【インタビュー】Fatman Scoop『INVISIBLE』 | "Be Faithful"は革命的な一曲だった

1999年にオリジナルバージョンがリリースされ、2003年には再リリースされたことで世界的なヒットとなりクラブで聴かない日はなかった "Be Faithful"などのヒット曲を持つ世界のハイプマンFatman Scoop。その強力なシャウトで2000年代のヒップホップシーンには欠かせない人物となったFatman ScoopがLINE RECORDSからDreamDollとLiLiも参加した楽曲"INVISIBLE"をリリースした。

FNMNLではこの新曲についてや、彼がどのようにキャリアを築いて行ったか、そして革命的な1曲だったという"Be Faithful"の制作を振り返ってもらった。

質問構成 : 渡辺志保

- もともと、ハーレム出身だと伺いました。どんな幼少期を過ごしていましたか?音楽に囲まれたような環境だったのでしょうか?

Fatman Scoop - いつも音楽に囲まれていたよ。俺の従兄弟のDJ AJayと呼んでいたAllenと彼の友人のDJ Chipsyがヒップホップの魅力を教えてくれたんだ。いつもその二人がレコードを回しているのを聴いていて、それがきっかけでヒップホップの虜になった。それで俺はホウキの柄を使ったりコームを握ったりして、ラッパーの真似事を始めたんだ。その後、本当にラッパーとしての練習を始めるようになって、ラップ・グループを組むようになった。

- 音楽の道を志したきっかけは?

Fatman Scoop - 音楽が好きだったからね。それに、正直いうと、マイクを握っているときは注目を集めることができるし、何かモノにできるんじゃないかと思わせてくれた。その雰囲気も好きだったんだ。ヒップホップが広まり始めたとき、大きな音楽業界のシステムも同時に広まっていった。そこに入り込むには、ロープの裏側を潜っていかないといけなかったんだ。大物とツルんでいないといけなかったり、自分自身が有名でないと、そのロープを潜っていくことはできない。一度、俺がそのロープの裏側に行ってラップを披露するチャンスをもらえたとき、すごくいい反応をもらうことができた。その後も、俺のラップは十分うまいってことで、再度、ロープの裏側に招かれるようになったし、リアルな音楽をスタートすることができた。

- 実際、どのようにしてMCを始めたのですか?

Fatman Scoop - もともとは、世界一のエイターテイナーであるDoug E. Freshに(MCを)教えてもらっていたんだ。あとは、彼のDJであるDJ Chill Willが、俺の直接のメンター。マイクを使って(オーディエンスを)ロックするスキルや、自分が今やっていることは全てDoug E. Freshの教えによるもの。

- Brooklyn Clanの二人と出会ったきっかけを教えてください。

Fatman Scoop - DJ RIZは、彼がラジオDJをやっていた時からの知り合い。俺はもともとTommyboyのプロモーターをやっていて、アメリカ中のDJと知り合いになって、彼らがTommyboyのレコードを掛けてくれるようにするのが俺の仕事だった。当時、DJ RIZは“WildMan Steve and DJ Riz”というコンビでラジオ番組を持っていたんだ。その頃、レコードを売り込もうと思ってラジオを聞いていたら「New York In The House」という曲が流れてきた。その中で、「DJ Sizzahandz, Crooklyn Clan. DJ Riz Crooklyn Clan」というフレーズが聞こえてきて、俺は(DJの)Funkmaster Flexに「DJ Wizって誰なんだ?」と尋ねた。てっきり名前を「ウィズ」だと思ってたから。そうしたら「違う、DJ RIZだ」と教えてくれた。すぐに俺は「あのRIZか!」と思って、DJ Sizzahandzと繋いでもらったんだ。翌日、ブルックリンのカナージーにあるSizzahandzの家に行って、「Hands Up」という曲をレコーディングしたんだ。

- “Be Faithful”は革命的な一曲だったと思うのですが、どのようなきっかけで生まれた曲だったのでしょう。また、たくさんのパンチラインも印象的な曲ですが、レコーディング風景はどのような感じでしたか?

Fatman Scoop - "Be Faithful"は革命的な一曲だった。それまでに、俺たちは"Hands Up"と"Where You At"という二つの曲を作っていたんだけど、この二曲はとてもアグレッシブでサグっぽい雰囲気の曲だった。だから、次は女性向けの一曲を作ろうということになったんだ。そこで、頭に浮かんできたのがFaith Evansの"Love Like This"で、この曲でやってみようということになった。当時、俺はラジオのホストもしていたし、クラブ・イベントのホストもやっていた。例えば、「You got a hundred dollar bill, get your hands up」というフレーズも、実際にイベントのホストをやってる時に言っていたフレーズなんだ。そうしたフレーズを一まとめにして、DJ Rizが仕上げてくれた。だから、"Be Fatihful"はパンチラインだらけなんだ。あらゆるところからサンプリングもしている。「Engine, engine, number 9」(Black Sheep “The Choice is Yours”からの引用)はDJ Sizzahandzのアイデアで、「Can I get a (what what)」(JAY-Z “Can I Get A…”からの引用)は自分のアイデア、「Hey Ho!」のパートはNaughty by Natureのフレーズなんだけど、Tommyboy時代に、俺がクビになりそうなくらい本当に大変な時期に俺のことを助けてくれたのが、彼らだった。だから、Naughty by Natureへのトリビュートの意も込めて使ったラインなんだ。レコーディングしたとき、俺は床に寝そべって、DJ Rizが脇に立っていた。この曲を書いた時は、一体どんなことになるか考えも及ばなかったし、あんなにヒットするとも思わなかった。でも、一度リリースされたら「俺たち、やったんだな」って気持ちになったよ。

- “Be Faithful”のヒットで人生が変わりましたか?

Fatman Scoop - 人生が変わったかって?もちろんだよ。この曲のおかげで世界中を廻れたし、兄弟の大学進学費用も払うことができた。請求書の支払いや学費に困ることもなかったし、自分の子供達を養うこともできた。8、9週間前から(コロナウイルスによる)自粛期間に入ってるけど、その間も助かっている。自分の人生の全てを賄うことができたのはあの曲のおかげだし、あの一曲で完全に人生が変わった。とても感謝しているよ。

- 個人的に好きなFatman Scoopの参加曲はTimbalandの”Drop”とMissy Elliottの”Lose Control”なのですが、あの2人との制作はいかがでしたか?

Fatman Scoop - Timbalandは天才だよ。彼とのレコーディング現場では、今まで見たこともないようなレコーディングテクニックを目の当たりにした。例えばカップホルダーに入ったペンの音とか、赤ちゃんの泣き声とか、そういったサウンドを使ってビートボックスとともに仕上げていく。あんな曲の作り方は見たことがないね。Missyはとてもクールな人で、地に足がついたタイプの人。とにかく音楽のことしか頭にないって感じで、もしもあなたが何か他のことを話していても、彼女は興味を持たない。でも、音楽のことを話し始めたら急にこちらに寄ってきてどこでも着いてくるという感じ。

- 今回、コラボソング"INVISIBLE"に参加したご感想を教えてください。

Fatman Scoop - たまたま自分の娘を連れて日本でツアーをする機会があったんだけど、その時、フィーチャリング相手が決まる前にこの曲が出来上がっていた。日本にいる間に早速レコーディングしようということになって、スタジオを3時間くらい抑えてもらったんだ。そのあと、ずっとこの曲のことは頭の中にあったんだけど、3、4ヶ月前に電話をもらって、この曲をリリースするということを聞いて、今こうして出来上がったってわけなんだ。

- 長い間、業界で活躍し続けるにあたってモットーにしていることはますか?

Fatman Scoop - この業界に20年以上いるけど、自分のやり方はこう。酒も飲まないし、タバコも吸わない。女性にちょっかいを出したりもしない。クラブに行ったら、自分の仕事をやって帰るだけだ。あと、ギャランティの額に関わらず精一杯自分の全てを出し切ること。シンプルなやり方だよ。

- このコロナウイルスによる自粛期間中、どのように過ごしていますか?

Fatman Scoop - 元気に過ごしているよ。あと、この自粛期間中はいつもよりハードに仕事に励んでる。いつもは朝5時に起きて、夜10時にはベッドに入るんだけど、今、このインタヴューに答えているのは夜の11:45だ。毎日、綿密に組み立てられたスケジュールをこなしているよ。毎日、夜の7時…だからそっち(日本)では朝の7時か8時にインスタグラムのライブで番組を配信しているんだけど、その番組のために一日8〜10時間を費やしている。それに、明日は7曲分のレコーディングが控えているし、DJ用のカスタム・ドロップ(特定のDJのためにシャウトをレコーディングすること)も録る予定。ラジオ番組の仕事もあるし、忙しくしているよ。なぜなら、この自粛期間中に何か新しいスキルを習得したり、これまで築いてきたスキルを十分に発揮したりしていかないと、膨大な時間を無駄にすることになってしまうからね。

- IG上でのインタヴューを非常に興味深く拝見しています。DMXやTeddy Rileyなど、本当に幅広いゲストの方を招いていますが、長きに渡ってアーティストらといい関係を築くヒントがあれば教えてください。

Fatman Scoop - IG Liveを楽しんでくれてありがとう。アーティストらとの関係性を保つのに、特にヒントなんてない。いつも正直で、誠実であること。そして、リアルでいること。全てはそこから始まるんだ。常に「レコーディングに来いよ」と言われていると、どれが本当の「ノー」で、どれがフェイクの「イエス」なのかが分かってくる。だから取り繕うことなく、やりたければやるし、無理だと思ったら素直に断る。そうした態度を貫けば、自然と周りの人はリスペクトしてくれるようになると思う。

- 日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

Fatman Scoop - 本来であれば4月に来日する予定だったけど、叶わなくなってしまった。もしまた日本に行けるのであれば何でもするよ。必ず戻るので、待っていてくれ。

Info

FATMAN SCOOP/DreamDoll/LiLi
INVISIBLE

2020年5月22日配信 / LINE RECORDS

楽曲URL:https://lin.ee/2VN8mhJuG/lnms

RELATED

【インタビュー】PAS TASTA 『GRAND POP』 │ おれたちの戦いはこれからだ

FUJI ROCKやSUMMER SONICをはじめ大きな舞台への出演を経験した6人組は、今度の2ndアルバム『GRAND POP』にて新たな挑戦を試みたようだ

【インタビュー】LANA 『20』 | LANAがみんなの隣にいる

"TURN IT UP (feat. Candee & ZOT on the WAVE)"や"BASH BASH (feat. JP THE WAVY & Awich)"などのヒットを連発しているLANAが、自身初のアルバム『20』をリリースした。

【インタビュー】uku kasai 『Lula』 | 二つでも本当

2020年に現名義で活動をはじめたプロデューサー/シンガー・uku kasaiの2年ぶりのニューアルバム『Lula』は、UKGやハウスの作法を身につけて、これまでのベッドルーム的なニュアンスから一挙にクラブに近づいた印象がある。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。