【メールインタビュー】Rostam『Changephobia Remixes』| 14歳からプロデューサーになりたいと思っていた

インディーシーンの最重要バンドの一つVampire Weekendの創設メンバーでもあり、現在はソロアーティスト、プロデューサーとして活躍するRostam。Frank OceanやSolange、Haim、Charli XCXなどジャンルを超えて活躍する彼が、今年リリースした『Changephobia』のリミックスEP『Changephobia Remixes』をリリースした。

A.G. CookやBilly Lemos、AK Paulが参加したPart 1、日本からはROTH BART BARONが参加したPart 2という2編に分かれたEPについてや、これまでプロデューサーとして携わってきたアーティストとのエピソードなどをメールインタビューで訊いた。

質問作成 : 山本輝洋, 和田哲郎

- 今回のリミックスに参加しているアーティストの、あなたから見た魅力を教えてください。また、それぞれのアーティストとはどのようなやりとりがあったのでしょうか?

Rostam - かなり多様性にあふれたアーティストを集められたと思うよ。アメリカだけではなく、イギリスやオーストラリア、日本を拠点にしたアーティストもいるし、世界の至る所を代表する音楽家を集められてよかった。
データを送りあってやりとりをすることが多かったんだけど、いくつかのリミックスはとてもパーソナルなやりとりもあって、例えばA.G. Cookはパーティーで出会って、“Kinney”がすごく好きだって言ってくれたんだ。だから彼にステムデータを送って、これで好きなようになんでもしていいよってお願いしたんだけど、彼は別のパーティーでまた顔を合わせるまで何もそれについて言ってこなかったんだ。実はそれは彼のバースデーパーティーだったんだけど、彼がBBCのラジオ番組に特別にミックスを作ったって話をしてきたから、僕の曲も完成させてよって言ったんだよ(笑)そしたら彼が僕の家に来てくれて、一緒に最終的な仕上げの作業をしたんだ。Ben Bohmerは彼の方からリミックスをしたいってマネジメントに連絡をくれたな。彼の音楽を聴いたことはなかったんけど、彼が曲をもっとダンス寄りにしてくれたらいいなって思った。
アーティストの選出については、僕が単純にファンだったって理由が多くて、例えばAK Paulの音楽は最高だし、彼の“Landcruisin'”って曲が大好き。

- 唯一日本から参加しているROTH BART BARONとの出会いはどんなものだったんでしょうか?

Rostam - パンデミック時代のクラシックな出会い方だと思うんだけど、Zoomで初めて会って、お互いにリミックスを交換しあうっていうアイデアを話し合ったんだ。まずそのアイデアを話し合って、そのあとファイルを送りあった感じかな。残念ながらまだ実際に会ったことはないんだよ。

- 収録されている全て素晴らしい仕上がりですが、特に気に入っているものはありますか?もしあれば、どのような部分がお気に入りですか?

Rostam - 一つに絞るのは難しいな…けどROTH BART BARONの“Kinney”は個人的にすごく好きだよ。正直言って、彼らが作ってくれたものやヴォーカルを更に加えたアレンジは僕の期待以上のものだったんだ。

- あなたは幅広いジャンルの音楽に造詣が深く、今回のリミックスアルバムの人選や、R&Bやエレクトロニックからギターポップまで様々なエッセンスを内包した『Changephobia』の内容にもそれが表れていると思います。そんな中で、最近お気に入りのアーティストや新たによく聴くようになったジャンルなどはありますか?

Rostam - 最近は…Christine and the QueensのEPが好きだな。数年前に出たものなんだけど、アルバム一枚を通して聞くと素晴らしいんだ。一緒に旅に出るような経験ができる作品に出会えることはありがたいよね。彼女はそのEPにあわせた映像作品も作っているんだけど、楽曲を表現する方法としてすごくクールだよね。こうやって話してて思ったんだけど、次は僕も5曲くらいのEPを作って、全曲映像作品も作ってみようかな(笑)。

- あなたは以前Charli XCXの楽曲に参加していましたが、今作にも彼女の楽曲のプロデュースを手がけるA.G. Cookが参加しているほか、同じく彼女のリミックスを手がけたJapanese Wallpaperが参加しています。Charli XCXやA.G. Cookは近年いわゆる「Hyperpop」の担い手としても注目を集めましたが、「Hyperpop」についてRostamさんはどのようにお考えですか?

Rostam - 僕は好きだよ。偶然なんだけど、僕がDiscoveryってプロジェクトで2009年に作っていた楽曲はHyperpopのサウンドや理論につながっている部分があるんだ。A.G. Cookと一緒に仕事ができたことや、彼の“Kinney”のリミックスがHyperpopのプレイリストに入っているのがすごくクールだと思う。こういったつながりを通して僕の音楽を聴いたことがない人が、僕の音楽に興味を持ってくれたらいいなって思うけど、どうだろうね。

- リミックスアルバムには他のアーティストが手がけたものの他に“Bio18”の「Tabla Version」が収録されていますが、このバージョンを制作した経緯は?また、タブラという楽器のRostamさんにとっての魅力を教えてください。

Rostam - なんというか…...僕の楽曲はどれもタブラが入っていてもおかしくないと思うんだ。けど“Bio18”は僕のファンが好きな曲だって知っているし…僕のお母さんのお気に入りの曲だし(笑)、2ndアルバムと1stアルバムの世界観につなげたかったからそのバージョンは作ったんだ。タブラはトーンのクオリティもリズムのクオリティも担保してくれる貴重な存在だよね。

- そのほかにあなたが好きな楽器はなんでしょうか?

Rostam - 僕はいつもピアノからインスピレーションを受けることが多いんだけど、最近だとブリッジをラバーに変えたギターにハマっているんだ。そうすることによってサステインがぐっと短くなるんだよね。新しい楽器からインスピレーションを受けると、どんどん曲を作りたくなる。みんなが僕と楽器のような関係を楽器と築いているかはわからないけど、僕が楽器が好きな理由がそこなんだよね。いつも楽器を鳴らすときは、何か新しいものを作ることを意識しているよ。

- あなたはソロのアーティストとしてもプロデューサーとしても広く活動されています。初期にはDas Racistなども手がけていますがプロデューサーとして活動するきっかけはなんだったのでしょうか?

Rostam - 14歳の頃からプロデューサーになりたいと思っていた。レコーディングの仕方や、音の重ね方、僕が好きな楽曲がどうやって完成されているのか知ったときにはもうプロデューサーになることを考えていたよ。ギターを習っていた先生がいて、彼によく楽器の演奏の仕方を聞いていたんだけど、例えばニルヴァ―ナとか、僕が音楽のなかで好きだったのは、ただギターの音とかだけではなくて、ギターがドラムやベースと一緒に鳴っているってことだった。楽器のコンビネーションに興奮していたんだ。そういう点では、プロデューサーでいることは、コンポーザーであることと一緒だと思っているよ。コロンビア大学でクラシック音楽、特にオーケストレーションやコンポジションを学んでいたんだけど、それと並行してバンドのレコーディングもしていた。学校で学んだ知識をバンドのレコーディングに取り入れていたのを覚えているよ。
多分2011年か2012年に、誰かにあるセッションでキーボードを弾いてくれって頼まれたことがあったんだけど、僕はあんまりそういうことはしてないんだよねって答えた。またニルヴァーナに戻るけど、彼らの音楽はすべての楽器が一緒に鳴っているから好き。すべての楽器が一緒に鳴っていることが重要な僕からすると、ただ一つのことだけをするのって難しいんだよ。ただ一つの楽器を演奏することが使命の役はできないんだ。

- ジャンルの幅もバンド、ヒップホップ/R&B、SSWと幅広いですが、こうした幅広いアーティストと活動する上で大事にしている点はどのようなものでしょうか?

Rostam - 物語を伝えるってことかな。物語というのは歌詞だけではなく、音楽でも伝えることができるから。

- 我々のメディアは特にヒップホップやR&Bにフォーカスしているので、SolangeやFrank Oceanとの仕事にはとても興味があります。この2作であなたが引き受けた役割はどういったものだったのでしょうか?

Rostam - Solangeは僕のスタジオに来て、もうすでに他のプロデューサーと取り掛かっていたホーンが入ったセッションを聞かせてくれたんだ。彼女自身がプロデューサーでもあるからね。僕のところで一緒に作業をしているときに、そのホーンを聞いたらカットアップされたような繰り返しのあるリズムに気づいて、Pro Toolsでそのオーガニックなホーンのサウンドを抜き取ってからサンプリングのようにその部分を繰り返してみた。そうすることで僕が最初に聞き取ったリズムを強調したんだ。Frankの場合も同じようなことなんだけど、彼が“Ivy”という曲を持ってきたときにはもう僕のなかではその楽曲がどんなものになるかのヴィジョンがあった。彼のボーカルパート以外がどんなものになるかがね。かなり瞬発的にアイデアを思いついたから、彼と一緒にギターやベースを録るのには10分とか15分くらいしかかからなかったんだけど、それを彼も気に入ってくれたんだ。そのあともいくつか他のアイデアを一緒に試したけど、結局アルバムで使われたギターのアレンジメントはその日に録ったものなんだよ。Frankは僕のスタジオに何度も遊びにきてくれていて、そのとき作っている曲を聞かせてくれるんだ。『Blonde』に収録されているほとんどの曲が、どうやって発展してしていったかを見ることができたよ。

- 今、プロデューサーとして仕事をしてみたいアーティストは誰になりますでしょうか

Rostam - この質問はよく聞かれるんだけど、一緒に仕事をしてみたいのはKate Bush。彼女は自分でプロデュースもしているけど、何事にも恐れがないし、オーガニックな要素をシンセ的な要素とうまく混ぜているところが大好き。“Cloudbusting”っていう曲では本物のストリングスとサンプリングしたストリングスを混ぜていて、実際に聴いてみるとどちらが本物かわからないんだ。それはプロデューサーとして到達してみたいことだし、彼女のように可能性をどんどん広げていきたいと思っているよ。

- あなたは現在LAを拠点に活動されていますが、COVID-19のパンデミックを経てご自身の周囲の環境や、LAという街にも大きな変化があったと思います。現在の生活はどのようなものでしょうか?また、パンデミックがあなたの作品に与えた影響を改めて振り返るとどのようなものでしょうか?

Rostam - 約2年間自分のアルバムに取り掛かっていたけど、同時にClairoやHaimとも一緒に仕事をしていたから、彼女たちのアルバムを仕上げてからやっと自分の作品も完成させなきゃって気持ちになって、その76%くらい出来上がっていたアルバムに本腰を入れて取り組み始めたんだ。だから、ある意味では僕にとって一人でいられたのはよかったよ。
今の生活はまだ普通に戻ったとは言えないよね。もっと旅もしたいし…できないわけじゃないけど、今は難しいでしょ。けど日常生活という意味ではLAは普通の状態にかなり近くなっているかもね。

- 今なにか取り組んでいるプロジェクトはあるのでしょうか?

Rostam - 常になにかしらは作っているよ。今はCarly Rae Jepsenのアルバムを一緒に作っているところ。

- “4Runner”は日本の代官山でたまたま耳にした楽曲をご自身で再現して作った楽曲だと伺いました。まだ海外に気軽に行ける状況にはなっていませんが、次日本に来たら行きたい場所などはありますか? 

Rostam - そうなんだよ、代官山で聞いた曲が頭から離れなかったんだけど全然見つけられなかったから、聞いた記憶を頼りに作ったんだ。だから実際には“4Runner”が僕が記憶している曲なのかはわからないけど…...少なくとも僕のなかではそれが再現できていると思ってる。まだその曲がなんだったのか見つけられてないんだよね…...。原宿、渋谷、代官山には日本に行くたびに絶対行く場所がいくつかあるんだ。表参道にある「crisscross」っていうパン屋さんが大好きで、両親を初めて日本に連れていったときにも一緒に行ったよ。

Info

Rostam (ロスタム)
Changephobia [Special Edition]
ボーナストラック6曲収録
2021.12.1 Release
SPACE SHOWER MUSIC
PECF-1188
定価 : ¥2,530 (税抜価格 : ¥2,300)

<Track List>

01. These Kids We Knew
02. From The Back of a Cab
03. Unfold You
04. 4Runner
05. Changephobia
06. Kinney
07. Bio18
08. [interlude]
09. To Communicate
10. Next Thing
11. Starlight

[Bonus track]

Train in Vain
Fruits of my Labor
Kinney (ROTH BART BARON Remix)
4Runner (Backyard version)
These Kids We Knew (Japanese Wallpaper Remix)
From The Back of a Cab (Billy Lemos remix)

https://ssm.lnk.to/C_EE

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