOKUだったが、"Roll Witchu"の荒井のビートを聴いて、「この曲だけはやろう」と決意したという。
相性の良さを感じていた両者は、自然とコラボレーションへと向かっていったが、当初はビートテープをリリースしようと計画していたという。ではこの作品はどのようにして作り上げられていったのか。ディレクターを務めた二宮、収録曲"素敵で無敵なLady / Long Distance"のMV制作を手がけた映像作家のUMMMI.を交えて、2人に話を聞いた。
取材・構成 : 和田哲郎
写真 : 横山純
- 2人が一緒にやるきっかけとなったのは、去年リリースされた田中面舞踏会のコンピですよね。
GOODMOODGOKU - そうですね。最初はビートテープをコラボで作るという話で。
二宮 - 田中面のリリパの時に、あらべぇくんにはGOKUと一緒に何かやってよって話はしていて。
GOODMOODGOKU - イベントの次の日には二宮さんが連絡くれて、その話をしましたよね。コンピの話をもらった時は「いや曲は作らないです」って感じだったんですけど、荒井くんのビートがやばかったから「やります」って言って。その曲だけやったんですよね。今回はやるってなった時に荒井くんのSoundCloudを聴いたら、全然おれとやったビートとは違うノンビートの曲ばっかりで。そのアンビエントみたいな曲に「ビート足していいですか?」ってお願いして。そこから荒井くんのパラデータをもらって、サンプリングして作るっていうのをやろうとして、4曲分くらいもらって。で、そっからおれが連絡途絶えて。
荒井優作 - おれも結構ルーズだったんですけどね。
GOODMOODGOKU - でもそこから二宮さんが入ってくれて進んでいったんですよね。
荒井優作 - "Sorry"のビートは、おれが一番最初に送ったパラデータを使ってますね。
GOODMOODGOKU - そうそう。ビートに入ってた水の音だけをサンプリングしてますね。
荒井優作 - それはYoutubeに上がってた昔の化粧品のCMの音なんですよね。水の音の後に「きめ細やかな肌が」ってナレーションが入ってるんですよ。
GOODMOODGOKU - 水の音のワンループを友達と聴いてたらハマっちゃって。水の音のループを延々聴いて「これヤバくない?」って。Youtubeで無音で動画見ながら、水の音のループが流れてるっていう。
荒井優作 - 出来上がったビート名は"LSD Beat"ってなったよね。
二宮 - その時期のGOKUは、ビートメイカーとしてやっていきたいっていうノリが強かったんだよね。
GOODMOODGOKU - 今もビートだけじゃなくて、プロデューサーとしてやりたいなっていうのはありますね。
- 作品全体のメロウなテイストはどうやって作り込んでいったんですか?
荒井優作 - Facetimeをめっちゃしてましたね。おれはそれまでFacetimeは使ったことなくて。
GOODMOODGOKU - まじっすか?シティーボーイになればなるほど、使ってると思ってた(笑)実際に機材をいじってる時にFacetimeして、リアルタイムで微調整してもらったりして。
二宮 - 作り方も曲によって違うけど、あらべぇくんが送ったものに対して、GOKUがリアクションしてってのが主だったよね。
GOODMOODGOKU - 最初に録った曲は”Long Distance"なんですけど、コンピの曲を去年の2月くらいに録って以来だったのでレコーディング自体の期間も空いてて。割とスムーズに何曲か録った日もあれば、1日スタジオ入って1曲だけって日もありましたね。あと地元のFadeっていう3つ上のおれが知る限り一番ギャングスターなラッパーがいて一緒にスタジオまで行ったんですけど、スタジオに向かう車でいきなりリリックを書き始めて、結局間に合わず入れられなかったのもありましたね。Fadeくんはキャラが最高なんで、どうにか曲を録らせたいんですよね。
荒井優作 - おれは最初に4曲のデモを送った時に「こいつダメだな」ってGOKUくんに思われたのかなって思って。それで連絡もしなかったら3月くらいにまた連絡がきてって感じでしたね。あと今回の裏テーマなんですけど、ドラムキットはみんな使うようなドラムキットだけしか使わなかったですね。みんなが使ってるからこそ、逆に個性が出るかなって。あえてヒップホップの枠に入ることで、そこから新しいものを作るっていう方法を試した感じですね。
GOODMOODGOKU - 荒井くんにコールバックすることもなく、ビートを書き出すこともなく、ひたすら荒井くんのビートで、いろいろなビートを作ってて。最終的に厳選されてできたのが水の音のループのやつ。
- 『色」ってタイトルもハマってますよね。
GOODMOODGOKU - それもギリギリに決まって。最初は『Anti Social』ってタイトルだったんですよ。
荒井優作 - 僕もタイミング的に就活していて、バッチリ社会を味わっていたんですよ。最初はめちゃくちゃ合ってるなって思ったんですけど、だんだん『Anti Social』ってタイトルは甘えかなって思いだして。
GOODMOODGOKU - 別におれもAnti Socialを掲げたいわけじゃなく結構適当につけたんですけど。「普通の社会にもAnri Socialなものはあるし、これでいいんじゃないですか?」って話で一度は落ち着いたんですよね。でもそしたら荒井くんが「Anti Social?」ってなっちゃって(笑)
荒井優作 - おれも変なところ頑固で。
GOODMOODGOKU - 2回目言われたから、あれってなっちゃって。それで引っ張られて『色』がでてきたんですよね。
荒井優作 - 『色』でもおれがめちゃくちゃ駄々をこねて。おれは音楽と色の共感覚とかが一切なくて。空間とか何かの形態から音をイメージするとかはできますけど、ある音を聴いて色をイメージするとかは全くなくて。『色』はスタイルって意味での色ってことで出てきましたね。
GOODMOODGOKU - 最初は『色』でモノクロの感じをイメージしてたんですけど、そこはデザインをやってくれた(坂脇)慶さんと細倉さんの写真で変わりましたね。普通に写真自体良いし。デザインもギリギリに決まって。
UMMMI. - "素敵で無敵なLADY"のミュージックビデオを撮っていたときに、実は細倉さんもその場にいたんですよね。
二宮 - でもその時点では細倉さんに写真を頼むのは決まってなかったから。自然といろいろ繋がっていったんだよね。
- UMMMI.さんにビデオを撮ってもらおうっていうのは?
荒井優作 - UMMMI.さんに「GOKU GREENをめっちゃ聴いてて、好きだからビデオを撮りたい」って言われて。
GOODMOODGOKU - まじっすか?
UMMMI. - すっごい恥ずかしい、言わないでよ(笑)荒井くんの家で飲んでるときに、Youtubeで音楽聴いてたときだよね。
GOODMOODGOKU - その後、二宮さんにUMMMI. さんのHPを送ってもらって、それでお願いしたいですってなったんですよね。だからUMMMI.さんに撮ってもらうのは早い段階で決まってましたね。
荒井優作 - 僕もぜひお願いしたかったんですよね。
- "素敵で無敵なLady / Long Distance"のビデオはどういったイメージで作ったんですか?
UMMMI. - 最初は竜巻をイメージしてて。
GOODMOODGOKU - 竜巻って言われたときは、おれもびっくりしましたね。
UMMMI. - 最後の音が上がっていく感じがするなと思って。音が中心に向かって上に行くみたいな。それで中心に向かって上にいく映像を撮りたいなと思って。それが私の中では竜巻だったんで。
二宮 - ビデオについて話したときに「Youtubeで竜巻の起こし方をみてます」って。
GOODMOODGOKU - 結構それだけ聞いたら命がけだなって(笑)出てくれたアリサちゃんも、最初企画書おくったら「竜巻って?」って言ってて。
荒井優作 - でもめっちゃいいビデオになりましたよね。
UMMMI. - できないアイディアもあったけど、それはまた次回に。
荒井優作 - "Long Distance"はダサくならないギリギリのものだったんですよね。変にオルタナティブになりすぎるとダサくなっちゃうんで。それでうまくいったパターンって見当たらなくて。元々R&Bとかラップ聴いてる層にも受けて、それ以外のリスナーにも受けるようなものっていうのを目指してて、そのギリギリが"Long Distance"だと思ったんですよね。
- 確かに日本から出てきているオルタナティブR&Bってプロパーのヒップホップ・R&B好きには届かないものになってしまってますよね。でも今回の作品はそこを目指したわけじゃないのに、そういうものが自然とできている。
二宮 - 確かに感覚を最優先して作っていたと思う。ワンバース、ワンフックの曲も多いしね。
GOODMOODGOKU - ノートにリリックを書き直しまくっちゃうと、ノートがグチャグチャになるじゃないですか。そうしたら、ちぎってまた書き直すんですよ。それを繰り返すと、1バース目をすごいたくさん書くことになるんですよ。だから1バース目の方が、錯覚かもしれないですけどしっくりきちゃうんですよね。今回は特にリリックのボリュームとかはあまり決めてなかったですね。それよりも音の方を優先して。
荒井優作 - 後付けになっちゃうんですけど、最近って短い尺の曲多いじゃないですか。それはそれでいいと思うんですけど、それで失われちゃうものもあると思うんで、曲の尺としては、3分くらいあるのが作りたいなとは思ってましたね。
二宮 - 曲にバースを足してもいいんじゃないって言ったりもしたんだけど、頑固だから「そうっすね」って言いながら何もやらないからね(笑)
GOODMOODGOKU - あとから足そうとすると、全く別のものになっちゃうんですよね。録音ってビートよりさらに直感的なものなので、すごい感覚的に作っていて。意識的に作るのは次の課題かもしれないですね。I-DeAさんからは、もっと気を使って録音してほしいって言われましたし。
二宮 - ミックスをやってくれたI-DeAさんは「今までやって来た人の中でも1位か2位に入るくらいのめんどくささ」って言ってたよね。今回おれも間近で見てたけど一音ずつディレクションしていくから。
GOODMOODGOKU - おれのアイディアをI-DeAさんが実現してくれる感じ。いや、悪いと思ってます。
- あらべぇくんも頑固なところありますもんね。
荒井優作 - そうですね、でも最近はどんどんアウトプットしないとダメだなと思って、柔軟にやろうと思ってますね。
GOODMOODGOKU - 高校生のときはラッパーって意識でやってたから、他の人の言うことなんて拒絶して聞かなかったですね。それが悪かったとは全然思わないですけど、今は自分の耳や目に入れて、いらなかったら捨てればいいやって、荒井くんを見習ってそうするようになりましたね。荒井くんとはルーツも違うし、遊びに行く場所も全然違うし、だから刺激受けることは多いですね。音作りよりも前に人間的な部分で。
荒井優作 - 恥ずかしいですね。おれは音的な部分でいうとGOKUくんの作ったベースとビートの鳴りがやばくて、それは結構食らって。
GOODMOODGOKU - おれも恥ずかしいです。おれはあくまで骨組みを作って、I-DeAさんに完成させてもらおうと思ってたんで。ボリューム調節も適当だったんですけど、荒井くんが「低音の鳴り半端ないですね」って言ってくれて。確かに低音をあげちゃうクセはあるんですよね。とりあえず低音は、鳴れば鳴るほどいいってのがあるので。
荒井優作 - おれがドラムを組んでも、悪い意味で綺麗になりすぎちゃうんですよね。
GOODMOODGOKU - そういう話はずっとしてましたよね。ドラム組んでもらったものを、「変えていいですか?うわ音は荒井くんに任せるので」って。
- そういう共作ってアメリカだと普通ですもんね。
荒井優作 - 超憧れますね。
GOODMOODGOKU - 感覚をシェアしてる人に限りますけど、いろんな人の意見は入った方がよりよくなりますよね。
- "24時間"って曲があるからじゃないですけど、24hrsとかは参照にしてるのかなって思ってたんですが。
GOODMOODGOKU - 24hrsとかも聴いたりするんですけど、おれとI-DeAさんはPARTYNEXTDOORとかDrake以降のトロントのアーティストですね。雪国出身だからか謎に親近感もあるし。でも制作中一番聴いてたのは、今もなんですけど山下達郎とジミ・ヘンドリクス。ジミヘンはほんとに好きで。高校生の時に付き合ってた彼女に、アフロにしてたら「ジミヘンに似てる」って言われて、そのときは名前は知ってたんですけど、"Purple Haze"くらいしか知らなかったんで、聴いたら「やば」ってなって。あんまりロックとか聴かないんですけど、ジミヘンはめっちゃ聴きますね。
- なるほど、GOKUくんは大事なところで女性の影響が出てきますね。
GOODMOODGOKU - 荒井くんが空間からインスピレーションを受けるみたいに、おれは女の子から影響受けますね。それだけじゃないですけど。女の子は考え方が違うから影響を受けちゃいますね。
荒井優作 - それと関係あるかわからないですけど、"空に祈るよ"を初めて聴いたときにリリックが新鮮な印象で、あ、こんなのも歌うんだってビックリしましたね。
GOODMOODGOKU - あれはおれの中ではサイケデリックの極みで。サイケの世界に入っちゃうとエモくなっちゃうんですよね。でもおれはエモーショナルな部分を意識的に出すのが好きじゃなくて。エモーショナルなものってみんな抱えてるし、感傷的になりすぎるのは、あまり好きじゃないんです。狙って出すというより、自然に出ちゃうもの、出ちゃう場所というのがあって、"空に祈るよ"はそういう曲ですね。もう抑えられないみたいな。そのときのレコーディングは何時間か使って、あれ1曲しか録れなかったですね。
- 僕もすごい印象に残る曲だなと思って、あれはBlack Swan代表だった亡き佐藤さんに対して歌ってるのかなって感じたんですよね。
GOODMOODGOKU - おれはじいちゃんっ子で、じいちゃんも2年前に死んで、その後すぐにジェイルに入って、出てきたときに、じいちゃんとか佐藤さん、もういない人たちへの思いが抑えられなくなって、普段は出したくない感情が出てきましたね、あれを作ったときは。そのレコーディングの日は、酔っ払いすぎて、携帯とかサングラスを落として。レコーディングから、おれ3ヶ月禁酒してましたね。すごい落ち込んじゃって。
二宮 - 今回のプロジェクトも白紙に戻りそうなぐらいあの時は落ちてたよね。ストリートに帰るべきなんじゃないかとも言ってたし。
- さっきAnti Socialって言葉が出たときに思ったのが、ストリートはストリートでSocialですもんね。
GOODMOODGOKU - そうです、そうです。それすごい話したくて。居心地がいいときもありますけど、おれはそこにいるのが嫌になっちゃって。同じ境遇の人も多いから楽なんですけど、そこがずっといたい場所かっていうと違くて。荒井くんみたいな人に出会うとなおさらそう思いますね。あとAnti Socialって言葉には、既存のものじゃなくて新しいものをやろうっていう意味もありますね。相手を攻撃するんじゃなくて別の表現をやろう。そういう意味でも、今回ラップっぽいラップは入れなかった。
二宮 - あとは作品が広まるといいよね。
荒井優作 - ヒップホップとか普段聴かないっていう人からもすごい褒めてもらったりっていうのはありますね。
UMMMI. - 私の友達とかもすごい好きって言ってる。それは荒井くんの力でもあるだろうし。
- 次はまた2人で作るのもそうだし、プロデューサーユニット的な動きもできますよね。
GOODMOODGOKU - 新しいのも作りたいですね。今回の曲以外にもネタはあったので。いろいろ2人で出来そうな感じはするっすね。あとおれはアルバムを制作中ですね。アルバムは色んな人とやると思うんで。Fadeくんにも参加してほしいですね。おれはギャングスタは魅力的だなと思っていて、レゲエとかも平和主義と暴力性が表裏一体じゃないですか。でも曲はすごい緩かったり。そういうところ含めて好きで。ギャングスタラップもそうじゃないですか。
荒井優作 - レゲエも哀愁からああいうサウンドになってるんですかね。
GOODMOODGOKU - おれの勝手な想像なんですけど、いつもは緊張感に包まれてるから10分でも一瞬気が抜ける時間、その時間にインスピレーションを受けると、普段の生活とまったく違う空気になる。拒否れない先輩からの電話がかかったりすると、その時間は終わっちゃう。だからこそ、その一瞬が大事というか。ずっとダークサイドにいたい人なんていないから、その時間を楽しんでダークサイドに戻っていく。ウェッサイとかレゲエはそういう音楽ですよね。今回の作品もそういう人たちに結構気に入ってもらえてて。最初はディスられる覚悟だったんですけど、音楽としてちゃんと評価してもらったので、安心したじゃないですけど、おれが元々いた場所の人たちにも、荒井くんの周りの人にも音として受け入れられたのはめっちゃ上がりましたね。聴く前にどんなジャンルだろうとか、どんなアーティストだろうとか考えるんじゃなくて、聴いてほしいですね。荒井くんともお互いのルーツとは関係なしに音として向かい合ったんで。じゃあタイトル『音』でもよかったんじゃないのかって。
Info
■Artist:GOODMOODGOKU & 荒井優作
■Title:色
■Label : Artbreakhotel3
■価格 : 2,000円(税抜)
■仕様 : CD 2枚組(音楽CD×1、データCD×1)
■Track List
01…24時間
02…Long Distance
03…素敵で無敵なLady
04…SSALG(CD Exclusive)
05…Sorry
06…空に祈るよ
07…24時間 Yusaku Arai Remix
■Credit
All Lyrics by GOODMOODGOKU
#2, #3, #4, #6, # 7 Track Produced by 荒井優作
#1 Track Produced by GOODMOODGOKU & I -DeA
#5 Track Produced by GOODMOODGOKU & 荒井優作
All Tracks Mixed & Mastered by I -DeA (Flashsounds)
Recorded at Flag Ship Recordings
Designed by Kei Sakawaki
Cover photo by Mayumi Hosokura
A&R by Keisuke Ninomiya (T.R.E.A.M.)
Rest In Peace to $ho Sato