ScHoolboy Qが新作『CrasH Talk』や父親であること、 ソーシャル・メディアなどについて語る
自身にとって5枚目のアルバムとなる『CrasH Talk』を4/26にリリースしたScHoolboy Qが、その前日、LAのラジオ局Real 92.3の番組『Big Boy's Neighborhood』に出演した。
THis tHe Happiest I eva been wit a album dropping... tHank y’all soo mucH #CRASHTALK OUT NOW... positive vibes today... literally smiling ear 2 ear... until tHe next cHapter... ✌? https://t.co/Ws8njkr0ko pic.twitter.com/hKMJGqJsTT
— ScHoolboy Q (@ScHoolboyQ) 2019年4月26日
「アルバムをドロップしてこんなに幸せだったことはない」というQは、終始にこやかな表情。ホストのBig Boyと「あんたは老人だよ」「ところで、今回のアホみたいなアルバムはどうしたんだ?」などと冗談を飛ばし合う和やかな雰囲気の中、同ラッパーは最新アルバムや趣味のゴルフ、娘を持つ父親であること、Nipsey Hussleの死やそれを取り巻くソーシャル・メディアのあり方などについて語った。
『CrasH Talk』は人生そのもの
今作『CrasH Talk』のタイトルについて、Qは「俺の人生そのもの」と話す。
何かをして全部ぶっ壊して(crasH)、愛する人に出会ったと思ったらダメになって(crasH)…俺の全人生がだいたいそんな感じなんだ。
これまでのアルバムを振り返っても、メジャー・デビュー作『Oxymoron』(2014年)、続く『Blank Face LP』(2016年)、そして今作と"crasH"を繰り返し、それぞれ趣の異なる作品に仕上がっているとQは語る。
"CrasH"したのは音楽ばかりでない。その「Numb Numb Juice」のラッパーは、『Oxymoron』リリース時にドラッグ漬けで体重が250ポンド(≒ 113 kg)あった、自称「超デブ(super fat)」な過去の自分自身も変えてみせた。靴紐も屈んで結べないほどに太り、下着が勝手に捲り上がってくる状態だった彼は、その後ワークアウトに励んだ結果、今では180ポンド(≒ 82 kg)程度をキープしている。「250ポンドで『超デブ』なら、500ポンドあった俺はどうなんだ?」というBig Boyの質問には「目も当てられない(terrible)」と簡潔に答えている。
Kid CudiとKendrick Lamarが果たした役割
これまでのアルバムは誰かのために作ってきたのに対し、今作は何よりも自分自身のために作ったのだとQは話す。その理由を、そのLAのラッパーは次のように説明する。
『Oxymoron』は大ヒットになって、チャートでも国内で1位を獲れて、4曲のヒット曲が入ってたけど、評判はイマイチだった。『Blank Face LP』は『Oxymoron』ほど売れなくて2位だったけど、批評的には成功した。レビューで10点中8点や9点を取ったりな。でも『Oxymoron』ほど成功したとはいえなくて、どういうことだ?って感じだったよ。だから、レイムなヘイターたちのためにアルバムは作らないって決めたんだ。
そんな今作には、Travis Scott、6LACK、Ty Dolla $ign、YG、21 Savage、Kid Cudi、Lil Babyの7名がゲストとして参加。彼らとは「特に親密な関係じゃない」とぶっちゃけて笑いを誘いながらも、Cudiに対し以下のとおりシャウトアウトを送っている。
彼は俺みたいな変わり者のために障壁をぶち破ってくれた。Kid Cudiのおかげて、変わっていてもいいんだ、自分自身でいていいんだって思えた。こんなヘンテコな帽子を被ったっていいし、ピンクの服を着たっていい。全部、Cudiのおかげさ。
また、レーベルメイトのKendrick Lamarは、Qの作品に深く関与しようとする一人だという。
「アルバムを持ってきて、聴かせてくれ」とか言うんだ。あいつは科学者みたいだよ。試しに何かを渡して聴かせると、気づくと声やビートが変わって、アドリブが加わってたりして、「どう思う?」なんて訊かれる。それがゴミだったことなんてない。あいつは特別な存在だ、グレイテストだよ。
そのKendrickは今作で、先行シングル3曲を含む6曲にクレジットされている。
ゴルフがもたらしたもの
毎アルバム、新しい人と会うことでインスパイアされ、制作に励んでこれたというGroovy Q。今作の制作にあたっては、ゴルフを通じて新たな人間関係を持てたことが良いインスピレーションになったと語る。
毎日ゴルフをしていると、コースでいろんな人に会うんだ。明日の朝にはジョージ・ロペスともやる予定だったんだけど、ニューヨークに行かなきゃいけなくて(無理になってしまった)。
Qがゴルフの様子をあまりにも頻繁にInstagramのストーリーにアップしているため、彼がゴルフ場でなくスタジオに行くよう求めるファンの声もあるが、意に介さない。
俺は音楽とすごく真剣に向き合ってる。早くアルバムを出してくれみたいなことも言われるけど、俺は他の誰もやらないようなことをやってるんだよ。
スタジオと家との往復に加え、ゴルフを通じて外に出ること・新しい人と会うことが、Qにとっては好循環を生んでいるようだ。
人の死とソーシャル・メディア
Qは今作『CrasH Talk』リリースにあたって、昨年9月に急逝したMac Millerと、今年4月に銃撃に倒れたNipsey Hussleにメッセージを送っている。昨年9月にはライブでは、Macが亡くなったことを受けて「今はアルバムを出す気分でない」とも発言していた。
今回もNipseyの死を受けて、アルバムのリリースを1週間延期した。
変な感じがしたよ。Nipseyみたいな人が死ぬなんて考えもしなかった。Nipseyの件を受けて取り下げた動画もある。それを上げる気にはなれなかったんだ。今上げるのは違うと思った。俺の状況なんて関係ない、彼の家族やらの気持ちを考えたら。人々が今Nipseyをサポートしているのと同じくらい、生きている間にサポートしてくれてたらなとも思うけど。
Nipseyの生前よりも死後に、多くの人が彼へのサポートを示していることについては、「変な感じがする」と率直な気持ちを述べながらも、「原盤権を彼が所有しているから、子供のためにもサポートを示すのはいいこと。ヘイトする必要はない」と語る。
ソーシャル・メディアで人の死を悼むことについて、QはInstagramのストーリーに「Nipseyについて話せってDMしてくる奴がいるけど、俺がどうしてると思ってるんだ。ラップ・ファン気取りが」「Macの名前も出したことないだろ。IGに向かない物事もあるんだよ。俺はここじゃなくて現実で彼の死を悼む」と書いていた。
Schoolboy Q response to folks DMing him to talk about Nipsey. Respect. Let people grieve how they grieve. ?? pic.twitter.com/LFDmbtQxb6
— Ky, The Creator. (@hausofky) 2019年4月3日
このインタビューでも以下のように見解を示す。
彼には毎日周りにいるような身近な人がいたんだ。お母さんであれ娘であれ、その人たちに死を悼ませてあげたい。俺はわざわざ間に入るんじゃなくて、彼らに立ち直ってほしい。
多くのアーティストがソーシャル・メディアで存在感を示すことに躍起になる昨今では、そこで発信される内容が全てであるかのように錯覚してしまいがちだが、ソーシャル・メディアはその人の一面を切り取ったものにすぎない。人を思いやることが本来どういうことなのか、考えさせられるコメントだ。
父親であること
『Oxymoron』のカバーを飾った娘のJoyちゃんも、今年で10歳の誕生日を迎えた。父親としての経験が自分をどう変えたかという問いに対して、32歳のラッパーはこのように答える。
人のことをあまり気にしなくなったね。あまり腹を立てなくなった、昔はよく怒ってたけど。
愛娘との関係については以下のとおり話す。
娘のサッカーの試合や練習にもよく行くんだ。音楽については、娘は認めたがらないけど、俺はたぶん娘のフェイバリットなラッパーだな。俺の曲がかかると全リリックをラップしてたりするんだ。
Qと同じく娘を持つBig Boyは、「娘が付き合い出したらどうする?」と質問するが、ここでもQらしい態度を見せている。
俺は娘の彼氏と一緒にウィードを吸うような父親でいたい。(男のことで娘が泣いたとしても)しょうがない、それはどうしたって起こることだから。彼女には高校から付き合った人と結婚まで進むような経験はしてほしくない。間違いを犯したことのある人と一緒になってほしいんだ。完璧な人なんていないから、失敗はするものだろ? 別に浮気してもいいとか言うわけじゃないけど、失敗を経験して関係を築く方法を知っていてほしい。
子供とはいえ、「自分によく似た存在」「同世代の他の女の子とは少し違う」と評するJoyちゃんにいっぱしの人間として信頼を置くからこその態度なのであろう。
所属レーベルのTDE (Top Dawg Entertainment)、ひいてはヒップホップ界きってのお調子者として知られるScHoolboy Qだが、その発言には時としてハッとさせられるような含蓄があり、思慮深さを覗かせる。詳細は発表されていないが、近日中に『CrasH Talk』を引っさげたツアーもあることだろう。"CrasH"を続けるQから、今後も目が離せない。
奧田翔(おくだ・しょう)
1989年3月2日生まれ。宮城県仙台市出身。会社員・ライター。今年はReal 92.3主催のReal Street Festivalに行きたい!