【インタビュー】Elle Teresa 『Sweet My Life』| 自分のやりたいことの第一歩

Elle Teresaがavex移籍後初となるフルアルバム『Sweet My Life』を、7月にリリースした。先行曲"bby girlll"や故Lil Keedをフィーチャーした"Wifey"など11曲を収録した本作はニューヨーク、ロサンゼルス、アトランタ、パリ等、世界各地で制作したもの。特にアトランタでのレコーディングは元々当地から発展していったトラップミュージックに傾倒してきたElle Teresaにとって、大きな経験だったと取材中も述べてくれた。

このインタビューでは本作についてはもちろん、常に憧れの場所だったというアメリカへの思いやElle Teresaのヒップホップ観についても訊くことができた。

取材・構成 : 和田哲郎

撮影 : 寺沢美遊

- まずアルバム『Sweet My Life』が完成した率直な感想を教えて欲しいです。

Elle Teresa - このアルバム自体、全部録り終わったのが3年前なんですよ。この時にしかできなかった書けなかったイージーな感じは気に入ってますね。

- 時間が経っているというのもあって、客観的に見れてる感じなんですね。

Elle Teresa - そうかもしれないです。今、同じことをやれと言われてもできないし、ビートも海外でセッションして作ったものがほとんどだから古さを感じないというか、そこも良いなと思いますね。

- ビートの古さを感じないというのをもう少し具体的にいうと、どの辺りでしょうか?

Elle Teresa - 一緒にやっているPooh BeatzとかGo Grizzlyは、今のメインストリームの最前線で活躍しているプロデューサーで。この間LAでセッションしたプロデューサーが「俺のサウンドは10年後でも古さを感じないから」って言ってたんですけど、Poohとかのビートもそうなんですよ。本物だから、時間が経っても普通に聴ける。

- シンプルで変にトレンド感のないビートですよね。ビートについては聞きたかったんですけど、隙間の多いビートばっかりじゃないですか。

Elle Teresa - 確かに!ラップの隙間も多いし、ははははっ(笑)

- Elleさんは、自然に話すみたいにラップしてますって答えてるインタビュー多いと思うんですが、でもこういう隙間の多いトラックに対して自然にラップするって、すごい難しいんじゃないかなと思うんですよね。

Elle Teresa - え~、そうなのかな。それはあんまり考えたことないですね。でもトレンド感とかは気にしてるようで、意外と気にしてないと思いますね。Elle、めっちゃ日本遅れてるとか、海外に追いつかないといけないって今でも多少は思ってるし、トレンドのスピードもめっちゃ早いじゃないですか、週単位とか。その中でも古さを感じない曲ってあるし、そういう音楽をずっと作りたいなと思ってて、それは今も探してますね。

- ラップについても聞きたいです。ラップを始めた当初ビートジャックをすぐに10曲以上作ったということだったんですが、その時なんですぐにラップができたのでしょう。

Elle Teresa - すごく田舎の街で育って、友達もいなくて、めっちゃ時間はあって。でも、なんかやりたいなってずっと思ってて、その時高校生ラップ選手権が流行ってて、観てたりしてたけど、自分がラッパーになるって思わなかったし、なんか違うなってなってたんですよね。でもKOHHが出てきて、めっちゃいいと思ったんですよ、日本人でこんな感じのラッパーいるんだって。KOHHはあのビジュアルを売りにしてる感じが良かったんですよね。それまでの日本のヒップホップってスキル勝負の世界に見えてたんですけど、KOHHから時代が変わった気がするんですよ。Nicki(Minaj)とかIggy (Azalea)が出てきた時みたいに、日本ではKOHHが出てきた。それでElleも出来ちゃうかもって思ったんですよ。あとElle、歌詞の和訳を見るのがすごい好きだったんですよ。

- なるほど。

Elle Teresa - 英語は喋れないから、何を歌ってるのか気になって和訳を読んだら、Elleが思ってるようなことを言ってるじゃん、同じじゃんって。で、そうやって思ってたらすらすらラップはできて、今振り返ると変だけど、その時はめっちゃ良いって思ってた。今の自分が最高ってのはいつも思ってる。

- いろんなラッパーの方にインタビューするんですけど、和訳を読んでるって人は多くて。

Elle Teresa - ですよね。絶対多いと思う。

- 前にインタビューした和訳を読んでいるというラッパーの方もElleさんのファンと言ってました。

Elle Teresa - え~、嬉しい!スタイルが全然違うラッパーの人にそう言ってもらえるのは続けていて良かったなって思います。Elle、歌詞もチャラいしこんな感じだから、業界の人からはヘイトされることが多くて、そういうこと言ってもらえるのは本当に嬉しい。でも自然にラップができてるのは、生まれた時からこういう性格だったみたいで。子供の時から「Elleちゃんは、これがいい」みたいな感じで喋ってて。もともとラッパーに合ってた性格なのかもしれないです。自分の思ってることとかを表現できてたんです。

- ヒップホップ的なマインドを元々持ってたってことですね。

Elle Teresa - うん、うん。あとうちの両親は元々ダンサーで、BrandyとかTLCとかMichael Jacksonとか聴いて育ってそれが自然だったし、母の伯父と伯母がやってる美容室があって、そこがブレイズとかコーンロウとかを昔からやっていたところで、USのそういう文化が当たり前にある環境で育ったから自然にこうなるって感じ。それはすごい恵まれてたなって思う。

- アメリカのスタジオでも自然にセッションしてるということなんですが、どんな雰囲気なんでしょうか?

Elle Teresa - "Wifey"を録った時は、アトランタに1週間くらいステイしていて、毎日昼から夜までセッションの予定をぎちぎちに詰められてて。そこが6lackのスタジオだったんです。そこでPooh BeatzとGo Grizzlyと、エンジニアとトップライナーと取り巻きもたくさんいて、めっちゃ人いるの。そこでやれって言われるの。やばいじゃん、普通に(笑)。それでビートどれにする?ってどんどん流しながら決めてく感じですね。それで"Wifey"のビート流れて、ヤバいと思ったから「これがいい」って言って、とりあえずライターのLondon Jae(Latto "Big Enegey")がフックのメロディを10分くらいで入れてくれて、じゃあ日本語入れてって言われて。「そんなすぐできないよ」と思いながら、無理矢理書いて、バースもメロディを録って、それを日本語に変えるみたいなのをバーってやった。「めっちゃ良い感じだから」って言われたから、大丈夫なんだって思って、そこからは全然平気でしたね。

- "Wifey"はアルバムの中でも、あまりこれまでのElleさんが使ってない声とフロウだと思ったんですが。

Elle Teresa - 確かに。しゃがれてるっていうか、すごい気に入ってる。今はあのスタイルの方が多いかも知れないです。そのセッションで掴んだ感ある。ElleはYSLとかサウスやアトランタのノリが好きだから、この曲はビートやばい。まーじで。これができた次の日もJetsonMadeとPoohとセッションして、その時にできたのが"I Can't Feel It"で、それもめちゃやばかった。哀愁の頂点って感じで。でもそのビートは売れちゃって、アルバムに入ってるバージョンはPoohが打ち直してくれたものなんですけど。このアルバムはそういう要素ないですけど、Elleは哀愁のあるPolo GとかLil Tjay、HotboiiとかNBA Youngboyとか、そういうラッパーが一番好きだから。NBAとかやば、やばすぎてなんの言葉も出ないって感じ。彼が歌うラブソングとか好きだし、Elleも田舎に住んでるし、そういう音楽が一番合ってるから、こういうラッパーになりたいと思ってた。

- サウス愛がすごく伝わってきますね。

Elle Teresa - サウスが日本でトレンドになっているのもここ数年じゃないですか。でもElleはトラップミュージックがベースでずっとあって、今も毎日ずっと聴いてるし。他の人には全部一緒じゃんって言われることもあるんですけど、Elleからしたら全然違うし、正解のフロウと正解のビートでできてるのがトラップミュージックなんですよね。それって新譜にあんまないんですよ。Elleも中々できないし。トラップのオーソドックスなメロディってあるじゃないですか。それに対してLil Babyとかは全部同じフロウの曲もあるんですけど、なんでこんな違うんだろうって思うんですよね。日本語と英語の違いもあるんだと思うんですけど。日本だとEric(.B.Jr)とか上手いと思う。今のUSのメインストリームとトラップミュージックのノリわかってでできてるのはEricくらいじゃないかな。Elleもまだちゃんとできてない気がするし。楽しい、トラップミュージックについてはずっと話せる。自分の話じゃないけど。

- でも自分もGucci Maneの時代から好きなので、Elleさんのサウス愛はすごい興味深いところだったんですよね。

Elle Teresa - Gucci Maneの新しいやつやばい。『So Icy Gang』。Elle、Foogianoめっちゃ好きなんですよ。なんか、アトランタ行く前にNYでもセッションをしたんですけど、久々のアメリカだったからNYもすごいなってなったんですけど、その後アトランタ行ったら、前のNYとかでの体験が全部偽物だって思ったんですよね。本物とか偽物じゃないかもしれないけど、Elleはこっちだわと思った。NYってブルックリンノリというかちょっといなたノリ。服のサイズ感もタイトでシュッとしてる人はあんまりいない。だからNYのスタイルはElleはあんま合わないって感じました。やっぱりアトランタしかないわって、ほんとに。

- 今回はトラックは違うテイストですが、ラップのフロウにはアトランタに対する想いみたいなのが自然に出ていると思いますね。

Elle Teresa - 嬉しいけど、まだまだいける。

- どのあたりがまだいけるというところなんでしょうか?感覚的なものなのかもしれませんが

Elle Teresa - グルーヴが全然違うなって思うし、でも続ければ絶対そこまでいけるんですよ。だからやるだけって感じ、ほんとに。でも動きとかも全然違うんですよね。Keedともビデオを撮った時にも思った。手の動きも自然に喋ってると出てくる。Elleも手の動き練習してるから、その分だけできるようになるんですよ。でもどこまでいってもElleはアジア人だから、それは変えられないし。Elleのやってることって、ブラックの人からみたらリスペクトがないと見えるかもしれないですよね。Elleは好きでやってるのに、「なんで真似するの?」みたいに思う人もいると思う。アジア人がラップしてること自体が変にも見えるんですよね。普通に悲しいけど、そういう人に認められなきゃアメリカじゃやっていけないじゃないですか。もっと日本語ラップっぽい人とかなら、関係ないと思うんだけど、Elleはあの人たちの文化が好きでラップをやってるから、多分気に入らない人は絶対いるんですよね。アジア人がラップすることってすごい難しいと思うし、海外で売れたい日本のラッパーっていっぱいいるじゃないですか。でもそれは叶う日がくるのかなって思って、どうすればいいかめっちゃ考える。でも、もっとものにすればElleはいけると思う。自分がアジア人だからこそ全然足りてないってことに気づくのにも、これだけ時間がかかったし、マジで難しいことだけどやるしかないんですよね。

- 行ったからこそ気づいた部分もあるんでしょうね。

Elle Teresa - 行ったら、チヤホヤしてくれるんですけどね、可愛いし明るいし。プロデューサーの人もめっちゃ良いじゃんって言ってくれるけど、もっとブイブイ言わせないと。ただちやほやされて帰ってきた奴みたいになっちゃうし、まじ難しいんだよな。

- UKのラッパーもほとんどアメリカで受け入れられてない現状もありますし、ヒップホップという形では一緒だけど、本当に国によって全然カルチャーが違いますよね。

Elle Teresa - 全然違いますね。Elle、アメリカすごい住みたいと思ってたし、どんだけ受けるんだろうと思って。セッションする時に、「お前の曲聴かせて?」って言われるんですよ。ただ日本で作った曲で通用しない曲ってあるんですよ。多分、日本語ラップの曲は大体通用しない。サウンドが古いし、ベースの置き方もダサいし。日本はでもダサい方が売れるんですよ。本当にUSのヒップホップ聴いてる人なんて、100人に1人くらいかもっと少ないと思うし。あとEllleの基準で言って、ダサい人の方が多いから。もっとイケてる人ばっかりだったら、違う世界になってるもん。今頑張らないと、そのうちUSから遅れたちょっとダサい集団ってなっちゃう。でも別にディスってるわけじゃなくて、日本でもサウンドの水準を上げるしかない。日本のヒップホップは楽しみだけど、どうなるか不安。

- ElleさんがTohjiさんと交流があるのが少し不思議だったんですが、そういう日本の音楽もっとアップデートしなきゃっていう意識が共通してあるんですかね。

Elle Teresa - 思うところは一緒なんだと思う。全然スタイルは違うけど。UKノリあんまりわからないんだよな。日本はUKの方が合ってますよね、ファッションとかも。アトランタみたいな人、まーじでいない。

- アメリカのフェスとかにも出演したいですか?

Elle Teresa - Rolling Loudとか出たいけど、誰かのおまけとかアジア人枠みたいなのも嫌なの。だから、すごい難しい。ほんと、どうしよう。アメリカで売れるのはフィーチャリングが大事みたいなんだけど、お金もかかるし中々できない。

- でも今作でLil Keedと一曲作れたと言うのはElleさんにとって、どう言う意味がありますか。

最新MV "Wifey  (Feat. Lil Keed)"

Elle Teresa - ありえないとElleも思ってるし、みんなありえないと思ってるはず。Elle、日本のヒップホップ業界に認められてないと思うし。だから、そんなラッパーがKeedとできるなんて、え、なんでってなってると思う。自分がずっと聴いてた人と一緒に曲ができる日がくるなんて思わないじゃないですか。だから今でも信じられないし、これからラップを続けるにあたってElleにとっては大きいこと。でも亡くなっちゃったから、夢だったのかなって思う。ただKeedと曲をやっても、KeedのファンはKeedがやってるから聴くだけだから、再生回数が伸びたとしても嬉しくはないから、自分自身をもっと見てもらえるように頑張らないと。

- "Wifey"をいいなと思ったのは、特に日本っぽいテーマとかではなく、2人とも自然にそれぞれのスタイルでラップをしてるところで。

Elle Teresa - 嬉しい、ありがとうございます。あの曲ビートがやばいからな。日本のファンの子達がいいと思ってくれたらいいんですけどね。それはマジでそう思う。

- 沼津に拠点を移したのは去年とかですか?

Elle Teresa - いや、コロナ前に彼氏と別れて沼津に戻ってきたので、もうちょっと経ってますね。

- 沼津は曲作りの環境としてはいかがですか?

Elle Teresa - ずっと自分に向き合える感じ。ほぼ友達とも遊ばないし。一時期からあんまり意味ないなと思ったんですよね。今までいっぱい遊んできたし、この先も同じことするのは無駄だなみたいな。Elleはみんなライバルだと思っていて、仲が良くても絶対負けたくないと思ってるし、遊んでたらいけるところまで行けないなって本当に思ったんですよ。遊ぶのは売れてからにすればいいし、それまでは自分がこの状況から抜け出したなって思うまでは必要ないと思ったんです。Keedとの曲はかなったけど、やっぱり一緒にやると全然ダメだって思ったんですよ。ICE(=ジュエリーのこと)とかすごいし、Elleいつつけられるんってなったし。Elleがやり始めた時より、今の日本語ラップしてる子は売れやすいと思うんですよ。大人も手を差し伸べてくれるし。でも本当に売れてる人ってめっちゃ努力してるから。2 ChainzとかPeeWee Longwayとかの話をみたり、一緒にセッションしてるビートメイカーも「10年間、誰とも遊ばないでずっと音楽をやってきて、やっとここまで来れたから諦めなくて良かった」って言ってて。運とか才能でそこまでいける人もいるかもしれないけど、相当気合入ってないと10年続けるのは難しいんですよね。10年続けて出た結果よりも、その10年間のプロセスの方が大事だと思うんですよね。Elleもそこまでいきたいって思った。

- 2 Chainzもすごい遅咲きですもんね。

Elle Teresa - そう。普通にアメリカ人でもそう思うってことは、Elleなんてもっと頑張らないとって。これからラップ始める人は華やかな世界に見えるかもしれないけど、甘い気持ちでいたらマジで無理だと思う。

- Elleさんにとってラップってなんでそこまで魅力的なんですか?

Elle Teresa - なんでだろう。作品が完成するとElleって世の中にこんな作品を残せるんだって毎回思うんですよ。その瞬間が嬉しいから。絶対誰もこんなの作れないでしょって思うし、新しいものを自分で作れたってのはめっちゃ楽しい。あとはUSが好きだからな、Elleは。こうなりたいってずっと思っていたから。

- 今作でどういうElleさんを知って欲しいですか?

Elle Teresa - ヒップホップの可能性かな。広くいけるっていうか。ヒップホップの中にもいろんなジャンルがあるじゃないですか、その中でポップアイコンみたいな位置を確立させたい。歌ってて、隙間も空いてて、でも808がブンブン鳴ってるみたいな人、いないじゃないですか。

- 最後にElleさんにとって可愛いって今はどういう意味がありますか?

Elle Teresa - 日本のいわゆる可愛い文化って、見せ物な気がしてダサいなって思ってて。そんなのなくないと思って。それ以上のものがないからずっと言われてるけど、そこもちゃんと確立したい。ヒップホップがまだメインストリームで認められてないってことだから。Elleはアメリカのヒップホップをもっと自分の中で噛み砕いて、みんなにもっと自分の表現として発信していきたいんですよね。だから、まだ足りてないんだと思う。でもこのアルバムはちょっと自分がやりたいことができた一歩になったかなと思う。

Info

『Sweet My Life』配信中!

https://avex.lnk.to/SweetMyLife

【Elle Teresa“Sweet My Life Japan Tour”】開催中

2022年8月14日(日)大阪MadamWoo

2022年8月26日(金)名古屋ORCA

2022年9月3日(土)神戸ANCHOR

2022年9月4日(日)京都KITSUNE

2022年9月17日(土)岩手SICKth

2022年9月19日(月・祝)茨城GOLD

2022年9月30日(金)仙台ART NIGHT CLUB

2022年10月15日(土)福岡Voodoo

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