【インタビュー】GUCCIMAZE|初個展『MAZE』

世界に通用する数少ない日本人グラフィックデザイナーのひとり、GUCCIMAZE。彼は、メタリックでエッジなタイポグラフィを武器に、世界的なアーティストや企業のデザインワークを刷新し、音楽シーンを中心にした国内外のデザインに大きな影響を与えている。

もともとGUCCIMAZEは友人から頼まれたアルバムジャケット、フライヤー、ポスター、ロゴなどのデザインをInstagramに投稿し続けたことから徐々に作風が知られ、Nicki Minajのアルバムジャケットのデザインチームに抜擢されるまでに。そのタイミングで行ったFNMNLでの初インタビューから2年が経過し、今年は初個展を開催するに至った。

展覧会「MAZE(メイズ)」は、新作旧作を交えた彼の大判の作品の展示だけでなく、コラボレーションや立体、ARなど、彼の個性を拡張させる手法の作品も置かれ、2020年6月20日(土)から10月13日(火)まで会期中となっている。ストリートカルチャーを通過したグラフィックデザイナーの個展として、近年稀に見るクオリティの高さもあり必見の内容だろう。会場となるDIESEL ART GALLERYにて、展示への思いを本人に伺った。

取材・構成 : 高岡謙太郎

撮影 : 三ツ谷想

「作品だけの空間を見てみたい」という思い

 - まずは展示のきっかけからお伺いできたらと思います。どういった経緯でディーゼルギャラリーでの展示が始まったのですか?

GUCCIMAZE - もともと、DIESELのブランドコミュニケーションを手掛けるJOMMYさんと公私ともに仲良いのもあって、声を掛けてくださったんです。その少し前にディーゼルギャラリーに来ていて、良い場所だなぁとも思っていて。それまでは個展というものに対して、絶対やりたいという自発的な気持ちがありませんでした。ただ、せっかく声かけてもらったので、フリーランス2年目になってここらで一発アプローチをしてもいいタイミングかなと思い、是非お願いしますと伝えました。

お話をいただいた時には全部新作を展示しようと思っていましたが、自分でも考えて周りの近しい友達にも相談して、初めての個展なのでアーカイブ中心にすることに着地しました。自分では今までにさまざまな案件や個人的に作ったアートワークなどを制作しましたが、作品しかない空間をつくる経験が今までにないから、「自分の個展」というよりは、「作品だけの空間」を見てみたいという考えに至りました。

それと自分の作品はInstagramなどのモニターのなかで見られる機会が多いので、ディティールをこだわって作ってもほとんどの人は気付いていないから、そういうところこそ展示で見てほしい。個展は大型の作品が置かれて、詳細までちゃんと見せられる場なので、ポジティブなマインドで進められました。

 - なかなか細部まで見てもらえる機会はないですよね。そこからどういった流れになりましたか。作品を選んだり?

GUCCIMAZE - まずマストなのが、新作を何点か入れることです。また初個展なので、ここ数年のアーカイブ展と新作という見せ方にしました。そう考えて、気に入っている過去作と新作を、バランスを含めてチョイスしたんです。あとコラボもしたいと思って、今回2名にコラボしてもらっています。

ハンドレタリングに絡み合うコラボ作品

- では、コラボーレーションした作品の話を伺ってよろしいでしょうか。まずは画家の上岡拓也さん。これはどういった作品ですか?

GUCCIMAZE - 自分があまり描いたことがない、メキシカンなレタリングを拓ちゃんが得意としていて、元々ファンだったんです。コラボ作品をどうしようかなと思った時に、すぐに顔が浮かんで向こうもやりたいって言ってくれて、良い具合にミックスさせた作品です。まず最初に「MAZE」という文字を拓ちゃんが先に描いてくれて。そのイラレのデータを貰って、拓ちゃんの文字を殺さないようにしつつ、ギザギザしたりトゲトゲした自分っぽいシェイプが巻き付いたりして、めちゃくちゃエフェクト入れました。

 - この「MAZE」の文字のベースは上岡さんが書いているんですね。これは何回くらいやりとりがあったんですか。

GUCCIMAZE - そんなにないですね。文字のデータを貰って、そこからは信頼してくれていたんで、「一回好きにやってほしい。絶対変にならないのは分かってるからやっちゃって」って言ってくれたので、バーっと作って1回目に出して「めっちゃやばいじゃん」って言ってくれて。「この感じで進めていいですか?」って「全然OK」って言ってもらって、そこからフィニッシュしました。だからお互いストレスなかったですね。

 - 信頼関係がありますね。お二人はどういった出会いですか?

GUCCIMAZE - もともと僕が彼のインスタをフォローしていて、ある時フォロバしてくれて、そこからやりとりしたら家が近かったので、すぐ飲むことになって。お互いに気になっていたから、どういう経緯を経て今の作風になったかなどプロフィールや経歴を含め、お互い作品を作っているからこそわかる共通言語で語らいまくって、すぐに意気投合しました。拓ちゃんは超ハキハキ喋るタイプではないけど、メラメラしてるものがある印象でした。

 - 内に秘めてそうな。では、上岡さんのアーティストとしての作品の魅力は?

GUCCIMAZE - 僕的には……というか誰でも思うことですが、画力が圧倒的にあるということ。そこだけで相当な信頼感が僕としてはありますね。線数がすごい少なくても上手いのが分かるし、もちろん細かい描写も上手い。バランスも配色も毎回最高。コラボだけでなく、何を出しても間違いないので、俺は大ファンです。僕も彼もグラフィティあがりですが、最近は絵画的なアプローチにどんどん寄せていって、今はプロフィールを画家にして活動していますね。

陶芸作品ならではの予測できない色味

 - 作品に魅了されていますね。では、もうひとつのコラボ作品を手掛けた、彫刻家KOTARO YAMADAさんとのいきさつを聞かせていただけたら。

GUCCIMAZE - かなり前からの知人で、高校3年の時に通っていた美大受験予備校で、たまたま一緒だったんですよ。予備校では、彼は彫刻科、僕はデザイン科に通っていて接点はなく、お互い顔見知り程度でした。武蔵美の4年生の時に数年ぶりに喫煙所で再開して、そこから仲良くなって、彼は今も彫刻家として活動しています。個展の話が出る前から、なにかしらの立体作品を自分も手掛けてみたいと思っていて。たまたま彼と飲む機会があって話をしていたら、今度遊びでやってみない?ということになって。

今回のマリア像のように、彼は宗教的なモチーフを扱うことが多いです。かっこいいからその作風を生かしつつ、あまりトリッキーなものをやりすぎるよりは、マリア像などの彼が手掛ける普遍的なモチーフに対して、配色や造形に手を加えることで自分のエッセンスを取り入れることがアプローチとして面白そうだなと考えていて。それから個展の話がすぐに来て、出し合っているアイデアを作品にしようとして動き始めました。

 - すぐに実現の機会がきたわけですね。YAMADAさんはどこまで手掛けていますか。

GUCCIMAZE - 作業自体はほとんど彼です。彼は焼き窯を持ってるので、僕が釉薬の色の指示をして焼いてもらい、汚し系のディレクションとアトリエに行って溝を手で彫りました。僕のシンボルとなるブロンズの三つ巴を背中に背負っているのが、それはもともと別で作っていて「ここにあったらやばくない? 超いかついじゃん」という話になり組み合わせて、それぞれの彫刻にあわせて微妙に三つ巴の雰囲気を変えています。

 - ばっちり合いましたね。実際に想像してた色と、焼き終わって窯から出てくる色が違いますよね。思った通りでしたか?

GUCCIMAZE - 違いましたけど超転んでるわけではなく、その予想外の変化も含めての良さが焼き物にあると思います。自分が普段デジタルのツールを使って、色をピックしてカラーコーディネートして、バチバチに狙いに行って全部思い通りに着色していますが、焼き物はそうはいかないところに魅力や面白さを感じました。だから色が転ぶことはそういう意味では想定内だし、受け入れる気持ちもありましたね。

- 良い転び方になりましたね。あと技術提供のあった作品は、ネオン管で作られた「M」。Nicki Minajのジャケットのロゴの案として本人に提出したもののひとつ、という話をお聞きしましたが。

GUCCIMAZE - プレゼンテーションの最後の最後で脱落した準優勝の作品です。何十個も作ったうちのひとつで、俺的にはこれが一番気に入っていました。どこかで使いたいと思っていたけど、シンボリック過ぎて何にも使えない。だから、ここぞという時に使いたいと思っていて。そこで今回、展示のタイトルが「MAZE」になったので使いました。今回の展示ではネオンの作品を展示したかったので最初「MAZE」という文字を作ったけど、ネオン制作の業者的にパスが通らなかったので、シンプルに「M」だけにしようと考えた時に、前に作った「M」あるじゃん!って思い出して。

仮想空間にスパークする雷鳴

 - 会場には順路がありますね。最初の作品が今回のメインビジュアルでもある「MAZE1」。どういったコンセプトでしょうか?

GUCCIMAZE - 以前から3Dのデータを使いたかったから、かっこいい3Dモデルを探しまくっていて。ランボルギーニのデザインが好きなんで、3Dモデルのサイトを見ていて「ランボ使っちゃおうかな〜」ぐらいの軽い気持ちでデータを買って、それに自分の造形を絡めました。最初からこれをメインビジュアルにしようと思っていて、作り始めは雷が上から落ちてランボは地面に突き刺さってる構図だったけど俺っぽさがそんなにないから、やはりメインビジュアルは一般的に思うGUCCIMAZEらしさが絶対必要だなと考え方を変えました。そこで稲妻やグシャっと潰れているような表現を鋭角な仕上がりにしたうえで、奥行きのある空間感を出せるようにいじりました。この作品が意外に一番時間かかってるんです。

 - 今までにない奥行きがありますよね。で、「MAZE1」「MAZE2」「MAZE3」と続いて、ここからは過去のグラフィックが続きますね。

GUCCIMAZE - そうですね。過去作から続いて、一番右の新作も「MAZE1」と同じく、間を大事にした作風です。今まではアメリカでウケるような、とにかく派手にする作風が受け手に刺さっていて、オブジェクトの配置も今まではセンターにポンという感じだったんです。でも個人的にはそれに飽きてきていて違うことをしたいと思っていたので、動きがあるけど静かな雰囲気にしました。個人的にはこれが今一番好きです。

 - で、その隣には大量の練習したスケッチが並びますね。

GUCCIMAZE - そうですね。みんなが見たことがあるグラフィックに使ったアイデアを出している時のラフです。自分は下書きを捨てがちで、需要があるとは思っていなかったので提案された時に気付いて、かき集めるのが大変でしたね。

- スケッチがあることによって、若手の人が制作過程に触れることが出来て、実際はかなり手が込んでいるのが伝わりますね。手の内を見せられる強みがあると思いました。スケボーのデッキもありますね。

GUCCIMAZE - デッキも元々つくりたくて。スケート今はそんなにガシガシやってないですけど、元々好きで。

 - では、GUCCIさんの好きなものや趣味のエッセンスが様々に散りばめられてる展示になりますね。

GUCCIMAZE - そうですね。アウトプットの形もひとつひとつ変えて。今の自分が考えている事や、今の自分のムーブ感を出してみた感じですね。

 - この展示のために作ったグッズを紹介していただけますか。

GUCCIMAZE - Tシャツ、ポストカード、ステッカー付きフィギュア、トレーディングカード、大きめのステッカーですね。三つ巴を立体で作りたいなと思って、おもちゃ感覚でフィギュア的な扱いです。架空のおもちゃメーカーが出してるトレーディングカードとおもちゃということで、パッケージを連動させています。自分の家もそうですけど、いろいろなおもちゃがずらっと並んでる雰囲気が昔から好きなんです。

ギガ単位のデータとなった作品の制作過程

 - かなり新作をつくられましたね。去年から個展があると言ってましたもんね。

GUCCIMAZE - そうですね。コロナもあったから会期が変わりましたが、やっと今回無事に明日から会期を迎えることになりました。

 - 新作はこれまでの作品と制作のプロセスが違いますか?

GUCCIMAZE - 一概には言えないんですが、基本一緒ですね。手書きで構図を決めて、絵柄を描いて、というところまでは一緒です。ただ、Tシャツやポスターのような今まで手掛けたサイズ感よりも大きくなると、データの作り方も変わります。同じアプローチでも狙った通りにならないので、その微調整が結構大変でした。

 - 思った通りにならないのは、どういう苦労だったんですか?

GUCCIMAZE - ソフトウェアの仕様上の問題です。サイズが大きくなると、同じ値の変化でも反応が変わってきます。ひとつの作品のデータの中に、そういった要素がたくさん混在していて、それを一個ずつクリアしていきます。パラメータをいじると、見え方が変わる場合もあるので、どうしたらいいのかを考えて、レイヤーだけで1回書き出して、それをイラレに持っていって、トレースして、フォトショに戻して。そういった行ったり来たりをひたすらしていました。しかもデータが激重で、ひとつの作品が十何ギガになって。

 - そんなに!?

GUCCIMAZE - はい。「MAZE1」の大きさでは解像度が200dpiでも良いんですが、遠くでも近くでもちゃんと楽しめるようにディティールをみせたいので、あえて350dpiで作っています。入校直前は、書き出しが遅くて全然進まなくてマシンが悲鳴を上げて、1個保存するのに3時間掛かりました。

 - 3時間も。動画作品に近いじゃないですか。

GUCCIMAZE - だから次にMacを買うとしたら、グラフィック向けではなく映像向けのスペックを買った方がいいのかな。もしこういう表現を続ける場合ですが。今言ったことが一番制作で大変でしたね。もちろん制作プロセスが好きで、思考錯誤しているのが楽しいんです。ただ、完成すると気持ちが離れて次に向かっちゃうタイプなんで。

 - 手を動かしてる瞬間が楽しい。では手離れすると、自分の作品は見返えさないんですか?

GUCCIMAZE - あんまりしないですね。なんか、ふーんってなっちゃう。だからスケッチも捨てちゃうんですよ。ある意味では良さなのかもしれないですけど。

 - こだわらなさというか。

GUCCIMAZE - っていうことに、展示の準備でより気付かされた感じですね。

 - 次々に作品を作って多作ですからね。自分の過去に作った作品を全部見返して、その上でピックアップされてると思います。すごく大きなテーマですが、ここ数年の活動を思い返して、いかがでした?

GUCCIMAZE - でかいですね。勢いで来たなぁみたいな。自分だけではなく、周りの方、日本も海外も含めクライアントさんたちも、ものすごいスピードで自分への認知度が上がっている気がして、それをとにかくひたすら全力で打ち返すような仕事をしていたら、いつの間にか2年経っていて。もちろん“勢い”だけじゃないけど、一言に例えるなら“勢い”かなって思います。

 - 振り返ってみて、今後やってみたいことなどありますか?

GUCCIMAZE - そこまであんまり考えてない。絶対になにか出てくるとは思いますけど、この展示が終わったら、いろいろ気持ちが整理されてそうな気はしてるんです。

 - そうですよね、いろんな方が来て意見を言ったりするでしょうから。

GUCCIMAZE - 全然知らない人も知ってる人も、いろいろな感想が聞けると思うので。そういう機会がそもそも今まであまりなかったから。ネットの感想のテキストよりもリアルな感想が聞きたいなと思っていて。だから会期が終わったら、考え方が変わって、新しい価値観が自分の中に生まれていそうです。もしかしたら、次回の展示は新作だけとか、全部立体かもしれないし、超インスタレーションかもしれないし。今後どうなるかわかんないですよね。

 - なるほど。自分の作風を規定していないのがいいですね。最後になにかありますか。

GUCCIMAZE - 来てください、ですかね。

 - ありがとうございました。

Info

タイトル
MAZE (メイズ)
アーティスト
GUCCIMAZE (グッチメイズ)
会期
2020年6月20日(土)- 10月13日(火)
会場
DIESEL ART GALLERY
WEB
www.diesel.co.jp/art
住所
東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti B1F
電話番号
03-6427-5955
開館時間
11:30-21:00 (変更になる場合がございます。)
入場料
無料
AR技術協力
KAKUCHO 株式会社
KAKUCHO株式会社が提供するサービス「webAR」。AR利用時に大きくコストのかかっていたスマートフォンアプリ開発そのものが不要。URLを共有すれば、webブラウザを用いて、製造・開発など様々な現場で手軽に実寸大の製品のイメージが確認可能となっている。開発の現場から、営業支援のツールとしてなど、会社の規模を問わず様々な企業で活用されている。
https://webar.pro/
協賛
株式会社 八紘美術

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