【インタビュー】So!YoON! | 自分に一切の制限を設けたくなかった
韓国の人気バンドSE SO NEONのボーカル・ファン・ソユンがソロ·プロジェクトSo!YoON!名義で2ndアルバム『Episode1:Love』をリリースした。今回はAwichをスペシャルゲストに迎えたライブ「Hello, World!」で来日していた彼女に、このアルバムをどのように制作していったのかを訊いた。
取材・構成 : 宮崎敬太
撮影 : 盛島晃紀
言葉はわからなかったけどAwichさんのMVはシンプルにかっこよかった
-『Hello, World!』のゲストAwichさんを選んだのはなぜですか?
So!YoON! - 『Hello, World!』はSE SO NEONのキュレーションで世界中のミュージシャンとライブをするブランド名なんですね。まず私たちが海外のいろんなアーティストを韓国に招待して公演して、次は私たちが相手の国に行って公演する。お互いに紹介しあうのがテーマです。AwichさんのことはMVで知りました。確かにジャンルも違うし、言葉もわからなかったけど、とにかくシンプルにかっこよかったんです(笑)。
- ご覧になったのはどのMVですか?
So!YoON! - 日本語だったんでタイトルが読めなかったんですよ……。白黒のMVでした。
- “洗脳”かな?
So!YoON! - あー、そう!“洗脳”です(笑)。今回の来日でほとんど毎日Awichさんと遊んでます。話せば話すほど好きになります。渋谷の駅前にAwichさんの大きなポスターが貼ってあったけど、私にとっては真面目でかっこいいお姐さん。ずっと良いエネルギーをもらってます。逆に伺いたいんですけど、Awichさんは日本だとどういう受け止められ方をされてるんですか?
- 彼女は日本のトップアーティストです。誰もやってないことをどんどん開拓してる。個人的にはみんなから愛されていて、同時に尊敬もされている人だと思います。日本の新しいかっこよさを象徴するような存在です。おそらくこれから日本以外の国でも活動していこうとしているように見えます。
So!YoON! - それはすごくわかるなあ。
- duo MUSIC EXCHANGEでのライブも素晴らしかったです。言葉もジャンルも違うのに、お互いにリスペクトし合って良い空気を生み出し、それを観客も共有することができました。言葉で言うよりも簡単なことでないと思います。
So!YoON! - ありがとうございます。がんばりました(笑)。
ファン・ソユンという人間の複雑で広大なスペクトラムを見せたいと思った
- So!YoON!さんは普段どのように作曲をするんですか?
So!YoON! - いろいろありますよ。先に歌詞を書くこともあるし、メロディやコードをひとつだけ決めて曲を広げることもあれば、ボイスレコーダーひとつで作曲を始めることもありますね。あと頭に浮かんだイメージを音楽に落とし込んでいくパターンとか。
- では本作のテーマ「Love」はどこから出てきたんでしょうか?
So!YoON! - テーマを決めて制作したのではなく、ある程度の曲が出揃った段階で「Love」が見えました。むしろ「欲望」に近かったかも。でもそれを「Love」として表現できたらいいなと思ったので、今回のメインテーマに据えたんです。
- 『Episode1 : Love』にはいろんなタイプの曲がありますね。
So!YoON! - 私にとってSE SO NEONとSo!YoON!は別々のプロジェクトで、今回はファン・ソユンという人間の複雑で広大なスペクトラムを見せたいと思っていました。サウンドはもちろん、ビジュアルも、映像も含めて。今作にいろんなタイプの曲があるのはそれが大きな理由です。今までやったことはないけど、できそうだと思ったことは本能と感覚に従って作っていく。制作に関して事前に決めたことは一切なくて、思うままに作りました。
- それはいろんなSo!YoON!さんがいるアルバムのアートワークでも明示していますね。
So!YoON! - うん。さらに音楽的に突っ込んだ話をすると、自分の強みであるサウンドにポップさも加えたかった。もちろん私の中にあるポップな要素という意味ですけど。それでいてオルタナティブなアウトプットになるちょうどいいバランス感を探りながら作っていきました。そこがキーになってるかもしれません。
- 英語の歌詞が増えたのはなぜですか?
So!YoON! - 今回のアルバムでは自分に一切の制限を設けたくなかったんです。そういう意味では、今回のアルバムの唯一の約束事は、最大限、本能的で感覚的な表現をするということ。とはいえ私はそこまで英語が得意じゃなくて、SE SO NEONの歌詞も韓国語が多い。でも英語で書きたいと思った曲は英語で書きました。そしたらいつもより柔らかい表現ができたんです。
韓国にはバンドのシーンといえるコミュニティは存在しません
- キム・ドオンさんが本作に参加した経緯を教えてください。
So!YoON! - キム・ドオンさんをご存知なんですね!私は3年くらい前に知り合いました。彼が去年リリースした『Damage』というアルバムにも参加してます。彼とは普段からお互いに曲を聴かせあったりしてるんですね。そしたらある時、聴かせてもらったインストの中に今回の1曲目の“IN (Void)”があったんです。すごくいい感じだったので、この曲をアルバムのイントロに使わせてほしいとお願いして、最終的にスキット(“why don’t you take me out? (skit)”)とアウトロ(“OUT (to be continued… :)”)の制作もお願いしました。
- 韓国といえばK-POPとヒップホップのイメージが強いんですが、SE SO NEONやHYUKOHなどバンドのシーンはどういう状況なのでしょうか?
So!YoON! - 残念ながら韓国にはバンドのシーンといえるコミュニティは存在しません。みんな個別の活動してます。水面下で努力してる人たちもたくさんいますが、韓国で有名なバンドと日本の方がご存知のバンドに大差はないと思います。
- そんな中でSE SO NEONやSo!YoON!さんが日本でも認知されるほどの人気を得たのはなぜだと思いますか?
So!YoON! - いやいや、私たちも水面下で努力してるバンドのひとつですよ。韓国ではK-POP的な要素を持った音楽が好まれます。でも私たちはそういう音楽性じゃない。私たちが人気者だと仮定してその要因を想像するなら、おそらくセルフプロデュース力だと思います。私たちは常に自分たちがどうしたいかを意識しているからじゃないですかね。あくまで仮定の話ですけど(笑)。
- 日本の若い子たちにとって韓国は憧れの国です。そしてSo!YoON!さんもその憧れの対象になっています。
So!YoON! - え〜(笑)。そんな……。感謝としか言いようがないですね。私が誰かに憧れられる存在になっていることへの感謝もあるし、憧れてくれている人がその人らしくいられるためになんらかの影響を与えられているのであればそこにも感謝したいです。素直に嬉しいです。
RMさんがSE SO NEONのスタジオにいらしていきなり跪かれて……
- BTSのRMさんが参加された経緯を教えてください。
So!YoON! - RMさんはもともとSE SO NEONの音楽をいろんなところで紹介して、広めてくださっていたんですね。でもお会いしたことはなくて。そしたら昨年J-HOPE(BTS)さんがアルバム『Jack In The Box』のリスニングパーティに私を招待してくださったんです。そこでほんのすこしだけRMさんとお会いして直接話せたんです。その時「また会いましょう」とおっしゃってくださって。で、次にお会いするタイミングで作曲したんです。
- 出会いから作曲までのスパンが短いですね。
So!YoON! - タイミングが良かったんだと思います。RMさんは『Indigo』を作ってて、私もこのアルバムを作ってて。お互いに曲を聴かせあう流れから“Smoke Sprite”を制作することになりました。その段階ではメロディだけで、まだ歌詞が入ってなかったんですよ。
- 韓国のテレビ番組でRMさんが“Smoke Sprite”の「Take On My Knees」というラインを提案してくれたと話されてましたね。
So!YoON! - そうです、そうです(笑)。「無意識」をテーマにした曲にしたかったんです。そこからは韓国のテレビで話した通りで。RMさんがSE SO NEONのスタジオにいらして、いきなり跪かれて「思いついた歌詞がある」って。それが「Take On My Knees」のラインでした。そこからさらにいろいろアイデアを出し合ってこの曲が完成しました。
- ナジャム・ス(Sultan Of The Disco)さんの“Till the sun goes up”をカバーされたのはなぜですか?
So!YoON! - 実は2017年にSE SO NEONでデビューした後、初めてのライブでこの曲をカバーしたんですよ。当時は持ち曲も少なかったから……。でも私はこの曲がすごく好きで。当時とは違う雰囲気でもっとうまくカバーできるじゃないかってずっと思ってたんですね。
- オリジナルはGファンクっぽいテイストのポップソングですが、So!YoON!さんはシティポップ的に再解釈しました。その発想がすごく面白いと思いました。
So!YoON! - リメイクの仕方はかなり悩みました。(オリジナルのような)ファンクは韓国にほとんどない。ものすごく珍しいです。でもこの曲が入ったら、アルバムが良くなると思いました。映画っぽい歌詞も良いんです。
- “Bad”はアメリカのシンガーソングライター・Nick Hakimさんと共作です。
So!YoON! - この曲はSe So Neonのアメリカツアー中に書きました。でもソロアルバムの作業はしなきゃいけないからいくつかデモを持って行ってたんです。どれも気に入ってるけどそのままアルバムに使うには曲としての密度が非常に低い。それで“CANADA”を一緒に作ったJon Nellenに相談することにしました。そしたら「ニューヨークのスタジオにおいで」と言ってくれて。そこでNick Hakimたちも含めて、みんなで4日間かけてこの曲を作りました。1日目はセッションしながら全体的なムードを作って、2日目にリリックを書いてみんなに曲の雰囲気を伝えてヴォーカルも入れました。そのあとNickのスタジオに行って、メロディのリタッチなど細かい修正をして、4日目にエディットしてこの曲ができました。
- なるほど。僕は今お話に出た“CANADA”のヴォーカルもすごく好きでした。あの歌にどのような気持ちを込めたのか教えてください。
So!YoON! - 癒しかな。“CANADA”は結構大変な時に作った曲なので。普段は単語をひとつひとつしっかり発音して、細かくレコーディングを進めていくタイプなんです。でもこの曲はワンカットで録音しました。だからできあがったあと友達に聴かせたらみんな驚いてました。今こうして振り返っても、私が制作していた時に込めたかったエネルギーは全部入っていると思う。
- 差し支えなければ“CANADA”を制作していた時の状況や心境を教えてください。
So!YoON! - この曲もSE SO NEONでアメリカツアー中に制作していました。別にホームシックにかかるタイプじゃないんですけど、アメリカはすごく刺激的だったんです。いい刺激ではあるけど、毎日が刺激の連続だから気持ちが休まらなくて。気のおけない友達がいたり、ホームって思える場所があればまた違ったんでしょうけど。だからは私は“CANADA”にそういうものを求めたんだと思う。同時にアメリカで感じていたエネルギーもこの曲には入っていて。それは自分だけでなく聴いている人にもそ伝わるだろうなという確信があったのでレコーディングしたままのテイクで発表することにしました。
- “Gave you all my love”は無償の愛を歌った曲だと感じました。そういった歌詞をスペイシーなトリップホップに乗せたのはなぜですか?
So!YoON! - この曲はライブハウスでやった10分くらいのジャムセッションがベースになっています。ミュージシャンがセッションして作る伝統的なスタイルは好きだけど、それだけじゃ足りないと思って現代的な要素を加えるために電子音楽のプロデューサーのところに音源を持っていったんです。その人に曲のイメージを説明して、いろいろいじってもらいました。で、質問していただいた歌詞については、セッションの時に歌った切なさを維持することにしました。昔のソウルっぽい感じというか。ちょっと幼稚で映画っぽいラブストーリーですね。
- そのアンバランスさがすごく面白かったです。ちなみにそのプロデューサーはなんという方ですか?
So!YoON! - Kwangjae Jeon。まだアルバムは出してないんですよ。結構前から一緒に曲を作ってるけど、世に出したのはこの曲が初めてです。
- “EXIT”はネオアコ的なすごく爽やかな曲ですが、同時にちょっと不穏さも感じさせます。そのようなアレンジにしたのはなぜですか?
So!YoON! - この曲はイメージから作ったんです。宇宙にひとつだけドアがあって、そこまでの道を曲で表現しました。最初はミニマルなアコースティックな曲だったんですよ。でも宇宙って結構散らばってるイメージがあるから、そこに不穏さを感じたのかも。
自信がある
- “LOVE (a secret visitor)”は個人的に今作のフェイバリットソングでした。この曲にパク・チユンさんが参加したのはなぜですか?
So!YoON! - この曲は私がボイスレコーダーに録音したメロディが元にR&B調の曲に発展させました。ある程度出来上がった段階で、誰かとデュエットしたいなと思ったんです。でもその人が声以外で評価されている人だと嫌だったんです。そこからパク・チユンさんの声と私の声で何かできないかと思ってオファーしました。
- 実際に作業してみてどんな感じでしたか?
So!YoON! - パク・チユンさんはすごく穏やかな方なんです。制作中はよく一緒にお茶をして、いろんなことを話しました。その時の会話からヒントを得て歌詞を書いています。彼女はすごく良いエネルギーを持った女性です。長い時間をかけて自分を作り上げてきたアーティストだと思う。綺麗に作りすぎない。自分じゃない何かを表現しようとしない。そのありのままが歌にも表現されてた。実際にお会いして、声に人間性は出るんだなってことをすごく感じましたね。
- 素晴らしいアートワークですが、CDはリリースされますか?
So!YoON! - うん。CDとVinylとカセットテープで出る予定です。
- 今作はアートワークにもMVにもすごくお金がかかっていますよね?日本の感覚からするとインディペンデントのアーティストでは考えられないレベルです。
So!YoON! - 実際、お金はすっごいかかってます(笑)。でもここは難しいところで、私が言うインディペンデントというのは、シーンやレーベルのことではなく、自分自身がコントロールして作りたいものを作って、そこに制限がかかってないことを意味しています。
- なるほど。
So!YoON! - それにこの規模感の予算を動かすことは簡単じゃないです。ただお金は使うもの。大きい予算をかけた分、将来もっと大きいものが返ってくると思ったからレーベルも出してくれたと思う。私自身もそれを実現できる自信もあります。
- 今作には『Episode2』も用意されてるんですよね?
So!YoON! - はい。もう構想は終わって今制作しているところです。『Episode2』はもっと深くて実験的な内容になると思います。楽しみにしててくださいね。