【コラム】XG 『[XG TAPE #2] GALZ XYPHER』の衝撃

執筆 : つやちゃん

前代未聞のバイラルヒットだ。いま、日本人ガールズグループのラップパフォーマンスが世界中で大きな話題を呼んでいる。

11月17日に公開されたガールズグループ・XGの動画『[XG TAPE #2] GALZ XYPHER』は、メンバーのうちラップ担当のJURIN、HARVEY、MAYA、COCONAの4名がそれぞれ英・日・韓のトリリンガル・ラップでヒップホップの名曲をビートジャック。J.I.Dの”Surround Sound”やDreamville の”Down Bad”、Ty Dolla $ign, Jack Harlow & 24K Goldnの”I WON”といったナンバーからROSALIA の”SAOKO”まで、抜群のセンスで料理されたパフォーマンスが公開されるやいなや、その驚異的なスキルが世界中で注目を浴び特大バズを記録した。

TikTokでは3週間で1,100万再生を超え、180万いいねを記録。楽曲を使用したユーザー生成動画は、6,000本以上作られ、その後も拡散は収束する様子を見せていない。さらに、追い打ちをかけるがごとく数日後XGは4人のスタジオ動画も次々にドロップ。ラフなラップによってより一層スキルの巧みさがリアルに伝わり、評価を決定的なものにした。

数字だけではない。J.I.DやDJ SCHEME等、オリジナル曲のパフォーマーやプロデューサー達が相次いで動画についてコメントしたことも大きなニュースになった。他にもKelly Rowland(Destiny's Child)やラッパーのMaliibu Miitch、シンガーのBebe Rexha、意外なところだとファッション・デザイナーのPhillip Limまでもが反応。YouTubeでもリアクション動画が多く作られ、それら一つひとつが彼女たちのラップスキルを分析し称賛する内容になっている。

一体、何が起こっているのだろうか?

ここにたどり着くまでの過程を、順を追って整理しよう。と言うのも、彼女たちがその素晴らしい実力を披露するのは決して今回が初めてのことではないからだ。XGのプロジェクトが立ち上がったのは、5年前の2017年にまでさかのぼる。2017年のプロジェクト発足後、実に5年間に渡り、練習生として鍛え上げられた末、グループは満を持して2022年1月に始動。2月にJURINとHARVEY がRob $toneの“Chill Bill ft. J.Davis & Spooks”をビートジャックした動画を公開した。今回のサイファー企画のスタートである[XG TAPE #1]に当たるのがこのラップであり、すでに彼女たちの完成されたスキルが炸裂している。

けれども、業界が騒然としたのはその後3月にリリースされたデビュー曲“Tippy Toes”である。XGの一筋縄ではいかない魅力は、このデビュー曲の時点で存分に発揮されていた。“Tippy Toes”は、マキシマムで華美なサウンドでヒットチャートを席巻するK-POP第四世代へのカウンターともとれるような、極端なまでに無駄を削ぎ落したストイックなサウンドだったのだ。奇しくも直後にデビューしたLE SSERAFIMの“FEARLESS”がXGに追随するようなミニマリズムを標榜していた点で、むしろ本家K-POPよりも先んじた一歩を踏み出していた。

さらに6月にはセカンドシングル“MASCARA“をリリース、XGの噂はワールドワイドへと拡大していく。すでにこの頃になるとYouTubeの動画コメントも圧倒的に外国語が多くなり、日本人グループとしては異例のリスナー層の分布を見せるようになった。たとえば、アジアにルーツを持つラッパー/シンガーを集め全米ヒットを多く生んでいるレーベル・88risingのCEOであるショーン・ミヤシロは、今年9月にXGについて次のように言及している。

日本のポップミュージックは素晴らしいと思います。たとえばXGとかもすごいですよね。彼女たちは、日本から出てきた新しいガールズグループなのですが、恐らくビッグになると思います。私は詳しくは知りませんが、私の会社の多くのスタッフたちが彼女たちについてよく話していますし、大好きなようです。日本人アーティストで、このような盛り上がりになっているのは初めての経験ですね。まだ2,3曲しかリリースしていないのに。必ず有名になると思いますよ。( https://www.musicman.co.jp/interview/502477より)

デビュー曲“Tippy Toes”から数か月、これまでにないスピードでプロップスを築き上げてきたXGだが、その基盤があった上で今回の『[XG TAPE #2] GALZ XYPHER』がドロップされたということだ。加えて、[XG TAPE #2]は選曲が抜群だった。ヘッズの支持が熱いJ.I.DやDreamvilleはもちろんだが、ここでROSALIAをセレクトし、かつ“SAOKO”をビートジャックするというセンスには舌を巻く。しかも彼女たちのラップは、いわゆるK-POPアイドルのラップと比較した際にややヒップホップマナーに寄っている点も特長だろう。完璧で隙のないラップスタイルを叩き込まれるK-POPアイドル勢だが、XGの場合はもちろんスキルフルでありながらもよりヒップホップの味わいが加えられ、華やかさと同時に渋さが届けられる。まさにその点が、数多のグループとは一線を画したラップコミュニティからの支持を得られているポイントである。そこでは非常に戦略的な訓練がなされているかもしれないし、あるいはむしろ本人たち自身がヒップホップカルチャーに造詣が深いのかもしれない。“I Won”で披露される「Gotta live life like Beyonce Knowles(=ビヨンセのような人生を送りたい)」というラインを力強くラップするHarveyを見るに、あながち外れてはいないだろう。

選曲もスキルも見事な『[XG TAPE #2] GALZ XYPHER』だが、今回のヒットはヒップホップ史と接続させつつ俯瞰することで、より一層その意義深さを捉えることができる。

一つは、ビートジャック史という観点。コロナ禍で大きなムーブメントとなった“TOKYO DRIFT FREESTYLE”然り、日本のヒップホップにおいてビートジャックは一つのジャンルとして多くの名演を生んできた歴史がある。USを中心とした海外のビートをいかに乗りこなすかというそのチャレンジは、たとえばBusta Rhymesの“New York Shit”をジャックしたDABOをはじめとする「Tokyo Shit」ムーブメント、Migosの“Bad and Boujee”をジャックしたMIYACHI、2Pacの“Do For Love”をジャックした¥ellow Bucks、その他にもKOHHやElle Teresa、MuKuRo等数々のラッパーが海外発祥のビートを独自解釈してきた。その系譜に、XGのヒップホップ・ライクなスタンスも位置付けることができるだろう。

とは言え、ディレクションされているラッパーがゆえにヒップホップ史と混合して捉えることに躊躇する向きもあるに違いない。だとするならば、一方でアイドルラップというレンズでXGを解釈してみることも可能である。なぜなら、日本のラップシーンにはアイドルがラップするという側面での確固たるジャンルが存在し、そこでは多くのグループがラップスキルを磨き上げ本物のラッパーに追い付き追い越せと格闘してきた歴史があるからだ。リスナー目線で言い換えるならば「(本物の)ラッパーになる成長過程を応援する」ことであり、たとえばMIRI (RHYMEBERRY)が2016年にリリースした『"hiphop"ト名乗ッテモイイデスカ』という作品のタイトルにも象徴される通りである。その点で、XGは新たなアイドルラップ時代を告げる存在とも言える。彼女たちはラッパーへと成長する過程を見せるのではなく、すでに完成されたラッパーとして現れたのだ。だからこそ、XGはヒップホップにベットした上でチャレンジを見せる。ヒップホップのコアをがっちりと掴みながらもROSALIAのビートを乗りこなし、ゴスの世界観によってヴィジュアルイメージを新たに塗り変える。

今回なエポックメイキングな出来事について、海外メディア『LiFTED』は次のように報じた。

Let’s be honest. There aren’t many great Rap lines on K-pop or J-pop releases. Sure, the songs are catchy and there are some good moves in there, but there always seems to be just something lacking.

(正直に言おう。K-POPやJ-POPのリリースには、素晴らしいラップのラインはあまりない。確かに曲はキャッチーでいい動きもあるのだが、いつも何か物足りないのだ。)

Times are changing.

(時代は変わってきている。)

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