【ライブレポート】STUTS『90 Degrees LIVE at USEN STUDIO COAST』|セッションとマイクリレーのオンパレードで夜を使いはたす

STUTSが10月27日に東京・USEN STUDIO COASTにてワンマンライブ『90 Degrees LIVE at USEN STUDIO COAST』を開催した。会場チケットは早々に完売。スペースシャワーによる配信サービスLIVEWIREの生配信からも多くのファンが見守った。Twitterでは「楽しみ!」といったコメントが多数投稿され、オンラインとオフライン双方で開演前ならではワクワク感を醸造していった。

場内照明が落ちると、緞帳が開いてSTUTSとバンドメンバーが舞台に登場。中央のSTUTSのブースにはMPCやムーグシンセなどさまざまな機材が狭しと配置され、さながら宇宙船のコックピットのよう。バンドメンバーは岩見継吾(B)、吉良創太(D)、武嶋聡(Sax, Flute)、TAIHEI(Key)、仰木亮彦(G)というおなじみのメンツ。STUTSを囲むように扇型に舞台が組まれ、後方に位置する吉良、武嶋、TAIHEIは高い場所に。全員のプレイをしっかりと見ることができた。

Photo by Tatsuya Hirota

薄暗いブルーのライトの中でサックスのリードからバンドがムーディーな“Intro”を奏でる。そのまま心地よいピアノリフの“Conflicted”へ。STUTSがMPCで叩くハイコンテクストなビートに、バンドのダイレクトな音が絡み合うと、ポップで多面的なSTUTSミュージックへと変わっていく。“Conflicted”の演奏を終えると「本日はお越しいただきありがとうございます。1年ぶりくらいのワンマンで。ほんとにすごく嬉しいです。みなさん(すでに)やってらっしゃいますけど、(新型コロナウイルス感染症予防のため)声は出さないような感じで、拍手でお願いできたら。最後までお願いします」と笑顔で話した。

photo by Tatsuya Hirota

3曲目の“Ride”では早くも最初のゲストラッパー、仙人掌が登場。「Yo!!! STUTS on the beat!!!! 仙人掌 in da house!!!! Yo!!!!!」とヒップホップマナーの合いの手でライブのテンションを一気に上昇させる。そこに“Mirrors”の馬鹿でかいキックが打ち込まれる。はらわたに響く深さだった。2人目のゲスト、Daichi Yamamotoはヒップホップとレゲエのフロウを巧みに使い分けるスタイルで、クールなダンスナンバーを歌う。その流れからDaichiのアルバム『WHITECUBE』に収録された共演曲“Cage Birds”に。この多幸感あふれるブラジリアンハウスは、Daichiがヴォーカルとしてヴァースを歌い、STUTSがフックでラップを担当する。観客もハンズアップでレスポンスした。

photo by Tatsuya Hirota
photo by Tatsuya Hirota

STUTS自身もすでに観客との一体感を感じているようで、MCでは「のっけからこんなに汗かくと思わなくて。やっぱ照明とか暑いんだね……」とみんなを笑わせる。「コーストは思い出深い場所で。2014年に『Booked!』というイベントに出たんですけど、そこで今もお世話になってるSPACE SHOWER MUSICのA&Rの方や、(過去に共作した)Alfred Beach Sandal(北里彰久)さんとも初めてお会いして。(自分にとって)割と転換点というか、(活動の)キーとなる場所というか。でもコーストのメインステージに立つのは今日が初めてなんです。いつかやりたいと思ってたから、無くなる前にワンマンでメインステージに立てたのがすごいめちゃくちゃ嬉しいです」と意外なエピソードを話してくれた。

photo by Tatsuya Hirota

懐かしい話が出たところでシークレットゲストの鈴木真海子とSIKK-Oが出てきて“Summer Situation”をバンドアレンジでプレイ。STUTS、SIKK-O、鈴木真海子が揃うのはかなり久しぶりなんだとか。2人と郷愁に浸りつつ“0℃の日曜日”も。太いヒップホップのビートに、柔らかいメロディーの歌とラップを乗せるのは『Pushin’』前後の頃に傾倒していたスタイル。その後を変遷を思うと見てるこちらも懐かしさを感じてしまう。夏の曲、冬の曲を2人とパフォーマンスした後、STUTSは“Seasons Pass”でMPCの弾き語り(叩き語り?)で歌とラップを披露。新しいチャレンジに取り組み続けるところがSTUTSらしい。

photo by Tatsuya Hirota

バンドでリアレンジした初期の楽曲“5th Dimensional Trip”でSTUTSは最初のパートだけMPCを叩いてメインステージをあとにする。インターミッション的な時間帯かと思いきや、より客席に近い舞台下手側のサブステージに移動して再びMPCを叩いて演奏に加わった。曰く「せっかくコーストでめちゃくちゃ広く使わせてもらえるので、マネージャーさんとなにか面白いことはできないかと相談してサブステージ的なところに(移動しました)。見えないかもしれないんですけど、これMPC 1000って言って。高一くらいの頃からずっと使ってた機材で。あっち(メインステージ)にあるのはMPC LIVE。今回はさっき話したような2014年くらいにやってたルーティンっぽいことしたくて久しぶりに引っ張り出してきました」とのこと。

photo by Tatsuya Hirota

そこからMPCとサンプラーだけで“Pushin’”、“Poolside”とジャズヒップホップのバイブスを感じさせる懐かしのSTUTS Beatsタイムに突入。バンドとのユニゾンとは違うダイナミクスで観客を躍らせる。このサブステージでのプレイ中、場内はageHaとSTUDIO COASTの代名詞とも言える吊り下げ型の照明群がグッと降ろされた。オンラインで見ていたファンが「ミラーボール近い!」と指摘していたように、一気に場内はダンスフロアの雰囲気になる。

photo by Tatsuya Hirota
photo by Tatsuya Hirota

すると2階のラウンジスペースにシークレットゲストのBIMが現れた。2人の楽しげな小芝居を挟んで、BIMのアルバム『Boston Bag』から“想定内”と披露する。BIMが盛り上げまくったあと、STUTSは再び自身の1stアルバムから“Treasure Box”、そして“Renaissance Beat”という懐かしすぎる楽曲へと続ける。しかも“Renaissance Beat”の後半はバンドアレンジに。そこでSTUTSはメインステージに戻ってくる。過去から現在への繋がりをステージ演出と楽曲アレンジで表現した。

ピアノとサックスを中心に、MPCとバンド演奏のセッション感がある新曲から、ペトロールズの名曲“アンバー”のカバーに。ゲストはKID FRESINO。演奏が始まってからステージに入ってきて、がっつりとラップをかますと爽やかな笑顔とともに風のように去っていった。さらにムーグシンセをフィーチャーした現代のソウルジャズ・“Never Been”、夏の高揚と寂しさを同時に表現した“マジックアワー”ではBIMが再び登場。旺盛なサービス精神で、ライブをさらに楽しく盛り上げ、圧巻のエンターテイナーぶりを見せつけた。

photo by Tatsuya Hirota

ライブはここからクライマックスへ。JJJが登場して、Friday Night Plansとともに制作した“PRISM”をバンドアレンジで聞かせる。ギターやフルートの生演奏が、オリジナルの都会的な雰囲気をアップデートさせた。そしてSTUTS、JJJ2人の代表曲と言っても過言ではない名曲“Changes”に。観客は一斉にスマホを構える。何度聴いても色あせない。今回は間奏にサックスソロも加わり、よりドラマチックにアレンジされていた。

photo by Tatsuya Hirota

STUTSは“Eternity”で改めてバンドメンバー紹介。テクニックはもちろん、安定した演奏力に抜群のグルーヴ感覚などなど、高すぎるスキルを持ったいぶし銀のプレイヤーたちに大きな拍手が送られた。その後、オフラインもオンラインも、みんなが待ち望んでいたあの曲のイントロが。暗い話題が多い今年の日本に感動と楽しい驚きを届けた“Presence”。今回はNENEが登場。衣装はイエローとパープルのチェックスーツに異常なほど高いピンヒール。今日もイケにイケまくっているスタイルでみんなを魅了した。

photo by Tatsuya Hirota

最後はPUNPEEを迎えての“夜を使いはたして”。イントロ前のSEに乗せてPUNPEEによるフリースタイルのナレーションが入る。「初めてライブをやったのは15年前。渋谷のNO STYLE。STUTS &わたくし。そのたもろもろ。その時はお客さんたったの20人か5人か15人かそこら。今周りを見渡せばこんなにたくさんのお客さん。STUDIO COAST。新木場。楽しんでいきましょう」。この曲も2人にとっての代表曲。エモーションが高まる2ヴァース目はバンドでリアレンジ。PUNPEEも大サビ前のリリック「夜を使い果たそう/太極拳の爺がむくり起きるその前に」を「夜を使い果たそう/新木場コーストが更地になるその前に」に代えてラップした。また最後にも「元は更地。楽しい思い出作れたこのスペースに感謝を。This is PUNPEEとSTUTS。まだまだ使いはたしていきましょう」とSTUDIO COASTにリスペクトを捧げた。

photo by Tatsuya Hirota

メンバーは去ったが拍手は鳴り止まない。もちろんアンコール。STUTSが再びメインステージのブースに戻ってきた。そして「先ほど発表されたんですが、“Presence”がドラマアワード(東京ドラマアウォード2021)の主題歌賞をいただいたそうで。本当にありがとうございます」と嬉しい報告をしてくれた。そしたらもちろん、演奏するのは“Presence”。STUTS & 松たか子 with 3exes 名義のアルバム『Presence』に収録された“Presence Remix”をDaichi、BIM、NENE、KID FRESINOでマイクリレーする激レアなスペシャルパフォーマンスを見せてくれた。

photo by Teppei Kishida

STUTSにとって最初で最後のUSEN STUDIO COASTのワンマンライブ。記念すべき夜の最後を飾るのは未発表の新曲。ラッパーとしてtofubeatsが登場し、後半にはSTUTSがラップを披露した。“夜を使いはたして”、“PRISM”、“Presence”などに続く、彼の新しい代表曲になりそうな予感がビンビンする。

photo by Teppei Kishida
photo by Tatsuya Hirota

すべての曲をパフォーマンスし終えたSTUTSは「最後まで楽しんでくれてありがとうございました。本当に嬉しいです。またどこかでお会いできるよう楽しみにしています。お気をつけて帰ってください。ありがとうございます。STUTSでした!」と満面の笑顔で挨拶して、最高の夜を使いはたした。

LIVEWIREでは11月7日(日) 23:59まで見逃し配信中。いち早く音源を聴きたい人はこちらもチェックしてみては。(宮崎敬太)

Info

LIVEWIRE STUTS “90 Degrees”

https://livewire.jp/p/stuts211027

RELATED

GapのホリデーキャンペーンでSTUTS、鈴木真海子、SIKK-Oが7年ぶりのコラボレーション

Gapのホリデーキャンペーン「Give your gift.」にて、STUTS、鈴木真海子、SIKK-Oによるコラボが7年ぶりに実現した。

Jordan RakeiとSTUTSによるコラボ曲"Celebrate"がリリース

マルチ奏者/シンガー・ソングライター/プロデューサーで、現代のUKシーンを代表するアーティストの1人Jordan Rakeiが、STUTSとのコラボ曲"Celebrate"を本日11/8(金)にリリースした。

STUTS × ⼤貫妙⼦ × 江﨑⽂武による"いい湯だな"のカバーがリリース

そんなSTUTS × ⼤貫妙⼦ × 江﨑⽂武で作り出した"いい湯だな"のカバー楽曲2曲が明日10/23(水)にリリースされる。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。