【インタビュー】Sweet William『Brown』|自分の音楽には正直でありたい

Sweet WilliamがソロEP「Brown」を発表した。本作は知名度を高めた唾奇やJinmenusagiとのダブルネーム作品とはまた違うテイストの作品。ヒップホップをベースにしつつ、サンプリングをより自由に解釈したビートミュージックを思い起こさせる。今回FNMNLではEPの制作秘話に加えて、Sweet Williamの音楽と向き合う姿勢などについて話してもらった。

取材・構成:宮崎敬太
写真:湯浅良介

作曲家としての能力を高めたいと思うようになってきた

- 今回の『Brown』というEPはどんな作品ですか? これまで『Orange』と『Blue』という色をタイトルにしたEPをリリースされていますね。

Sweet William - これまでのEPと同じ流れで、今回は自分の中で『Brown』だなと思う質感の楽曲を集めた作品ですね。実は『Blue』を出した直後から「次は『Brown』にしよう」と思ってたんです。でもダブルネームの作品をやったりもしてたんで、リリースするのに随分時間がかかっちゃいました。だから、今回の作品に入ってる"Jogo Os Carioca"も実は2年くらい前に作った曲なんです。

- "Jogo Os Carioca"はブラジル音楽がサンプリングされた作品ですね。ブラジル音楽とヒップホップといえば、どちらも造詣深いMadLibが今年Freddie Gibbsとコラボアルバムをリリースしていました。

Sweet William - そうですね。でも僕は新譜をゴリゴリ掘るほうではないから、シーンの流れやトレンドはあまり知らないし、制作する時も全然意識してないんです。もちろん新しい曲を友達に教えてもらったり、僕自身が何かのきっかけで偶然知ったりとかはあるんだけど。

- 今回のEPにブラジル音楽をサンプリングした曲が多いのはなぜですか?

Sweet William - それは、僕自身が今メロディのイメージが湧くような音楽に意識が向いてるからです。今まではビートのメインのメロディーと音圧と質感を重視することが多かった。でもそこに関しては、ラッパーとの制作を経て、自分の納得いく色と質感を出すことができるようになってきました。そうすると、今度はもっと違うことをしたくなってきて。だから意識がビートの上に乗るメロディに向いてきたのかもしれない。実はこれまでの作品で、僕がメロディやフロウを作った曲はほとんどなくて。僕からの要望や微妙な修正はあったりしましたが、基本的には全部ラッパーやシンガーに任せていました。ビートメイカーはそういうものだろうなと思ってたし。今も「自分はビートメイカーである」という自負があるけど、同時にもっといろんな音楽を作りたいという気持ちも強くあるので作曲能力を高めたくなってきました。『Brown』にはそういう意識がだいぶ反映されていると思います。

いずれはメロディもゼロから作ってみたい

- 『Brown』の中でメロディも作った曲はありますか?

Sweet William - "休花 feat. Jambo Lacquer"はLacquerさんにまず歌ってもらい、フックに関してはそこから少しづつメロディーと譜割りを一緒に作っていきました。トラックを作った段階で、自分の中にぼんやりとメロディのイメージがあったけど、まずLacquerさんの解釈でラップしてもらって、そこから二人でより良いメロディにするために一捻りしました。すごい楽しかったですね。いずれはメロディもゼロから作ってみたいと思っています。

- kiki vivi lilyさんとの作業はどのように進めたんですか?

Sweet William - 彼女はいつも自分の中に明確なメロディがあるんですよ。なので今回の"Tempo de sonhar"も彼女にメロディを作ってもらっています。歌いやすいように、トラックのキーを若干変えたり。kiki vivi lilyとはこれまでも何度か一緒に曲を作ってるんですが、「Aメロ、Bメロ、サビみたく展開のあるトラックではなく、Sweet Williamとはワンループのトラックで歌いたい」みたいなことをポロっと言ってたんですよ。

- 面白い話ですね。ビートメイカーであるSweet Williamさんが作曲家的な意識を強くする一方で、kiki vivi lilyさんはあえてシンプルなワンループのトラックを求めるという。歌い手にとっては、展開がないほうがより自由になれるのかもしれませんね。

Sweet William - 僕はワンループでグイグイ引っ張っていくというより、展開させていくことが多いです。なので、今回は意識的にヒップホップ的な構造のトラックにしました。この曲はブラジルのコーラスグループをサンプリングしています。母の影響で昔からアカペラのコーラスグループが好きなんですよ。あと兄がブラジル音楽に詳しくて、実はブラジルにもたくさんコーラスグループがいることを教えてくれて。この曲には、そういうエッセンスを入れました。

デトロイトのテクノやハウスはサンプリングが多いから入りやすかった

 - ドイツ在住のイスラエル人、J.Lamottaすずめさんが参加することになった経緯を教えてください。

Sweet William - もともと彼女の『Conscious Tree』というアルバムが好きでよく聞いていました。流れるように歌い上げるメロディーがとても好きでビートも彼女自身が作ったという事にとても驚いたし、ワンループのビートの上で自然な展開をつけて歌える事が何より衝撃でした。そしたら来日公演があることをWONKのメンバーが教えてくれて。来日した時、ライヴに遊びに行って実際に挨拶しました。でも僕はほとんど英語が話せないから、その時は本当に挨拶程度だったんですよ。そしたら後日向こうからメールをくれて。「何か機会があったら一緒にやろうよ」と。ちょうど『Brown』を作っているタイミングだったのでオファーしてみたら快諾してくれたんです。今回、すずめと曲作りをして、初めて海外を意識したんですよね。

 - それは意外です。

Sweet William - これまでは日本でヒップホップやビートミュージックが好きな人に、自分の曲をどうやって届けるかってことだけを意識してたんですよ。すずめと直接何か話してインスパイアされた訳ではないのですが、海外で活動してる人と一緒にやることで自然と視界が広くなったというか。自分のビートを世界中のもっといろんな人達に聞いて欲しくなりました。

- "Moments in life"は初期のFlying Lotusとか、LAのパーティ『Low End Theory』周辺のサウンドを思い起こしました。

Sweet William - 実は"Moments in life"は僕が大好きな曲へのオマージュとして作ったんです。2000年代後半に出たデトロイトのアーティストの曲。四つ打ちなんですよ。でもその曲はどのサブスクにも入ってなくて、おそらくアナログのみでしか流通してないみたいで。中古屋さんやネットで探しても全然見つからなかったんだけど、ふとした会話の中から僕の先輩がアナログを持ってるということが発覚して。それですぐに貸してもらって、あまりの嬉しさに曲にしちゃったんです。

- デトロイトの四つ打ちとかも聴くんですね!

Sweet William - そんなに詳しくはないですが、デトロイトのハウスってサンプリングを多用してたりするから、もともとヒップホップを聴いてきた僕にとっては結構馴染みやすいんですよ。

 - その話を聞くと、すごくファンキーでブロークンな"Soil"も自然な流れですね。

Sweet William - この曲はダンサーの感性で作りました。前に別のインタビューでも話したのですが、僕は昔ダンスをやってたんですよ。実はたまにスタジオに行ってまだダンスを楽しんでいます。"Soil"はダンスしてる時に流れたら嬉しいなって感じの曲。

 - ちなみにダンスはどんなキッカケで始めたんですか?

Sweet William - 僕には兄が二人いるんですが、長男がハウスダンスを、次男がヒップホップダンスを踊っていました。それで自然と僕も踊るようになりました。ダンサーの人たちは、ミュージシャンとは音の取り方が違うんです。肌で感じてるというか。直感的。独特のノリ方があって、僕も少なからず影響を受けています。だから、たまにもろダンサーの感性で曲を作りたくなるんですよ。

 - しかもお兄さんたちはDJもされていたんですよね? そのノリでブラジル音楽も入ってきたわけですね。

Sweet William - だから家ではいろんな音楽が流れてましたよ。ハウスの四つ打ちやギャングスタラップに混じってキリンジとか。あと冨田ラボさん、大沢伸一さんなどの日本の音楽ですね。で、僕自身は日本語ラップのヘッズだったし。さっき話したブラジル音楽も含め、いろんな音楽をすべて並行して聴いてました。

 - Sweet Williamさんのバックグラウンドには、いろんな音楽が複雑に混じった環境があるんですね。

Sweet William - はい。僕は中心にヒップホップがあったけど、雑食でいろんな音楽を聴ける環境でしたね。

みんな自分が好きな音楽だけ聴けばいい

 - 唾奇さん、Jinmenusagiさんとのダブルネーム作を経て一気に知名度が高まりましたが、Sweet Williamさんを取り巻く環境はどのように変化しましたか?

Sweet William - ミュージシャンの知り合いが増えました。今回の作品はミックスとマスタリングをEPISTROPHの井上幹(WONK)くんにお願いしたんですよ。今まではそこも含めて、頭からケツまで全部一人でやってたので、頼れる存在ができたというのは結構大きい。制作過程で完璧に満足するものにするのではなく、マスタリングまでをゴールにして帳尻を合わせるようになりました。

- ミックスとマスタリングを他人に委ねたのは大きな変化ですね。EPISTROPHといえば、去年Jinmenusagiさんとのコラボアルバム『a blanka』をリリースされたレーベルですもんね。

Sweet William - うん。基本的には今も部屋にこもってずっと音楽を作り続けることが多いですが、WONKのメンバーのような楽器を弾ける友達ができたのは大きいです。僕はサンプリングにこだわりがあるので、今の制作スタイルを大きく変えるつもりはないけど、今後は要素としてフルートやサックス、ドラムを生で演奏してもらったりするのも楽しいかもしれない。

- ここまでお話をうかがってると、Sweet Williamさんには音楽に対して確固たる信念がありますよね。制作に対しては柔軟だけど、芯に絶対に譲らないものを持ってるというか。

Sweet William - そうですね。自分の音楽には常に自由で正直でいたいので、時代感みたいものは自分の作品ではまったく意識しません。普段聴かない音楽を無理して聴いて好きになる、ということをほとんどしたことがない。基本的には音楽を肌で感じて好きになるかならないか、それだけです。もちろん昔興味なかった曲をある程度時間が経ってから好きになることはあるし、新しいものを聴いて古い音楽を再発見したり、刺激を受けることはある。逆も。だけど、基本的には今自分が好きなものだけ聴いてたい。ただこれは、本当にあくまで自分にとっては、という話なんで。僕は、みんな自分が好きになれそうな音楽だけ聴けばいいと思ってますね。制作に関しても、僕は基本的に好きなことを好きにやるタイプだし。着地点とかもいつも特に意識しない。

- そういう意味では今回の『Brown』は、Sweet Williamさんのさまざまな成長を過程を感じられる作品になったと言えそうですね。ちなみに、今後はどのような活動を予定されているんですか?

Sweet William - ビート集を出したいですね。あとEPじゃなく、フルアルバムも。でもアルバムを作るためには、僕自身がもっとステップアップしないと。それに僕はそんな制作ペースが早いほうじゃなくて。曲によりけりなんですけど、一ヶ月に2曲くらい。アイデアが浮かべば、一週間に2曲できることもあるんですけどね。煮詰まっちゃうときはひらめきが降りてくるのを待ちます。なのでアルバムを作るために、あと二皮くらい剥けたいと思っています。

 

info

Sweet William 『Brown』

01. Browny
02. Life's too short (feat. J.Lamotta すずめ)
03. Moments in life
04. Soil
05. Jogo Os Carioca
06. Tempo de sonhar (feat. kiki vivi lily)
07. Horta
08. 休花 (feat. Jambo Lacquer)

CD
https://diskunion.net/portal/ct/detail/1007970161

Streaming / Download
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