TREKKIE TRAX×Double Clapperz Pt.1 ー東京と海外、そして彼らの展望する音楽シーンの未来とは
「2016年夏、日本のダンスミュージックシーンの未来を変えるのはあなた」ー毎週末のように開催される野外フェスや連日連夜のオールナイトイベント、音楽がより一層華やかになる季節ともいえる夏、FNMNLはすべての音楽好きへこう投げかけてみたい。本取材は、「僕たちの持っている意見を世の中にちゃんと発信したい!誰か協力してほしい」という、ある若者2人のツイートと想いをきっかけにはじまった。
写真 :横山純 取材/構成 :和田哲郎 吉田友里恵
その若者2人とは、TREKKIE TRAXのSeimeiとDouble ClapperzのSinta。10代の頃からDJや作曲活動に勤しみ、現在では国内外から注目されるまでになった、今後のダンスミュージックシーンいや音楽シーンを担う2人である。さらには、Seimeiは日本とサンフランシスコを行き来した音楽活動、Sintaはスペイン留学とロンドンでのDJ経験を持つ。彼らは、自分たちが活動をしている場、ダンスミュージックシーンに対して受け身ではなく当事者として問題意識を持ち、夢に向かって積極的に行動している。そんな彼らが持つ意見から、アーティストやオーディエンス、そしてクラブやライブハウスの経営者まで、それぞれの立場で何かはっとするものがあるのではないだろうか。未来を変えるきっかけを見つけられるかもしれない。
東京は渋谷を拠点に国内外で活躍する音楽レーベルTREKKIE TRAX(トレッキー・トラックス)主宰の一人であるSeimei、そして日本の新世代グライムシーンを代表するプロデューサーユニットDouble Clapperz(ダブル・クラッパーズ)よりSinta、海外経験豊富な2人を中心に、同じくTREKKIE TRAXのAndrewとFNMNL取材クルーも交えての座談会をお届けする!
TREKKIE TRAX×Double Clapperz Pt.2
TREKKIE TRAX×Double Clapperz Pt.3
TREKKIE TRAX×Double Clapperz Pt.4
- Seimeiくん、Sintaくん、まずは2人ともそれぞれ簡単な自己紹介をお願いします。
Sinta - Double Clapperzというユニット名で、相方のUKDとグライムやベースミュージックを中心としたDJをしたり曲を作ってます。今年の6月には、INDIE GOGOというのクラウドファンディングサイトを利用して、初のバイナル盤レコードを200枚限定でリリースしました。
Seimei - TREKKIE TRAXのSeimeiです。最近、肩書きをDJのみでなく、A&R(Artist & Relationsの略)と改めてみました。A&Rとして、若いトラックメイカーを見つけてどうやって外に発信するのかっていうのを考えて動いていく役割、プロモーション的なのもやっています。あとは、ほとんど趣味の範囲だけどトラックメイクもやっていて、最近ではMoveltraxxのBig Dope P監修のコンピ『Street Bangers Factory』に運良く参加させてもらいました。
- 「A&R」みたいな肩書きを名乗るって新鮮ですね。日本だと、ダンスミュージックシーン、特に若い子たちの中でA&Rなどの役割があるのは珍しいことな気がする。それってアメリカで現地の音楽シーンを見てきたからこそ見出したものなの?
Seimei - 完全に影響受けましたね。アメリカでは、どんなに小さいレーベルでも「俺、何担当だから」と役割分担があるし、レーベルだけじゃなくて無名なアーティストでもマネージメントが付いていて、友達がマネージャーをやっていることが多いんですけど(笑)オフィシャル感を出しているのが当たり前になっているんですよね。意識的に、プロフェッショナルにするっていう思考を真似したいなと思いました。TREKKIE TRAXの規模も大きくなってきたし。
- 日本では、若手のトラックメイカーとかほとんどマネージャーやエージェントを付けていないのが普通だけど、アメリカではそういうアーティストもいることはいるの?
Seimei - 半分趣味みたいな人もいますよ。でも、音楽を職業としていない人でも第三者をつけて、ブッキングの交渉をするっていう文化が育ってるんですよね。いない人も全然いるんですけど、プロっぽく見せるためだけじゃなくて、プレイヤーが多い分競争率も高くて。アメリカ滞在中は僕一人の個人としてDJ活動をしていたんですけど、それだと扱いが悪いこともあったんですよ。「マネージャーもいない学生でしょ」って感じで舐められてしまいがちで。
- 日本だと、それこそ個人のプレイヤーの集まりみたいなレーベルが多いと思うんだけど、ちゃんと裏方っていう役割をつけるってことなんだね。
Seimei - そうですね。自分がA&Rと名乗ったりするようになったのは最近なんですけど、アメリカでの経験から、レーベルを運営していくにあたってビジネス的役割分担をはっきりさせることが大事なんだなって思うようになりました。
- UKのレーベルや若いアーティストにはそういう文化はあるの?
Sinta - 自分の場合はその国のシーンにどっぷり浸かっていたわけではないから、UKのシーンに対してSeimeiと同じ感覚ではないんですけど。マネージャーよりも、個人にブッキングエージェントがついてることが多い印象でしたね。クルー、チームって言うのはあまりなかったかな。アーティスト個人とビジネス組織は分かれているとうか、アマチュアからプロになる時に、そういった第三者をつけている印象でした。
- 東京のダンスミュージックシーンも同じようになってほしいと思う?
Seimei - 僕はそう思いますね。マネージャーの存在があることによって第三者目線の意見をしっかり表に出せるんですよね。「このアーティストは、こういうリリースをして、こういう実績があるので、ギャラはこのくらいになります」って提示しやすいんですよ。日本は、アーティスト本人がセルフマネージメントをしていることが多いから、なかなか自分から強く言いにくかったりで、悪く言うとなーなーになってしまいやすいと思う。だから、出演費もなかなか上げられないし、馴れ合いになってしまってビジネスとして成立しにくいんじゃないかと。つまり、少しでも出演費を稼ぐためには数をこなさなきゃいけないっていう風潮になって、アーティストが安価で大量消費されてしまって価値をなかなかあげられない、むしろどんどん下がってしまうという負のループにはまってしまうんです。東京のクラブシーンのシステム的に、海外と比べてギャラを上げることは実際難しくて仕方ないことではあるんですけどね。だからこそこれから出てくる、意識高く持っている若い子たちには、マネージャーをつけたり経験と共にギャラを少しずつあげたり、楽曲制作やスキルに加えてアーティストとしての価値を上げることにも視野をおいてほしいですね。
- 東京でも、人口もクラブもたくさんあるからやろうと思えばできそうだけど、アーティストが成長していくに当たって具体的な問題点はどこだと思う?
Seimei - starRoさん(LAを拠点に活躍する日本人トラックメイカー)ともよくこういった話をしているんですけど、やっぱり東京には狭い範囲でのパーティーがたくさんありすぎることが問題じゃないかなって思うところがあります。アーティストの露出も同時に多くなって、価値が下がって、出演費はいつまでも安いままっていう悪循環になっちゃってるって。それだったら、1本1本クオリティ高いものだけを自分の納得のいくギャラで受けていくのがいいじゃないのかなって話もしていました。でも日本の中でそれをやるのは難しすぎる話なんですよね。東京規模のクラブシーンがある街が2・3個あったら、各地をツアーしてお金を稼ぐことが多分できるんだと思うんですけど。日本ではそれがないから工夫しなきゃってところですね。
Sinta - 逆に自分は完全にアーティスト/プレイヤーの立場で、マネージャーとかもいない分セルフプロデュースをしっかりやっていこうって考えていますね。出演を月に1〜2本ぐらいになるべく厳選したり、ひとつひとつのイベントをよりスペシャルなものにしようと心がけています。イベント出演に向けて、お互いのプロモーションのためにも新曲を用意したり、それと共にイベント前後でうまくSNSの露出をしたりっていう工夫をしていますね。出演費をもらってる限り、ただ「出る」だけではなくて、そう言った自主的な協力も必要だなと思うんですよ。そして、確かに出すぎると悪循環でダメになっちゃうっていうとこはありますよね。
Seimei - でも、これって結局理想論でしかないってなっちゃうんだよね。東京ってやっぱパーティーが多いから、露出がないと売れてないみたいな印象持たれちゃうしさ。露出が多い=オファーがいっぱいある、それで出まくることによって売れてるのがわかる、みたいなのが東京でのセオリーなんだけど。数で小金を稼いでくっていうのかな。
Andrew - 僕はめっちゃ色んなパーティーでDJさせてもらってますけど、イベントに来るお客さんって全部違うんですよね。それぞれリーチできる部分も違うから、僕は全部出るっていうのをやっといた方がいいのかなって。それが自分の役割かなって思ってます。
Seimei - うん。自分の言ってたことと矛盾しちゃうけど、それは間違ってないと思う。僕とかSintaが今言った出演を抑えてギャラを上げてっていうのは、実績をしっかり積み上げてからやれって話でもあると思うんですよね。だけど、いつそこに行き着くかっていうね。
Sinta - 卵が先か鶏が先かみたいになってくるよね。
- 海外だと、簡単にそのポジションに作品とかアンセムで一気にのし上がれてしまうけど、日本だとなかなかダンスミュージックシーンの中でヒット曲っていうのがないから難しいよね。
Seimei - そうですね。前にSintaとも話してたんですけど、楽曲を審査、評価する基準が日本と海外だと違いますよね。例えば、Double ClapperzがBoiler Roomに出たっていうのは、東京のある箱では全く価値がなかったりするし。TREKKIEの曲をDiploがかけましたっていうのもそこまでが価値がないみたいな。カリフォルニアだったら結構ある程度の価値が出ると思うんですよね。
Andrew - 価値がないというより、リーチができてないっていうのもあるよね。その情報を知って評価して欲しい人たちの認知や、自分たちからのアプローチが足りないんじゃないかなって。自分たちも先入観で営業できてなかったりする部分があるし。
Sinta - ロンドンの場合は、ラジオ文化が根付いているからそれが結構わかりやすいと思いますね。Double Clapperzでは曲を出す前に、まず現地の音楽メディアRinse FMやNTS RadioのDJたちに曲を送ったりしたんですよ。そして、その人たちがDouble Clapperzの曲をかけるとSNS上で話題になって、口コミで広がってバズが起こるきっかけになったんです。日本の場合は、ラジオやインターネットよりもっと現場重視というか、パーティーの力がすごいから標的がそれぞれに細分化しちゃってなかなかリーチに至らないんじゃないかな。
Seimei - だから、たとえノーギャラでもあってもパーティーに1本でも多く出てる人がやっぱり評価されるってことなんだよね。どっちが悪いっていうより基準と質の違いだよね。
Sinta - ヒット曲が出ないって話も多分そういうことにつながっていて、曲の評価がラジオやネットから最初になされるのが先で、その後に出演があるみたいな。逆に東京は出演が先になってるんだと思う。
Seimei - さっきのマネージャーの話に行き着くとけど、本人じゃなくてマネージャーがリーチさせる動きをすることによって東京のその傾向も変わると思うんですよね。Masayoshi IimoriってTREKKIEで最近プッシュしている若手トラックメイカーがVisionのメインとかでレギュラー持つようになったのって、TREKKIEが箱にプロモーターとして働きかけた結果だと思うし。彼の成功を見ていると、この第三者がアプローチするシステムはやっぱり東京にあった方がいいのかもしれないですね。
- 東京は、実際のクラブシーンとSNSで展開されるクラブシーンみたいなのに距離があるのかもね。
Seimei - アメリカは逆にほぼ距離がなくて、TwitterやSoundCloudで3,000Likeとかいった曲は、次の日からクラブでガンガンかかるんですよね。イギリスはどう?
Sinta - それはあまり関係ないかも、ラジオの影響や自分の持ってるネットワーク勝負だから、人がかけてる曲はかけないみたいなDJのあり方が明確にあって、人気クラブのFabricに行った時もメインフロアでヒット曲がガンガンかかっている感じはなかった。
Seimei - アーティストが評価される基準って結構はっきりしてるのものかな。アメリカだとサンクラやSNSの反響の多さが基準に今はなってきているけど、逆に日本は文化的に年功序列っていうものが染み付いているからその要素がまだまだあると思う。批判とかじゃなくって、日本の文化ってそういうものっていう意味でね。だから良い意味でも悪い意味でも、海外と比べて循環があまりないのかなって思うことがありますね。
TREKKIE TRAX×Double Clapperz Pt.2