【インタビュー】Joy Orbison 『still slipping vol.1』 | 僕ヴァージョンのソウル・レコードを作った

Joy Orbisonの名前を初めて知ったのは彼のデビューシングル"Hyph Mngo"でだった。ロンドン出身のDJ・プロデューサーの楽曲には、自身のルーツであるUKのダンスミュージックの息遣いを感じさせつつも、カラフルでエネルギッシュな印象を受けた記憶がある。デビュー曲以来、彼は新しいジャンルを作ってやるという気概やシーン全体を見通すということではなく、彼自身のパーソナルなものを誠実に反映させ続けているようにみえる。

ここ日本ではC.Eとファッションブランドと音楽プロデューサーという垣根を越えた交流を続けてきたJoy Orbisonが、初のフルレングス作品『still slipping vol.1』を本日8/13(金)にリリースした。アルバムではなくミックステープと呼ばれるこの作品について、Joy Orbisonは「人間味のあるものにしたいと思った」とコメントしている。彼の様々な側面が伝わってくる、まるで日記を読んでいるかのように手触りのある作品について、ロンドンで話を訊くことができた。

撮影: Maxwell Granger

- ミックステープ『still slipping vol.1の完成おめでとうございます。もう3回も聴きました。楽しませてもらっています。素晴らしい作品ですね。座っているのがはがゆかったので、車に乗って聴いたりもしました。私のお気に入りのトラックは"swag"と"born slipping"です。でも今回の作品は、アルバムではなくてミックステープだそうですね?アルバムと呼ばない理由は何なのでしょう?

Joy Orbison - 僕はこれまでにアルバムを作りたいと思ったことがないんです(笑)。それもあるし、それに今回の作品はアルバムよりも長い。僕にとっては、アルバムというよりはコラージュという感じがするんですよね。アルバムよりももっと遊び心もある。エレクトロニック・ミュージックの世界では、アルバムが大袈裟なくらい尊大なものとみなされていて、すごく重大なものと扱われる。でも僕は、そういう雰囲気を今回の作品にもたらしたいと思わなかったんです。ミックステープのほうが、作品がもっとパーソナルに感じられると思ったし、聴いてくれる人にも、コンセプトのある深い作品というような高いハードルを感じずに楽しんで欲しかった。もちろんコンセプトはあるんですけど、何よりも聴いて楽しんで欲しかったんです。だから、車を運転しながら聴いてくれたのは嬉しい。それこそ僕が制作中に望んでいたことだったから。バスに乗っている時に、僕の音楽はシングルかEPだから、バスの移動ではあまり楽しめないな、と思ったことがあったんですよね。そこで、バスに乗っている間ずっと楽しめるような作品を作りたいと思ったんです。だから、できれば曲を飛ばさずに作品を通しで聴いてくれたらもっと嬉しいですね。それが理想です。トラックを分けてしまうと、作品の姿が変わってしまう。だから僕はリード・シングルを定めなかった。作品を代表するトラックというものが、この作品にはないんです。それを決めるのが大変なくらい、全体で一つの作品だと思えています。だからシングルを選ぶというのはしっくりこなかった。聴いてくれる人には、全体を聴いてそれぞれに自分だけの経験を堪能してほしいと思っています。

- あの構成がすごく良いと思いました。分けてしまうと、全体的な景観が変わってしまいますよね。

Joy Orbison - 僕自身にとってはそれが音楽の楽しみ方だったんです。両親の車に乗って、景色を見ながら流れてくる音楽を聴き、サウンドと景色をつなぎ合わせる。僕は運転しないけど、この間ガールフレンドが運転する車の助手席に乗っていた時にすごく懐かしく感じた。景色を見ながら、自分がそれを求めていたように感じたんです。車自体が大好きなわけではないけど、シートに座って音楽を聴きたいとは思う。そのセッティングが好きです。94年にエセックスからロンドンの間を走っている車の中でジャングルをよく聴いてました。今回の作品は、正にそれが形になったようなレコードだと思う。車の中で聴くというのは、ベストな楽しみ方の一つだと思います。

- このミックステープは、いつ頃作り始めたんですか?

Joy Orbison - 覚えていないな…。曲の中には結構古い物もあるし、リリース直前に出来上がったものもある。でも、殆どの制作はロックダウン中に行いました。あの期間中自分にできることがそれだったから。数年前に出来上がっていた曲もあります。なので、様々な時期の曲がミックスされているし、それが作品を面白くしていると思いますね。これがもしアルバムだったら、音的にもっと近い曲同士を集めなければいけないと思ったかもしれない。でも、ミックステープだったからこそ曲の集め方に自由があったし、それがうまく機能したと思います。

- 今回、何か新しいアプローチには挑戦しましたか?

Joy Orbison - あまりないんです。これまでにもヴォーカリストとは沢山の曲を作ってきたけど、自分のプロジェクトで起用したことはなかったから、それは新しいと言えるかもしれないですね。曲を短くしたいという意識がありました。いつもは、クラブでプレイされることを前提に曲を作るので、トラックがもっと長いんです。でも、それにはもう飽きてしまって(笑)。テクノロジーも発達しているし、長くしたければループすればいい。DJのためだけという考え方に、ちょっとうんざりしていたんです。僕はヒップホップを沢山聴くんですけど、ヒップホップのあの尺が好きなんですよね。中には、たった1分半の最高のトラックなんかもある。だから、僕の作る曲も段々と短くなっているんです。その方が、素晴らしいエナジーが生まれることもある。今回のレコードには、そのエナジーを取り込みたかった。あまり考えすぎなくても素直に楽しめるものを作りたかったんです。簡潔とも言えるけど、あえて何かクールなことをわざわざしようとも思わなかった。今回の作品制作ではそれを意識していました。

- James Massiahとのコラボはどのようにして決まったんですか?

Joy Orbison - Jamesは僕の友人で、彼とはもう何年も付き合いがあって共演したこともあるけれど、これまで作品という形にはならなかったんです。でも、今回のミックステープには彼を起用したかった。僕は彼の声が大好きだし、彼の活動も素晴らしいと思うから。それで彼に頼んで、このスタジオで曲をレコーディングしたんです。僕が好きなポエムがあって、それをトラックにしたかったので、そのポエムを元に展開していきました。人間味が感じられるから、僕は声やボーカルといった要素が好きなんですけど、彼の声は作品に人間味とストーリーを与えてくれたと思います。質問の答えからちょっと脱線してしまったかもしれないけど(笑)。彼は素晴らしいアーティストだし、また一緒に何か作れたらいいな、と思います。

- さっき、作品は主にロックダウン中に作られたとおっしゃっていましたが、ロックダウンの最初の頃は何をして過ごしていましたか?

Joy Orbison - 沢山サイクリングをしていましたね。

- サイクリング!

Joy Orbison - そう。僕は一人暮らしな上にスタジオも家の中にあるので、家の中に閉じ込められたように人一倍感じてしまう。皆もそうだったと思いますが、窮屈に感じていたんです。だからサイクリングに没頭していました。音楽も沢山聴いていましたよ。

- サイクリング中に音楽を聴いていたんですか?

Joy Orbison - そうです。昼間はサイクリングをして、家に帰ってから夜にかけて曲を作って、晩酌をする毎日でした。用心深かったから、あまり人にも会っていなかったですね。家族にさえも。僕の家族は近くに住んでいるのに、会えないというのは歯がゆかったです。あとは、フランシス・ベーコンにハマっていました。理由は自分でもわからないけど、観れるだけの彼のドキュメンタリーを観たり、彼の作品を読んだりしていましたね。無理に何かをしようとするんじゃなくて、ある意味電源をオフにしていました。自分勝手に聞こえるかもしれませんが、僕は正直その時間を楽しんでいた。誰もいないソーホーをサイクリングするのは、気持ち良かったです。僕は、人気のない静かな空間が好きなので。

- バスも走ってなかったですしね(笑)。

Joy Orbison - そう。あんな状態はあの時限りかもしれない。それが、僕を逆に興奮させたんです。もちろん、そう思える状況であったということがいかに幸運なことかはもちろんわかっています。でも、あの静かな状況を楽しんだ人たちもきっといるはず。

- パンデミックを経て、自分の中で何が一番大きく変化しましたか?

Joy Orbison - 良い質問ですね。ちゃんと考えて答えないとな(笑)。この活動ができているということがいかにラッキーであるか気づけたことだと思います。同時に、なぜ自分がこの仕事をしているのかを自分に問いただしてみると、自分がエンジョイできていないものがあるかもしれないと考えるようになりました。沢山ツアーにでてDJをしてきましたが、それが僕の活動の中で自分にベストだと思えないことに気がついたんです。ロックダウンで違う側面を見つめる状況を強制的に与えられ、僕はただのDJなのか?果たしてそれ以外で生活することはできるのか?と考えるようになった。どんなに人気のDJに聞いても、皆いつかはDJをやめたいと答えるはずです。どんなに稼いでいるDJでも、常に引き際のことを考えているんです。それは、DJたちが常に話していることでもあります。ロックダウン中に、それをより深く考えるようになったし、僕は考える時間が持ててよかったと思っています。自分自身の世界にこもっていても、それはそれで悪いことではないと気づくことができたから。いつまでもDJというメリーゴラウンドに乗って、そこから降りないわけにはいかない。以前は、降りたらもう戻れないと思っていたけど、降りてもいいんだと思うようになった。他のこともできると気づいた時は、気持ちが良かったですね。

- ロックダウン中は、皆自分を見つめる時間ができましたよね。

Joy Orbison - アーティストというよりはDJとしてかもしれませんが、自分たちには何もできないということを思い知らされもしました。ああいった状況になったら、DJは何もできない。普通に活動ができてお金を稼げている間はそれに気づかないけれど、DJたちにとってロックダウンは、DJとはちゃんとした仕事でないということに嫌でも気づかされた出来事だったと思います。それは、僕は個人的にいいことだったと思いますね。

- その期間中、映画は観ましたか?

Joy Orbison - 映画はあまり観てないですね。僕は、そこまで映画ファンではないんです。もっと好きになれたらいいなとは思うけど、集中力があまり続かなくて。座って一つの長い作品を見続けるということがあまりできないんです。音楽の方が、映像よりも没頭できるんですよね。僕にとっては、音楽の方が集中できるんです。

- 僕も、映画を観ていると皿洗いのことを考え始めたりしてしまいます(笑)。

Joy Orbison - そう。僕も他のことがしたくなってしまうんですよね(笑)。電話を手にとってeBayを見てしまったり。

- ははは(笑)ここ最近で、最も良かったと思う音楽経験は何でしたか?出かけることもあまりできない日々でしたが。

Joy Orbison - どうだろう。そこまでしっかりと音楽を聴くということを最近はしていないので…。あえて言うなら、ヒップホップを沢山聴いていました。Playboi Cartiには結構ハマりましたね。特に彼の『Leaks』。あれは沢山聴いています。サイクリングを沢山するようになって、無意識に聴いていられる音楽を流すようになったんです。昔はクラウト・ロックにのめり込んだりもしていたけど、ロックダウン中は何か特別なものを集中して聴くという心の余裕があまりなかったんです。インスタントな音楽をより多く聴くようになりましたね。ドリルとか、そういう音楽を聴いていました。ああいう音楽は、走っている時にエナジーを与えてくれるから。なので、ディープに何かを聴くというよりは、そういう音楽の聴き方をするようになりました。ドーパミンを増やすような音楽というか。前よりも、音楽からパワーを得ることを求めるようになったと思いますね。

- では、プロダクションに関して質問をさせて下さい。日本の多くのファンは、あなたがどのようにして音楽を作るのか興味があると思うので。僕は、あなたがCubaseを使っていたと聴いて驚きました。12年前くらいに読んだ記事に書いてあって。てっきりあなたはロジックを使っていると思っていたんです。いつからロジックに変えたんですか?

Joy Orbison - 音楽を作り始めて2、3年経った頃だったかと。そこからシフトしたんです。僕は、あまりそういうのに詳しい方じゃない。Cubaseを使っている時も、あまり使い方を理解してはいませんでした。音楽を作っている僕の友人がCubaseにハマっていたので、僕も使い始めたんです。ドラムンベースの世界では、皆Cubaseを使っていると思います。その業界ではCubaseの人気が高い。でもだからこそ、僕はおじけづいていました。僕にとってドラムンベースの音楽はかなり専門的で、その作家たちがCubaseを使っている。果たして僕に同じものが操れるのか、とひるんでいました。僕はFruityloopsを持っていましたが、あれは沢山使っていましたね。Fruityloopsは使いやすかった。今のキッズたちも結構使っていますけど、彼らには、前の世代ほどちゃんとしたものを使わないといけないというプレッシャーがないと思うし、それはいいことだと思います。僕は、ロジックの使い方も完全にはわかっていない(笑)自分に必要なことは出来るけど、それ以上のことはできないんです。

- でも、ミックスも自分でされたんですよね?」

Joy Orbison - はい。全部自分でミックスしました。一部のボーカル部分だけレックスという友人に頼みましたが、あとは僕です。ロジックはわかりやすいですよね。

- 使いやすいですよね。では逆に、今回のミックステープを作る上で、一番大変だったことは何でしたか?

Joy Orbison - ミックスだと思います。あれは結構大変だったので。コンセプトが固まってきていたので、全ての曲をそれに合わせる必要があった。サウンドへのこだわりが強かったので、そのぶん大変でしたね。ミックスの作業は、自分で区切りをつけなければいくらでも続けてしまうし。僕がハイテクなエンジニアというわけでは決してないけれど、こういうサウンドにしたいというアイディアは持っていた。それにミックスは、自分が表現しようとしていることをピンポイントで説明してくれる作業でもある。ミックスは、プロダクションと同じくらいクリエイティブな作業だと僕は思っています。

- その通り。プロダクションの一部ですよね。

Joy Orbison - そう。私の意見では、ベストなプロデューサーというのは、ものすごくクリティティブなミックス・エンジニアでもあると思う。例えばMark Ernestus。彼のような人たちのレコードのミックスの仕方は素晴らしい。本当に独特だし、そこが魅力的だと思いますね。僕も、自分の作品を聴いた時に、これは自分のミックスだと実感したい。技術的で上手いけど一般的になってしまうよりは、自分の味が出た方がいい。まあ、特にEQについては僕もよくわかってないんですけどね(笑)。

- ではここでちょっと気分転換になる質問を。もし日本から来た友人をロンドンでどこかに案内するとしたら、どこに連れて行きますか?

Joy Orbison - 郊外に連れていくと思います。僕と友人とロンドンの郊外にあるレコードショップ行くことが好きだから。すごく良いレコード屋なんです。

- なんていう店ですか?

Joy Orbison - あんまり教えたくないな(笑)。一つはアップミンスターにあるレコード屋。アップミンスターは、ロンドンなんだけれどもほぼエセックスにある小さな街です。最近は良いレコードショップは、ロンドンの中心ではなくて郊外にあると思っています。例えばアップミンスターにあるCrazy Beat Records。ソウルとファンクがメインで、すごく良いレコードが置いてあるんです。昔DJをしていた人たちが持っていたレコードのコレクションが並んでいて、他ではなかなか見つからないレコードが見つかる。中にはよくないものもあるけれど、ソーホーでは見つけられない、郊外でしか目にしないようなレアなものが沢山あるんです。僕は郊外出身だからそれがわかってる。実は、郊外にはどこにでもレコ屋があるんですよね。ダンス・ミュージックのカルチャーはどこにでも存在していたから。ロンドンに誰かが来たら、それを紹介したいですね。ロンドンの中心から抜けだして、昔のロンドンの街並みを見るのも悪くない。そこに昔から住んでいる人たちの生活が見れるのも面白いと思います。クロイドンにはDNRというレコ屋があって、そこもいい。副業でDJをやっている人たちが集まるレコ屋で、それが良いんです。昔のレコード・ショッピングはそんな感じだったので。特にクロイドンはそう。僕が若い時は、レコ屋に音楽好きが集まっていたんですけど、みんなプロのDJなどではなく普通の人たちでした。レコードショッピングがライフスタイルの一部だったから。でも、今はそうではなくなってしまった。レコードを買うというのが、普通のことではなくなってきた今、レコード売買はよりビジネスっぽくなったと思います。スペシャリストたちだけが集まるようになったし、値段も上がっている。昔は、レコードショップでタバコも吸えたし、みんな普通の人たちだったんですけど。今は、ロンドンの中心でそういうの情景はあまり見ないですね。

- レコードショッピングの後は、夜はどこに案内しますか?

Joy Orbison - 僕はパブが好きだからパブかな。よく行くんです。一つはタワーブリッジのすぐ側で、Victoriaという名前のパブ。あそこには頻繁に行きます。そこには連れて行きたいですね。行ったら確実に楽しめるから。あとは、僕の姉妹がBeckenham Place Parkで働いているんですけど、あそこもすごく綺麗です。僕も結構行きます。あとは、やっぱりソーホーは好きですね。その辺が僕の中ではベストな場所かな。Trisha’sって行ったことある?小さいドアがあって階段を降りるとずっと昔からある古いバーがあるんです。4、5卓しかなくてとても小さい店で、ソーホーでは多分一番遅くまでやってるバーじゃないかな。誰が経営しているのかとか店のバックグラウンドは分からないんだけど、ずっとそこにあるみたいです。たまにドアをノックしないと入れなかったり、メンバーシップ制度があって2ポンド払えば入れてくれるので何のためのメンバーシップなのかはよくわからないんですが(笑)。ソーホーは昔からよく行っている場所で馴染みがあるんです。10代の時に何年もソーホーで働いていて、音楽出版社の郵便配達をしていたんです。響きがいいんだか悪いんだかわからないですよね(笑)。郵便を配達してコーヒー飲んだりしてたんです。若い頃はソーホーにとても執着していて、良いレコ屋もあったし、毎日レコードを買いに行ってましたね。その足でパブに行ったり。

- 日本にいる間はレコードショッピングはしましたか?

Joy Orbison - それがあまりできなくて。レコードよりは、服を沢山買いました。日本の情報をあまり知らないのでレコードショッピングが難しいんです。大阪でも京都では良いレコードショップに行く機会があったけど。名前は思い出せないけど、良い店でした。でも、日本ではあまりレコードの店には行かなかったな。テクニークには行きました。あれはクールだったな。

- 以前東京に住みたいと言っていたのを聞いて驚いたのですが、東京の何に魅力を感じたんですか?

Joy Orbison - すごく居心地の良さを感じたんです。自分が完全に部外者なのに、到着したとたん、既に居心地の良さを感じました。友人の奥さんが日本人で、彼女から日本では幼稚園で皆最後に片付けをするという話を聞いて、イギリスと全然違うなと思ったのを覚えています。日本は細部に気を配り、自分の以外の人々に尊敬の念を持っている。そこに魅力を感じたんです。東京からイギリスへ戻る飛行機がブリティッシュ・エアウェイズだったんですけど、飛行機の中で客室乗務員が乗客の前で叫ぶように話していたのを見て、ああ、もうイギリスに戻って来てしまったんだな、と思いましたね(笑)。日本で平和な2週間を過ごしたあとだったから、すごく残念に感じたんです(笑)。イギリスは、そういうところがある。それに、東京には緑もあるなと感じました。原宿でさえも緑があった。小さな家なんかも沢山あって、郊外にいるような感じさえしたんです。クレイジーな都会の中に、そんな場所が存在しているなんて、いいなと思いました。小さなバーも沢山あったし、滞在中は毎日興奮していました。良いエナジーが漂っていたし、気分がすごく良かった。あそこでならクリエイティヴになれるなと思いましたね。

- これまでで一番忘れられないショーはどのショーでしたか?

Joy Orbison - ニューヨークのパーティーでプレイした時かな。大きなウェアハウスのパーティーで、Ben UFOとバック・トゥ・バックで8時間プレイしたんです。

- 8時間も!?

Joy Orbison - そう。あまりそのパーティーのことを知らずに行ったんですけど、着いてみると、オーディエンスがすごく良かったんですよね。皆そこまで若くなく、レコードやそのカルチャーを知っている人たちが沢山いた。僕とBen UFOはハウスとテクノをプレイしていたので、そのパーティーではむしろ部外者だったのに。朝の6時くらいにMood II Swingのレコードをプレイしたら、朝日が窓から入って来てダンスフロアを照らし始めたんです。あの時は、彼らのレコードはこのために作られたんだな、と思いましたね(笑)。ニューヨークに住み、今日のパーティーにやってきた彼らのために作られたレコードのように感じたんです。あの瞬間は本当にクールでした。あとは、イーストロンドンのPlastic Peopleでの初期のショーかな。

- 僕もPlastic Peopleには行ってみたかったんですよね。

Joy Orbison - 今もそこにあるバーにならいけますよ。今は多分カクテルバーになってるはず。外観は今でもみれます。Plastic Peopleは僕にとっては特別な場所でしたね。一番最初に本格的なギグをやったのがあそこだったから。近くのバーで、開始直前にビールを流し込んでいたのを思い出します(笑)。当時は、みんな踊るのではなく、自分を囲んでただ立ってみているだけでした(笑)。僕は当時にすごく若く見えたので、若造がいったい何をやってるんだと興味があったんだと思います。あのプレッシャーはスゴかった(笑)。クールな人たちに囲まれるというよりは、オタクに囲まれる感じでしたね(笑)。すごく良い場所だったと思います。クローズしてしまったのは本当に残念です。特に2007年ごろは最高でしたね。あそこでやっていた『Nonsense』というパーティーもすごくよかった。

- 今年の予定は何か決まっていますか?

Joy Orbison - ショーの予定がいくつか。パフォーマンスができる日々が徐々に戻って来たと思います。またいつ出来なくなるかはわからないけど、今のところはショーをやる予定です。あとこれからは、もう少し定期的に音楽作品をリリースしたいと考えています。前はそれ以外の活動でバタバタしていたけど、今はそこまででもないし。ダンスミュージック以外の音楽業界を見てみると、リリースがすごく頻繁に行われているのに気づいたんです。僕は、それはすごく良いことだと思う。以前は何をリリースするかに結構こだわりがあったけど、今はもっとリリースに対してオープンになりました。変に力をいれるよりも、一定の流れで音楽を世に送り出すということのほうに今は興味がありますね。あとは、ほぼ2年間イギリスを出ていないので、休暇をとってどこかに行けたらいいんですけど。楽しいだろうな。

- 音楽を聴く時、僕は風景やストーリーを想像するのが好きなんですが、あなたの音楽はすごく景観が広がる音楽だなと思いました。例えば沢山のモジュラーのようなサウンド。あれは、僕にとっては沢山の木々に感じられますし、あなたの音楽からは、ロンドンの風景が思い起こされます。実際にモジュラーシンセを使っているのですか?

Joy Orbison - 使っていますね。

- あなたのスタジオで?

Joy Orbison - そうです。今回の作品にも沢山フィーチャーされているはずです。でもこれもさっき話したように、僕は詳しい使用方法を理解していない。僕は、どちらかといえばサンプルのために使っています。ノイズを作って、それを使ってしっくりくるものを作っているんです。僕はサウンドの繋がりが好きで、ループや反復音を好む。そういうサウンドからは、あるムードが生まれると思うんです。モジュラーは、そのムードを作り出すのに最適なんですよね。あとは、サウンドをサウンドっぽく聴こえさえないのにも役立つ。例えば、スネアをただのスネアではなくて何か変わったものにしたり。モジュラーは、音を成長させることができるんですよね。全のサウンドに命を吹き込むというか。スネアでさえも生き生きする。ずっとシフトし続けますからね。

- まるで生き物みたいですよね。

Joy Orbison - そう。僕が一番恐いのは、音楽を聴いている時に、そのコンピュータースクリーンが予想できてしまうこと。誰かがそれをやったら、僕は落ち込んでしまうと思う(笑)。音楽を聴いている時、僕自身はコンピューターや画面のことを考えさせられたくないんです。モジュラーはそれに適している。その囚われから解放してくれるんですよね。

- あなたのサイクリングも、競輪のようなサイクルではなく、ロンドンをクルーズしているようなゆったりとしたサイクリングなんだろうなというのが音楽を聴いていて想像できます。

Joy Orbison - ははは(笑)。このレコードは、クレイジーなエナジーがあるわけではない。というよりは、すごく流れを感じるレコードだと思っています。ほぼ全てのトラックがサイクリング中、もしくはサイクリングから帰ってきてから家でつくられたものだから。なので、そのマインドセットが反映されているんだと思いますね。ロンドンをあんなふうにサイクリングすることはもうなくなると思うので、次の作品はまた違うものになると思います。今回のレコードは、作っていた時期を思い出させてくれる内容になっているから。作っていた時期の雰囲気を捉えた良いドキュメンタリーのような作品に仕上がっていると思います。

- さっき、日本から友人がきたらレコ屋に行ってソウル・レコードを買うとも言っていましたが、あなたの音楽とソウル音楽はどのように繋がっているのでしょうか?僕には、今回のレコードからはソウルの要素はあまり感じられなかったので、説明してもらってもいいですか?

Joy Orbison - もちろん。僕の頭の中では、今回のレコードはソウル・レコードなんです。僕ヴァージョンのソウル・レコード。僕はすごくラッキーだったと思います。僕の父親は本格的なレコードコレクターとまではいかなかったけど、音楽のテイストがすごく良くて、それを家でプレイしていたんです。どういうわけか、彼が好きになる音楽はすごく良い作品なことが多かった。Marvin GayeやStevie WonderやSadeなんかをよく聴いていましたが、たまにBjörkを聴いたり、Kate Bushを聴くこともありましたね。なので、僕は自然にそういった素晴らしい音楽に囲まれていた。僕が生まれた時も、病院から家に帰る車の中で、父親はStevie Wonderの 『Talking Book』を聴いていたらしいです。なので、僕の子どもの頃の音楽の記憶はブラック・ミュージックなんですよね。昔からずっと僕の一部だった。だから、他のジャンルの音楽にももちろん触れて興奮はするけど、自分が一番引き込まれるのはソウル・ミュージックなんです。音楽に魂=ソウルがこもったものがソウル音楽だと僕は認識しています。ジャングルでも、ファンクでも、ガラージも、全てはソウル・ミュージックが基盤となっている。だから、ソウルの要素は常に自分の周りに存在しているんです。Drexciyaの音楽だって、コードのアプローチの仕方からは、FunkadelicやParliament、Sun Raの影響が感じられる。それが、他の音楽よりも彼の音楽に惹きつけられる理由なんだと思います。パンクだってブルースに影響を受けた音楽だし、僕は音楽が持つそのソウルやブルースの要素に常に魅力を感じるんです。このレコードからも、それを感じとってもらえたら嬉しいですけどね。メロディックだし、コードを元に曲が作られているし。曲の構成は実はソウルと繋がっていることに気づいてもらえたら嬉しいです。ソウルのない電子音楽とは思われたくないですね。それは僕が作りたかったものではないので。最近は、エレクトロやテクノ音楽では、超電子的で逆にソウルを込めないようにしているものありますよね。そういうものからの逃避というか。でも昔は違った。例えば、Depeche Modeの音楽からはソウルを感じるように。最近のEDMやインダストリアル・ミュージックな度からは、ソウルを感じないんです。

- 僕はソウルレスなエレクトロニック・ミュージックも好きですが、そういう意味では確かにあなたの音楽からはソウルを感じられる。その点は僕も気に入っています。大好きです。では、最後に日本のリスナーにメッセージをいただけますか?

Joy Orbison - いつか日本に住めたらいいんだけど(笑)。日本は僕が心からショーをやりたいと思う魅力的な場所の一つです。正直に言うと、最初は日本のことをよく知らなかったんです。沢山のDJたちが日本について話をしていて、僕はそれを聞いていただけで、日本のイメージは抽象的なままでした。でも来日したら本当に感動したんです。そこからどんどん日本にのめり込んでいきました。今では、その経験が僕の一部になっています。日本は、ずっと繋がっていたいと思える国。C.Eがこのミックステープのマーチャンダイズを作ってくれているのもとても重要だと思っています。日本との何かしらの繋がりを持っていたかったんです。他の国よりも日本では僕の音楽は良く受け止めてもらえると思うんです。日本で僕が出演したパーティはいつもC.Eが主催で、遊びに来てくれる人たちはみんな興味深くてクールで、繋がりを感じられるからこそショーをやっていて興奮するんです。また来日できるのを心待ちにしています。少しでも興味を持ってくれたらぜひ僕の音楽を聴いてみてください。

- ありがとうございました!

Joy Orbison - こちらこそ。

Info

label: BEAT RECORDS / XL RECORDINGS
artist: Joy Orbison
title: still slipping vol.1
release date: 2021/08/13 FRI ON SALE
国内盤特典:ボーナス・トラックが追加収録 / 解説書・歌詞対訳封入
XL1188CDJP¥2,200+税

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12002
Tower Records: 
・日本盤CD(解説・歌詞対訳付/ボーナス・トラック追加収録) / XL1188CDJP / 4580211855195 / 1540円 / ¥2,200+税
https://tower.jp/item/5228877/

・輸入盤CD / XL1188CD / 191404118825 / OPEN
https://tower.jp/item/5227918

・輸入盤LP / XL1188LP / 191404118818 / OPEN
https://tower.jp/item/5228893/

RELATED

【インタビュー】5lack 『report』| やるべき事は自分で決める

5lackが今月6曲入りの新作『report』をリリースした。

【インタビュー】BES 『WILL OF STEEL』| 初期衝動を忘れずに

SCARSやSWANKY SWIPEのメンバーとしても知られ、常にアクティヴにヒップホップと向き合い、コンスタントに作品をリリースしてきたレジェンドラッパー、BES。

【インタビュー】CreativeDrugStore 『Wisteria』| 11年目の前哨戦

BIM、in-d、VaVa、JUBEEのMC4名、そしてDJ/プロデューサーのdoooo、ビデオディレクターのHeiyuuからなるクルー、CreativeDrugStore(以下、CDS)による、結成11周年にして初となる1stアルバム『Wisteria』がついに発表された。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。