【インタビュー】VivaOla 『STRANDED』| VivaOlaという名前でやる限りはR&Bをやっていく

2019年に本格的に活動をスタートしたシンガーソングライターでプロデューサーのVivaOlaが、本日6/17(水)に7曲を収録したミニアルバム 『STRANDED』をリリースした。ギターやサックス、ドラムなども操るVivaOlaは、アメリカの名門音楽大学バークリー音楽大学に留学中で、昨年リリースしたEP『Bloom』も高い音楽的素養とモダンなR&Bなどを昇華したスタイリッシュなサウンドで既に話題となっていた。

東京を拠点とする音楽·アートコレクティブでWez Atlas、Tommi Crane、michel koなどがメンバーのSolgasaにも所属しているVivaOlaがリリースした新作『STRANDED』は世界的にも多様化を辿っているR&Bシーンに呼応するかのような、多彩なアウトプットで表現されている。今後の活動に大きな注目が集まる彼のルーツや、ミニアルバムに至るキャリアなどを訊いた。

取材・構成 : 和田哲郎

- 音楽を好きになったのはいつ頃でしたか?

VivaOla - 中学1年生ごろですね。小学5年生ぐらいからインターナショナルスクールに移って、ちょっと英語も分かってきて洋楽を聴いていました。当時流行ってたAviril Lavineとかを、ちょっと好きだなと思いつつもあまりハマってなくて、どちらかと言えば周りの友達がアニメ好きで、僕も好きだったので、アニメの曲を沢山知ってて。初めてハマったのはONE OK ROCKの“Re:make”って曲で。あれを聴いたときに「なんだこの洋楽バンド」と思って聴いてたら、全然洋楽バンドじゃなかったのを覚えています。

- 最初がロックだったっていうのはちょっと意外ですね。

VivaOla - 一番最初に聴いたのがロックで。でも音楽で食べて行こうというか、もうちょっと高い次元の話になった時にハマったのがジャズだったので、その違いがあるかもしれないですね。

- 最初に楽器に触れたり曲を作ってみたりしたのはいつ頃からですか?

VivaOla - 高校の時に、軽音楽部に入ろうとしたんですけど無くて、ジャズ部っていうビッグバンドの部活に入ったんです。ジャズなんでセッションとかで、作り出すのが楽しいなっていうのを覚えて。高校2年ぐらいからiPhoneのGarage Bandで作り始めました。最初に作ったのは作りやすいヒップホップのブレークビーツでした。

- ジャズ部では何の楽器をやっていたんですか?

VivaOla - テナーサックスです。その前にギターを始めて、同時にベースもちょっと触って。弟がドラムをやっていたからドラムもちょっと出来たので、サックスは楽器としては4番目に覚えましたね。

- 「音楽で食べて行こう」と思ったのはどうしてだったんですか?

VivaOla - 個人的な話なんですけど、高校の時に凄く仲良くなった友達がいて。その人が「映像系の監督になりたい」と言っていたのに、凄く浅はかなんですけど感化されてた時期があって(笑)「あ、普通にカッコいいな」と思って。自分に一番出来ることを考えたら音楽っていう趣味があって、「じゃあそれをどこまで持っていけるかな」って思って。何度か挫折して、最初の大学受験で海外の大学の音楽エンジニアの学科を受けていたんですけど落ちちゃって、滑り止めの日本の大学に入学したんですね。その大学にいる間に留学プログラムで、アメリカのUCLAに行って音楽を学ぶ機会があったんです。その時に「やっぱこれだな」ってなって、帰ってきてから、もう一度受験して今バークリー音楽大学に入学しました。

- それからVivaOlaとして楽曲をリリースするまでの経緯を教えてください。

VivaOla - バークリーに入ったのが2018年の秋なんですけど、その前に高校の同級生のWez Atlasくんと高3の時に初めて一緒に曲を作って。SoundCloudとかにも一人でアップしてたんですよね。そういうのをやってる内に色々なジャンルを触って、「R&Bが一番好きだな」ってなって。そういうのもあってモダンな音楽に強いバークリーに入ったんです。でも行くと現地の人は聴いているものが全然違って。「お前Anderson. Paak知らないの?」みたいな(笑)「マジか、誰や」ってなって。自分が知ってたBrian McKnightとかと違う、ヒップスターなR&Bがあったってのに気付いて(笑)森進一をずっと聴いてて、気付いたら全然違う人が流行ってるみたいな感じですね。それで聴いている音楽を再教育する1年があって、今もずっと自分をアップデートしてる意識なんですけど、その中で2019年に「じゃあ曲出してみよう」ってなって。当時自分や周りの中で流行ってたのがネオソウルだったんです。でもネオソウルって言ってもインスタで流行ってるネオソウルなのか、もっと音楽的なネオソウルなのかみたいな。D'Angeloなのか、なんかギターでチョロチョロ弾いてるネオソウルなのか、っていうのがあって、最初はそういう感じでしたね。あんまり深く考えてなかった。「VivaOla」っていうのも、本名でやるとちょっと舐められるなと思って。横文字が強いかなと(笑)

- D'Angeloのことは歌詞にも出てきますよね。

VivaOla - D'AngeloはBrian McKnightと同じようにずっと知ってたんです。Anderson. Paakをちょっと知らなかっただけで...(笑)他にはDEANもずっと知ってたんですけど聴いてなかったんです。2016年にDEANの人気が出始めて、周りの友達が「DEAN凄いよ」ってずっと言ってたんです。僕の国籍が韓国っていうのもあって、「聴いておいた方がいいんじゃない?」みたいに言われて。「いや、でもいいでしょ」って聴いてなかったんです。当時はBrian McKnight期だったんで(笑)でもアメリカに渡ったタイミングでAnderson. Paakとかと一緒に掘り出して、仲間のThomas Ngからも色々教えてもらっていて、The InternetとかPhony Pplとか色々教えてくれるその中に「DEANあるよ」みたいに言われて、「お前まで言うか」ってなって聴いたら衝撃を受けました。

- Brian McKnightに出会ったのはいつ頃なんですか?

VivaOla - 元々ジャズ部にいたときにプログレとかAORにハマって。TOTOとか。元々ドラマーの友達がいて、彼がすごいブラックミュージックのアーカイブに詳しかったんです。「お前これ知ってる?」みたいな友人って一人は絶対いるじゃないですか。「Buddy Rich知ってる?」から始まって、気付いたらBrian McKnightまで行ってました。R&Bの中では印象が強くて。歌もレファレンスになるし、正統派というか。

- クルーSolgasaはいつ頃から始まったんですか?

VivaOla - ちょっとややこしいんですけど、ずっとみんな仲はよかったんです。それも本当は僕以外の集まりで、Wez Atlasと彼の友人のmichel koとTommi Craneの3人が都内の同じ大学に行ってるんです。僕はWezと同じ高校で、Wezの友人の二人からしたら「音大行ってるやべえ奴いるらしい」みたいな感じで繋がり出して。ずっとWezくんは88 Risingが好きなんですよ。88 Risingは僕も好きなんですけど、ちょっと冗談で88 Risingよりもっと上手くやっていきたいって話をしていて。そういう目標をみんな持ってるし、みんなバイリンガルかトリリンガルだからその強みを使って、どうにか架け橋的な存在になれればいいなって。「じゃあクルーの名前作って活動しない?」って始まりました。2018年の夏ぐらいで、僕がバークリー行くときにはもうアイデアがあって。名前が決まって、ちゃんと「Solgasa」になったのは2019の夏ですね。一回下北でライブやったんですよ、その時にフィーチャリングでJuaくんもいて。

- 2018、19年頃に色々なものが一気に動いたという感じなんですね。

VivaOla - そうなんです。よくWezと話してるのが、2020年が始まるときにSXSWが決まって。「これからめっちゃぶっ飛ぶやん」って思ってたら、コロナがあって。心境的には「ヤバっ」って感じでしたね。中止になって残念でした。

- 2019年の『Bloom』からVivaOlaとしてのアーティスト性が出てきたというか、音像に統一感があるなと思ったんですが、EPを作ってまとめようと思ったのはどうしてですか?

VivaOla - さっきの話につながるんですけど、アメリカにいた影響でR&Bっぽいのが好きになって、帰国子女が帰国してかぶれた英語でばっかり話すようなノリでどんどん作っていったんですよね。そしたら「やっぱり統一したサウンドが欲しい」ってなって、それが『Bloom』だったんです。元々10曲ぐらいあって、もっと多かったんですけど。ミキシングも勉強していたので、ちゃんとした曲になっているのかっていうのと、サウンドのまとまりを重視して、ちょうどバークリーにいたのでなるべくフィーチャリングを多くしようっていうのもあって。全曲基本的にフィーチャーして、それぞれにカラーがあるので、サックスだけの人もいて。それを主軸にどう曲を書くかってところにかなり迷いました。

- それでミニアルバムに向かっていった。

VivaOla - 今回のミニアルバムと違って、『Bloom』にはあまりメッセージ性が無くて。音がただ良ければいいって感じだったんです。でも今回は「音が良い」事は前提にしながら、歌詞や細部にどれだけ挑戦出来るかっていう。

- 今回の『Stranded』でよりメッセージが込められるようになった、と。

VivaOla - 一年間バークリーで過ごしたので、前よりはもっと自分がやりたい音楽を知ってるというか、アメリカに行って音楽をうまく吸収できてるって実感があるんです。『Bloom』のサウンドにはもうあまり興味が無くて、「ちょっと生半可なソウルだな」っていうのが自分の中であるんですよ。ちょっとJ-POP感が抜けてないソウルみたいな。

- そうですかね?(笑)

VivaOla - 自分の中の目標としていかにして日本らしさを消していくかってところがあって。どうしても消えないんですよね。消えないっていうのは前提で、どれだけ消せるかという。今回はそのせめぎ合いがもっと激しかったです。

- 過ごしてきた環境がその人に与える影響って大きいから、消そうとしても消しきれない部分って当然あると思うんですけど、なるべくJ-POP感みたいなものを消したいっていうのはどういう思いからなんですか?

VivaOla - J-POPはルーツで、ルーツは絶対消えないんですけど、それだけだと素朴なんですよね。木みたいなもので、木の根っこばかり見てても意味が無くて、僕が生きて音楽作って、抽出できるのは枝や葉っぱの部分なので。消すというより、そっちをどう育てるかってことですね。僕の曲はアメリカだと「日本人っぽい音楽だね」って言われる箇所があって、結構好きなんですけど、コード進行でVIのマイナーに行くときにドミナント7thに変えるとJ-POP的なエモさが出てくるんですよ。アニソンとかにもめっちゃ使われるし。ジャズだとそれがまた次のコードに行って、もっとコーラスを長くしてくれるというか。一番近い例だとOfficial髭男dismの“Pretender”とかですね。僕はそういうのが凄く好きなんですけど、それを使い出すとバークリーの友達とかに「あ、J-POP」って言われるんです。

- J-POPっぽいコード進行を使うとグルーヴが失われるものなんですか?

VivaOla - 失われるって訳じゃなくて、さっきの枝とか木の話と同じで、見てる場所が違うというか。一枚の写真に全部収まらないけど、どこをもっと写したいかっていう。例えば“Even After All”にはまさにJ-POP進行を使ってるんですよ。だから凄くエモく聴こえて、僕的にもエモ曲で。でも“Runway”は全然使ってなくてジャズ全開なんです。サビでは転調してるし。みんなが言うバークリー色を出さずに出した感じですね。でもグルーヴは大事だと思います。外から見たときに日本ってベースが弱いと思ったんですよ。キックが聞こえないとか。

- VivaOlaさんの曲を聴いていると、ドラムに凄く重点を置いてるミキシングをされているのかなと思って。凄く硬く聴こえますよね。そこはこだわってるのかなと思いました。

VivaOla - 結構こだわりました。作曲は引き算だと思っていて、『Bloom』と今回のアルバムの違うところは、『Bloom』の時は色々な音を足そうとしたんですよ。最終的には削ぎ落とした部分があるんですけど、音をミュートするって意味で削ぎ落としたんじゃなくて、ミキシング的な意味で「このEQもっと詰めれる」みたいに。いつもプロデューサーがいるんですけど、作っているときに彼の助言をもっと入れて。「そのハイハットいらなくね?」とか「そのキックいらなくね?」とか、そういうプロセスを重ねました。“Runway”もトラックだけ聴いたら音が全然無いんですよ。ドラムを一塊にしたら楽器が5つしかないから、バンドで出来ちゃう。

- Kanye WestにおけるRick Rubinみたいな友達がいるんですね。

VivaOla - まさにそんな感じです(笑)セカンドオピニオン。彼は日系ペルー人で、上手くバイブしたっていうか。

- なるほど。具体的に曲についても訊いていきたいんですが、“Superficial”はどのように作っていったんですか?

VivaOla - この曲が一番最後に出来たんですけど、ずっとイントロの曲に迷ってたんです。アルバムは最初は元々13曲あったんですけど、その後7曲になって。イントロ曲の候補が3つくらいあったんですけど、前のアルバムから移動しやすいようなトラックにするのか、普通に良い曲にするのかって迷って。結局選んだ“Superfical”は、凄く短くて一瞬で「これまでと違う」って分かる曲になって。さっき言ったプロデューサーの人が「これがよくね?」みたいに言ってくれたんです。彼が一緒にドラムを作ってくれたんですよね。

- ドラムがすごいパキって鳴ってますよね。

VivaOla - 結構邪道なやり方でやって、ディストーションをかけまくったんですよね。2回目にサビに入るときはキックの種類を変えたり。オートチューンをかけてるのもこの曲だけで。“Superficial”っていうのは「表面的」って意味で「内容が薄い」っていう。歌詞もそういう皮肉っぽい内容で、1文目はヒップホップのアーティストが言いそうなことを言ったり(笑)「違う曲で、違う作品で、違う作風で」ってメッセージが入った曲ですね。

- 歌詞については理解が合ってるかどうか分からないんですけど、結構人間関係の上で悩んだり、みたいなことが多いのかなという印象があって。

VivaOla - 自分で言うのも変なんですけど、人間関係は結構良好で。普段過ごしててあんまり人に愚痴は無くて。というのも、人の話を聞くのが基本的に凄く好きなんですよ。でもそれ故の鬱憤があるというか、「この人明らかにおかしくね?」と思ってもその場で言えなくて。その感情の行き場が曲になりますね。

- 自分はラッパーにインタビューすることが多いんですけど、やっぱり歌詞を書くときにポジティブなことを歌詞にする人ってほとんどいなくて。大体ネガティブな部分が溜まらないと曲にはならないって人が多いんですよね。

VivaOla - ネガティブな歌詞の方が書いてて瞬発力がありますね。僕は大体歌詞を書くのが朝の3時とかなんですけど、寝れなくて考えてて「あ、うざ」と思って書き出して、大体5時くらいに終わるんです。2時間ぐらいで、すぐ終わるんですよ。

- 歌詞を書く時間は結構短いんですね。

VivaOla - 書くのが短くて、修正が長い。でも、6曲目の“Smile”って曲はネガティブの裏返しで、悪いことがあったから悪いことを書くんじゃなくて、その裏返しの返答の手紙みたいな曲で。それは書くのに一生かかるかと思いました(笑)言葉が出てこない。ポジティブな歌詞を書くのはちょっと難しいです。

- それで言うと、2曲目の“Tokyo Syndrome”は、VivaOlaさん的に「Tokyo Syndrome」って言葉はどう解釈してるんですか?

VivaOla - この曲はちょっと難しくて。大体全部そうなんですけど、僕がフィーチャリングアーティストを呼んだら曲のメッセージを絶対に伝えないんですよ。伝わるものが伝わらなきゃいけないので。Juaくんとかは読解して時間をかけて書いてくれるんですけど、Wezは自分の考えをバッて出したいので、いかにその「自分なり」の部分を繋げられるか、って作業が多いんです。結構2人の中で話がズレてるんですよ(笑)違うストーリーが始まっていく。Wezの話はもっと分かりやすいストーリーで、「自分は今日こういう気分で、これがあって」みたいな。僕が元々書いた鬱憤っていうのは、日本が平和ボケしてるのが凄く嫌いで。コロナとか今のBLMとか関係無くて、普通にボケっとしてる人が多いなって。そういうのがあって歌詞に「プラシーボでごまかしてる」とか書いて。「外苑」とかは全然関係無くて、僕がただ皇居外苑が好きなので、良いなと思って入れてみたり。テーマは平和ボケですね。相手がどう受け取るかは関係無く、僕はそういう意味で書いてます。

- トラックもVivaOlaさんの90年代からの影響とかが上手く出たものなのかなって気がします。

VivaOla - これは作り方が少し違って、ドラムを本当にサンプリングしたんですよ。普段やってるのは、ブツ切りにしてるドラムのサンプルを並べて構成してるんですけど、今回はあるビートがあって、その上に重ねてドラムを作って、みたいな。だからドラムは結構単調なんです。ブーンバップ的な手法っていうのかな。

- さっき「平和ボケ」って言葉が出ましたが、それは刺激の無さみたいなこととも違うってことですか?

VivaOla - 刺激の無さもちょっとあります。ちょっとあるけど、どっちかと言うと「平和ボケしてるじゃん」っていうメッセージは僕のパーソナリティでは無いんで。というより、もし僕が普通に就活とかして、俗に言う普通の人生を生きてたら、そこに気づいたらどういう反応をするんだろうって。英語の歌詞で「cogs in the wheel」っていうのを入れて、これは「社会の歯車」みたいな意味の慣用句なんです。

- 続いては“Runway”ですが、この曲はバークリー的なメソッドで作ったと言ってましたよね。

VivaOla - そうですね。作り方は僕っぽいんですけど、コードもめちゃくちゃ入ってるし、ビートルズっぽい4コードじゃなくて結構ジャズっぽい進行というか。ボーカルのメロディでもそういう音をあえて拾って。

- アメリカに行った経験から得たものは何でしょう?

VivaOla - アメリカだったら、文化というか。それまでも英語で書くのが好きだったんですけど、英語で日本人が書くような内容を書いてたんです。なんでアメリカ人がパーティとかクラブについてああいう内容を書けるのか、みたいなことを実際に知れたのが良かったです。日本語を英語で書くんじゃなくて、英語を英語で書けるようになった。「自分でも出来る」と思えました、もっとマニアックな話だとリズムとか、言葉のイントネーションとかがあるじゃないですか。ちょっとラップ的な目線ですけど、“Runway”はそういうのも活かされた。ライムとか、どこに音をおいたらちゃんと英語っぽく聴こえるかっていう。

- 続いては“On My Side”ですが、これはどうやって作っていきましたか?

VivaOla - これはアルバムのコンセプトがちゃんと出来上がる前の話で、“Vise le haut”を作った2019年の9月に、LAに遊びに行ったんですよ。毎年用事があって、友達とかに会いに行ってるんですけど、その時に作った曲で。弟がちょうどLAに自分と同じプログラムで留学してて、本当はダメなんですけど弟の大学の寮に忍び込んで一ヶ月くらい滞在して。そこで出来た曲ですね。当時流行ってたのがレゲトンで、ちょうどGoldLinkの『Diaspora』が出たんですよ。

- ちなみにLAではGoldLinkもちゃんと流行ってたんですか?

VivaOla - Uberとかに乗るとラジオで流れてたんです。『Diaspora』はもっとアフロなサウンドですけど、僕は別にアフロのサウンドを目指してる訳じゃないけど、リズムやグルーヴをカッコいいなと思って実験してて。出来上がった経緯としては、ビートボックスが出来るんで携帯のボイスレコーダーに録音してて、最初に出たリズムがそれでした。それを再現しようとしたら“On My SIde”になって。コードを弾いて、ちょうど808にハマってたんで808っぽいベースを乗せて、Thomasに「これ歌う?」って聞いたら「歌う」って言われて。それで出来た曲です。

- 全体としては統一感があるけど、それぞれの曲の作り方は全然違って面白いですね。ジャンルというよりは気になった音楽を曲ごとにやってみたいって感じなんですか?

VivaOla - 基本的にはそうですね。主軸にR&Bっていう好きなボーカルのスタイルがあって。楽器は、いかにそこから逸脱出来るかっていう。同じことやってもつまらないんで。

- 今のR&Bは「R&B」といってもどういうタイプの音楽か全然違うし、インディーバンドっぽいR&Bもあるし、本当に多様化してますよね。次は“Even After All”ですが、これは結構歌詞が暗い感じがするんですけど。

VivaOla - 歌詞は凄く暗くて。さっき出てきた映画監督になりたいって友達が世紀の大失恋をしちゃって、焼肉を食いながらずっと話してて。僕は曲書くときに悪い癖があって、「あ、そうなんだ悲しいね」って話を聞きながらずっと歌詞を書いてたんですよ。それで出来た曲です。他の曲は絶対ビートから始めて歌うんですけど、この曲はアコギだけでやりました。アコギで曲が全部出来てからトラックを作ったんです。だからこの曲がアルバムの中で一番時間かかってますね。

- アコギでやろうと思ったのはどうしてなんですか?

VivaOla - 単純に、メロディーをエモくしたかったらそういうのが良いのかなって(笑)雰囲気ですね。その時の雰囲気がエモくジャランジャラン、って感じだったので。あとは、その時アコギが隣にあったっていうのもあります。例えば“On My Side”は手元にギターとかが全く無かったからドラムから始めたし、“Runway”は全部あったからあんな感じになったし。“Even After All”はギターしか無かったからギターですね。

- なるほど。歌詞を書くときは他の人の話とか、体験談みたいなのも結構入ってくる?

VivaOla - “On My Side”と“Even After All”は色んな人の話が入ってて、他は結構主観ですね。

- 歌詞の書き方としては、具体的な情景が出てくるものと、もう少し抽象的なものがありますよね。

VivaOla - 自分の中では絶対にストーリーがあって、フィクションだろうとノンフィクションだろうと。それをどれだけ抽象化させたいか、ってところですね。抽象化させればさせるほど無条件に伝わりやすいんですけど、抽象化しすぎると逆に伝わらないところもあって(笑)でも具体的にしすぎると、カントリーとかがそうなんですけど、「こういう家に住んでて、こういう人生を過ごして」みたいに想像力が働かなくなっちゃう。曲によってどれがいいかなって選んでますね。

- 次が、歌詞に時間がかかったっていう“Smile”ですね。

VivaOla - 普段はずっと家で歌詞を書いてるんですけど、これはカフェで書いてて。ちょうど12月ぐらいの年越しの時で、ボストンがバカみたいに寒いんですね。マイナス10℃とか行くんですけど。「でもやっぱり散歩した方が良いな」と思ってカフェに行って、書き出して。ずっと書いててどこかの行のラインが決まらなかったんです。「この言葉がいい、あの言葉がいい」みたいにGoogleで検索して、発音記号とかちゃんと見たりして。それを外に出て手が赤くなりながらやってて。結構ライムに苦戦しましたね。ポップに書きたかったので、リズムとかも分かりやすくしたかったんです。

- 最後の“One of these nights”は歌詞が日本語ですが、日本語にしたのはどうしてですか?

VivaOla - 普通に「日本語の曲無いな」と思って(笑)大体やったことないなってことをやりたいので、この曲はニュージャックスイングのスタイルを入れたかったのと、日本語で書いたこと無かったからやってみようと思ったんです。その時、結構日本語の歌詞に惹かれてて。友達が日本からボストンに遊びに来て、その時にずっと音楽を流してたんですけど、Kiki Vivi Lilyをずっと流してて「あ、日本語カッコいい」と思って。それに感化されたんです。

- あまり日本の音楽は聴いてなかったという話を訊きました。

VivaOla - 最近は頑張って探して聴いてます(笑)。

- 日本にR&Bシーンっていうのがあるか無いかは分からないんですけど、日本のR&Bにどういった印象がありますか?それとも無いですか?

VivaOla – 今は印象が無いですね...(笑)シーンはあるんですか?日本の人である以上ある程度借りなきゃいけない部分があると思うんで、ちゃんと知るべきというか。あそこ発祥だからこそあそこの歴史を知るっていうか。でも、多分アイドルとか誰かのためにR&Bを書いてる作曲者の人は、情報みたいに取り入れてるじゃないですか。「とりあえず16のハイハットをやって...」みたいな。そうじゃないシーンがあるとしたら、SIRUPさんとかmabanuaさんとかなのかな...ドラムが凄く良いですよね。でもあまり思いつかないです。むしろ韓国の方が詳しいですね。

- そうですよね。韓国のR&Bは自分も凄く好きで、Spotifyとかでプレイリストを見ても「こんなに沢山アーティストがいるんだ」ってぐらいシンガーが沢山いて。韓国にR&B的なものが沢山出てくる理由をVivaOlaさんはどう捉えていますか?

VivaOla - ちょっとオタクみたいな回答になっちゃうんですけど、まず言語が楽なんですよね。接続的な音が多いというか。あとうねりやすいっていうか。R&Bじゃなくてヒップホップが流行った理由はちゃんとあって、韓国では『Show Me The Money』って番組があって。曲も作るし、ヒップホップの歴史や伝統に番組で触れていくというか、一般の人がそういうジャンルに対するリテラシーを得られる番組なので。

- 倫理的な部分ですよね。R&Bを真似して音をトレースするだけというのは違うと。

VivaOla - あと、やっぱり言語が大きいと思います。日本人は英語を知らないっていうのが大きくて。トラックだけそれっぽいものを持ってきてJ-POPっぽいメロディを乗せても、僕は個人的にあまり魅力を感じなくて。同じ曲を違う編曲にしただけかな、みたいな。あんまりルーツに対する意識が無いのかな、ってなる。

- 今後VivaOlaさんが活動する場所はどうするのかな、って思ったんですよね。

VivaOla - 日本を拠点にはしたいんですけど、でも場所にこだわる必要も無いのかなって。ロケーションに関してはあまり深く考えたことないんですけど。なるべくVivaOlaって名前を使い続ける間はR&Bをしていきたい。そういう努力はするし、そういうメッセージを伝えたいし、みたいな。でもフュージョンするぶんには全然僕の勝手かなって思ってます。ジャンルのことを話し出すと、ジャンルも何なんだろうって感じになっちゃうし(笑)

-ちなみに今後何をしたいかっていうのは決まってるんですか?

VivaOla - まだちゃんと決まってはいないんですけど、7月、8月に出したい音源はもう出来てて。8月にどうしても出したい曲があって。トラップのグルーヴにハマってて、“Runway”も本当はそうだったんですけど、「トラップは使いたくないな」と思ってハウスっぽいビートにしたんですよね。アルバムが出来る前にそれはもう決まってて、それを出してから本当はライブがやりたいんですけどね。今はリモートでもラジオでも広げるのが今は先なんじゃないかなと思ってます。あまり音楽を作ることはまだしたくなくて、もう1年ぐらい考えてからちゃんと良いものを作りたい。後世に残るし、この作品をこの名前でやってて誇らしく思えるかというのが大事ですね。結構R&Bじゃない曲も作っちゃったりしてるんです。でもこの名前でそうじゃないものを出したくないので。今はもっと聴く時期で、もっと吸収して良いものを作りたいと思ってます。

- ちなみに、最近はどのようなものを聴いてるんですか?

VivaOla - 今聴いてるのはBryson Tillerですね。彼のメロディが好きっていうより、ドラムが好きで。James Blakeとかもそうなんですけど、曲に合ったメロディというよりは浮いてるメロディを作ることにハマってるので、そういうアーティストは結構聴いてますね。日本のアーティストもなんだかんだ聴いてて、さとうもかさんとか。あとStarRoさんとコラボした台湾の9m88とか、マンドポップは結構聴いてますね。あとは、藤井風さんも好きな曲が何個かあって。Kota The Friendも好きです。Daniel Caesarはいつも聴いてるし。あとはK-R&Bですね。Crushの“NAPPA”って曲が凄くカッコよくて、ボサノバトラップみたいな。なんでKシーンがあんなに流行るかっていうと、ひたすらアメリカの物を輸入するアーティストがいる一方で、それを違う音楽と混ぜたりするアーティストがいるからで。Crushは元々ネオソウル系ですけど、ボサノバが好きでトラップを取り入れると良いフュージョンのR&Bになるというか。日本はまだその土台が無いのかな。普段あまり音楽の話しないので楽しいですね。いつもするとハラスメントみたいになっちゃうんですよ。

- どういうことですか(笑)

VivaOla - 僕がオタクなので、話してると「理論の話とか分からないわ」とか。唯一話せるのが、そこまで好きじゃないジャズ友達で(笑)ジャズはオタクが多いので。

- ありがとうございました。

Info

アーティスト名: VivaOla
タイトル: STRANDED
Release: 2020.6.17
Format: Digital
Label: FRIENDSHIP.

Track:
1. Superficial
2. Tokyo Syndrome
3. Runway
4. On My Side (feat. Thomas Ng)
5. Even After All
6. Smile (feat. Ⅲ-doo)
7. One of these nights (feat. Jua)

配信リンク
https://FRIENDSHIP.lnk.to/STRANDED_PRE

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