プロスケーター佐川海斗が出演するスケートをテーマにした映像作品『Silent Rider』| サントラにはFlying Lotusの楽曲を使用
『mid90s ミッドナインティーズ』や『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』、『行き止まりの世界に生まれて』と、スケートボードがキーとなる話題作が続々と公開となっている中、YouTubeで日本発のスケートをテーマにした短編映画が発表されている。
作品の名前は『Silent Rider』。監督はフリーで映像作家・ディレクターとして活動している細木敏和。出演しているのは東京オリンピックの日本代表候補選手でプロスケーターの佐川海斗だ。
本作で佐川は人がまばらな東京の街中を、自由にしかし淡々と滑走する。サウンドトラックで用いられているのはFlying Lotusの"Auntie’s Lock/Infinitum"だ。ミニマルな展開が続く楽曲が、静謐さが印象的な映像に調和を生み出している。
作品について監督の細木はFNMNLに対し、着想自体はスケートからではなく「人類学者、レヴィ=ストロースの『悲しき熱帯』や『野生の思考』が好きで何度も読み返していて、本に出てくる先住民社会における 「ブリコラージュ 」(仏語で「器用仕事」の意味)という概念を短編映画のモチーフにしたいな、と以前から考えていました」と回答している。ブリコラージュとは既存のものを再利用して、新しく何かを作ること。スケーターが作られた街中を、自分のフィールドに置き換えることをブリコラージュとして捉え、映し出したのが本作だ。
優れたスケーターは感性が研ぎ澄まされた状態、いわゆる変性意識状態に入り、殺伐としたコンクリートの都市空間を、スケートボードという装置を使って「遊び場」に読み替える能力を持っています。あるとき、こういった能力の根底にあるものは「ブリコラージュ」の本質に通じるという事に気づきました。その気づきがこの映画を制作するきっかけでした。
またライダーに佐川が起用されたのは本作にスケートボードコンサルタントとして参加した中島壮一朗さんの紹介がきっかけとなったという。自身も都市環境や都市開発について大学でも勉強している佐川は、この企画にぴったりハマる人物だったのだ。
さらにFlying Lotusの楽曲については元々は編集作業が終わるまでの仮トラックとして使用されており、完成版には使用されていない予定だったという。ただFlying Lotusのファンだった細木は"Auntie’s Lock/Infinitum"があまりにも作品の世界観とマッチしていたので、この楽曲で行きたいと強く思うようになった。
ゆっくりしたテンポ。心地良いメロディ。懐かしいアナログ・サウンド。絶妙に透き通ったボーカル。マントラを唱えるかのようにループする「Infinitum(永久に)」というフレーズ。これらの要素全てが響き合い、聴いた者の意識を高次の世界へ誘うかのような印象を楽曲から受けました。
一方で、主人公が戯れているのは早朝の「金融街」。日中なら、個人的な感情を排除する経済活動が活発な街です。この楽曲と映像をシンクロさせる事で、「金融資本主義的な思考」と「野生の思考」のアンビバレントな関係をフラットに表現できると感じました。フラットな世界観にしたかったのは、スケーターが街で自由に振る舞う姿勢を単純に賛美するような、エモい作品にはしたくなかったからです。ストリート・スケートはある人にとってはモラルに反する遊びでもあります。作品ではそういう道徳性/非道徳性について、全く考えないで楽しめるものにしたいと思いました。
手間のかかる使用許可のプロセスを経て、Flying Lotusの楽曲も使用されることになり、『Silent Rider』は完成に至った。コロナ禍の都市風景が映し出されたものという意味でも、貴重なドキュメントとなっている『Silent Rider』をぜひチェックして欲しい。