【インタビュー】BIM | Behind 『The Beam』
2018年の夏はとにかく暑かった。関東での平均気温は例年より1.7°C高く、統計開始以降、最悪の猛暑。そんな昨夏のクールダウンに一役買ったのが、7月末に発売されたBIMのファーストソロアルバム『The Beam』だ。THE OTOGIBANASHI’S(以下、OTG’S)の結成から7年。メンバーのin-dやCreativeDrugStore(以下、CDS)所属のVaVaやdoooo、JUBEEのソロ作が先行してリリースされるなか、満を持しての発表となった本作。アルバムから受け取ることのできるBIMの等身大の言葉は、OTG’Sのフィクショナルな歌詞世界とは一線を画している。ここではBIM自身による収録楽曲のリリック解説を背骨に、アルバム制作過程におけるラッパーとしての進化、ひいては彼の精神的な成長についてフォーカスを当てようと思う。アルバム発表後、日本各地をツアーで巡業し、最終目的地である東京でのワンマンライブを目前に控えたタイミングでの『The Beam』答え合わせ。あの暑すぎた夏、BIMはどんなイメージを作品に投写したのか。本稿で改めて確認してもらおう。なお、このインタビューでの歌詞解説はリリック解説サイトであるGeniusにも転載(“Tissue”に関しては動画での解説も)しているので、そちらもあわせてチェックいただきたい。
取材・構成 : 高橋圭太
- 今回はBIMくんの歌詞について多く時間を割けたらと思ってます。まず、歌詞を作る上でのセオリーみたいなものがあればお訊きしたいんですが。
BIM - ほかのラッパーとこういう話をするといつも変だって言われます。たとえば“Bonita”だと、実は完成した歌詞の4倍くらいリリックを書いてて。ラップしながら変えていったり、最初に書いた部分を後半に持っていったり、その逆だったり。
- 改めてじっくり歌詞を読んでみると、どの曲もストーリーが時間軸に沿って進んでいく単純な作りにはなってないなと思っていて。散文的というか。それはそういったところに起因しているのかな。
BIM - それは昔から……それこそ(OTG’Sのデビュー曲である)“Pool”のころからだと思います。平面的に聴こえる歌詞ってよくあると思うんですけど、自分は空間を作るみたいなイメージで書いてるところがありますね。一本線でストレートに物事を伝えるというより、空気を伝えるって感じかなと。
- はじめに書く草稿はストレートなものという感じ?
BIM - そうっすね。ひとつのテーマに向かって書いてるけど、いろんな角度とか視点で書いてるっていうか。
- 草稿からリリックをブラッシュアップする段階で重視してるのはどのような部分でしょう。
BIM - 最近はライミングを自分なりに気持ちよくしたいなっていうこと。あと自分が言って違和感のない言葉選びにするってこと。その上で、それを自分のなかだけで消化できるものにはしないようにしてます。もちろん自分のために書いてるのだけど、やっぱり聴くひとがいてこその作品だと思うんで、共通項を探そうとはしてますね。
- ライミングの気持ちよさにも個人差はあると思うけど、BIMくんの基準は?
BIM - 書くときはいつもトラック聴きながらフリースタイルで継ぎ足しながらって感じなんです。その状態で違和感なくトラックに乗れてたらOKですね。
- 基本的に家で書くことが多い?
BIM - マイクがないと書けなくて。外で書いたりしても、それをあとで録ろうと思ってもあんまりしっくりこないことが多いです。
- リリック帳とかは使わない?
BIM - リリック帳はあるけど、あんまり使わない。なんでもない裏紙とかに書くことが多いですね。
"Bonita"
- 歌詞の内容についても個別に訊いていこうと思います。まずは“Bonita”ですが、比喩も多いので細かいとこまで伺えればと。曲中ではフックで書かれている “部屋のドア”が印象的に使われています。
BIM ‒ これは自分の内面だったり心情の比喩ですね。それに加えて“もういいや!”つって部屋に入っていく感じの描写。なにかに悩んでることの象徴だったり、モヤモヤ感みたいなものが表れてると思うんですよね。
- 当初“バンッって閉め”られたドアは、最後のフックで“そっと閉め”られていますね。ここに込めた意味は?
BIM - 成長、ってことですかね。最初の部分は、自分がはじめて直面した問題とか悩みとかに対して“そんなの聞いてないよ”って。でもその壁を乗り越えて、最終的に“どっかで聞いたな”ってマインドになったという。
- “Bonita”に関しては別のインタビューで“恋愛の話に聞こえるけど、実は仲間に歌ってる”ということを言っていて。ここで言う“仲間”っていうのはCDSの面々っていう認識でいいんでしょうか。
BIM - ええっと、これはVaVaくんに対して言ってることですね……。過去にあったVaVaくんとのいき違いとか、それを経て、いままたいっしょにやれてること……いろいろ経験して、自分のなかで成長させてもらったから、それを日記みたいに残したって感じです。
- 以前、VaVaくんにインタビューした際にも、CDSを離れた時期の話は訊いていて。当時、BIMくんはどんなことを思ってたんでしょう。VaVaくんのアルバム(『low mind boi』)はCDSのメンバーにも制作していること自体、知らされないまま発表されたわけだけど、そのときの心境は?
BIM - うーん……当時の気持ちとしては手放しで喜べる感じではなかったですね、正直。“いままでいっしょにやってきたじゃん”って気持ちもありましたし。だけど、そこから自分がいままであたりまえだと思ってたことがあたりまえじゃなかったんだって思えた。もっと言うなら、変わらないものより変化するもののほうが楽しいんじゃないかって思えたというか。自分も周囲も変化して当然だってことがわかったんじゃないかな。言葉にしにくいんだけど、いままでだったらありえなかったことが起きても、そういうこともあるって思えて、それを否定しないでいられた自分っていうのに、ちょっとなにかが変わったなって感じはありましたね。
- なるほど。
BIM - 単純にアーティストとしてVaVaくんのことを尊敬してるってことを再認識できたというか。離れてみて、ちゃんとVaVaくんをアーティストとして見れた。その上で、ほんとにかっこいいし、またいっしょにやりたいなって思えたんです。
- 実は以前、VaVaくんにストックのビートを聴かせてもらったことがあったんですが、そのなかにまだ手つかずの“Bonita”のインストがあって。本人も自信がある曲のようだったし、インストの段階で素晴らしかったので“この曲は絶対売れるので、自分でやったほうがいいんじゃないか”って伝えて。で、しばらくしたらVaVaくんが“あの曲、BIMにやってもらおうと思って”と。それが自分としてはうれしかったんですよね。ふたりの関係が最終的にこの曲によって落ち着いたんだなと思って。完成した曲もバッチリだし、いまのBIMくんからの話を考慮するとより味わい深いなぁと。
BIM - これまでの自分の作品には、あまり他人の意見を取り入れることはあまりなかったんじゃないかな。それは聴いてくれるひとに対して嘘をついたような気がしちゃって。自分の判断で最初から最後までやりたいって気持ちが強かった。でも“Bonita”はタイトルもVaVaくんからビートが送られてきたときに付いてて。このタイトルで絶対いこうって思ってたっすね。VaVaくんがいいと思って送ってくれたタイトルに対して委ねてみようって。そういった、だれかに委ねるってことを今回初めてやったんです。
- ちなみに今回のアルバムを全部自分ひとりで作るっていう選択肢はあった?
BIM - そもそも“Bonita”での意識の変化がなかったら、こういうアルバムを作ってなかったと思います。そこは自分のなかでちょっとだけステップアップした部分かなと。だから、すごく感謝してる曲。
- リリックにある“等身大がいちばんむずかしい”という部分も、そういったことを経てたどり着いた言葉なのかなと思いますね。
BIM - CDSをはじめてからは、心のどっかにメンバーに対してもBIMでいなきゃいけないって気持ちがあったと思います。もっと責任感を持たなきゃ、みたいな。だけど、それは勘違いだったし、みんなにも失礼だったなと。それって結局、メンバーを信用してなかったってことだから。みんな、自分とは関係なしにどんどんかっこよくなっていってるし、だからこそアルバムに注力できたんだと思います。
"BUDDY feat. PUNPEE"
- “BUDDY”には今回唯一ラッパーとしての客演でPUNPEEさんが参加してます。これはどういった経緯で?
BIM - これはね……(A&Rを担当している)レンくんのミスです(笑)。最初、レンくんにこのRascalのトラックを聴かせてもらって。もう即決でキープしてもらったんです。んで、おなじタイミングでPUNPEEくんもRascalのビートを買ったって聞いてて。でもそれは違うビートだったから大丈夫だ、ってなったんですよ。その後、PUNPEEくんと電話してるときに“そういえばRascalからビート買ったんですよ”って話になって、そのビートを聴かせたら“それ、おれが買ったビートじゃね?”って(笑)。PUNPEEくんもおなじやつ選んでたっていう。それをレンくんが勘違いしてた。
レン - PUNPEEさんはこの曲を選んだときに“絶対なにかに使います”って言い回しだったんで、それをいいふうに捉えて“なにかで使うってことはBIMとなんかやるっていうのもいいんじゃないですか”ってうまいことまとめて(笑)。
- ハハハ! でも結果オーライじゃないですか。
BIM - それでPUNPEEくんが“今回はBIMちゃんが使ってください”って言ってくれて。その流れで客演もお願いしてって流れですね。
- じゃあ、当初はPUNPEEさんを客演にという意識はなかった?
BIM - トラック聴いたときに“フックをPUNPEEくんにお願いできたら最高だな”って思ったけど、自分の力だけで完成させたいって気持ちも両方あって。でも正当な理由もできたし、ラッキーって感じでした(笑)。
- 歌詞のなかで“ことごとく失敗して孤独な世界を想像してるとき”というラインがありますが、このあたりは実際の心象ですか?
BIM - そうです。思うような結果が出なかったり、いい反応じゃなかったりとか。そういうときも友達とかは“そう言われるってことはさ、言ってるひとも聴いてくれてるってことだから”とか励ましてくれて。そういうのでけっこう助けられたりとかする。
- その点に関してはもう気にしなくなった?
BIM - 言われたりするのはすこし落ち込みますね。でも、批判的な意見が本質の部分じゃないって思えるようになったのはデカくて。本当に大事なとこってそれじゃなくて、これを好きって言ってくれる側の意見だから、批判にいちいち対応するのは時間がもったいないなって。聴いてくれてるひとに対してやるべきで、そもそも趣味が違うひとの意見に合わせたら、自分のこと好きなひとも離れていっちゃう。そういうことが頭のなかで整理できてきたというか、もうちょっとシンプルに考えられるようになった。もちろん、その意見からいろいろ気づかされたりすることもあります。
- なるほど。では、この曲で自分で気にいってるラインは?
BIM - サビですね(笑)。あとはケンタッキーのくだり。
- ここと”ハーゲンダッツのNew Shit食べる”ってラインはBIMくんっぽいリリックだなぁと思いました。
BIM - ケンタッキーのとこは“KFC分けて食べてタッチザスカイ/like kanye”ってラインなんですけど、それはKanye Westが“Touch the Sky”のなかで“俺はケンタッキーのセットを彼女と分けあってた”みたいに言ってるとこがあって。それって夢あるなって。俺とKanyeじゃ規模感が全然違うけど、自分もお客さんの前でライブすることもあるけど全然そんな感じですって歌詞で。ハーゲンダッツは“今日はちょっといいことあったし贅沢するか”みたいな感じですね。
"サンビーム"
- では次にいきましょう。“サンビーム”ですが。
BIM - マジで適当。今回のアルバムで唯一力を抜いて作れた曲っすね。トラック聴いたときに、ZEEBRAさんの“真っ昼間”みたく自分の日常を歌った曲を作りたくて。そんなに深い意味があるわけじゃないけど、ちゃんと聴けるような曲というか。
- すこし肩の力を抜いて、みたいな。
BIM - そうそう。これはアルバムのなかでも最後のほうにできた歌詞なので。“ここはちょっと気を抜いて作ってもいいかな”って時期の曲。
- この曲ではKendrick Lamarなどにもトラック提供しているAstronoteが起用されていますが。
BIM - すごいポップな感じに聴こえるけど、かなり渋い感じですよね。
- 今回、海外のビートメイカーも参加していますが、BIMくん自身で直接コンタクトを取ったひとは?
BIM - いないですね。基本的にはレンくんがコンタクトを取ってます。そのなかから自分がチョイスしてという感じで。
- チョイスの段階の話で、自身が選ぶビートにどんな傾向があると思いますか?
BIM - アルバムではこれまでだったら選ばないタイプのビートを選んでみようみたいな意識はありましたね。OTG’Sで選ぶビートは世界観がインストの段階で決まってるものが多かった気がする。でも今回は自分で色をつけてくっていうイメージでビートを選んでて。まだ色がついてないものに自分の声で着色していくっていう作業をしたかったんですよね。
- “着色する”ってイメージは、歌詞の作り方にも影響を与えている?
BIM - そうっすね。これまでだとファンタジーって意図を、言葉でわかりやすいものにしていったって作業だと思うんですよ。でも自分の作品ではまっさらなとこに乗せてくので、率直な自分の気持ちをライミングすることができたんじゃないかなって。
"Orange Sherbet"
BIM - “Orange Sharbet”もノリで作った曲で。1日で曲作って、次の日にPV撮って、って感じで作ったんですよね。その日に買ったレコードでビート作って、みたいな。これはテンション的にはクラブでみんなと会って飲んでるときの感じ。
- この曲は不思議な曲だなと思ってて。以前、この曲ができたタイミングで話したとき、軽井沢で起きたバス転落事故(2016年1月に起きた大学生を中心に多数の死傷者を出したスキーバス事故)がきっかけでできた曲と言っていたのを覚えているんですが。
BIM - そうですね。でも、その事故自体を歌ってるっていうよりは、あの事故があって、自分もまわりの友達もみんなショックを受けてたから、自分を癒すために、深いことも言わずに曲作りたいなと思って。夕方とかにみんなでバスケして遊んでたこととか、生活をラップしてみようって感じですね。
- そうなんですね。アルバムの楽曲ではこれが最初に作られた曲ですよね。当時はソロのアルバムというのは意識してなかった?
BIM - 全然意識してなかったです。
- アルバムに向けて作った最近の曲との違いはどんなところでしょう。
BIM - 当時のほうがBIMってひとを演じてる部分があるんじゃないですかね。あのときの自分が思う“ここまでなら言ってもいいかな”っていうラインに収まってる歌詞ではあるかな。これ以上、生身の人間としてさらけだしたら崩れちゃうんじゃないかって思ってたときの歌詞。だからわかりやすい言葉をなるべく使わないようにしてたなって思います。それはそれで好きなんですけど。
"Beverly Hills"
- じゃあ、次の曲は“Beverly Hills”。これはまた変な曲ですよね。
BIM - これは変です。
- ただ、本作中でいちばんOTG’Sの流れを汲んでいるというか、フィクショナルな世界観の歌詞になっています。
BIM - そうですね。映画を観てそれで書こうと思ってパーッと。本当に2日くらいでできたんじゃないですか。
- 映画はどんな作品を?
BIM - ジム・ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』。いちばん最初のロサンゼルス編の部分ですね。
- ウィノナ・ライダーが出てるところですね。この曲での成果を挙げるとするなら、どんな部分だと思いますか?
BIM - うーん……これ、これまでの自分だったらフックは若者のほうの視点で書くと思うんですよ。最後の“あなたのステキなドレス着てみて/あの日に戻り馬鹿騒ぎして”みたく、おばさん側の目線で書けたっていうのは成果っちゃ成果。この曲は“時間の経過”っていうのがテーマになってるので。
- OMSBさんのビートはどうでしたか?
BIM - 最初にビート聴いたときは、本当にかっこいいけど、自分には大人っぽすぎるかなと思ってたんですよね。でも、そこはレンくんのゴリ押しで(笑)。
レン -かなりやりとりした記憶がありますね、オムスさんと。リズムは変えずに別のテイストでやってみてほしいってリクエストを出したりもしたんですが、そのままやってほしいという気持ちはずっとあって。それはオムスさんも同じみたいでしたね。だからけっこう説得して(笑)。でも、BIMも何度も聴きなおして、良い着地をしてくれてよかったと思います。この曲に限らず、ビート選びの段階でそこまでだった曲も、何度も聴き返して魅力を再発見するみたいなことはありましたね。
"Starlight Travel"
BIM - 冒頭で言ってる“妙な名のグループ”っていうのがOTG’Sのこと。“夜にオモチャ箱からひとっ飛び”っていうのはグループから飛び出したってことで、まぁ“自分のことを歌うよ”っていう意思表明みたいな感じです。売れてってスターになって、それでも死んじゃったら星になるっていう儚さを歌ってるんですけど……それと自分の活動のことに関して言及してるっていう。
- ソロのアルバム以前の楽曲で自分のマインドや感じてることをダイレクトに書いてる歌詞はあった?
BIM - ないですね。
- ストレスはたまりませんでした?
BIM - ああ、でも言ってるっちゃ言ってる。ただ、全部オブラートに包んで書いてますね。ストレートな言葉でラップするのって自分にはできないって思ってた部分があって、そういうマインドからすこし成長できたかな。ダサいならダサいで、それをそのまま出すっていう。だから今回は思ってたことや不安に思ってたことも素直に言おうって。
- ちなみにBIMくんのなかで同世代の意識が強いプレイヤーを挙げるとすると?
BIM ‒ kZmですかね。グループ以外の同い年のラッパーではじめて友達って感じになれたひと。ちょっと話したいことあるときとかに“いまなにしてる?”みたいに連絡できるのはデカいっすね。
- ほかにBIMくんの同い年だとだれがいるんだっけ?
BIM - KID FRESINO、Aru-2、Ryugo Ishida氏、JP The Wavy氏、 SUSHIBOYSのFarm君、サンテナ君とか。
- 世代的な特徴はあると思いますか?
BIM - なんかかっこいいひと多いなと思いますね。
"D.U.D.E."
- “D.U.D.E.”はどんなテーマで作った曲でしょう。
BIM - これまでin-dとあんまりふたりで深い話ってしたことなかったんだけど、それが最近ちょっと腹を割って話せるようになって。
- そのときのマインドがストレートに反映されてると。
BIM - サビの“難しいことはわからない”はin-dのリリックからもらいました。それに2013年のフジロックの話(この年、OTG’SはROOKIE A GO-GOのステージに出演)とか。
- “フジロックで見たJ5びびった”の部分ですね。この年のJurassic 5のライブは印象に残った?
BIM - VaVaくんと観てて“ヤバくね?”って。めちゃめちゃライブに力を注いでるなって思って。そのあたりから自分たちもでライブがんばろうって気持ちになりましたね。
- 世界最高峰のライブ強者ですからね。ほかにこれまでで観たライブでかっこいいと思ったアーティストは?
BIM - OMSBくん。渋谷asiaでやってたELNINOでのライブとか、dooooくんのリリパでのライブが印象に残ってます。人間味あって、さらけ出しててすげえかっこよかった。
"TV Fuzz~Red Apple"
- で、インタールードに“TV Fuzz”をはさんで“Red Apple”という流れ。すこし話はそれますが、自身でトラックメイクする場合はサンプリングがメインだと思うんですが、機材の変化はありますか?
BIM - 昔に比べてAbleton Liveが多少いじれるようになったくらいで、劇的な変化はないですね。サンプリングソースがレコードでもデータでもMPCを通してやってます。それとMIDIシンセをたまに使ったりして、PCでエディットって感じっす。
- アルバム本編はここから(ラストの“Power Off”〜“Link Up”を除いて)BIMくんのトラックになります。この構成にしたのにはどんな意味が?
BIM - ストーリー性を重視したアルバムってのではないので構成に関してはそこまでこだわりがないんですよね。ひとつずつ楽曲を単発で作っていって、それを作品集として集めたという意識だったっすね。
レン - 当初に想定していたのは後半の“Red Apple”から“Magical Resort”までの雰囲気のアルバムだったと思います。というのも、最初はほとんどBIMのビートだけでやろうみたいな感じだったので。で、制作過程で肉付けしていったのが前半部ですね。なので、はじめのイメージからはだいぶ変わってるんじゃないですかね。“Red Apple”も収録しない予定だったし、そのかわり“Kids Room”ってもうすこしナードな感じの曲を入れる予定だった。ただ“Red Apple”に関してはBIMが“絶対に入れたい”って言って入った曲です。今回の制作を通していちばん強い主張だったんじゃないかな。結果的にこの曲が入ったほうがいいって思えるのでよかったなと。
- BIMくんはなぜ“絶対に入れたい”と?
BIM - 単純に気に入ってたからです(笑)。自分的にはこのアルバムは作品集なんで、いま思ってることとかやりたい曲を入れるっていうのが優先していて、レンくんはそれをどう取りまとめるかみたいなところをいっしょに考えてもらったって感じ。だから最終的には“この曲かっこいいから入れたいなぁ”っていう自分の意見を押し通したって感じですね。ちなみに“Red Apple”っていうのは(クエンティン)タランティーノの監督した映画に出てくるタバコの銘柄のことです。
"Bath Roman"
BIM - これはなんとなく風呂に入ってるときに思い浮かんだ歌詞ですね。
- “Tissue”の歌詞もシャワー浴びてるときに思い浮かんだって話してましたけど、けっこうバスタイムが重要なんじゃないのかと。
BIM - 大事、大事。生活のなかであんまり無音の時間ってないじゃないですか。だけど風呂の時間って無音だからいろいろ考えちゃう。ボーッとできる時間っていうか。
- なるほど。たとえば、こういうファニーなテーマの曲は入れずに、純粋にかっこいい曲ばかりのアルバムにもできたと思うんですが、あえてこの曲を入れた理由は?
BIM - 自然にできちゃってたから、理由って感じの理由もないんですけどね。『嫌われ松子の一生』って映画がけっこう好きなんですけど、あれ、ソープ嬢の話なんですよ。主題歌になってるBONNIE PINKの"LOVE IS BUBBLE"って曲で"Money for Me, Pleasure for You"っていう歌詞があるんすけど、この曲ではそれを逆にしてる。
- ソロデビュー作にしてちゃんと自分をウソつかずに出してるなって思いますね。OTG’SでのBIMくんは別でキャラクターを作り込んでたイメージもあったので。
BIM - そうですね。こっちのほうがより人間らしくて今はいいのかなって思ってます。
- 以前、PUNPEEさんのラジオ(J-WAVE『SOFA KING FRIDAY』)にゲストで出演したときにCDSのメンバー内でむちゃくちゃやってた時期の話をしてましたよね。バケツに氷結のストロングゼロ入れて飲んでた、みたいな。もうそういうむちゃくちゃなことはしてない?
BIM - 最近はもうあんまりないですけどね。昔のむちゃくちゃなことは……覚えてないな、いっぱいありすぎて(笑)。話せる範囲で言えば、Heiyuu(CDSに所属する映像クリエイター)と昼間にコンビニで日本酒買って、渋谷行って、酔っ払って、帰って寝て、みたいなことを続けてた時期はヤバかったっすね。
- ハハハハハ! むちゃくちゃ!
BIM - その時はクレジットカードのこと、魔法のカードって言ってましたからね。
- 若気の至り以外のなにものでありませんね......。
BIM - というわけで、“Bath Roman”いい曲です(笑)。
"BLUE CITY"
- 気を取り直して次の曲にいきましょう。“BLUE CITY”ですが。
BIM - これは地元の友達の話ですね。いまでもよく遊んでる小1からの友達がいるんですけど、あるとき、そいつが“夢とか追ってる場合じゃない”って言って就職して。それがきっかけで一時期なかなか遊ぶこともなくなっちゃって。そのできごとがきっかけでできた曲。
- 今回のアルバムのなかでも“時間経過”っていうのは重要なテーマだと思っていて。この曲も“時間経過”……言い換えるとモラトリアムな時期から大人になる狭間の揺れ動きみたいなものが書かれているなと。自身でもそういった時期っていう自覚はありますか。
BIM - 自分は卒業できなかったけど、もしやめてなかったら去年が大学を卒業する歳なんですよ。いろいろ考えることが増えたっすね。みんな大人になってっちゃうなぁ、みたいな。自分がやってることは高校のときから変わってないつもりなのに、みんな大人になっちゃって。でも、それに関してはさびしい気持ちと楽しんでる気持ち、半々って感じだけど。
- ある意味で腹をくくったというか。
BIM - そのつもりでいます。
- いま現在、将来への不安は感じます?
BIM - ありますね。めちゃくちゃある。逆に大人になってからのほうが不安に思うこととかは増えたかもしれないです。流れに身を任せようって部分もあるんですけど。
- この曲は特にそうだけど、今回のアルバム制作は全体を通じて大人になるためのイニシエーションみたいな機能を果たしているのかなって思うんです。年齢的にもそういったことをいちばん考えたりする時期なのかなって。
BIM - どうなんでしょうね。でもアルバムを作るにあたって自分と向き合ったっていうのはあるっすね。これまでちゃんと考えてる姿は隠そうと思ってたけど、それによって誤解が生まれてフラストレーションになるんであれば、それは自分が原因だなって。昔は昔でそれがいいって自分で思ってたけど。ただ、本当の自分との違いはあったっすね。
- 今回のアルバムはBIMくんにそういう偏見を持ってるひとにも聴いてもらいたいですね。そういったイメージの大部分は払拭されると思います。
BIM - 単純に当時の自分は自信がなかったのかもしれない。よく見せようとしてたけど、それって結局、自分ではないから。本当の自分じゃない自分をほめてもらったとしても素直に喜べなくて、自分で作ったイメージなのに、他人のせいにして“本当のところを理解してくれない”って思っちゃってた。そういうことがいろいろ経てわかったというか。
- 制作がそのまま、自身のモラトリアムからの脱却にもつながっているというのは興味深いですね。
"Magical Resort"
- では本編最後となる“Magical Resort”についても訊こうと思います。この曲はどういった流れで完成したんでしょう。
BIM - これはアルバム制作の最初期にできた曲なんですけど、さっき話したモラトリアムから脱するっていうトピックも含め、すこし肩に力が入りすぎちゃうのを抑えようとして、わざとちょっとふざけた感じにしてる。それはそれで、そのときの素直な気持ちが出てていいなって思ってます。リリックの表現もすこし遠回しな感じ。
- 自分のなかで遠回しだと感じるのはどのあたりですか?
BIM - 普段の生活から逃げだして楽しむ場所の比喩として、ディズニーランドみたいなテーマパークで楽しむって表現を使ってるんだけど、そのあたりですかね。“悩みはリゾートのロッカーに預けて”ってとことかに、そういうことをすこしだけ忘れてたいって気持ちが出てるんじゃないかと。
- 構造だったりテーマ立て自体はOTG’Sでの世界観にも近い気がしますね。
BIM - そういうOTG’Sでの作り方と、今回のアルバムの芯となっているところが混ざってる感じですね、これは。言いたいことはちゃんと言ってるって思う。“love love 口では言っても/fuck fuckのことばっか”ってラインはこれまでだったら言わなかっただろうなって歌詞なんで、このあたりでちょっとずつリミッター解除してる気がします。
- この曲を本編最後の曲として置いた理由は?
レン - 内容的にもこのアルバムの総括みたいになってるし、"BLUE CITY"、"Magical Resort"からの流れから考えてもここかなと。あと、この曲は本人もすごく気に入ってて、PVをすぐ撮ろうってなってたんだけど、自分が“この曲を最低ラインにするぐらいのアルバムにしよう”って話をしたりしたっていう。そういう意味ではアルバムを作る上で基準になる大事な曲だったと思います。
BIM - 最後の“魔法にかかったみたいだな/マイホーミー”っていうのは、仲間に対しての気持ちで、言ってることは"BLUE CITY"の歌詞とも共通してるっていう。
"Power Off~Link Up"
- もう全曲解説も終盤です。本作は構成上“Power On”と“Power Off”というインストに挟まれているわけですが、どういった意図なんでしょう。
BIM - 今回のアルバムって自分を客観的に見る作業だったという意識がすごくあって。それをテレビに映ってる自分を見るっていう情景に変換したんですよね。
- ちなみに“Power On”には逆再生の音声が挿入されてますが、どんなこと言ってるんですか?
BIM - なんだっけな……。でもマジでたいしたこと言ってないんですよ。気になって逆再生してみたら“全然たいしたこと言ってねぇじゃん!”っていうのがいいと思って。たしか“アルバムはじまるから聴いてちょ”みたいなこと言ってるだけっすね。
- 楽曲ごとの解説で聞きそびれたのでこのタイミングで訊くんですが、フックのメロディーについてどういう過程を経てできてるのかって話も聞きたいなと思っていて。メロディーに関して気にしてることやルールはありますか?
BIM - ラップとおなじで、そのメロディーが次の日聴き返してもいいと思えるかどうかっていうくらいですね。普通に歌うとありきたりなメロディーになりがちなんで、耳に残るようなものにはしたいなと思ってます。ちょっと変ではありたいっていうか。ほかの曲では聴いたことない感じというのが理想。
- ほかのアーティストの曲でメロディーが好きなひとっています?
BIM - PESさんは好きですね。だからこそ、自分が作る曲ではPESさんに似ないようにしようとは思ってます。いまはまだ自分なりのメロディーを探してる最中ですかね。だれでも口ずさめるようなものを目指してるんだけど。だから今回“Bonita”のフックを褒めてもらったりしたのはうれしかったですね。“友達の親が歌ってたよ”って言われて“よっしゃ!”みたいな。
- メロディーに関しては独学ですか?
BIM - OTG’Sでは自分がサビを作らなきゃいけなかったっていうのもあって、自分の耳で“これはベタすぎるな”みたいな試行錯誤を繰り返して、って感じです。 ほぼ独学ですね。
- いよいよラストの曲、“Link Up”です。ビートはLanreによるものですが、彼はどんなプロデューサー?
レン - Sminoとか周辺のシカゴのClassick Studiosに所属してるプロデューサーなんですが、彼がいろいろなアーティストに提供している曲を聴いていて、そこから興味を持ってコンタクトを取りました。それで彼のけっこうな量のビートのなかからBIMが好きそうな感じのを選んで。最近のアフロビーツっぽいのをやりたがってたので、この曲を使わせてもらいました。
BIM - 単純に音がかっこよかったんで。自分のなかではライブ前のテンションを上げる曲っていうイメージで作りました。“緊張 ステージ袖にな/捨ててきた テンションはハイ”ってリリックは、緊張してる自分に言い聞かせてるっていう。“悔しさ顔に漏れだしそう”っていうのは周りが売れてったときに悔しかった気持ちを書いてます(笑)。
レン - BIMは売れてるひとに対して嫉妬するのがかっこ悪いってことをずっと言ってたので、このリリックを聴いたときは“だいぶ吹っ切れたな”って思いましたね。
BIM - たしかにこの曲ではけっこう正直に書いてますねぇ。みんなカッコいいじゃないですか。だから、なんか悔しくて。
- 勝手にBIMくんは嫉妬みたいなものと無縁のひとだと思ってましたね。今回、話を聴いてみて、やはりアルバムの制作過程とBIMくんの精神的な成長がリンクしている気がします。よき着地点で全曲解説が締まりました。取材時間は約2時間半。長時間ありがとうございました。
BIM - おつかれさまでした。めちゃめちゃ話しましたね。これ、みんなちゃんと最後まで読んでくれるのかな(笑)。
Info
BIM
https://www.summit2011.net/bim/
LIVE Schedule
2/2(土)@沖縄CLUB C
1/19(土)@安比高原スキー場 "APPI JAZZY SPORT 2019"
1/12(土)@心斎橋SUNHALL BIM ワンマンライブ 2019 "Magical Resort" Sold Out
1/5(土)@渋谷 CLUB QUATTRO BIM ワンマンライブ 2019 "Magical Resort" Sold Out