【特集】FNMNLが2021年に注目するアーティスト7組

昨年起こった新型コロナウイルスによるパンデミックの影響はライブシーンはもちろん、アーティストの活動にも大きく響いたのは間違いない。これまでアーティストの活動にとってリリースとそれに伴うライブというのは定石だったので、ライブが十分にできない今は中々リリース自体のプランも立てづらいのだろうか。編集部宛にくるプレスリリースの数もコロナ禍以前よりも少なくなっているのが現状だ。しかし、だからといってこうした状況の中でも多くのアーティストが自身の制作に集中して、素晴らしい作品をリリースしているのは希望だと言えるだろう。

その中でも特にFNMNLが2021年の活動に注目する国内のアーティスト7組を紹介する。楽曲やそのスタイルは、様々だがジャンルに捉われずに開かれた感覚で自身の音楽性を探究しているのが共通点と言えるだろう。

文・構成 : 和田哲郎

butaji

東京・板橋出身のシンガーソングライターのbutaji。幼少期からクラシック音楽に影響を受けて作曲を始めたという彼は、生音を使ったフォーキーなサウンドから、ソフトシンセによるエレクトロニックな楽曲まで幅広い楽曲制作を得意とするアーティストだ。ジャンルは横断しつつも、コンセプトを練り上げたその楽曲には、どれもbutajiの内省的でありつつも外に開かれた歌の力がしっかりと刻みつけられている。

2019年のシングル"中央線"での柔らかくも骨太なサウンドから、折坂悠太とのコラボ曲"トーチ(二人きり)"での日常の中の祈りのようなボーカルなどでその声を堪能できる。昨年bandcampでリリースし今年リマスタリングされたシングル『acception』での大胆かつポップなエレクトロニックサウンドと歌の融合や異才Otagiriのアルバム『The Radiant』への参加と、注目すべき動きが続いている。

音楽に興味を持ったきっかけ

物心ついた時から作曲と音楽に親しかったので、きっかけは覚えていません。

特に影響を受けたアーティスト

BECK

自分のフォーマットを開拓していく姿勢と、ステージ上で自分のできること以上のことをしない振る舞い。

自身の楽曲で特に好きなもの

"EYES"

ストリングスのアレンジが気に入っているのと、五十嵐耕平監督のMV。

理想のアーティスト像

特に決めていません。求められる仕事と、自分の役割を考えて曲を作っていきたいです。ポップスには社会的な役割があると思っているので。

アーティストとしてのマイルール

やれるところまでやったら諦める。

今後のリリース予定

いくつか音源はありますが、未定です。

Cwondo

No Busesのギター・ボーカルとしても活動する近藤大彗によるプロジェクトCwondo。現在23歳の彼は、昨年BIMの2ndアルバム『Boston Bag』に収録された"Good Days"にはソロで、バンドとしても"Non Fiction"で参加し、「ニュージェネレーション」とBIMにも称されていた。その呼称通りにCwondoのサウンドは様々なジャンルからの影響を、肩肘張らずに自身のサウンドに落とし込んでいる。

2月にリリースした初のソロアルバム『Hernia』でも、心地よく風が通り抜けるようなメロディーを基調にしつつもサウンドのアプローチは多種多様。ローなマシンビートが効いた"Twwen"や、広がりのある空間を想起できるエモーショナルでメランコリックな"Harder"などダンスミュージックから彼の出自であるバンドサウンドを想起させる楽曲まで現代的なムードと彼の個性を緩やかに接続した。

音楽に興味を持ったきっかけ

よくプレイしていたスーファミのゲームのサウンドトラックやももいろクローバーのアルバムなどを、当時曲単位ではなくアルバム単位で意識的に聴くようになってから音楽に興味が湧きました。
そこからONE OK ROCKからはじまり、バンドの音楽をよく聴くようになってから傾倒のスピードが上がりました。

特に影響を受けたアーティスト

The 1975

2ndアルバム以前もファンだったのですが、2018年の3枚目のアルバムで自分の音楽の触れ方を変えさせられたと思います。他にも大好きなアーティストはたくさんいるのですが、そのアルバムを聴く以前と以降で自分のアティチュードも変わったと思うので名前を挙げました。

自身の楽曲で特に好きなもの

好きな曲はたくさんありますが、"My,Visiting Grandma" "Garbage" "Ginger"などはギターのフレーズがめちゃくちゃ気に入っています。

理想のアーティスト像

すごくグッドなメロディメーカーです。

アーティストとしてのマイルール

決め打ちしていることは特にないのですが、強いて言えばその時の自分に刺さらないものは作らないことです。

今後のリリース予定

2/5にアルバム『Hernia』が出ました。
年内にもう一枚ソロでアルバム出すかもしれないです。頑張ります。

Grace Aimi

沖縄出身のGrace Aimiは、実弟と共にGracie & Gabeとしてウクレレに合わせて歌った数々のカヴァー動画がYouTube上で注目され、昨年Chaki Zuluがプロデュースした"Eternal Sunshine"でデビュー。そして同じくChaki Zuluがプロデュースし、今年リリースした2ndシングル"Open"でUNIVERSAL MUSIC / +81 MUSICよりメジャーデビューが決定とトントン拍子に階段を駆け上っている。

自身の作品ではモダンなポップサウンドを基調に、故郷の沖縄のような暖かい空気感に包まれていくようなボーカルを披露しつつ、兄貴分だというOZworldのアルバムへの客演では神秘的で突き放すような力を持った存在感を見せるなど、大きな可能性を感じさせてくれるアーティストだ。

音楽に興味を持ったきっかけ

小さい頃から自分の人生に音楽が溢れていて、正確にいうと生まれた時からずっと音楽が身近な存在です。家族みんなの好きな音楽テイストが違うので、同じ家でも色んなジャンルが流れてるのが普通でした。おじいちゃんといる時はクラシックロック、おばあちゃんといる時は演歌、ママといる時はレゲエやポップ、パパといる時はカントリーだったので、音楽は自分の中に染み込んでると思います。

特に影響を受けたアーティスト

Tyler, the Creator

彼の音楽ももちろん大好きなんですが、彼の音楽に向けての気持ちや自分を100%に出すところがとても感動しました。彼のように世界で活躍しているメジャーアーティストでも子供の心を忘れてないところがすごいピュアに感じました。

自身の楽曲で特に好きなもの

冗談抜きで全部大好きですw
一曲選ぶとしたら、"True feelings"って曲です。「本音」という意味で、自分が落ち込んでいて、どこを探しても答えが出てこなかったときに1人で夜中に映画を観ていたら、いきなり頭に歌詞とメロディーが流れ込んで、書き終えたときにはもやもやしてる気持ちが完全に消えてました。いい方向に向けてのメンタルの転回の曲ですね。

理想のアーティスト像

人に自己愛の力や大事さを見せていきたいです。
どこの誰であっても自分に向けての自信と信頼関係があれば、どんな夢でも叶えられると思います。
人が私の曲を聴いてちょっとでもいい気持ちになれたら、自分も最高な気持ちになって、もっといい曲つくって人を幸せにできるというのは最高なフローだと思います。

アーティストとしてのマイルール

ルールだとは思わないんですが、純粋な心を忘れないことです。

今後のリリース予定

今年は毎月何かリリースするので、すごく楽しみです。

Lil Soft Tennis

大阪出身で現在22歳のLil Soft Tennisも、これまで紹介してきたアーティストたちと共通しているのは、外に開かれた音楽を作っているということだ。中学生の時にUSのビルボードチャートをチェックするようになったことがきっかけとなりアメリカの音楽を聴き始めた彼は、最初はソロでそのあとはバンド活動も経験し、現在は再びソロユニットとして活動を行なっている。

彼のサウンドには音楽リスナーとしての幅広い興味と、自身が聴いてきたものをポップかつラフに解釈する姿勢が見て取れる。ミックステープのタイトルとなっている『Season』という単語への関心をこのインタビューで語っているように、Lil Soft Tennisの音楽にも彼の関心が四季のように変化していく様が刻み込まれている。そして昨年リリースされたシングル"Pop Out!!"からは、これまでの他のジャンルへの関心とそれに対する解釈を超えた彼の固有の音楽の兆しが見え始めており、今後どのような季節をリスナーに見せてくれるかが注目だ。

音楽に興味を持ったきっかけ

小、中学生の時に見た、gleeやビルボードチャート

特に影響を受けたアーティスト

XXXTentacion

音楽を作り始めた時に最も影響を受けていたのがXXXTentacionでした。彼の様々な曲と、それに一貫する美的感覚を魅力的に感じました。彼のオルタナティブな楽曲や態度を尊敬しています。

自身の楽曲で特に好きなもの

"Pop Out!!"です。みんなは好きかどうかわからないけど、自分は好きです。ビートやボーカルの質感、リリック全てが気に入ってます。

理想のアーティスト像

オルタナティブロックスター。みんなを連れて行ける存在になりたいです。

アーティストとしてのマイルール

流行りとマナーを解釈し直すこと

今後のリリース予定

初めてのアルバムを出します。

MFS

東京出身で2019年からは大阪を拠点に活動するMFS。Tha jointzのラッパーでボーイフレンドであるJASSがきっかけとなり音楽活動を始めた彼女は、これまで"Feeling"と"BOW"の2曲といくつかの客演曲しか発表していない。

しかしそのスケールの大きいキャラクターとクールさとユーモアをいったり来たりするキャッチーなリリック、そしてリズミカルなフロウで、今後のブレイクを十二分に期待させてくれる。家の中でも常に音楽が流れており、自然に音楽が生活の中にあったというのも納得の、構えていないラップはつい口ずさんでしまう。3月にリリース予定という1st EPもチェックすべきだろう。

音楽に興味を持ったきっかけ  

キッカケがあった訳ではなくて生まれてからジャンル関係なく音楽が生活にずーっとありました。

特に影響を受けたアーティスト 

マジで色んな音楽好きで聴いてるし、影響は何からでも受けやすいタイプなので特にって言うのが逆に浮かばないです。

自身の楽曲で特に好きなもの 

1st EPに入る"MY SELF"。ラップを始めるきっかけになった曲で、初めて書いたリリックだし今日まで作ってきた曲の中で一番ナチュラルだから。

理想のアーティスト像 

ラフで最高なやつ

アーティストとしてのマイルール

ないです

今後のリリース予定

4月辺りに1st EP出す

NEI

生まれ故郷である名古屋の南区を拠点にするクルーD.R.CのビートメイカーRyo Kobayakawaとの出会いをきっかけに音楽活動をスタートしたNEIは、2018年に公開されたKID FRESINOをフィーチャーした"FAST CAR”で一躍脚光を浴びた。彼のリリックやフロウからは自然体な姿勢や、素直な感情、そしてその中にあるタフさが伝わってくる。詩的な単語を使わずとも、彼の楽曲にはこの世界の見え方を変化させるような力があるのだ。

昨年リリースした1stアルバム『NEYOND』でも、世界を押し広げるようなリリックとオルタナティブな中に芯があるトラックで自らの世界観を掲示してくれたNEI。C.O.S.A.やCampanella、Covanといった敬愛する同郷のラッパーたちのように我が道を切り拓いていくラッパーだと言えるだろう。

音楽に興味を持ったきっかけ

昔、母さんと出かける時に車で聴いた音楽がきっかけです。
Charaとかスピッツとか、色々CDがあったんですけど、その中でも平井堅とかをよく気に入って聴いてました。

特に影響を受けたアーティスト

Liam Gallagher

全部がかっこいいし、なにか自分にしっくりくるものがある。

自身の楽曲で特に好きなもの 

先日リリースしたアルバム、『NEYOND』の二曲目の"NEYOND"です。
レコーディングがすぐ終わって、気持ちよくて、
楽しかったんであの曲が好きです。
あと、あの曲は僕が曲作りを始めたいと思うキッカケとなったアーティストの人達に、プロデュースやレコーディングをしてもらえたりして嬉しかった。
そんな思い出があるので気に入ってます。

理想のアーティスト像

特に思い浮かばないですが、やわではありたくないです。

アーティストとしてのマイルール

特に思い浮かばないです。
でも、何かはあると思うし、これからはっきりしてくるんじゃないでしょうか。

今後のリリース予定

今のところ予定はないですが、曲だけに限らず、今年も何か出せればいいなと思います。

oddy lozy

静岡・富士市出身で現在は神奈川を拠点にするビートメイカーのoddy lozy。2018年にリリースしたEP『EUPFHORIA』がきっかけとなり、ラッパーの9forとの楽曲制作をスタートし昨年コラボEP『Oxide』をリリースした。この作品はバースを録音した後にビートを合わせるという方法で作られている。これは彼がどんなラップに対してもビートのアイディアを持っているという自信の現れかもしれないし、実際彼のハードかつミニマルなビートはそれを証明している。

音数を減らすことに拘っているというoddy lozyのビートは、その分1音1音に強度を凝縮しており、EP『LAB IN GARAGE』などで真骨頂を聴くことができる。今後ビートメイカーとして、どういった音楽性に変化していくかも楽しみだが、今の荒々しい初期衝動が詰め込まれたビートもより注目されるべきだろう。

音楽に興味を持ったきっかけ
小学生のころに聞いた『東方』というシューティングゲームのBGMがきっかけです。当時週6日習い事をしていて友達と遊ぶことが少なく、夜中にインターネットで音楽を探しているうちに音楽にのめり込んでいきました。

特に影響を受けたアーティスト

Tyler, The Creator、Yunomi、millennium parade、MYTH & ROID

それぞれ固有の世界観を持っており、Tylerはスタンス、Yunomiはサンプルの使い方、millennium paradeは世界観の作り方、MYTH & ROIDからは没入感の作り方が特に影響を受けている部分です。

自身の楽曲で特に好きなもの 

一般には公開してないんですけど、"bad award"という曲が好きです。自分のためだけに作った曲なので思い入れが深く、公開はまだ考えていません。すいません。

理想のアーティスト像

ありのままの自分を出せればそれ以上のことはありません。

アーティストとしてのマイルール

なるべくシンプルにしていくこと。特に音数を減らすことに拘っていて、ラップを引き立たせることに全力を注いでいます。

今後のリリース予定

秘蔵曲がたくさんストックしてあるので今後大量放出していく予定です。

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