「Aye」しかリリックがない批評的なラップチューンSyringe -「A」
現在昔ながらのヒップホップ好きから、若手のラッパーに良くある批判は彼らが伝統的なヒップホップの流れを継がずにラップを行っている点である。韻も堅くなく、語彙力も乏しいLil YachtyやLil Uzi Vertなどの若手はHOT 97などの昔ながらのラジオ局に出演すると、フリースタイルを強要された挙句に、パーソナリティーからダメ出しをくらうことも数多い。
若手は若手でそんな古株たちの言うことを当然聞くはずもなく、自由に彼らの世界を表現している。同世代の支持を集めている彼らからしたら、ベテランたちの言うことをなんで聞かなきゃいけないの?といったところだろう。
そのようなことで、どんどん溝は深くなるばかりのヒップホップシーンの状況を批評するような1曲が登場した。
ウィスコンシン州に拠点を置くラッパーのSyringeは今月"A"という曲のミュージックビデオをYoutubeに公開した。ノイジーでヘビーなビートの上でSyringeはただひたすら「Aye」というアドリブを繰り返すのみである。しかし聴いてみると、不思議に曲として成立しているように感じるのは、確かにこうした曲が今っぽいムードとして共有されているからではないだろうか。
この曲でSyringeはヒップホップのルールに逆らう新世代のラッパーが言ってることの無意味さを笑いつつ、旧世代のヒップホップフリークたちには、ヒップホップなんてこんなものだよと、笑い飛ばしているかのようだ。そもそも彼はラップに対してなんの思いやりはないだろうというのは、彼のInstagramのアカウント@fuckrappersだというのからもわかるだろう。
この曲は記憶に残る名曲でもなければ、ラップの歴史に刻まれるような曲ではないが、今のラップの一側面を正しく批評した曲であるのは間違いない。