【レビュー】21 Savage & Metro Boomin 『Savage Mode 2』| 前作の型にはまらないコンテクストの充実

予想通りアメリカのビルボードチャートで初登場1位を奪取した21 Savage & Metro Boominのコラボ作『Savage Mode 2』。波乱の2020年のヒップホップシーンを代表する作品は、21 SavageとMetro Boominを歴史上最も成功したラッパーとプロデューサーのデュオ候補へと押し上げたのは間違いなさそうだ。

『Savage Mode』、Offsetを加えてのアルバム『Without Warning』から3作目となる2人の相性の良さは、本作を聴いてもらえればすぐに分かるだろう。そして今作は『Savage Mode』を継承しつつも明確な変化が加えられたことで、より充実した作品へとアップデートされている。ではどのような変化が本作にはあったのだろうか。『ミックステープ文化論』などの著作や翻訳業などで知られる小林雅明が『Savage Mode 2』を解き明かす。

文:小林雅明

自己完結型の『Savage Mode』からの変化

『Savage Mode 2』というタイトル。90年代末をピークに、主にサウスの(なかでも特にニューオリンズ勢をはじめとする)多くのラップアルバムのアートワークを手がけたPen & Pixelの意匠をなぞったジャケット。こうした見た目のイメージから、このアルバムの内容をあれこれ想像してみることは可能だ。

まずは事実確認から。表題が第2弾であること示している以上第1弾があるわけで、それは今からまる4年以上前の2016年7月に『Savage Mode』としてEPで発表されている。もちろんこれも21 SavageとMetro Boominの連名での作品で、21 Savageが最初に注目された"X"が収録されている。プロデューサーのMetroは「ドラッグ、セックス、ヴァイオレンスに囲まれて育った」("Slidin") ギャングスタ、21 Savage特有の無感情でモノトーンなラップを、シンプルかつ確実に暗さを湛えたビートで引き立て、EP全体のトーンを統一した。また、サンプリングに頼らないあたりからも、自己完結した世界を理想としていたことがうかがわれる。

そのせいか、最初に『Savage Mode 2』を聴いていて耳に引っかかったのは"Steppin on Nigga"だった。これは1988年のRodney O & Joe Cooleyによる"Nobody Diss Me"のビートだし、フロウまでRodneyに倣っている。それに気づかずに、また、違和感なく聴こえたとしたら、1989年のRodney & Joeと2020年のMetroの使う808の音色に共通点があるからだろうし、原曲が「誰か俺をディスれや」なら21は「かかってこいや」で、リリック上も符合している。

RodneyとJoeは80年代前半からエレクトロファンクのレジェンドEgyptian Loverのもとで曲を出していて、"Nobody Diss Me"と同じアルバムに収録の"Everlasting Bass"はTR-808の、あるいは、マイアミベースの歴史を語る上で欠かせない一曲。ただし、彼らはマイアミではなく、コンプトンのグループで、N.W.A.のブレイク以前から活動していた西海岸ヒップホップのパイオニアだ。さらにヒップホップには、他にもEric B. & Rakimや、Gang Starrなど、DJ/プロデューサー&ラッパーのコンビが歴史的名盤を生んできた経緯もあり、Metro Boomin & 21 Savageがそのあたりを意識して、コラボを重ねてきたのなら頼もしい。

アトランタからヒップホップ史を遡る

まずは、このちょっとした違和感から、今回のアルバムでは、少なくともサウンド面において『Savage Mode』のスタイルを単純に踏襲してはいないこと、また、今回のアートワークが単純にサウスをリプリゼントしているだけではないことに気づかされる。とはいえ、本作が21 Savageの育ったサウスはアトランタのヒップホップ史をリプリゼントするアルバムである自負と自信は、イントロの第一声に既にはっきりと刻まれている。ここで、その声の主が俳優のモーガン・フリーマンであること以上に注目すべきなのは、従来のパブリックイメージ通りなら到底彼が言いそうにない台詞の数々(そう、このアルバムには、ところどころに彼の語るストリートワイズな金言が挿し挟まれているのだ)を書いたのは、Big Rubeだということ。9月に出たばかりのアトランタの若手EarthGangやJIDで構成されたSpillage Villageのアルバムも、彼の語る言葉がイントロと実質的なアウトロに置かれている。

Big Rubeは、90年代初頭から元々アトランタのダンジョン・ファミリーの一員で(Futureもメンバーだった)、特に仲間のOutkastの90年代末のアルバムのアウトロなどでの作品を(引き)締める語りで知られるようになり、2000年以降はアトランタと直接関わりのない多種多様なラッパーも彼(の語る言葉)を重用するようになる。SavageとMetroは、(世間的には「ナイス・ガイ」イメージの強い)フリーマンの声を借りることで、Rubeの言葉に、映画というよりは芝居の名台詞の風格あるいは賢者のような年輪を与えている。彼の言葉で始まり、彼の言葉で終わるこのアルバムの中盤付近で、「スニッチ」と「ラット」の違いを説くインタールードの"Snitch & Rats"がなんといっても白眉だ。そして、それに続くYoung Nudy客演による同名曲のタッチなら、『Savage Mode』を求めるリスナーの要望に合致するだろう。

そうした自己完結というのとは対照的に、むしろ、音楽的なものを中心に様々なコンテクストを活かそうとしたのが、『Savage Mode 2』ではないだろうか。例えば"Many Men"では、極限状態に置かれた人間(の暴力的衝動)を描く映画『ミッドナイト・エクスプレス』のためにジョルジオ・モロダーが書いたテーマ曲を強く想起させられる。極悪非道冷酷無比な、あるいは無敵で万能感溢れる不死身のギャングスタ像の増強を目論み、楽曲へのサンプル源をホラー映画のサウンドトラックに一貫して求めたのは、90年代のメンフィスのThree 6 Mafiaだった。21 SavageとMetro Boominのコンビに、Offsetが加わり、生まれたアルバム『Without Warning』は、リリース日をハロウィンに設定していたため、Three 6 Mafiaほど露骨ではないものの、彼にしてみればホラー映画のサントラに寄せたサウンド志向だった。

その感覚を1曲に凝縮したかような"Many Men"は、タイトル(そしてフック)にも明らかなように、50 Centによる同名曲の本歌取りだな、と思って聴いていると最後の最後で、50のオリジナルが聴こえてくる、なかなか心憎い作りだ。50が9発の銃弾を食らったのは有名な話だが、『Savage Mode 2』のアートワークに六つの穴が描かれているように、21 Savageは、21歳の誕生日に6発の銃弾を撃ち込まれている。二人とも何発撃たれようが死なない、恐るべき存在なのだ。

こうした21 Savageの根っこの部分にある極めて非情なギャングスタとしてアティテュードを押し出すことについては、基本的に『Savage Mode』から大きく変わっていない。その一方で、サウンドを中心に、80年代から今に至るヒップホップの様々なトピックの中からイースト、ウエスト、サウスといった地域(分け)を気にせずに、自分に結びつく要素を選び引っ張ってくることで、自らをヒップホップの歴史上の人物と位置付けようとしている。

「R&B Mode」

しかし、このアルバムはここで終わらない。なにしろ前作に『I Am > I Was』なるタイトルをつけたくらいだ。ギャングスタとしての旧来のアティテュードを見せるだけでは納得できないだろう。実はアルバムの4トラック目にあたる"Mr. Right Now"で早くも新趣向を見せている。共演はDrake。彼流のR&Bノリに21 Savageなりに適応したのか、「いますぐヤルおさん」なる別名を出してくる。これが乾いた笑いを誘うあまり、指摘するのを忘れてしまいそうだが、ここではTLCの代表曲"Waterfalls"やKeith SweatなどR&Bの固有名詞を意識的にリリックに組み入れている。続く"Rich Nigga Shit"では、808のカウベルとヴァイオリンの異色の組み合わせながら、よりR&B情緒が高まる。21 Savageは「彼女の友だちと69をした、俺のことで口を開かないよう神に祈って」と、どこかで聞いたことのあるリリックを書いている。

こういった「R&Bモード」とも言える嗜好は、アルバムの終盤も固めることになる。最後から2曲目の"RIP Luv"では、2009年に逝ってしまった恋愛関係を弔い、いつになくロマンティックだ。しかし、ここでサンプリングされているのは、Nasの"Take It in Blood"(96年の『It Was Written』収録だが地味な1曲)で、Nasによれば、このタイトルには「俺を殺したいか」とのメッセージが込められているという。

21 Savageも「俺はお前を守った、お前は俺にナイフのように冷たい仕打ち(俺は傷ついた)」とセカンドヴァースを始めているので、失恋の痛手は相当なものだったようだ。ここで、具体的な年月日をまで口にし(彼にとって一生涯忘れることができない出来事が起きたのは理解できる)私的な部分に触れているのは一瞬意外に思えるけれど、2019年はじめに、トランプ大統領が強硬に推し進めていたアメリカ合衆国移民・関税執行局(ICE)による不法移民逮捕収容作戦に(当局のデータ処理上の不手際が理由で)巻き込まれたせいで、出生から現在に至るまでの21サヴィッジ個人に関する情報は世界中に広まってしまったのだ。この一件を絡めたラインが"My Dawg"に出てくる。


話を"RIP Luv"の次のアルバムラストを飾る"Said and Done"に戻せば、ここでは楽曲そのものが「R&Bモード」であり、"RIP Luv"以上に(恋愛について扱うユルいフロウの)「ラヴ・ラップ」のスタイルに忠実だ。それなのに、曲の内容はと言えば、アルバムのラスト曲らしく「Savage Mode」の精神を再確認しているのだ。InstagramでR&Bのカヴァーを数曲披露していた彼は、R&B好きであるからこそ、こうした「ズレ」を楽しんでいるのだろう。

「Savage Modeとは、自ら掲げたミッションを果たすため、常に120%以上の力を発揮できること、そのためには、自らにとって妨げとなるもの一切を許してはならない」。モーガン・フリーマンは『Savage Mode 2』の予告編で、こう説明している。今回のアルバムを聴く限り、21 Savageは、これまでに自らに科すことのなかったミッションを新たに掲げ、それを完全にクリアしている。そういった意味で、今回のアルバムは「Savage Mode」の精神には忠実なのは間違いないものの、『Savage Mode 2』などという枠には到底収まりきらない意欲作となっている。

Info

21 Savage & Metro Boomin 『Savage Mode 2』

https://lnk.to/21SavageSavageModeIIAW

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