【インタビュー】LEX|感情を100%

LEXはSoundCloudから活動を開始し、多彩な音楽性と同世代のティーンたちが抱える感情に訴えかけるような楽曲で、支持を急速に広めているアーティストだ。

今年4月にリリースした9曲を収録した作品『LEX DAY GAMES 4』でも、衝動的で破壊的な楽曲から、甘くそしてどこか切ないダンスチューンまで振り幅広く、自分の世界に落とし込んでいる。それは10代という不安定な時期を過ごしている彼の人生の日々を追体験させてくれるくらい生々しい響きを持っている。

FNMNLでは両親共に音楽好きな家庭で育ったというLEXに、音楽との出会いや彼がどのような日常を過ごしているのかなどについて訊いた。

取材・構成 : 和田哲郎

写真 : 細倉真弓

- 僕がそもそもLEX君の名前を知ったのは、Mary Joyの肥後さんから「LEXってラッパー知ってますか?」と“Captain Harlock”を聴かせてもらったのが最初でした。その後自分でもSoundCloudを聴いて、振り幅がすごいなと。“Captain Harlock”みたいな曲もあればダークな曲もあるし、かと思えばポップな曲や、アコースティックな曲もある。年齢のことを言うのは野暮ですが、その時はまだまだ16歳っていうのも聞かされて、「この人は本当に新しい世代の人なんだろうな」と感じました。そもそも、自分を「ラッパー」と認識したことはありますか?

LEX - 僕はやりたいことをやって、周りが形づけてくれれば良いと思ってるんで。「自分はラッパーだな」とか「ラッパーになろう」とか、そういう認識はあまり無いです。やりたいことをやって、周りが勝手に認識してくれればって感じですね。

- 音楽の聴き方もジャンルなどを決めて聴く感じではない?

LEX - ないですね。好きなように取り入れるし。固定しちゃうと狭まってる感じもあるし、今の世代みんなフリーな感じでやってるんで。

- 周りもそういう感覚の人が多いですか?

LEX - そうですね、友達も。逆に固定してる方が少ない感じもします。

- そもそも音楽好きの家庭で育ったんですよね。自分で音楽を探すようになったのはいつ頃からですか?

LEX - 気づいた頃からそうだったと思います。アーティストをスーパーヒーローみたいな目線で見てて、「ステージで自分が歌ってたら」って想像したり。小さな頃からやってたんで、ずっとその意識でした。

- スーパーヒーローだと思ってたアーティストは例えば誰ですか?

LEX - 結構小さい頃の話なので、ディズニー映画の『ハイスクールミュージカル』とか。「あそこに自分が立って歌ってたら」って映像を見ながら妄想してました。

- 最初の方から自分がアーティスト側にいる意識をなんとなく持ってたんですね。

LEX - そうですね。「ここ俺が歌ってたらカッコいいな」って、妄想しただけで鳥肌が立ってた時期もあったっすね(笑)

- 自分に何かしらの才能があるなって感じたことはありましたか?

LEX - そうですね、ずっと何かはあると思ってたんですけど。それをどこに向ければ良いか分からなかった頃も音楽はずっと聴いてたから、そばにあったんだなって。

- 最初はビートメイカーだったんですよね。

LEX - その時期は日本のラップを好きになってて、C.O.S.A.さんとかKID FRESINOさんとか凄く好きで。その辺りの方の動画をずっとディグってたらビートメイクで、MPCをバっと叩いてる感じとか「うわ、かっけえ」って思えて始めました。そこは完全にFra$hBackSの影響ですね。

- それでビートメイクをやっていて、自分でリリックも書いてみたくなったって感じですか?

LEX - そうですね。最初はビートに自分の声を素材として入れて、チョップしたりしてて。自分の声をBPM上げてみたりしてて、そこからですね。歌った感じのテイストで声が入ってるビートあるじゃないですか。ああいう感じのビートを最初に歌って作って、そこからですね。

- 自分の声を素材として使ってたんですね。その感覚は今のLEX君にも現れてるというか、曲によって全然声の使い方が違うじゃないですか。

LEX - そうですね。ボイスが主体ではなくて、音楽全体が大事。曲の一部にボイスがあるって感覚です。

- 若いときって最初は自我が強くて狭いと思うんです。「自分はこういうキャラだ」とか「自分はこういうラッパーだから」みたいなのがあると思うんですけど、そこも一つに絞らないで色んなキャラクターとか色んな声を試して見たいというのはあるんですか?

LEX - そうですね、そっちの方が四方八方に届くというか。一箇所じゃ自分はダメだなっていうか、満足出来ないです。自分は出来ないジャンル、苦手なものが人より少ないと思うんで、昔から色んな音楽を聴いてきたしやるべきかなって。

- 声を素材として使うのと、ちゃんとリリックを乗せるというのはまた違いますよね。ちゃんとリリックを書いてみようってなったのはいつですか?

LEX - SoundCloudに一番最初に上げたXXXTentacionの“Look At Me!”のリミックスですね。それまでは友達と遊びでフリースタイルラップをしてたんです。「曲を作ろう」ってなって、いざ歌詞を書こうって書いてみたんです。あ、違う。6歳ぐらいのときにお姉ちゃんと妹とフィンガー5の曲をYouTubeで見つけて、歌詞をみんなで書いて歌ってたのが最初かもしれないです(笑)妹とお姉ちゃんと3人でパート分けして、替え歌を歌ってたっす。お母さんが勧めてきて。大体そこからハマってましたね。美空ひばりにもハマってました。

- 美空ひばりはどこが好きでしたか?

LEX - お風呂場で歌うと気持ちよくて。小学生くらいの頃「勝つと思うな思うと負けよ」って“柔”をずっと歌ってました。お母さんの影響で小学生の頃は演歌が好きでした。逆にお父さんは海外のものを教えてくれたんで、両方好きでしたね。

- 最初に“Look At Me!”のリミックスを書いてみて、その後めちゃくちゃ曲数を作ってるわけじゃないですか。「自分の曲をどんどんやってみたいな」ってなったんですか?

LEX - 一曲目が出来上がって聴いたときから「すげえ楽しいな」って思って、そこから作り続けて。「次はこういうテイストの曲が作りたいから、こんな感じのトラックを探すか」って。ビートを見つけるのも楽しいですし。

- ビート探しもYouTubeでひたすら聴いてるってことを聞いたんですけど。

LEX - 最近はYouTubeとか、曲を友達からTwitterとかインスタで送ってもらったり。Beatstarとかで垂れ流しにして「これだ」みたいなのもあるし。

- 今回のアルバムは全部ビートサイトからのビートですよね。“STREET FIGHTER 888”とかはよくああいうビートを見つけてくるなと思いました。

LEX - ビートメイカーの方もアメリカじゃなくて、フランスとかそっちの人で。ああいう感じのビートをあまり作ってる人がいなくて。エレクトロの自分が聴いてる人を名指しで「Type Beat」って検索して。その時はCrystal Castlesって検索したら出てきたんですけど。

- 常にヘッドホンをしてるじゃないですか。ずっと音楽を聴いてるんですか?

LEX - 常に。でも最近は常に同じ曲を聴いてて。Eiffel 65の“Blue”っていう一番売れた曲あるじゃないですか。あれをずっと聴いてます(笑)

- ハマると同じ物ばっかりって感じなんですね。

LEX - そうです(笑)ハマると飽きるまで聴くんですけど、飽きるまでのピークが長くて。絞り尽くして「お腹いっぱいです」って。

- Eiffel 65は確かに“STREET FIGHTER 888”の流れにあるような感じですけど。あの曲の良いところはどこですか?

LEX - 前からずっとEiffel 65を聴いてたんで、そこからヒントを貰ったところもありますね。

- ああいうエモーショナルなメロディに惹かれる?

LEX - エモーショナルのタイプによると思うんですけど、自分が好きなエモーショナルなものは明るい中に切ないのが散りばめられてる感じで。Eiffel 65の“Blue”も明るい曲なんですけど、裏側に切なさがあるというか。サビのところが好きで、歌詞も独特ですよね。MVもEiffel 65が青い宇宙人に攫われるってストーリーで、面白くてずっと聴いてます。ピアノの切ない感じが好きですね。だから今回の“STREET FIGHTER 888”もアップテンポな明るい曲ですけど、パーティが終わった後の静けさというか、裏側に切なさがある感じが凄く好きで。

- 同じ四つ打ちで、“PLASTIC”とかも切なさはありますよね。

LEX - 結構アップテンポな曲ですけど、切なさを散りばめるのは意識しましたね。

- こういうメロディのものとは対照的に、ビートしか鳴ってないような曲も好きじゃないですか。その時の感情によって選ぶビートも変わってきますか?

LEX - 元々性格が気分屋なので、自分のバイブスやモードによって作る曲は変わってきます。友達といるときは攻撃的な曲を作れる気分になりますし、落ち込んでるときはエモーショナルな曲を作ったり。曲を録る環境によって結構変わります。

- これまでの曲の中で、自分の中で印象的な曲はありますか?

LEX - “PLASTIC”は、歌詞を書いたとき友達とか周りと上手くいってない時期で。そのときに衝動的に殴るように書いたんですけど。日本語の部分が多くて上から和と洋のテイストを上から塗り直す感じなんですけど、あんまり修正も無しに書いて、レコーディングして自分としては珍しい楽曲ですね。レコーディングも30分くらい、4テイクくらい録って終わって。感情的なときに書いた曲なので、一番思い入れがあります。

- 実際こうやってLEX君と接してると、基本的にめちゃくちゃ穏やかじゃないですか。でも同世代の子や友達とかと居て、どんな時に感情的になりますか?

LEX - 結構友達と喧嘩とかが多い歳ですし、裏切りとかも多くて。僕は両方知り合いなんですけど、お互いが知らなくて救急車で運ばれるような喧嘩しちゃったときとか。お互い友達なんで、どう声をかけるべきか分からないし。そういう所に昔から感情が行ってしまうというか。人の気持ちを凄い考えるタイプなんで。後は、音楽を始めた頃にイギリス人の彼女が居て。それで結構付き合っていたんですけど、そのイギリス人の彼女が色々あって亡くなっちゃったことがあって。そこからだいぶ落ち続けてて、今も落ち続けてます。

- Twitterでも「死」について書いてることが多くて、XXXTentacionなどの死からきているものかと思ったんですが、身近なものだったんですね。

LEX - そうですね。それがXXXTentacionはぴったり合ったというか、共感ですね。

- なるほど。「人間には使命がある」っていうのは昔から思ってたんですか?

LEX - それも去年とかですね。彼女の件とか色々あって、凄い鬱になりかけてて。川崎の森から飛び降りて、救急車で運ばれたんですけど、その時に思いましたね。一回意識が無くなって、起きたときに「あ、まだ死ねないんだ」みたいな。「やっぱやることがあるし」って。自分が死にかけたときから強く思うようになりました。

- LEX君にとってはその使命が今は音楽を作ることというか。

LEX - 自分がどんな使命を持ってるのか、正解は探さなくて良いと思ってて。今自分が出来ることを精一杯やれば良いと思ってるし。それからは逃れられないかなって。

- 音楽を作ることで、モチーフになった出来事が起こったときの感情を思い出したりする訳じゃないですか。音楽を作ることはLEX君にとってどういう行為なんですか?ある人はそれを忘れるためのリハビリとしてやる人もいれば、逆にそれを思い出すために作る人もいるし。

LEX - 僕は思い出すタイプですね。「こういう気持ちの時に録ったんだっけ」って思い出しますし、自分の人生の落書き帳というか。あんまり自分もSNSにそういうことは書かないですし、日常に起こったこともあまり書かないので。人々がSNSに使うことを曲に使ってるんだと思います。言わなきゃ消化出来ないこととか、言わなきゃいけないこととか。多分人がカッとなってSNSに書くモーションが音楽になってるんで、カッとなったり悲しくなったりするとすぐ曲作っちゃう。

- だから、曲を作ってるときは感情的になってるから言われたらキレちゃうんですね。

LEX - 精神の全てをそこに使ってるから、感情が100%表に出てる時なんで。そういう時に友達とかに話しかけられたりすると「あ!?」って(笑)友達も最近みんな言ってますね。「曲作ってるときのLEXに話しかけない方が良い」って(笑)

- そういう時の自分のことを覚えてたりするんですか?

LEX - 覚えてます。毎回めちゃくちゃ集中してますし、自分が納得行くまでレコーディングしてます。気づいたら日をまたいでたりとか、毎回そうです。やっぱバイブスが鍵なんで。

- この間高校を辞めたって言ってましたけど、今のライフスタイルは?

LEX - 友達にライフスタイルの話をすると「お前おじさんだな」って言われるんですけど(笑)朝起きて、いつも歩いてる道を散歩してます。それで、そこからレコーディングをして友達とご飯を食べに行き、またレコーディングをして。散歩をしてる時も音楽はずっと聴いてますし。

- 散歩はいつからルーティンになったんですか?

LEX - 散歩は中3の終わりからしてますね。「散歩したいな」って思ったときに。結構日が当たってる時が多いかもしれないです。歩くとアイデアが生まれるんで。自分の1日の中で一番大事な時間です。ほんとにおじさんみたいですけど(笑)

- レコーディングは基本毎日してるんですか?

LEX - そうですね、あとは遊びに行ったりとか。凄く家が近いんで友達のSaru jr. Foolの家にも行くんですけど。バイクで行ったり車乗っけて貰って、おしゃべりしたり。彼の家に仲間がみんな集まってるんですけど。仲間も仕事してる人もいるし、悪いことしてる人もいるし。中学生の頃はみんなで悪さとか出来たんですけど、みんな彼女とか出来てきて。みんな大人になる途中っていうか。そんな感じっすね。段々大人になってることを実感してます。

- 自分も大人になってる感触はありますか?

LEX - そうですね。周りの人に感謝出来るようになって、それも自殺の件からなんですけど。

- それまでは自己中心的だった?

LEX - やさぐれてました(笑)今もやさぐれてる方なんですけど、そこで結構変わりましたね。お母さんに対する気持ちとかも変わりましたし。周りの人を大切にしてます。

- 今年取りあえず一作出して、次の動きも考えていますか?

LEX - 今回のアルバムが結構フューチャーサウンドっていうか未来的なアルバムだったんで、変化を付けたいなって思うし。僕の曲を聴いてる人には「毎回毎回LEXはアルバム出すごとにスタイルが全然違う」っていう聴かれ方をしたいから。次のアルバムは攻撃的な曲オンリーで行こうかなって考えてますし、ちょくちょく友達と作り始めてるんで。

- それはすぐに出そうですか?

LEX - そうっすね(笑)結構早いと思います。でも、これからもう少し時間があると思うんで。

- 今は取り敢えず自分の使命があると言ってましたけど、夢というか、自分で実現したいことは何ですか?

LEX - 夢...小さい頃から夢があまり無くて、日々生きてって感じなんで。夢は、NBAのファイナルとかを観に行ってみたいですね(笑)自分の中では全てにおいて叶えるっていう気持ちが強いんで、夢だとも思ってないし。自分なら出来ると思ってるんで。NBAかプロレスを観に行きたいなって思ってます(笑)でも夢を持つことは良いことだと思いますね。

- ありがとうございました。

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