【インタビュー】Daichi Yamamoto × Kzyboost | Andlessの2人が2024年を振り返る

昨年はJJJとのアルバム『Radiant』を5月に、EP『Secure』を12月にリリースし、ツアーも行うなど精力的な1年を過ごしたDaichi Yamamoto。そのDaichi Yamamotoのバンドメンバーでもあるトークボクサー・プロデューサーのKzyboostは、EP『Nudge』を12月にリリースした。
Daichi Yamamotoが設立したレーベルメイトである2人は、バンドメンバーとして親交を深め、それぞれの作品に対しても影響を与え合っているという。昨年末に収録した今回のインタビューでは、2人の新作についてを中心に2024年の活動も振り返ってもらった。
取材・構成 : 和田哲郎
撮影 : 大江裕貴
- お二人にとって今年がどういう一年だったか、簡単に振り返ってもらいたいと思います。
Kzyboost - どうですか?
Daichi Yamamoto - 昨日誰かと「完全にコロナが去った感じがしますね」みたいな話をしてて、それはたしかにと思って。今年はライブとか、いろいろ活動量が増えて。
Kzyboost - めっちゃ多かったよ。
Daichi Yamamoto - 制作もめちゃくちゃ進んだし、自分の生活もいろいろ変えてみたいな。だから調子はよかったですし、総じてコロナが去った感覚はあったっすね。
- コロナ禍の停滞している感じから吹っ切れた、みたいな。
Daichi Yamamoto - その引きずりがなくなった感じがしました。
Kzyboost - たしかにね。マジでツアーでめっちゃいろんな場所に行かせてもらったし……って感じですか?
Daichi Yamamoto - 私はそうです。
Kzyboost - これずっと喋ろっかなって(笑)。僕はふたつあって。ひとつはやっぱりダイチのツアーが一番デカかったかなと思います。今回からオープニングアクトをさせてもらって、それがすごく新鮮でよかったなって。あともうひとつ、今年総じて言えるのは、仕事と音楽がすげえうねうねした年やったな、みたいな(笑)。どっちも忙しい時期もあれば、どっちも何も出てこおへんなって時もあって。すごい、うねうねしてました。仕事であんま上手くいかん時、普通は音楽の方で上手くいったりするんですけど、仕事がいい感じの時に音楽もいい感じになる、みたいなイメージが今年はあったかもしんないですね。そこが自然にリンクしたというか。
- これまではそんなことなかった?
Kzyboost - どっちかがよければどっちかがしんどいみたいな、そこでバランス保ってる部分が結構あったんすけど、今年は全部一緒に連動したっていう印象がありましたね。
Daichi Yamamoto - 思いました。見てて。
Kzyboost - あ、ほんま? 思ってたんや。
Daichi Yamamoto - 勝手なイメージですけど、以前のカズヤさんは仕事で溜まったなにかが音楽に昇華されていて。
Kzyboost - はい、はい。
Daichi Yamamoto - 仕事で「あー」ってなってる時すごい曲ができて。
Kzyboost - 俺もそのイメージやった、自分で。
Daichi Yamamoto - 今年は見ていて……拝見していて、そうでもなくなってるんだなって思いました。
Kzyboost - 丁寧な言葉(笑)。
Daichi Yamamoto - (笑)。音楽がガス抜きじゃなくなって、一部になってる。
Kzyboost - あーそうね。そうなった年って感じでした。
- それは何かを意識してそうなったんですか?
Kzyboost - そうでもないとは思うんですけど、なんだろうな、たぶん35歳になって、「変わり目の時期やな」って自分で思ってたのが、無意識的に出たのかもしんないです。言葉で表現しづらいんですけど、それが作品に繋がったような感じもします。

- カズヤさんから見て、ダイチさんがこの1年で変わったところは?
Kzyboost - えー、どうなんやろ……変わった?
Daichi Yamamoto - (笑)。
Kzyboost - 変わったかって聞かれると難しいですね。
Daichi Yamamoto - でも僕、自分で変わったなと思います。
Kzyboost - ほんま?
Daichi Yamamoto - でもこの間、その話をしたら「人は変わんないよ」って言われて(笑)。
Kzyboost - 核心やん!
Daichi Yamamoto - そりゃ、そう思ったら変わんないっしょ、って。核なる部分は変わんないから。
Kzyboost - たぶんそう、根本的には変わってないと思う。でも、ダイチの音楽の部分とか私生活的の部分とかで、いろんな感情をコントロールしようとしてるな、みたいな面は多々感じたけどな。その時の自分に言い聞かせるじゃないけど、そういう一面は見ていて、変わったっていうか、その時の自分を受け入れようとする、みたいなイメージはあったかもしれないです。
Daichi Yamamoto - あー。
- そういった姿勢はリリックにも現れているのかなと。"Newtone”の最後の、〈この瞬間を生きている〉みたいな。
Kzyboost - あー、そうすね、そうすね。
Daichi Yamamoto - でも、そうできてないからこそ「あったらいいな」ということも書くんで、どっちかはわかんないですけど。
Kzyboost - でも、いろんな一面は見ましたよ。付き合いもちょっと長くなってきて。
- 今年で何年目ですか?
Kzyboost - 何年目やろ。
Daichi Yamamoto - 音源でいうと2020年からなんで、4年くらい。
Kzyboost - あれ、コロナ中でした? 『Andless』のリリパっていつでしたっけ?
Daichi Yamamoto - あれは2019年の終わりの方ですけど、ガッツリ会うようになったのはその後からなんで。
Kzyboost - そっか、『夏の魔物』とかか。じゃあ4年くらいですね。頻繁に連絡も取り合って、特に今回の自分の作品にはアドバイスももらっているし、音楽以外の内面的な話もするようになったし。
- それは徐々にそうなったんですか?
Kzyboost - 徐々にですね。なにかのきっかけでめっちゃ近くなったとかじゃないと思います。
Daichi Yamamoto - 気づいたら毎日ラインしてましたね(笑)。
Kzyboost - してるなあ。ほんまにそうかも。
Daichi Yamamoto - 全然何の用件もないのに(笑)。
Kzyboost - たまにパッと電話しようってなるんですよ。ほんまに何もない時とかあるもんな。
Daichi Yamamoto - 「なにしてんの」って。酔っ払ってる時とか。
Kzyboost - 俺めっちゃ電話してまうわ。
Daichi Yamamoto - 会社の飲み会からかかってきたりして(笑)。
Kzyboost - 飲み会の途中で、今って喫煙所が外にあったりするんで、そん時になんでかわかんないですけど、ノリと勢いでダイチに電話かけちゃうんですよ。
Daichi Yamamoto -「今、酔ってます」って言われて、「いや、わかります」って(笑)。
Kzyboost - ハハハハハ(笑)。この時間帯の電話は絶対酔ってるっていうのは、言わんでもわかる。でも、それぐらい心許してます。僕もう包み隠さず系ですねえ、たぶん。
Daichi Yamamoto - たしかに。
Kzyboost - そうやんなあ。お互いいろいろ話せる関係になって。いろんな意見出し合ったりとか、お互いに「このラインどう?」「このメロディーラインどう?」「この歌詞どう」みたいなのも、結構言い合ったりするんで。
Daichi Yamamoto - 「こっちの方がいいんちゃう」とか、ちゃんと言ってくれますもんね、カズヤさんも。
Kzyboost - たぶんダイチはこれ持ってて俺はこれ持ってるみたいな、お互い得意にしてるものがあるんやろな。だから、たとえばダイチはメロディーラインについて、俺やったらリリックについてとか、「これどうなんやろ」と思ってもいい感じにアドバイスし合えるんで、そういう意味ではすごくいいなと。

- それは作品にも反映されているんですか?
Kzyboost - そうですね、僕はほぼ全部ダイチに送ったんじゃないですか。
Daichi Yamamoto - 送ってくれましたね。
Kzyboost - 今回はそれこそダイチとAndlessチームのみなさんに本当にいろいろサポートしてもらいながら作ったので。デモもいっぱい作ったんですけど、基本的に全部送って、意見もらって。
- もらったアドバイスでどんなところがよかったですか?
Kzyboost - やっぱ一番大きいのはリリックの部分。僕はそもそもリリックを作ったり文章を書いたり、そういうことに長けてるわけじゃないので、自分の思ってる感情とか言葉にちゃんと具体性を持たせてくれるようなアドバイスをしてくれたのが大きいです。あと、「この構成をこの前に持ってきたらどうですか」とか、自分にないパーツの動かし方のアドバイスしてくれたのはめっちゃデカかったですね。それこそ”Nudge”って曲はめっちゃ変わりました。あと“City Lights”っていう曲では、初めてがっつり地声で歌ったんですよ。普段は制作部屋で作るんですけど、たまに酔っ払ってチーズとか食いながらリビングで録ったりしていて、その時の音源を送ったら「こっちの方がいいやん」ってなって、で、そのまま地声でやることになったんですよ。
Daichi Yamamoto - あれって録りなおしたんでしたっけ?
Kzyboost - えっとね、トークボックスと地声でどっちも作って、地声の方がいいやんってなったんですけど、それって酔ったテンションでソファーに座りながら嫁に「何してんの」みたいなん言われながらやってたやつだったんで、後々その感じがよかったんですけど、いざレックするとなると全然その感じ出なくて。それでめっちゃ時間かかって、テイク16とか17とかやった気がします(笑)。でも最終的にはすごい自分の中でもしっくり来るし、新しいことができたなって。
- そのアドバイスがなければトークボックスになっていた。
Kzyboost - 本当そうやったと思います。最終的に形になった時によかったなって思いました。
- ダイチさんは聴いて地声のバージョンの方がよかったと。
Daichi Yamamoto - そうっすね、いい声してると思ってたんで。
Kzyboost - ふっふっふっふ(笑)。
Daichi Yamamoto - 歌った方がよくないですかって。
Kzyboost - ダイチもだし、それこそマサトさんも言ってくれて、じゃあちょっと頑張ってやってみようと思って。
Daichi Yamamoto - あとテーマ的にそれがあったっすよね。『Nudge』っていうタイトルで、これまでやってない部分をプッシュするみたいな。プロデュースワークに傾いたOMSBさんの曲とか。
Kzyboost - 別に真新しいことじゃなくて、自分が手出してなかったようなこととかね。今までの自分だけで考えたものじゃなくて、そこにスパイスを入れてもらったことによって、すげえ変わったなって思いましたね。だからめっちゃよかったです。ありがとうございます。
Daichi Yamamoto - ありがとうございます。
- 逆にダイチさんの作品にカズヤさんがアドバイスをすることは?
Kzyboost - 今回のやつはそこまでなかったっすね。それこそ"Newtone”はデモの段階で聞かせてもらってて、「すんげえビートやな」みたいな。完成形を食らわされるみたいな感じでしたね。「なにこれすごっ」みたいな。でも、それをやりながら自分の作品にいろいろ言ってくれたりして、ありがとうって感じっす。
Daichi Yamamoto - (笑)。
Kzyboost - 自分の作品進めながらそれって、めっちゃ難しいと思うんですよ。ツアーもやりながら、マネジメントじゃないですけどそういう部分をやるって。ダイチもそんなんやったことないんやない?
Daichi Yamamoto - 人の作品に対してっていうのはないですね。
- それはやっぱり、お互いの関係性がしっかりできていたからこそ自然とできるようになったというか。
Kzyboost - それも絶対あると思いますね。
Daichi Yamamoto - あと、マサトさんから「それでやってみよう」みたいなのもありましたね。
Kzyboost - うん。僕からすると普段からビートできたら送るみたいなことも多かったんで、すごいやりやすかったし進めやすかったですね。あんまり躊躇はしなかったかなと思います。
Daichi Yamamoto - でもやっぱり、自分で作っていると、みんなに聞こえてる部分が案外自分には聞こえてなかったりするじゃないですか。このフレーズめっちゃいいのに全然違うフレーズぶつけちゃって、とか、「絶対これそのまま繰り返した方がかっこいいやん」って、客観的に聞いたらわかるじゃないですか。マサトさんに曲送って「ここはこうした方がいい」みたいになることもあるし、客観的な視点から自分が見落としてる部分を指摘してもらうっていうのは、逆に自分がずっとしてもらってきたんで、カズヤさんの時もその意識はありましたね。
Kzyboost - そういうのは、僕にとっては初体験感がすごいあって。それこそ『Nudge』のいろんな曲が完成して「これでOKかな」みたいななった時に、「コーラス入れてみるのどう?」みたいな。“Days”ではZINくんに入ってもらってるんですけど、コーラスが入ってめっちゃピースがハマって完成したイメージもあって、それは僕にはあんまりないアイディアやったんで、すごいよかったですね。

- この流れで、お互いの今作に対する印象を聞けたらと思います。
Daichi Yamamoto - 私はやっぱりOMSBさんは嫉妬しましたね、あれは(笑)。
Kzyboost - いや僕ずっとOMSBくんと曲を作りたかったんですよ。ゴリゴリのやつ。あれはOMSBくんからも包み隠さず意見してもらって完成した曲なんで、僕の力も半分いってないくらいかもしれないですけど。
- それはビートに対してですか?
Kzyboost - ビートもそうですね。OMSBくんはもちろんプロデューサーとしても素晴らしい方なんで、その目線での意見をいろいろ言ってくれて、自分が持ってない感覚だったし、それであの曲は完成したって感じで、僕もすごい好きな曲ですね。
- リリックもキレキレだなって。
Kzyboost - いやー、いつやったっけな、仕事帰りにそれ送られてきて、どんな感じかなって家のスピーカーで聴いて、10回ぐらいジャンプしました。「やっばー」みたいになって(笑)。
Daichi Yamamoto - ジャンプ(笑)。
Kzyboost - 爆音で聴いて、二重跳びできるぐらいの高さでは飛んでたと思うっすね。そっから完成までは長かったんですけど、「衝撃のバースが返ってきた」みたいな感じでしたね。逆に僕は、ダイチの作品だと“夜中の爪“がやっぱめっちゃ好きっすね。ビートも相まってですけど、"夜中の爪"て、みたいな。いやその視点すごいわ、みたいな。あれはどういう?
Daichi Yamamoto - ほんまに爪切ってたんですよ。爪切ってて、そわそわすんなって。
- 曲でも言ってますけど、夜中に爪切ると縁起がよくないっていう言い伝えはありますもんね。
Kzyboost - 言い伝え的なね。いやあ、すごいわな。その描写というかさ、今回結構そうかもしれないですけど、よりそのままみたいな。でもダイチのすごいところって、よりそのままの状況やったり情景やったりを言葉に落とし込むやん。リリックのセンスというか、感覚すごいなっていうのを感じる部分がそこなんで。
- ここで歌っているのがなんとも言えない感情で、それを「夜中の爪」というので言い表すのがドンピシャだなって。
Kzyboost - いや本当に本当に。
Daichi Yamamoto - ありがとうございます。
Kzyboost - そっからElle Teresaちゃんが入ってくるという。
Daichi Yamamoto - あれすごいっす。
- あのバースすごいですよね。「お墓」ってなんなんだろうみたいな、ローソンも出てくるし。
Daichi Yamamoto - (笑)。
Kzyboost - 「心斎橋」も出てくる。めっちゃ気になるワードがいっぱいある。
Daichi Yamamoto - 〈秘密言わないタイプの充電器〉とか、ヤバいなって。充電器の人がいるんだなって、聞いた時に。
Kzyboost - ハハハ(笑)。あれはダイチのヴァースを録ってから送ったの?
Daichi Yamamoto - そうですね。
Kzyboost - 一発であれ返ってきた感じ?
Daichi Yamamoto - 一発で返ってきましたね。
- テーマとかは伝えるんですか?
Daichi Yamamoto - テーマが強い曲だったので、今回は伝えたと思います。
- それであれが返ってくる。
Kzyboost - いやー、素晴らしいっすね。あの曲もそうですし、"なんとかなるさ”もそうですし。やっぱ今回、普段ツアーでも参加してたコーラスの有坂美香さんが入ることで、伏線回収じゃないですけど、あんな曲ないと思うんですよね。僕の嫁は聴いて泣いてました。
Daichi Yamamoto - DMきましたね(笑)。「泣きました」って。
Kzyboost - でも、音楽で人を泣かせるって素晴らしいことですよ……ダイチは今何歳やったっけ?
Daichi Yamamoto - 31歳です。
Kzyboost - 35歳とか40歳のダイチが楽しみです。どうなるんやろって。
Daichi Yamamoto - (笑)。
- カズヤさんも言っていたみたいに、今作のリリック、“なんとかなるさ”が象徴的だと思うんですけど、よりシンプルになっていて。『Radiant』以降の感じが如実に出てるのかなと思います。
Kzyboost - メタファーじゃないけど意味を持たせてる、みたいな表現がいろいろあった気がします。直接的やないけど意味を持たせてるみたいな、すげえなって思う。
- ダイチさんはそのあたり、意識的に取り組んだところですか?
Daichi Yamamoto - そうですね。『Radiant』がすごい詰めて書いてて、一回やっぱ気楽に書こうみたいなところがすごいあって。NAGATAKI(DJ DISK)さんと作った“Million Doller”とかも、あんま人と一緒にスタジオで書いたりとかしないんですけど、その場である程度書いて、持ち帰って詰めはしたんですけど、ラフに作っていくみたいな感じで……でも、そうなんですよ、全然話してなかったんですけど、人生で一番今まで曲書けた時期がやっぱ19、20歳とかだったんですよ。1日に3、4曲書くみたいな。あれが戻ってきたんですよ。
Kzyboost - あー、始めたてみたいな時のこと。一周したんや。
Daichi Yamamoto - 夏、めっちゃ暑かったじゃないですか。
Kzyboost - 大体暑いけどな。まあ今年は特にヤバかったもんな。
Daichi Yamamoto - それで、「この暑い中に走ったらどうなんだろう」と思って、一番暑い時間帯走ってみて。そしたらめちゃくちゃ元気出て、で、そっからそのペースが作れて。
Kzyboost - それきっかけでってこと?
Daichi Yamamoto - はい。まあいろいろあったんですけど、でもめっちゃ曲書けたんですよ。
Kzyboost - それこそ3、4曲とか?
Daichi Yamamoto - そんな時もありましたね。今もまあ続いてて。
Kzyboost - へえ、すごいな。
Daichi Yamamoto - で、そっから話がもう色々飛んじゃうんですけど。
Kzyboost - いつものやから大丈夫。
Daichi Yamamoto - あの、Princeが2000曲作ったっていう……
Kzyboost - めっちゃ飛ぶ(笑)。
Daichi Yamamoto - そんな話を聞いて、Princeが2000曲作るんやったら、自分もそんぐらい作らなあかんって思って。
Kzyboost - まさかのPrinceやったんや。
Daichi Yamamoto - 作ろうって思った1年でした(笑)。
Kzyboost - 話飛んだなあ(笑)。
- ビートもあってリリックもできてる、という曲がどんどんできている?
Daichi Yamamoto - そうですね。いろんな人からビートいただけたっていうのもあるんですけど、自分でスケッチみたいなビートを作って書いてっていうのもあって。そういう中で、完成させないみたいな。6割でいいや、みたいな。
Kzyboost - 詰め切らない。
Daichi Yamamoto - 完璧主義じゃなくなって。6割で完成させてみて。
Kzyboost - いやあ、俺それがなかなかできへんねんなあ。
Daichi Yamamoto - でもそれがカズヤさんのいいところだと思いましたよ。
Kzyboost - なんか、真面目なんですかね、わかんないですけど。そこに対して「いいや」ってなかなか思えなくて。録音する時とかも、僕はトークボックスだからっていうのもあるかもしれないですけど、あんまりラフな感じで録音できなくって、だからめっちゃ羨ましいなと思います。そういうのもやってみたいんですけど。なんかさ、スタジオ入ってその場で書くんと、家持ち帰って書くんって、全く感覚違う。
Daichi Yamamoto - 違いますね。
Kzyboost - 今回書いたやつってさ、それこそNAGATAKIくんとの曲とか、ブラッシュアップはするけどほぼその場で完成してたん?
Daichi Yamamoto - どうだったっけな。でもだいたい形にはなっていて。あとはアルバムじゃないんですけど、KMさんの“DANCELIXIR”はその場で書いたんですよ。それもすごい思ったんですよね、100点のヴァースが書けたと思っても、別にそれはみんな求めてなくて、それくらい肩の力抜けて、パーティーチューンな感じでペッて行く方がいい時もやっぱあって。
Kzyboost - なるほどね。そんな難しいこと言わなくてもいいや、みたいな。KMさんって、僕の印象ですけど、作る前のその曲に対する印象みたいなんを、すごいはっきり決める人なんじゃないかなって思ってて。
Daichi Yamamoto - そうっすね。
Kzyboost - テーマとか、そういうのを伝えた上であとは楽にやってもらうみたいな。勝手なイメージやけど。ダイチと前に話したっすけど、それこそYeとかも、プロジェクトやる時の最初にみんなで集まってテーマだけ決めて、あとはベクトルが一緒なんで同じ方向に向かっていくみたいな、そういう作品の作り方とちょっと似てんのかな。
- コンセプトワークをしっかり固めているってことですよね。
Kzyboost - それをやると、よっぽどのことがない限りは変にはみ出ることってないと思うんですよ。でもKMさんのそれって、2人の相性がたぶんえげつなくいいんやなー、みたいなのをすごい感じましたね。あれ食らったなあ。
Daichi Yamamoto - マインドって大事だなって思いますね。技術だけじゃどうにもなんない話がいっぱいあるなと思いました。
Kzyboost - OMSBくんもそうやったなあ。それこそダイチのライブの時に初めてガッツリ喋ったんですけど、大阪の味園で、僕が好きな西海岸のDJ Battlecatっていうプロデューサーの話になって、全然僕より知ってて、めっちゃ詳しくて(笑)。それで今回そういうの作りたいっす、みたいな感じになって。やっぱ元がそっちの人なんやって思ったし、それこそリリックの中でDove Shackっていうグループの名前が出てくるんですけど、そんなんとか絶対みんなわからんって(笑)。ほんまに屋根の上にDove Shack乗ってるジャケットがあるんですけど。
Daichi Yamamoto - 言ってましたね(笑)。
Kzyboost - その作品1995年リリースだったと思うんですけど、ここでそのワード使うんや、ありがとうございます、みたいな感じでしたね(笑)。なんで、方向性が決まってるといいんやなっていうのは自分も感じます。ダイチとKMさんとの相性はエグいっす、まじで。

- ダイチさんは、前作で「他人のことを気にしすぎない」というような発言をされていて、そのテンションは今作でも一貫しているのかなと思いました。
Daichi Yamamoto - たしかにそうですね。
Kzyboost - それめっちゃ思うけどな。
Daichi Yamamoto - 思いますか?
Kzyboost - よりシンプルにというか、自分のことにしっかりフォーカスをして、それが他人にも伝われば、ぐらいのテンションでやってるのかなって勝手に思ってましたけど。
- あと、この作品の全体的なテーマって恋愛ですよね。
Daichi Yamamoto - そうですね。
Kzyboost - きた!
Daichi Yamamoto - 恋愛ですね。
Kzyboost - 恋愛ですか(笑)。
Daichi Yamamoto - 避けては通れない。
Kzyboost - そうやんなあ、いや、そうやで! いつ来るかなって(笑)。
Daichi Yamamoto - タイトルもそっからだったし、ジャケもそういうとこから来てたり。
Kzyboost - あ、ジャケもなん?
Daichi Yamamoto - 自分の背中にメイクアップアーティストさんがいろんな色をのせて最後なじませたっていう、背中の写真なんですよ。
Kzyboost - そうなん?
Daichi Yamamoto - 好きだった人に合わせようとしている自分がいて、いろんな色をトーンチェックして、「どれも違うな」みたいになって、最後べーってなじんだところが、自分がいる場所みたいな。
Kzyboost - すごいやん。
Daichi Yamamoto - でもそれはカメラマンの堀(裕輝)さんといろいろ話してのことで。
Kzyboost - 堀先生の。いやあ、すごいね、そういう意味やったんや。
Daichi Yamamoto - そういう意味やったんですけど、最後めちゃくちゃ渋い写真になってた(笑)。
Kzyboost - (笑)。俺そんなやと思ってなかったわ。ちょっともっかい後で見るわ。
Daichi Yamamoto - 拡大したら自分の背中なんですよ。
Kzyboost - ってことやんな。ちょっと毛穴探そ。
Daichi Yamamoto - 毛穴は残してます(笑)。
Kzyboost - ありがとうございます。え、その『Secure』っていうのはどういうアレなの?
Daichi Yamamoto - 安定って意味なんですけど、よく「Insecure」って言葉を恋愛とかで使うんですよね。恋愛で不安定になってる自分みたいなところから、でもこれを書き終えた後にタイトル付けたんで、今の自分はもう安定してるけど、その渦中ではめちゃくちゃインセキュアだったなって。
Kzyboost - 結果的にはそうなったけど、みたいな。うーん、まあそやな、ほんまに不安定やったな。
Daichi Yamamoto - やばかったっすよね。
Kzyboost - それこそ電話したりとか、ツアー中もそういう話をすごい聞いてたりして、「大丈夫かな」みたいな、すごい落ちてる時もあって。一方で少年みたいに喜んでる時とか、めちゃくちゃいろいろ見れたんですけど、だから逆に大丈夫かな、みたいな。
Daichi Yamamoto - やっぱ、大丈夫じゃなかったんだなって思いました。
- できてみて。
Daichi Yamamoto - できてみて。ほんとここ数日、気持ちがフラットになった時に、よろしくないなって思いました。いやー、この話をどういう風に言葉にしてたかわかんないですけど。
Kzyboost - 俺のイメージは、耐えてる時がマジで多かった気がします。
- でも、そういう描写が多いですよね。“夜中の爪”もですし。
Kzyboost - そうなんですよ。耐えてたりとか、たぶんいろんな考えや感情が自分の頭の中でずっとぐるぐるしてる、みたいな。
Daichi Yamamoto - でもそれさえも、「ラブじゃ、愛の力じゃ」みたいな感じで言ってたじゃないですか。やっぱ客観的になると、それってコントロールできない部分だなってすごい思ったんですよ。自分以外の人の感情ってコントロールできないし、相手の行動を変えることってできない。自分の行動しか変えれないんで。そこに自分軸が移行しちゃってたんでめっちゃ苦しかったんですけど、後になって自分の方に戻してあげた時に、本当に、なんていったらいいんだろう……あの頃、20ぐらいしかエネルギーなかったんですよ。
Kzyboost - 自分に。
Daichi Yamamoto - はい。で、80が向こうに行ってたんですよ。それが返ってきて100になった時に、「自分ってこんなにエネルギーあったのか」ってなって、めちゃくちゃまた曲が書けたんですよ。
Kzyboost - そういうことやん。
Daichi Yamamoto - (笑)。
Kzyboost - すごい精神状態のこと言ってる。ま、それやから、最初「今年1年変わった」って自分が思ったのはそこやったんやない?
Daichi Yamamoto - そこですね。戻ってきた時に、「あっ、これが本来自分のあるべき姿だ」と思ったんですよ。自分の中に軸があって、自分のために物事をやって、コントロールできることをコントロールしていくっていう状態で人と付き合わないとダメだなって。
Kzyboost - その他人と向き合ういろんなチャレンジを自分でやって、「これも違う、これも違う」みたいな、試行錯誤していたのが、作品にめっちゃ出てるからすごいと思うんですよね。だから全部繋がってるよな、ほんまにな。
Daichi Yamamoto - たしかに。
Kzyboost - でも、安定した?
Daichi Yamamoto - セキュアです。
Kzyboost - じゃあよかったです(笑)。
Daichi Yamamoto - (笑)。
Kzyboost - いつも年末にね、忘年会とか一緒にご飯行ったりとかするんですけど、だいたいこういう話してるんですよ。なんかでも、僕はそれでセキュアです。
Daichi Yamamoto - (笑)。
Kzyboost - 安定のダイチくんです。まあでも、根本は変わってないし。彼にとっても自分の可能性というか、そういうのをいっぱい掴んだ1年だと思うんで、だから楽しみですね。
Daichi Yamamoto - 「来年輝いてるよ」ってこないだ言われて。
Kzyboost - (笑)。言われた?
Daichi Yamamoto - はい。
Kzyboost - マジで。これは期待しかないな。もう来年以上はないよ。どうするよ。太陽ぐらいまであるんやない。

- (笑)。でもカズヤさんも、“Days”の歌詞はすごいシンプルですね。
Kzyboost - ですね。なんか、恥ずかしいな。ZINくんとはプライベートで飲みに行ったりとか仲良かったりするんで、客観的に僕のことを見てくれていて。それで、最初にZINくんがヴァースを書いてくれたんですよ。そっから自分がやって、せっかくやったら昔のことも踏まえた上での今みたいな、そのルートがあっての今みたいなのを歌詞にしたいなと思って書いて。そこにもダイチからアドバイスもらってて、「このフレーズ2回繰り返した方がいいんじゃないですか」とかって。
Daichi Yamamoto - ありましたね。
Kzyboost - 〈もう Never say goodbye〉みたいなフレーズ。次のフレーズで別のメロディラインにしてたんですけど、「そこもう1回このメロディでいったらめっちゃ印象残るかもしれないです」みたいな話をしてくれて、そうしたんですよ。リリック書きながら「恥ずかしいな」って思いながらやってたんですけど、それこそ昨日初めてライブでやって、自分的にもやっぱ感情乗るなってすごい思ったんで。いい曲ができました。
Daichi Yamamoto - 自分的に、「恥ずかしいな」って思ってる時っていい歌詞なんですよ。
Kzyboost - なるほどね、「俺こんなん思ってんのやったよな」みたいな。え、結構多い?
Daichi Yamamoto - ありますね。それに後半気づいて。実はむずがゆいこと言ってる時の方が、ちゃんと自分の言いたいことだったり、みんなが「わかる」ってなる代弁になったりしてるなって、そう気づいた時に、今まで数多の恥ずかしいワードを消していってたなって思いました。
Kzyboost - それが特に出た曲ってあったりするの? 今回の作品でもいいし。
Daichi Yamamoto - 「恥ずかしいな」とはもうあんま思わなくなってきてるんですけど、それこそ“No more”とか“夜中の爪”とかは今までだったら言わなかったかもな、みたいなのがあるかもしれないですね。
Kzyboost - それが振り返ってみて、出せるようになってた。
Daichi Yamamoto - あと恥ずかしい以外に、「ちょっとダサいかな」とかもあって。たとえば“夜中の爪”でCBDっていう時に、ラッパーだったらみんなTHCって言うなって(笑)。
Kzyboost - まあね(笑)。
Daichi Yamamoto - ここでCBDって言ってる自分ダサいなと思ったんですよ。でも、それはそれで自分だからいいかっていうところでそのままにしたんですけど。そういうこと言ってる自分ダサいな、みたいなのを取り除くのが結構大事なのかなって思って。「いいやんCBDで」って(笑)。
Kzyboost - (笑)。そっか、たしかにダサいみたいなんあるよなー。でも結構、いやマジで恥ずかったないろいろ。〈深すぎるLove〉とか、めっちゃ恥ずかしいな。〈壊れそうで〉とか言って。絶対そんなん言わんもん(笑)。
Daichi Yamamoto - 普段はそうですよね。
Kzyboost - 愛情表現はもちろんするんですけど、でもそこまで、俺の愛が深すぎるとか言わないじゃないですか。
- 歌詞じゃないと言えない。
Kzyboost - それ結構あったかもしれないです。
Daichi Yamamoto - 愛でしたね。
Kzyboost - いやでも、ずっと「ラブ背負ってます」みたいなさ、なんていうのかな、結構ダイチはさ……いや、これはいっか。
Daichi Yamamoto - そこまで言ったのに(笑)。
Kzyboost - いや(笑)、めっちゃ表現むずいねんけど、ラブをずっと背負ってる感じ。
Daichi Yamamoto - あー。
Kzyboost - さっきの話もそうですよ。「愛があれば」みたいな、ラブ一本背負いみたいな、わかんないですけど(笑)、そういうところがやっぱあるから。
Daichi Yamamoto - 思いましたね。破滅行為なのに。
Kzyboost - それで自分を律してるのと同時に、強くいないといけないみたいな、すごい普段話してて感じたから。ちょっとゆっくりしてほしいですね。年末年始。
Daichi Yamamoto - でも、学びました。それはほんまに妄想があったんでしょうね、「恋愛とは素晴らしいものだ」って。でも実際そんなでもない。素晴らしいんですけど……
- 依存しすぎるのは違う、みたいな。
Daichi Yamamoto - これ最近会った人みんなに言ってる話で、昨日ガガにも言ったんですけど、携帯を手元で下に落とすじゃないですか。これは全然大丈夫じゃないですか。でも、窓から手を出してそれをやると、手に汗握るじゃないですか。その状態になるとよくない。何事も。そういう心境になると体がこわばって、「絶対に失いたくない」ってなるじゃないですか。思ってもないこと言っちゃったりとか、思ってもない行動しちゃったり。それで相手にも傷っていうか不信感っていうか与えちゃうし、自分じゃなくなる。
Kzyboost - なるほどね。そういうメンタルの保ち方って難しいよね。
Daichi Yamamoto - 難しいですよね。曲とかでもそうやなと思って「この曲絶対いいのにしよう」って思ってる時って絶対できないじゃないですか。あれってやっぱ、手出してる時の状態で。
Kzyboost - そういうことやな。なんでもそうやけど、やっぱ期待しすぎないことが一番大事やなと思うし、それをな、自分の中で理想を一個作っちゃうとそれが仇となることが多かったりするから。
Daichi Yamamoto - さすが、仏教高校を卒業してる(笑)。
Kzyboost - やめてえもう。やめてください(笑)。
Daichi Yamamoto - 恐れ多い(笑)。
- 来年について聞きたいなと。具体的なことじゃなくて気持ちとして、どういう感じで続けていきたいか、みたいなことを聞けたらと思うんですが。
Kzyboost - じゃあ僕からいいですか。今やってることは変わらず続けていきたいんですけど、やっぱやったことないことをやりたいですね。全部生バンドで録ってみたいなと思ったり。35歳っていう節目の年なんで、来年中にできるかわかなんないですけど、ちょっとおっきい作品とか、この数年で時間は関係なく作れたらいいなあと思います。あと、もっと自分のライブもしたいなと思いました。以上です。
Daichi Yamamoto - 自分は、今はめっちゃいい状態なんで、来年もこのままいい感じにやっていきたいなって。
Kzyboost - そうやな。保てたらいいな。
Daichi Yamamoto - まあたぶん、保てない日が来るんですけど。でも今、全部武器持ってるなって。
Kzyboost - 全部装備してる?
Daichi Yamamoto - 装備してる(笑)。
Kzyboost - 全装備(笑)。まあ、それが外れることがないように、武器をアップグレードするって感じやな。
Daichi Yamamoto - まあ、楽しみです。来年も。
Kzyboost - なんか音楽的にはない?
Daichi Yamamoto - そういう意味では今年作り方がすごい変わったんで。6割ぐらいでいっぱい作って形にするやつだけしていって、みたいなのが合ってるなと思ってます。何の曲やってんのかわけわかんなくなってくるんですけど、でもそのやり方がめっちゃハマってるんで、その感じで次もやっていくか、みたいなところがありますね。
Kzyboost - なるほど、楽しみっすね。
- 64barsでも歌ってましたけど、次の作品のイメージというか構想があるっていうことですよね。
Daichi Yamamoto - そうっすね……いろいろあるんですよね。
Kzyboost - やりたいことが?
Daichi Yamamoto - 3つぐらいあるんですけど、どれを……速度感がちょっと変な感じになっちゃった。
- 全部並行して進んでいるから。
Daichi Yamamoto - だし、ずっとやりたいなと思ってる作品もあるけど、それはたぶんまだまだできないし。64barsの時は思ってたやつがあったんですけど、それはちょっと心の延期みたいな。
Kzyboost - 心の延期……おざっす(笑)。
Daichi Yamamoto - おざっす。
Kzyboost - いっぱいあるということですね、方向性が。あとはピースが揃えば、みたいな。
Daichi Yamamoto - そうですね。でもやっぱ、昨日の賽のライブも面白かったんで、バンドじゃないにしても、楽器の人とセッションして曲作るのはトライしたいです。
Kzyboost - わかるよ、すごいわかる。ゾクゾクするよな、見てて。
Daichi Yamamoto - いやー。ミスとかもすごいいいんですよ。
Kzyboost - いいね、なんかね。
Daichi Yamamoto - 昨日MPCがトんで出なくなったんですよ。だからミュートでラップする時間があったんですけど、そういうのが逆にすごいよかったり。
Kzyboost - アクシデントもね。
Daichi Yamamoto - ライブ中、全員が15秒後に、タイム的にここですよねっていうのを合わせる瞬間とか、やっぱ鳥肌立ったりして。面白いなってすごく思って。
Kzyboost - 生でやるとそういうスリルを味わえるよな。生感っていうかね、ライブ感。絶対おもろそうやな、それは。
Daichi Yamamoto - 電気でやると、ミスったらトんで終わるじゃないですか。
Kzyboost - そうね。いや自分もバンドでやりたいっすもんね。今年一個バンドでやってめっちゃおもろかったから。
- ありがとうございます。最後に2024年、音楽でも本でもなんでもいいんですけど、自分の作品以外で一番印象に残ったものはありますか?
Kzyboost - うわー、なんだろう。
Daichi Yamamoto - 最近読み始めてめっちゃいいなって思った本があって、タイトルがヘビーすぎるんで誰にもオススメしてないんですけど、ブッカー・T・ワシントンの『奴隷より身を起こして』っていう。
Kzyboost - なんの本なん?
Daichi Yamamoto - 自伝っすね。ブッカー・T・ワシントンっていう人がもともと奴隷やって、奴隷制が終わってから何していったかっていう話なんですけど、これが、すごくいい。
Kzyboost - ほー。
Daichi Yamamoto - 精神性が高すぎて。あの、今ブッカー・T・ワシントンになりたいんです。
Kzyboost - (笑)。
Daichi Yamamoto - 人種差別って、どうしても「黒人側が傷ついた」みたいな捉え方になるところに対して、ブッカー・Tは当初から「このシステムで傷ついてるのは実は全員であって、私は白人たちを一度も恨んだことはない」みたいなことを言っていて。差別をされる側もそれを受け継いでいくけど、差別をする側もその精神性をずっと後世まで残しちゃってるから、結局両方被害者なんですっていう。本人は解放されてめちゃくちゃフラットな状態から身を起こして、言ったら億万長者まで上り詰めはるんですけど、そのスタート地点が掘っ立て小屋みたいなところで、ポケットに3セントしかないくらいの状況で、野宿しながら全然違う州まで歩いて、そこで無料で勉強できるって聞いたから、入学するお金もないけど「掃除させてくれ」っつって、「雇ってくれるなら、勉強もさせてくれ」みたいなことを言うんですよ。「こいつ精神性えぐいな」って思って、最近読んで元気もらってる。
Kzyboost - やば。俺その後になに言うの(笑)。
Daichi Yamamoto - (笑)。
Kzyboost - 僕あれっすね、一番印象的だったのは、去年からなんですけど、立て続けに盲腸2回なったんですよ。
Daichi Yamamoto - あはははは(笑)。
- 盲腸って2回なることあるんですか?
Kzyboost - 去年の年末に盲腸なったんですけど、切除してなくて。その時は事情があってというか、会社の忘年会があるんですけど、そこでライブをしてほしいとなってて、余興が僕しかいなかったんですよ。
- (笑)。
Kzyboost - それでどうしても出ないといけないと。その一週間前に虫垂炎になっちゃって。痛いなーとか思って会社の人に報告したら、「なんとか来てくれ」って、それはキツイぞってなって(笑)、「わかりました、なんとか行きます」とか言って、お医者さんにも「僕絶対この日にはもう退院するんで」とか言って、「じゃあ切った方がいいですよ」、「いや切ったらどれくらいかかるんですか」、「一週間以上かかります」ってなるから、「じゃあ切らないっす」って。
- めっちゃ重要な試合前みたいな(笑)。
Kzyboost - そうなんですよ。でもそれで腫れも無事引いて、退院して、で、3月にもう一回なったんですよね(笑)。初めて救急車呼んで。その時に一週間ぐらい入院して、本当に入院中ってマジで何もないし、ご飯も食べれなかったりするんで、頭の中で整理するというか考えられる時間があったんで、その時間も今振り返ってみたらよかったのかもしれないですね。あとちょっと痩せた(笑)。で、手術して出てきて2日3日ぐらいでダイチのライブに出ましたね。その時に会ったのがOMSBくんなんですよ。だから初対面の時まだちょっと傷残ってますみたいな。なので、それ考えたら全部踏まえてすげー良かったです、はい。一番印象的だって言われたらそれですね(笑)。30超えてなかなかならないなって思うんで。きっかけとしてはよかったのかなみたいな(笑)。
- "O/G"にも繋がって。
Kzyboost - っていう感じでした。すいません、ブッカー・T・ワシントンから盲腸の話で。
Daichi Yamamoto - 逆にブッカー・T・ワシントン恥ずかしくなってきた。
Kzyboost - ハハハハハ(笑)。
Daichi Yamamoto - 真面目な話しちゃった。
Kzyboost - いいやん、ちょっとインテリ感出るやん。病気やで、俺。
Daichi Yamamoto - 俺も病気トークあるかな。
Kzyboost - でも印象的なことって……
- いや、これで締まると思います。
Kzyboost - ありがとうございました。
Daichi Yamamoto - ありがとうございました。
