Kehlani、Tory Lanez、PnB Rock...サンプリング新時代の到来
現在ヒップホップやR&Bシーンなどを中心に、増加しているのが90年代から00年代前半のヒットチューンをサンプリングした楽曲だ。例えばトレンドセッターとして名高いDJ Khaledの昨年のビッグヒット"Do You Mind"には、1990年にリリースされたMichael Sterlingの"Lovers and Friends"のフックが引用されている。
もしくはFifth Harmonyを脱退したCamila CabelloとMachine Gun Kellyによるポップな1曲"Bad Things"は90年代のアメリカンロックのヒットチューンFastballの"Out of My Head"の歌詞が引用されている。
さらには大ヒットチューンThe Chainsmokersの"Closer"はThe Frayの"Over My Head"からメロディーをサンプリングしたものだ。
以前はサンプリングというのはヒップホップやR&Bなどの専売特許だったが、ヒップホップやR&B的な手法が浸透した結果、サンプリング・引用はポップスの世界にも広がってきた。
そしてサンプリングされる楽曲も70年代のソウルミュージックやディスコなどのブレイクから、時代を更新し80年代はもちろんのこと、90年代や00年代の楽曲を使用したヒットチューンがここ最近目立つ。
例えばカナダのTory Lanezはデビュー時のヒット曲"Say It"からBrownstoneの名曲をサンプリングするなどこうした動きをいち早く取り入れていた。その彼が"LUV"は今年のグラミー賞最優秀R&Bソング賞にノミネートされているが、Tanto Metro&Devonteのレゲエクラシック"Everyone Falls in Love"のメロディーそしてフックをサンプリングしてキャッチーに仕上げている。
このヒットに気を良くしたのか、Tory Lanezは新作Mixtape『Chixtape 4』では全編にわたり90's~00'sのR&Bをサンプリングした楽曲を収録。中にはディズニーチャンネルで約4年に渡って放送されたアニメ『The Proud Family』のDestiny's ChildとSolangeが歌うテーマソングがサンプリングされた曲もある。
さらにDJ Mustardの昨年のヒットシングル"Don't Hurt me feat.Nicki Minaj &Jeremih"はウィル・スミス主演映画『Bad Boys』の主題歌にもなっているDiana Kingの"Shy Guy"をのフックをサンプリングしている。"Shy Guy"はDiana Kingのファーストシングルで、アルバム『Tougher Than Love』に収録されており、UK Single Chartでは2位を記録したメガヒットチューンだ。
注目株A Boogie Wit Da HoodieとMigosのQuavoも参加したフィリーの新鋭PnB Rockのヒットチューン"Playa No More"は、タイトルもそのままBig Punのクラシック"Still Not A Player"からメロディーをサンプリングして作られた1曲だ。正確には"Still Not A Player"はBrenda Russellの"A Little Bit of Love"をサンプリングしているのだが、PnB Rockの曲は"Still Not A Player"のオマージュであることは間違いないだろう。
続けてベイエリアのHBK GangのIamsuやP-Loなどを迎えて作られたCAL-Aの"Real One"はMary J. Bligeの代表曲"Real One"のメロディーを使っている。
女優、シンガーソングライター、ダンサーと多才な顔を持つZendayaがChris Brownを迎えたシングル"Something New"はTLCの"Creep"をサンプリング。同曲は1994年にリリースされた『CrazySexyCool』に収録されている。同アルバムはグラミー賞最優秀R&Bパフォーマンス賞ヴォーカル入りデュオまたはグループ部門を受賞した。ZendayaはiHeartRADIOのインタビューで「初めてトラックを聞いた時から、これでレコーディングしたいと思った」と語り、同時に「トラックが私にリリックを描かせた」とR&Bの親和性の高さを強調した。
新世代のラッパー/シンガーの間で新しい動きとなっているこうした90年代〜00年代のサンプリングだが、これらの曲にはある特徴が潜んでいる。それはレイドバックとモダンの融合である。
これらの楽曲はクラシックチューンのメロディーや歌詞を使いながらも全体的な音像や構成は、最先端の形式を用いている。単に90年代にオマージュを捧げたということではなく、モダンなテイストの中に耳馴染みのいい歌詞やメロディーをスパイスとして使用することで、楽曲をより親しみやすくより幅広い層に届けることに成功しているのだ。
そしてこの動きを象徴するアルバムが1/27にリリースされたKehlaniの『SweetSexySavage』だ。
Kehlaniのニューアルバム『SweetSexySavage』は、これまでのKehlaniのサウンド同様モダンでソリッドな音数の少ないボトムスが、全体的なムードを作りつつも随所に幅広い年代からのサンプリングが光る傑作だ。
タイトルからしてそうで、『SweetSexySavage』とはTLCのアルバム『CrazySexyCool』のモダンなアップデートだし、冒頭を飾るアルバムで最もキャッチーな1曲"Undercover"はAkonの2006年のメガヒット、"Don’t Matter"から、歌詞を引用している。さらにAkonの楽曲もBob Marley and The Wailersの"Zimbabwe"をサンプリングしたものだ。このKehlaniの楽曲はBlood Orangeもお気に入りだ。
I luv u Dev pic.twitter.com/cll7JxYBU4
— #SWEETSEXYSAVAGE (@Kehlani) 2017年1月6日
さらに自身の自殺未遂の経験について歌っている"Personal"では、Aaliyahの死後に発表されたヒットチューン"Come Over"のボーカルのメロディーを使用し、エモーショナルな1曲に彩りを加えている。
もう1つAaliyahからサンプリングしている楽曲が"Too Much"だ。この曲ではTimbalandが手掛けた"More Than A Woman"のドラムがリズムのアクセントとして響いてきている。
“Without Aaliyah I wouldn’t know how to be a young woman.” -Kehlani for Crack Mag
— Kehlani Updates (@YSBHDAILY) 2016年2月2日
Kehlani自身も以前インタビューで「Aaliyahなしではどうやって若い女性になるかわからなかっただろう」と述べており、Aaliyahに多大な影響を受けているのを明かしている。もちろんKehlaniが今作でサンプリングしているのはAaliyahだけではないが、Kehlaniは自身が影響を受けた今は亡き歌姫のサウンドを、アップデートし自身の作品に反映させている。そしてまた今作のKehlaniのサウンドから影響を受けたシンガーがいつか登場していくのだろう。このように常に変化していく音楽業界の中で、サンプリングも常に更新されながら生き続けているのだ。(野口耕一)