【日本と韓国 : 隣国で暮らしてみて season 2 】| 内畑美里
「日本と韓国 : 隣国で暮らしてみて」は『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』の著者であるErinam(田中絵里菜)さんが立ち上げた企画。日本と韓国それぞれに暮らした経験のある人にしっかりと話を聞いていきます。韓国は日本にとって最も身近な隣国。容姿は似てるけど中身は全然違う。だから面白い。知れば知るほどもっと知りたくなる。生活も文化も考え方も。
Erinamさんは現在デザイナー業で多忙なので、ご本人から許可をいただいてこの名企画をライターの宮崎敬太が復活させました。season 2最初のゲストは、日本と韓国で『めちゃくちゃナイト』を開催している内畑美里さん。韓国のインディー音楽シーンの最深部について話してもらいました。
取材・構成 : 宮崎敬太
20歳の時、隕石のようにユチョンが降ってきた
- 美里さんと知り合ったのは最近ですよね。韓国のセレクトショップ「balansa」のスタッフのイ・ムジンくんが紹介してくれました。
内畑 - ムジンとは韓国に語学留学してる時に知り合いました。友達の友達とKentaro Okawaraの個展に軽いノリで遊びに行ったらムジンがいました。日本語がうますぎて最初は日本人だと思いました。でもよくよく話を聞いてみたら日本に10年留学してた釜山の子でした。
- 僕も最初に会った時は日本人だと思いました(笑)。そのムジンくんに紹介してもらったのが今年の4月くらいで、ちょいちょいインスタで連絡をとりつつ、この前美里さんが主催した『めちゃくちゃナイト』に遊びに行かせてもらいました。美里さんはライターをしつつ、パーティのオーガナイズをされてるんですか?
内畑 - 自分ではライターとはまだ名乗れないレベルですね。小学生の頃からアニメや声優が大好きで、そっち関係の仕事をしつつ、オーガナイザーもしています。文章を書いたり、プレイリストを作る仕事をいただいたりするようになったのはコロナ禍で色々ストップした頃からなんです。
- そうだったんですね。
内畑 - さらに遡ると韓国も関係なくて。もともと電子音楽やアンビエントが大好きで、そういうパーティを自分で企画してました。
- 韓国にハマったきっかけはなんだったんですか?
内畑 - K-POPですね。20歳の時、ルームシェアしてた友達と深夜にボケッとテレビを観てたんですよ。そしたらまだ5人だった時の東方神起が出てきて。その頃の私は韓国のかの字も知らなくて。かろうじて「冬ソナ」を知ってる程度。
- その頃の美里さんは具体的にどんなアーティストを聴いてたんですか?
内畑 - MySpaceというSNSでヨーロッパとかのフォロワーが少ないエレクトロニカや実験音楽をやってるアーティストをひたすら探してましたね。で、当時のタワレコにはお取り寄せカードっていうのがあったから、そのMySpaceで発見した無名のアーティストたちのCDをひたすら注文してました(笑)。それでも買えないアーティストも結構いて。そういうの毎月やってましたね。
- ちなみに僕、昔MySpace Japanで働いてました(笑)。
内畑 - ええっ!?
- 2000年代半ばくらいですよね。
内畑 - そうそう。インターネットがネイティブになってからは完全にMySpaceでした。全然知らない国の、全然知らないアーティストを探して片っ端から聴いて。Burnside Projectってバンドとかご存知ですか? これまで誰一人反応してくれた人はいないんですけど(笑)。あとDARTZ!、The GoodBooks、The Robocop Krausとかもマイスペで発見しました。最初は普通にThe Strokesみたいなバンドが好きだったんですけど、いつの間にか電子音楽にフォーカスするようになって、日本のPROGRESSIVE FOrMやmoph recordsといったレーベルの音源とか、ジョージアの電子音楽家・Erast/Nikakoiなどに没頭していました。音楽の趣味が広がっていったのは、私立の中学に行ったことが大きかったと思います。地元は川崎なんですね。BADHOPと同じエリア。
- えっ!?
FNMNL 和田 - DK SOUNDをやってるあたりですか?
内畑 - そうです。あの工場の近く。感覚的には羽田空港の側って感じ。すごくサグい地域だったので、もし公立の中学に行ってたら今の私はないと思います。中学は新宿に出やすいところだったので、学校帰りにタワレコに行ったり、ビジュアル系の専門店に行ったりして。そういうお店で委託販売してためっちゃインディなバンドのカセットテープを買ったり、フライヤーを集めたりしてました。その後、メロコア、パンク、電子音楽、実験音楽みたいに聴く音楽は変化していくんですが、やってることの根本は中学生からずっと同じな気がします。
- そんな美里さんがなぜ東方神起に衝撃を受けたんですか?
内畑 - なんでなんでしょうね……。自分でもよくわからないんですよ。隕石のようにユチョンが降ってきたんですよ。一緒に観てた友達も系統は違うけど音楽好きで。ほんと二人でボケッと深夜の音楽番組を観てたら、突然"呪文-MIROTIC-"が流れてきて、「これ、韓国のあれだよね」とか話してたんだけど、だんだん「かっこよくない?」となって(笑)。3日後くらいにはもうその子と一緒に新大久保で海賊DVDを買ってきて家で観てましたね。あとYouTubeで調べてB1A4にハマったり。でも私の場合はいわゆる推し活みたいな感じではなかったです。東方神起はコンサートに行ったこともないですし。あの頃のK-POPは、メディアに取り上げられる機会も少なくてどこかアングラな雰囲気があった気がしますね。
日韓のインディーシーンをつなげたキーマン、パク・ダハムの存在
- 初めて韓国に行ったのはいつですか?
内畑 - 20歳か21歳くらいの頃ですね。最初はツアーで。今みたいに安いフライトとゲストハウスを気軽に見つけられなかったんですよ。それにガラケーの時代は、まだ韓国が圏外だったんです。
- そっか。スマホが普及する前だ。そういう意味では韓国が近くなったのって実は最近なんですね……。
内畑 - ほんとですよね。私の時は空港に着いたらガイドのおばちゃんから高麗人参のドリンクみたいのもらって、バスで免税店行って、みたいな。それでもガイドブック片手に焼肉食べて帰ってきました(笑)。なんというか開拓したい気持ちがすごかったです。すっごい疲れたけど、すっごい楽しかった。
- 美里さんが韓国インディーズに興味を持ったきっかけはなんだったんですか?
内畑 - WWWで韓国のWedanceというバンドが思い出野郎Aチームとnever young beachと対バンしたんですよ。確か2015年だったと思うんですけど。そのイベントのフライヤーに「Wedance from 韓国」と書かれたんですね。それをクラブかどっかで見かけて。「From 韓国」に惹かれてなんとなく観に行きました。私の中で韓国と言ったら、「K-POP」と「ドラマ/映画」だったんですけど、Wedanceは自分が今まで聴いてきたような音楽だったんです。そんな音楽が存在してたってことにすごく衝撃を受けたんですよね。
- Wedanceを中心に調べていったと。でも当時だとバンドの情報ってどうやって調べてたんですか?
内畑 - YouTubeにライブの映像をアップしてくれてて、そこで対バンしてたらそのバンドのチャンネルに行って、みたいなことをしてました。その頃はまだ言葉がわからなかったけど、もう片っ端から観て。気になったバンドの音源は韓国に行った時、ソウルの新村(シンチョン)にある「ヒャンレコード」に行って買ってました。
- 言葉はいつから学び始めたんですか?
内畑 - 本気でやったのは2017年から2019年です。実は韓国の乙支路にある新都市(シンドシ)というエリアで2017年に『めちゃくちゃナイト』のVol.0を開催したんです。その頃は旅行で使うには不自由ない程度の韓国語は話せたんですけど、そのレベルだと全然仕事にならなかったんです。みんな優しいから翻訳機を使ったり、向こうが日本語を覚えてくれたりしてくれたけど、やっぱり信用してもらって良い関係を築くためには私も話せないとダメだなと思ったんです。それで会社を辞めて、2018年から1年間韓国に語学留学することにしました。
- ていうか、一発目の『めちゃくちゃナイト』は韓国で開催したんですか!?
内畑 - そうなんです(笑)。その頃の私は恵比寿のリキッドルームを経て、新宿のBE-WAVEという小さなクラブで働いてました。かっこいい女性のDJだけを集めたパーティを企画してたんですけど、ある時、YonYonさんが所属してた女性だけのDJクルー・Bae Tokyoのインタビュー記事と、ソウルで活動してた女性だけのDJクルー・BICHINDAのインタビュー記事をほぼ同時に読んだんです。BICHINDAの子たちは男性中心のソウルのクラブシーンでもっと女性のDJを盛り上げようと活動してて、Cakeshopという梨泰院のクラブでパーティーを主催したり、女の子にDJを教えるワークショップをしたりしてて。そこから私も日本と韓国のかっこいい女性DJを繋げてみたいと思うようになりました。
- どうやって韓国でパーティを開催したんですか?
内畑 - パク・ダハムくんが間に入ってくれたんですよ。彼は日本と韓国のインディーシーンをつなぐキーパーソンと言っても過言じゃないです。
FNMNL和田 - なるほど。パク・ダハムさんはものすごい音楽好きで、日本のめっちゃマイナーなバンドとかにも詳しいんです。フットワーク軽い人だから日本にもすごい頻度で一時期来ていて、独自のいろんなネットワークを持ってるんです。
- 美里さんはパク・ダハムさんとはどのように知り合ったんですか?
内畑 - 2015年くらいにSoi48のお二人が「韓国でDJするから美里ちゃんも遊びに来なよ」って誘われたんです。「楽しそうだから行っちゃお」って韓国に行ったら、そのパーティーを企画してたのがダハムくんだったんです。Soi48のお二人が紹介してくれて、そこからずっと仲良しなんです。私がなんとなく「こんなことしてみたい」って話してたら、「じゃあやろう」と新都市の屋上で滝の映像が一生流れてる謎なビルの一室を借りてくれて(笑)。
FNMNL和田 - そういえばSoi48はBE-WAVEでずっとパーティーやってましたもんね。
内畑 - そうです!ダハムくんはSoi48を見に普通にBE-WAVEに来てくれてたんですよ。だからすぐに仲良くなれたところはあったかもしれないです。
- パク・ダハムさん、ヤバいですね……。会ってみたいな。
FNMNL和田 - 日本のDJを韓国に呼んだり、逆に韓国のDJを日本に連れて行ったり。ほんとにすごい行動力だなとリスペクトしています。
内畑 - 超最高クレイジーな人です。Helicopter Recordsというレーベルをやってて、その音源を世界各国に発信してます。ダハムくんがいなかったら、日本と韓国はこんなに交流なかったと思います。
- しかしみんなフッ軽ですね〜。
内畑 - 韓国だからできるって面はありますけどね。アメリカとかここまで気軽に遊びに行けない。韓国は距離的にも、時間的にも、お金的にも、トータルでフッ軽に活動しやすい。韓国にいたときは、この連載を立ち上げた田中絵里菜ちゃんとよく遊んでました(笑)。
新都市に遊びに来るのは、日本で言うとForestlimitに来る人みたいな感じ
- ちなみに第一回目の『めちゃくちゃナイト』はどんな感じだったんですか?
内畑 - それが結構お客さんが来たんですよ。韓国で夜遊びする人たちはそれこそものすごくフッ軽で、『めちゃくちゃナイト』めがけて来てくれた人ももちろんいたかもしれないけど、2軒目、3軒目みたいな人が圧倒的に多くて、入れ替わりもすごかったです。新都市でやってるパーティはなんでもいく、みたいな感じ。で、また帰ってきてくれる人とかもいて。ずっと盛況でしたね。その時初めてTigerdiscoとも出会いました。
- お客さんとして来てくれたんですか?
内畑 - いえ、演者として出てくれました。1回目の『めちゃくちゃナイト』はダハムくんが韓国のDJを3人ブッキングしてくれて、私が日本のDJを3人連れてくる形だったんです。もうダハムくん様様でした。
FNMNL和田 - 美里さんは誰に声をかけたんですか?
内畑 - Theo Parrishが大好きなnnnちゃん、MoodmanさんとSports-Koideさんと一緒に「Slowmotion」というパーティをやってるMinodaさん、DJユニット0120としても活動しているDJのEMARLEちゃんの3人……のはずだったんだけど、気づいたらpanparthさんもいたのでそのまま参加してもらいました(笑)。
- 良い話(笑)。ソウルのクラブといえば梨泰院が有名ですが、話を伺ってて俄然新都市が気になってきました……。
内畑 - 新都市に遊びに来るのは、日本で言うとForestlimitに来るような子たちかな。当時だと梨泰院ではヒップホップが流行ってて、チャラ箱だとEDMがかかってましたね。梨泰院と新都市をタクシーでハシゴしてる子もいたけど、ざっくりと棲み分けるとしたら、梨泰院はどんちゃん騒ぎで、新都市はアッパーだけどチャラくない感じ?
FNMNL和田 - 自分も2017年に新都市に行ったことあるんですけど、すごいとこですよね。歴史ある雑居ビル街の中にあって。ベースミュージックのパーティだったと思うんですけど、めちゃめちゃスモークが炊かれていた記憶があります。
内畑 - ですよね! 私も触発されてスモークマシンを買ったんですよ。でも不良品で使えませんでした。いまだに部屋にあります(笑)。
- もしかして先日、美里さんがインスタで投稿されてた電気街みたいなとこでやってたレイヴパーティも乙支路?
内畑 - そうそう!
- 大雨降ってる中、路地にある電気屋みたいなとこで女の子たちが爆踊りしてて。「これが俺の好きな韓国だ!」ってめっちゃ衝撃を受けたんですよ。
内畑 - あれは私もびっくりしました。刹那な雰囲気がありましたよね。なんか「踊る or Die」みたいな(笑)。
FNMNL和田 - 新都市はまだあるんですか?
内畑 - あります。パーティーもめっちゃやってますよ。ただ再開発(※)の影響でどうなるかわからない状況ではあります。今宮崎さんが話題に出してくれた乙支路エリアで遊んでる子たちは、普通に梨泰院にも行くんです。梨泰院にもミニマルっぽいテックハウスの超小箱みたいなミュージック・バーが最近できてるっぽいし。ただあのレイヴパーティーみたいなバイブスは梨泰院にはないかもしれない(笑)。
※:ソウルでは現在「2040ソウル都市基本計画」という大規模な再開発事業が行われている。
- まじで衝撃を受けました。
内畑 - あれすごかったんですよ。あの場にいるだけで疲れました。途中で近所のおばあちゃんに「いくらなんでも音がでかすぎる!」って怒られたり。あと電圧なのか、雨漏りなのか、音がブチブチ止まったり。カオスでした。でもああいう感じが私は好きなんですよね。
韓国はこざっぱりとしてる
- 語学留学中はどのように生活してたんですか?
内畑 - 年齢的にワーキングホリデーが適用されなかったので、旅行のビザで90日滞在して、一旦日本に帰って、また韓国に戻るっていう感じでしたね。向こうは生活にそんなお金がかからないんですよ。交通費もご飯も安いから。ただビザがなかったから家賃はちょっと高かったです。契約の条件が厳しくなっちゃって。なので韓国に住んだ1年で貯金が全部無くなりました(笑)。
- 実際に隣国・韓国で暮らしてどんなことを感じましたか?
内畑 - 私にとっては人の距離感がちょうどよかったです。韓国の人ってすっごい面倒を見てくれるんですよ。でも全然恩着せがましくない。関係があたたかい。私は定期的に日本に帰ってきてたから、余計にそれを感じました。例えば韓国の地下鉄で乗り換えがわかんなくてオロオロしてると、誰かが助けてくれるんです。見た目で日本人とわかるみたいで、カタコトの日本語で話しかけてくれたり。あといい意味でみんな雑なんですよ。コリアタイムって言葉があるんですけど、待ち合わせの時間とかあんま決めない。誰もオンタイムで集まらないから(笑)。こざっぱりしてるんですよ。
- では逆に大変だったとか、ここは難しかったというところはありますか?
内畑 - 私の場合は言葉ですね。それ以外はなんの不便もなかった。ずっと住みたいとすら思いましたもん。でも私は絵里菜ちゃんみたいに働いてたわけじゃないから、ちゃんと生活するってなるときっとまた違うストレスがあると思う。向こうに行ってた時はそれなりに必死だったけど、今思うと1年間遊んでたようなもんですから。
- では具体的に韓国のどういうところを「こざっぱりとしている」と感じましたか?
内畑 - 日本と比較して、という話になってしまいますけど、例えば電車を降りてホームに立った時の情報量が全然違うんですよ。日本は圧倒的に多い。迷うことないというか。なんなら歩く場所までガイドされてますよね。自分が東京にいた時はそんなこと感じなかったんだけど、韓国から一時帰国してた時は東京の情報量の多さに逆に疲れてしまってました。目に入る情報量が多すぎる。
- それは意外です。韓国の方が情報量多いイメージでした。
内畑 - ね。私も住むまでわからなかった。これは一事が万事で、日本は飲み物のパッケージひとつとっても過剰なんです。例えば、烏龍茶だったら「烏龍茶」って書いてあれば消費者はわかるじゃないですか。でもいっぱい色々書いてありますよね。「こんなに情報いる?」って思うんですよ。まあ作ってるほうは親切心なのかもしれないけど、私からすると考える力を奪ってるように思う。そういうのもあって、日本に一時帰国したとき、情報量の多さに疲れちゃったんですよ。韓国で暮らしたことがある人が結構感じるんじゃないかな。
男性には兵役があるからいつか終わってしまう感覚を持ちながら音楽と向き合ってる
- では韓国の音楽シーンについても伺いたいです。
内畑 - 私の場合はかなりニッチな場所を見ているので、これが全体像だと思ってほしくないんですけど、例えばK-POPって流行り廃りがものすごくスピーディじゃないですか。でもインディで活動してる子たちは、全然違う時間軸で動いてる感じ。ずっとフォークやってる人とか、ギターポップやってるバンドとか。最近だとチル・ウェーブっぽいのをやったり。K-POPとかメインストリームで活動してる人たちとは違って入れ替わりもない。同じバンドがずっと同じ音楽をやってる。
- そういう人たちはどういうところで活動してるんですか?
内畑 - 弘大ですね。大学があるので若い子が多い。レコードショップもあって。潰れちゃったんですけど、一杯のルルララというお店は韓国のインディーズアーティストにとってはすごく大事な場所でした。あとトゥリバンっていう定食屋さんはバンドの子たちの溜まり場で、店主のご夫婦もバンドの子たちを応援してたりしてて。ライブハウスもクラブも多いです。私もそのエリアに住んでました。
- 以前Se So Neonのソユンさんにインタビューしたとき、「韓国はシーンと呼べるものが存在しない」と話されてたんですよ。
内畑 - 確かにジャンルによっては10年間、ずっと同じ対バンでライブしてるバンドとかいますし(笑)。8月末にツアーを組んだ電波商社(ジョンパサンサ)というバンドは元々ポストロックをやってて。韓国というか、ソウルではポストロックってものすごーくニッチなジャンルなんですよ。やってる人が少なすぎて、同じバンドとしか対バンが組めないっていう。新しい人もいなければ消えていく人もいないみたいな。
- そういう人たちは音楽だけで食べていけてるんですか。
内畑 - みんな普通に会社員とかですよ。音楽だけで食べられているのはものすごく少ない。というか、私が関わるようなインディーズバンドやDJたちはほぼ兼業ですね。フリーランスのデザイナーをやりながら、趣味で音楽をやってる人とか。あと男性は兵役があるじゃないですか。今はだいぶ短くなったけど、それでも満28歳までに必ず行かなきゃいけない。しかもいつ呼ばれるかわからない。そうなると、日本みたいに10代で音楽を好きになって、ミュージシャンを目指すみたいな人生設計が成立しづらいんですよね。いつか終わってしまう感覚を持ちながら音楽と向き合ってる部分はあると思います。
- それは日本にない感覚ですね。
内畑 - そうですね。どんなにキャリアを築いても、必ず約18ヶ月〜36ヶ月の空白が生まれてしまう。その間、ファンが待っててくれる保証はない。そうなると、当たり前のように人生の予防線を張りますよね。
女性が安心して遊べる場所をオールジェンダーで作ってる
- では韓国ではどんな女性が音楽をやるんですか?
内畑 - 私の知り合いだとDJが多いんですが、収入という意味では男性と変わらないので、大体兼業してます。ショップ店員をしてたり、在宅でできる仕事をしたり。ただみんな本当にパワフルですね。その背景には韓国のクラブシーンにおけるジェンダーバランスの意識がちゃんとあるからだと思います。
- 「クラブシーンにおけるジェンダーバランス」をもうちょっと具体的に教えて欲しいです。
内畑 - 韓国のクラブはセーフスペースなんです。女の子がどれだけ好きな服を着ても、露出が多かったり、好きなメイクをして遊んでてもそれが当たり前。変な視線なんて感じないし、そのマナーは守って当たり前。ハラスメントへの警告もしっかりありますし。女性が安心して遊べる場所がちゃんと確保されてて、それを女性だけが作るんじゃなくてオールジェンダーで作ってる感じがします。もちろんそうじゃないクラブもあるんでしょうけど、私が見た範囲では前者が圧倒的に多い。クィアなDJパーティも頻繁に開催されている印象です。日本のクラブシーンもそこを目指さないとダメだと思います。
FNMNL和田 - 同感です。あと新都市プレイするようなDJが今SMのパーティーにでてたりするんですよ。アンダーグラウンドとメインストリームの距離が日本にはない感じ。
内畑 - ヨイルバ(JOHANN ELECTRIC BACH)ですよね?
FNMNL和田 - そうです、すごいスケール感の自作マッシュアップばっかかけていたのが印象的です。
内畑 - そうそう。「なんでこれとれをマッシュアップするんだろう?」みたいな。昔「めちゃくちゃナイト」に出てもらったことがあって。シュッとした表情なんだけど、胸にバラを刺して、マックスコーヒーを飲みながら、IQ2くらいのDJをしてました(笑)。
FNMNL和田 - そういう人がSMのパーティにでてるのにものすごくびっくりしたんですよね。
内畑 - たぶんSMは内部にアンテナを張ってる人がかなりいるんですよ。
FNMNL和田 - きっとミン・ヒジンとかもそういう感じなんでしょうね。
内畑 - うん。SHINeeも新都市で写真撮ったりしてましたし。
- えーっ!?
FNMNL和田 - それでアイドルファンの間で新都市が話題になってたんですよ。だから自分も印象に残ってて。
内畑 - ファッションシューティングとかロケーションがすぐに特定されますもんね。もしかしたら大手で働いてる20〜30代の中にはそういうアンテナを張ってる人がいるかもしれないけど、上司から却下されてるパターンとかもありそう。やりたい人はいっぱいいるはず。『オッドタクシー』はすごくいい感じにハマってましたよね。ああいう取り組みがもっと増えたらいいのに。
- ね。今の若い子たちはBTSやNewJeans、NCT127とかを当たり前に聴いてるわけですから。ああいうのを作れる日本のプロデューサーだっていっぱいいるんだし。では、最後に美里さんは今後どのように活動されていく予定ですか?
内畑 - 韓国と日本を行ったり来たりする人生が送れたらいいなって思います(笑)。それこそコリアタイムじゃないですけど、韓国ってパーティの告知が遅いんですよ。ほんと直前。「これ見たかったー!」がすごく多い。だから半年くらい韓国に住んで、残りを日本みたいな。あとレーベルをやってみたいんですよ。屋号があるとイベントを打つにしても、カセットテープなりを売ったりするにしても、情報がまとまるじゃないですか。
- 確かにいろんなことをやっても、屋号があると情報が連なって意味が生まれますしね。
内畑 - そうなんですよ。ただ知識がないので、今は気持ちだけって感じです(笑)。あとやっぱK-POPを好きな人がすごく増えたから、K-POPの先にある韓国音楽を紹介したいんですよね。しかもタイムリーに。ポッドキャストとかをやってみたいです。
- 次回の「めちゃくちゃナイト」の開催予定はありますか? 最高だったので。
内畑 - 次はたぶんソウルでやります。みんなで行きましょう! あ、あと11月5日に新宿で韓国の電子音楽家・KIRARAとのイベントを予定しています。