【インタビュー】G.RINA 『Tolerance』 | 自分も他者も受け入れること

G.RINAが6月にソロアルバム『Tolerance』をリリースした。ZEN-LA-ROCK、鎮座DOPENESSとのユニットFNCYでの精力的な活動と並行して、制作が進められた4年ぶりのアルバム。G.RINAがこれまで触れてきた様々な音楽を、自分の中の距離感で解釈した、懐の広いしかし極私的なサウンドに、多彩なゲストを交えて作られた本作は、タイトルが意味する「寛容であること」を地でいく内容となっている。

柔らかい手つきだが、しっかりとリスナーの背中を押してくれる作品について話を訊いた。

取材・構成 : 和田哲郎

アルバムビジュアル撮影 : KEITA SUZUKI

MV OFF SHOT 撮影 : Kenji Nakashima

- さっき外で聴いていたんですが、開放感のあるアルバムだなと感じました。でも少し前に部屋で仕事をしながら聴いたら内省的にも聴こえて。2つの魅力を持った作品だと思ったんですよね。

G.RINA - そうですね。外か内かでいったら、リリックは内面の度合いが強いと思うので、その分サウンドは広がりを出すようにしました。

コロナになる前からですけど、なんとなく社会から窮屈さっていうか、大らかさが足りないな?とか感じたりしていて。他者をジャッジしちゃう時って、まず自分のことを許せてないっていうことがあったりするから。そういう辛さを抱えている人が多いってことかもしれないんだけど、それはなぜなんだ?って。

私は1stアルバムでも"Self-Judgement"(『サーカスの娘』収録)って曲を歌ってるんですけど、どうしてそういう気持ちになるのかなって考えたりしてて。さらに今は子どもを育ててもいるので、特に大らかでいることについて、より考えるんですよ。タイトルの言葉『Tolerance』に繋がるいろんな局面が曲になってるかなと思います。

- 自分で自分を許せなかったということも、やはりあったりしたんでしょうか?

G.RINA - いきなり、そういうディープなところをいくんですね(苦笑)

- すみません(笑)

G.RINA - 結構許せるようになったんじゃないかな・・・。別の角度から話すと、いま私はFNCYというヒップホップグループをやっていて、ヒップホップは自分の出発点でもあったんですが、当時はそのままそれをやるっていう風にはならなかったんですね。好きだからこそ、そのままじゃいけない気がして、自分なりに影響をどう昇華するかって考えているうちに、直接的にわかりやすい表現からはどんどん離れていったし、むしろ雑食性がヒップホップだって感じたりしていた。人それぞれだと思うんですけど、わたしはそうだったんですね。

で、いろんなことをやってきて自然とやっぱりヒップホップに戻ってきたりして。近い感覚の仲間がいて泣いたり笑ったりということを体験している。今やることに自分なりの意味があって、それもちょっと許された気持ちと繋がるのかもしれない。

あとね、こんなタイミングでグループとか、改めてフレッシュな体験をさせてもらって、ソロとはまた違う学ぶことがいっぱいあるんです。だから、もし年齢とか気にしている人がいたら、何か自分のやりたいと思ったことはやりたいと思った時に挑戦してみてほしいな、って思うんですよ。

どんな時点でもその時なりに気づけることがあったりするから、もしやってみたいことがあったら、年齢や性別とかじゃなくて、自分の内側の好奇心とか体力とかタイミングで判断すればいいんじゃないかなって。それで自分が好きなことやって、他の人の挑戦にも大らかでいられたらいいじゃないですか。

- 最後に収録された"新陳代謝"でもまさにそういう歌詞がありますよね。いつ頃からそう思えるようになったのでしょうか?

G.RINA - どうなんだろう、活動が長くなってきたというのもありますよね。続けている人も少なくなっていくし、そもそも女性が少なかったり、そこで活動を続けていられることに感謝もありますし。FNCYは、ボーナスみたいなものですよ。

とはいっても、グループって一人じゃないから、それだからこそ起こる様々なことに対して、いろんなリアクション、話し合いがあったり、異なる考え方を知ったり。大人だからこその付き合い方だけれど、受け入れたり、受け入れてもらったりってことがあるわけで。『Tolerance』はそういう体験からもきています。他者とどう繋がっていけるのか、グループ活動で感じたことは大きかったですね。

- 今作は一見抽象的なテーマがG.RINAさんの個人的な感情や体験に落とし込まれていることが、すごい良いなと思ったんですよね。しかもサウンドもそれに寄り添ったものになっている。

G.RINA - 歌詞の塩梅はとても悩みました。曲を聴いた人が救いになるような、何かがあったらいいなと思いつつも、絵に描いたような事や理想ばかりじゃなくて、自分の体験から地続きじゃないと面白くないので。

- 最初からかなり聞いてしまいましたが、少し話を戻して実際の制作期間はどのくらいだったのでしょうか?

G.RINA - コロナになってライブが全部なくなってから、FNCYも並行してアルバムを作っていたんですけど、去年の今頃から一回自主でシングルを出して、そのままソロを作ろうかなと思ったんですよね。

- かなりタイトなスケジュールですよね。

G.RINA - 制作をしているときはすごい時間かかったし絶対終わらないと思っていたんです。いま自分が作る音楽はこれで良いのかとか、歌詞やミックス、試作を繰り返しましたし。作っている時は精神が不安定にもなりました。今は達成感もあるけど、出来た当初は虚脱状態というか。

特に時間がかかったのは"カーディガン”かな。前作はアーバンミュージックの様式美にどう向き合うかというのがあったんですけど、"カーディガン"はR&Bの歌詞の王道、具体的に描くことで滑稽さが出るような失恋の情景を描きたくて。ユーモアと受け取るかどうかは聴いてくれた人次第なんですが、寄りで見ると辛い状況も、切り取る角度次第で可笑しみが出せたらなって。

- なるほど。サウンドの様式美は今回はあまり考えてないという話もありましたが、G.RINAさんはモダンなアフロビート、特にAlteなどの影響は感じられました。

G.RINA - そうですね。特にSanti (※現在はCruel Santino名義で活動)やOdunsi (The Engine)。FNMNLでokadadaくんが書いてた記事も良くて、okadadaくんがAlteについて書きつつ、「そして、自分は」みたいなところに戻るじゃない?その視点にはすごい共感しちゃいましたね。SantiやOdunsiはアフロビートのアーティストの中でもちょっと特別だと思うんですよ。例えばアメリカの音楽やジャマイカの音楽がすごい好きで、じゃあ自分の国でどう表現をするかって時に、なるべく好きなものに忠実にやるか、一捻りするか、その2組は一捻りする数少ないアーティストだと思うんですよ。そういうところに共感してしまうし、そのジャンルのどこをエッセンスだと感じているのか、拡張したり切り落としたりして自分の音楽を作っているかというのを見ちゃいますね。でも最高なのにあんまり聴かれてない(苦笑)

- G.RINAさんもUKのベースミュージックやヒップホップとの距離感の取り方は、いつも絶妙だと思っていたので、今回のアフロビートの取り入れ方も、ただそのジャンルに寄せるのではない形だったので素晴らしいなと思いました。

G.RINA - そう聴いてくれてたら嬉しいです。サウンドはもちろんのこと、特に昨今はグローバルだから、日本語ってことも一つの個性ではあると思います。鎮くんとの"i wanna know”はアフロビートの影響を感じてもらっても、レゲエとして聴いてもらっても良いんですが、私も鎮くんもレゲエは大好きで、だけど例えばそのジャンル特有のワードやイントネーションを使うか、歌詞ひとつ取っても皆スタンスがある訳じゃないですか。鎮くんもレゲエの様式美に対する距離感を考えてると思うし、自分たちなりの、っていうことは大きな前提でした。そしてFNCYでもやっていないことをやるつもりで作りましたね。

- "i wanna know"のMVは自身で監督(一部撮影も!)をされたものですね。どのようなテーマで制作されたのでしょうか?

G.RINA - 世界の色々な音楽に影響を受けて作っている中で、自分らしさをどこに出すかということを音でも映像でも模索していて。
日本らしい景色の中に、カラフルな衣装の、色々なバックグラウンドを持つ男女が踊っている、誰かを探している、ということはそのままシンプルにこの曲のテーマになってるかなと。背景は密にならないようにということもふまえつつ、美しい自然のある土地、同時に自分が好きだった懐かしい日本の面影のある場所を選びました。わたし自身の技術はまだまだだけど、背景となった町、出演してくれた鎮君やダンサーのYinka、Yacheemiの力強さや美しさがそのまま伝われば、絵になるだろうと思っていて、実際そうなったと思うので、本当に感謝ですね。

- このMVもですし、現在のアーティスト写真や、SNSでアップされるムービーも緑色が印象的ですが、なぜ緑色が多くなっているのでしょうか

G.RINA - そもそも植物が大好きで、わたし自身が植物を見ていると救われる気持ちになるんです。いつか植物園での撮影とアルバムアートワークをやるのが夢でもあって。圧倒的な緑と湿潤な空気は、アルバムの’受容'というテーマとも繋がる気がしたので、今がその時かなと。

この撮影の中で植物に囲まれて、こういった撮影ができたことが本当にご褒美のような感じでした。ビジュアライザーも作ろうと思って、静止画はカメラマンであるスズキケイタ君に撮ってもらいながら、被写体になりつつ、自分でカメラも回して。大忙しでしたが、ご協力いただいた熱川バナナワニ園さん、撮影のかたわらで植物の説明までしてくださって、とにかく最高の時間でした!

- ラッパーといえばNENEさんとの曲も緩い連帯で繋がっている感じがしました。

G.RINA - NENEちゃんは去年出ていた『夢太郎』がすごく良かった。彼女の曲には世代やキャラは違うかもしれないけど、どこか他人事じゃない気持ちになれるものがあって。それって音楽のすごいところだなと思うし、NENEちゃんの魅力でもあるし。だからきっと交われるはずだと思って。曲を作る前に会いに言って、色々なことを話して、そういう中からテーマが決められたら良いなと。その時に女性ホルモンの話が出て、そういうもので自分がコントロールされちゃうことあるよねって話になったから、そういうテーマも組み合わせてできたら良いかなって。

彼女にどういう曲をやってみたいか聞いた時に、「ヒップホップじゃなくても全然大丈夫」っていう感じだったから、サウンドも遊べました。NENEちゃんやBIMくんって同世代だと思うんですが、ジャンルに対する感覚が開けてるなって感じましたね、むしろそれぞれのソロでやっていることとも違うものを作れたらなって、わたしもはりきれました。あとは二人ともナイスなヴァイブス(笑)。

- タイトル曲には韓国のXin Sehaが参加してますよね。Xin Sehaもデトロイトテクノをはじめブラックミュージックに影響を受けているけど、その上で自分の音楽をやると前に言っていて、やはりその辺りのスタンスも近いのかなと思いました。

G.RINA - 彼らは2人で音楽を作っていて、元々は韓国のとあるスターに曲を書けるかもしれないから一緒に作ってくれないかって連絡があったんですよ。それがファーストコンタクトで、面白そうと思って何曲か作ったんです。最終的には採用にはならなかったんだけど、その作業が面白かったからアルバムにも参加してもらいたいなって。その流れのまま曲を作り続けて出来上がった2曲なんです。一緒に曲を作っててアイディアの交換とかスピード感、理解がスムースで、ワクワクしながらやってましたね。2曲を作ったから、一番長く連絡をとっていたのは彼らで。2人も本当にナイスで。韓国は音楽も激しい競争があるのかなと想像するんですが、作業のやりとりは全然仕事感がなくて、楽しんでやってくれているのかな、そうだったらいいなって。

- "夏の夕凪"にはKzyboostさんが参加されていますが、これはDaichi YamamotoさんとFNCYの2マンきっかけですかね。

G.RINA - そうなんです。Kzyboostさんとはライヴでの良き出会いでした。彼もまた朗らかな人柄だから、短い時間の中でもやりとりがスムースで。本当に参加してくれた人のナイスさでできたアルバムといっても過言ではない(笑) 。

あらためて言うのもなんですが、私はトークボックスが好きで。落ち込んだ時にはBETのRogerのスタジオライブを観るっていうのを、ずっとやってて。そのRogerが超エンターテイナーで。その動画を観すぎたことによる刷り込みというか、トークボックスを聴くと元気になれるんですよね。そんな感じで、"close2u"のリミックスに参加してもらった流れもあり、前作からも繋がる自分の得意なことをやろうと思って作った曲ですね。

- 今作もミックスまで自身でやられていて、前作のEPはマスタリングまでやっていますよね。

G.RINA - ミックスが本当に時間がかかりましたね(笑)。それも自分の作品だからこそできることでした。エンジニアさんにやっていただく音源も素晴らしいんだけれど、一方でもしこうなってたらどうだろうと思ったりするのは、作り手の欲張りとしてあったりして。たとえ失敗したとしても、一度はアルバム単位で自分でやらないとなってずっと思ってたんです。

それとアーティストが自分でミックスをしている作品がすごい好きなんですね。結局その人が鳴らしたいものが鳴ってるはずだから、癖が出ててるし、聴いていてワクワクする。例えば昨年は釈迦坊主『NAGOMI EP』を聴いててすごいそれを感じました。キックやローの出し方に、かなり独特な色が出ている気がしたし、アーティストが自分自身で模索していることにも感動するっていうか。アーティストがサウンドを自分なりに追求することには、作詞曲とまた違う魅力があると思いますね。

- でも今作のミックスもベースの鳴りが印象的でした。一番気にかけた部分はどこでしたか?

G.RINA - ベースラインを聴かせたい曲では普通のオーディオでも聴き取れるように、一方でちゃんとウーハーとかがある環境では振動で聴かせたい曲もあります。この期間に自分の制作環境を整えて、サブウーハーを入れたり電源を変える工事をしたりしたんですよ。自分でもまだ慣れていない環境だから、正しいジャッジができているかはわからないんですけど、ちゃんと音が震えてるかとか、好みの鳴りを、色々なところでチェックして、出しすぎて気持ち悪くならないようにドラムとベースの置きどころは特に考えました。感覚でやってるところも多いんですけど、ミキシングのチュートリアルをYouTubeで見たり、録音で行った先のスタジオでエンジニアさんのやっていることをメモしまくったり。トライ&エラーで何度も書き出して。もちろんまだまだですけど、そのプロセスの中で1つアルバムが形になって良かったかなって感じですね。

Info

G.RINA - 『Tolerance』

発売日(CD):2021年6月23日(水)

収録曲

01.Body Temperature
02.i wanna know feat. 鎮座DOPENESS
03.魅力
04.PMS feat. NENE
05.Tolerance feat. Xin Seha
06.夏の夕凪 feat. Kzyboost
07.カーディガン
08.you make me feel all right ~ Magnetic, Galactic Reprise
09.White Night (365 ver.) feat. BIM 
10.Simple Pleasure feat. ZEN-LA-ROCK
11.新陳代謝

アルバム特典情報

タワーレコード オリジナル特典

タワー全店およびオンラインにて予約・購入頂いたお客様には先着で『Special limited sampler CD-R(1曲収録予定/アルバム未収録曲)』が特典になります。

※特典は先着となりますので、なくなり次第終了となります。予めご了承下さい。 一部店舗では取り扱いのない場合がございますので、ご予約の際は各店舗にご確認ください。

RELATED

【インタビュー】JAKOPS | XGと僕は狼

11月8日に、セカンドミニアルバム『AWE』をリリースしたXG。

【インタビュー】JUBEE 『Liberation (Deluxe Edition)』| 泥臭く自分の場所を作る

2020年代における国内ストリートカルチャーの相関図を俯瞰した時に、いま最もハブとなっている一人がJUBEEであることに疑いの余地はないだろう。

【インタビュー】PAS TASTA 『GRAND POP』 │ おれたちの戦いはこれからだ

FUJI ROCKやSUMMER SONICをはじめ大きな舞台への出演を経験した6人組は、今度の2ndアルバム『GRAND POP』にて新たな挑戦を試みたようだ

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。