【ライブレポート】Awich 『Partition Live』@LIVEWIRE|メジャーでのステップアップを確信させる強力なステージ

スペースシャワーが手がけるオンラインライブハウス『LIVEWIRE』。コロナ渦における新たなライブの形を追求し、これまでも豪華なアーティストが出演してきた同プロジェクトに、メジャーデビューEP『Partition』を先日リリースしたばかりのAwichが登場した。

文:山本輝洋

撮影 : 宮田維人

『Partition Live』と題された今回のプログラムは、8月25日(火)に無料(!)という形で実施。スタート時間の20時ちょうどにリンクを開くと、会場となる渋谷WWWの化粧室が目に飛び込んできた。ラジコンカーで操作されたカメラが地を這いずるように移動する中、“Shook Shook”のイントロが流れると、個室からAwichが圧倒的な存在感を持って現れる。

そのまま化粧室からWWWのバーカウンターに移動しながら “Shook Shook”がパフォーマンスされる。バックにはお馴染みYENTOWN所属のDJであるMARZY。配信だからこそ実現した、WWWというヴェニュー全体を活用したステージだ。

続く2曲目は“洗脳”。WWWのラウンジから地下のWWWβまでを闊歩しながら歌うAwich。地下に待ち構えたDOGMAがヴァースをスピットすると、そのままカメラがWWWのステージに移動。ブラウン管テレビに映し出された鎮座DOPENESSが自身のパートをラップする。一連の2曲とクールな演出に、今回の配信ライブが「見せ方」に拘ったショーケースであることを実感させられた。

3曲目の“Awake”以降はメインステージとなるWWWのフロアが舞台。無観客という条件を逆手にとり、WWWの最大の特徴である段差がついた客席にバックバンドが配置されている。普段は観客がライブを楽しむためのフロアいっぱいに演者たちが並ぶ光景は壮観だ。今回のバンドメンバーはギタリストの吉田サトシ、そしてSOIL & "PIMP" SESSIONSから 丈青(Piano)、秋田ゴールドマン(B)、みどりん(Dr)、社長(Manipulator)という面々。折り紙つきの実力を持つ彼らによって演奏される“Awake”は、音源とはまた異なる迫力を持っていた。

「Welcom to Awich Partition Live!画面の向こうですけど、少しでも繋がれたら、元気を与えられたら」というMCに続き、今回の無観客ライブにおけるたった一人の観客としてMARZYが紹介される。ビーチサイドを思わせるセット(曰く「沖縄」)でリラックスした様子の彼が、視聴者から寄せられたコメントを読み上げるという趣向だ。観客との繋がりを大事にするAwichの姿勢が窺えるスタイルである。

「いっぱい友達を連れてきてるんで、楽しみにしててください」という言葉に続いてスタートしたのはAwichがフィーチャーされたMONYPETZJNKMNの楽曲“WHOUARE”。JNKMN、PETZ、MonyHorseの三人が続けざまに登場し、フロアいっぱいを使ってエネルギッシュなパフォーマンスを見せる。

続けて同じくYENTOWNからkZmが登場し、“NEBUTA”が披露された。さらにJP THE WAVYをフィーチャーした“Bloodshoot”と、豪華なゲストアーティストが続けざまに畳み掛けられる。ヘビーなバンガーチューンである原曲が、バンドセットという形式を活かしロックなアレンジに生まれ変わる。

 その後の“Open It Up”は、なんとドラムのみに乗せてラップするというアレンジに。ミニマルかつパフォーマーとしての地力が求められるスリリングなセッションだが、みどりんのドラムスキルとAwichのラップがひりつくような緊張感を持って衝突し、凄まじいグルーヴが作り出される様には驚愕させられた。

客席で見ていたkZmから「最高だよ今の」と称賛の声が上がる中、Awich自身も「緊張で吐きそうだったっす」と漏らしつつも「こんなセットでライブできて幸せです」と手応えを明かす。

 そして“紙飛行機”が披露されると、人気曲だけに配信のコメント欄も凄まじい盛り上がりを見せた。EGO-WRAPPIN'の代表曲“色彩のブルース”をサンプリングしているだけあり、ウッドベースやピアノを強調したジャジーなアレンジが映える。今回の配信ライブでは、バンドによる一糸乱れぬアンサンブルによって楽曲が再解釈され新たに生まれ変わる様に驚かされるばかりである。

「ここまで来るのに色んなことがあったんですけど、私のとっての大事な人を失った時の話です」という言葉に続いて歌われたのは“Ashes”。パートナーを失くし、自身の娘とともに彼の遺灰を散骨した際の経験を描いた楽曲だ。リリックの内容に呼応するようにMVの映像がカットバックされ、まるで映画を観ているように感情が波打つ。神聖かつ荘厳な雰囲気に満ちたパフォーマンスが終わると、一転してダンサブルな “Revenge”が披露される。悲しみを糧に突き進む姿勢、強さそのものが映像から伝わってくるようだ。

一呼吸置き、「次やろうと思ってる曲は私の前のアルバム『孔雀』に入ってるんですけど、みんなで歌ってくれた思い出のある曲です。今日はみんないないんですけど、画面の向こうからみんな歌ってくれたらと思います」というMCから“First Light”に繋げられる。レゲエを取り入れレイドバックしたリズムの楽曲だが、今回のライブでは音源以上にルーツな雰囲気が強調されていた。

再びMARZYが登場し視聴者からのコメントを読み上げる。あまりの完成度に、無料であるこの配信に「お金を払わせて欲しい」との声が多く上がっていた。確かに無料で観ていることに若干の引け目を感じさせるほどのクオリティだが、それでもなお無料という形で敢行した理由について、Awichは「こんな時だからこそみなさんにお届けしたくて」と語る。

その後Awichは一旦小休止とばかりにMARZYが座るシートへと移動。そこで彼女が「今日はいっぱい友達連れてきてるんですけど、私が個人的に聞きたいなと思ってる曲……私はフィーチャリングも何もされてないんだけど、個人的に好きだし、みんなも聞きたいだろうなって曲をプレゼントしたくて」と語ると、なんと先ほど“NEBUTA”を披露したkZmと共にBIMがサプライズで登場。ライブでは必ず合唱が起こるアンセム“Dream Chaser”が披露された。全くのサプライズだったのか、コメント欄に現れた『LIVEWIRE』の公式アカウントでさえ「!!!???」とのコメントを残す。バンドサウンドにアレンジされているだけでなく、フックの部分をAwichが歌うという、今回しか観られない激レアなパフォーマンスとなった。

「みんなにプレゼント、いかがでしたでしょうか」という言葉に続いて、彼女の代名詞とも呼べる一曲“WHORU?”がスタート。パンチラインに満ちた楽曲だけに、リリックに被せた「お前誰?」というコメントが溢れる。Awichの実際のライブに足を運ぶと必ず目にする、あの盛り上がりを思い出させずにはいられなかった。

続けて“Love Me Up”がスタートすると、一転してピースな雰囲気が満ち溢れる。合間の「自粛中でも私を巻いて吸って愛してくれてますか」という言葉からは、新型コロナウイルスの流行やどうしても暗い気分になってしまう世相によって失われた何かを、愛をもって蘇らせるようなエネルギーを感じられた。

ラストを飾る1曲となったのは『Partition』の先行シングルとしてリリースされ話題を呼んだ“Bad Bad”。ポップさと哀愁を併せ持ち、アンセムとなる気配を感じさせるような、強力なトラックでライブは大団円を迎えた。。

エンドロールを眺めながら、筆者は楽しい時間が終わってしまう切なさを感じると同時に、配信でのライブというフォーマットにも関わらず実際のライブに足を運ぶのと同等、もしくはそれ以上の満足感を覚え、そのことに改めて驚かされていた。Awich自身が持つエネルギーが画面の向こうに伝播することはもちろん、挑戦的なバンドアレンジ、そしてカメラワークとライティングの美しさが、それをより強力なものとする。これを無料で鑑賞出来ることの贅沢さを実感し、また今回のパフォーマンスを経たバンドセットのAwichを再び観てみたいという強い衝動に駆られるばかりであった。メジャーデビュー後、そしてコロナ禍でのパフォーマンスだったにも関わらず、力強いステージでポジティブな空気を作り上げたAwich。今後のステップアップを強く確信させる一夜だった。

なお、こちらのライブの模様は
9月5日にAwichのYouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCNx5Q9xTjgprA216Zy-Y8sg
にて再公開されることが決定した。
公開時間など詳細は、追って発表される。

Info

【Awich "Partition Live" 】〈バンドメンバー〉  
Awich (Vocal)
丈青 (Piano)
秋田ゴールドマン (B)
みどりん (Dr)
社長 (Manipulator)
吉田サトシ (G)

〈ゲスト出演〉
Money Horse
PETZ
JNKMN
kZm
MARZY
BIM
JP THE WAVY
DOGMA
鎮座DOPENESS

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