【インタビュー】Ryan Hemsworth 『CIRCUS CIRCUS』|「ゆるふわギャングはプロデューサー目線を持っている」
先日、ゆるふわギャングとのジョイント作『CIRCUS CIRCUS』をリリースしたカナダ出身のプロデューサーRyan Hemsworth。ゆるふわギャングと共に回ったアジアツアーも大きな話題となった彼は、世界中の様々なタイプのアーティストと組んだアルバム『Elsewhere』をリリース。ディガーとしても知られる彼の耳の良さを感じられるオールマイティーなプロダクションスキルを披露している。
その後に臨んだゆるふわギャングとのコラボ作はどのように誕生したのだろうか、ツアー前に日本を訪問していた彼に話を聞くことができた。
取材・構成 : 和田哲郎
写真 : 横山純
- Ryanはもうかなり日本にも慣れていますよね。特にお気に入りの場所はありますか?
Ryan Hemsworth - ベーグルショップで、代々木公園の近くにあるテコナというお店が好きなんだよね。メニューの日本語を読むことができないから、いつも何が入ってるか食べてからびっくりするよ。そこで買ったベーグルを持って、代々木公園のドッグランに犬を見に行くね。あとは喫茶店かカフェに行って、普通に仕事をしたりするよ。ショッピングはお金をたくさん使っちゃうのがわかってるからしないようにしてる(笑)
- 昨年からRyanは多くの日本人アーティストにも楽曲を提供していますよね。ゆるふわギャングとは"Speed"があって、その後でもう一度しっかりコラボ作を作ろうと思ったのはなんででしょうか?
Ryan Hemsworth - これまでアジアのアーティストとはEメールでやりとりをして曲を制作していたけど、ゆるふわギャングが昨年末にアメリカで長期間滞在するのはわかっていたから、一緒にスタジオに入って自然な流れで制作ができたんだ。
- Ryugo IshidaとNENEの2人の魅力はどういったところでしょうか?
Ryan Hemsworth - ゆるふわギャングの2人は実際のカップルだよね。他のアメリカのラッパーにもない親密な関係が存在している。ただ音楽的にいうとNENEはクレイジーでアグレッシブなフロウをもっていて、Ryugoはチルでレイドバックしたムードを持っていて、正反対なところがいいよね。
- 『CIRCUS CIRCUS』の楽曲でRyanはゆるふわギャングに対して多彩なトラックを提供していますが、どのように制作は進んだのでしょうか?
Ryan Hemsworth - 半分のトラックは、これまで自分が作ってきたストックから彼らがチョイスしたものだよ。"Fresh All Day"とかは自分のストックリストの中でも、かなり埋もれていたトラックだったんだけど、聴かせたらNENEがすぐにコーラスを作ったから、レコーディングをしようってなったんだ。自分にとってもすごいたくさん発見があるレコーディングだったよ。
- 2人にコーラスなどのアドバイスもしたそうですね?
Ryan Hemsworth - "No Visa"でのビザって言葉の使い方が面白かったから、こうやって使ってみたらとか、フックの部分とかのアドバイスはしたよね。基本的には彼ら2人がやりたいようにやるのが重要だけど、「どう思う?」って訊かれた時には、意見を言ったりはしたけど、思いっきりディレクションをしようとかはなかった。
- ゆるふわギャングとのレコーディングで印象的なエピソードはありましたか?
Ryan Hemsworth - あまり覚えてないんだよね(笑)靄がかった印象で、記憶があまりないんだ(笑)毎日お昼から夜まで一緒に曲を作って、"Fresh All Day"のビデオを撮った日が最終日だったんだけど、その日に近くのプールに行ったりリラックスしてたよ。
- 前一緒に作った"Speed"はメールでのやりとりで作りましたよね、実際会って曲を作ったときとの違いを教えてください。
Ryan Hemsworth - ゆるふわギャングはプロデューサー目線を持っているんだ。実際会ったときには彼らからビートのピッチを速くしてほしいとか、フィードバックをたくさんくれて、これは他のラッパーではあまりなかったことだね。Automaticはレコーディングのときにすごく手伝ってくれた。レコーディングブースから出てきたときに、これまでとは違うバースを鼻歌で歌っていて、そっちもいいからレコーディングしてみようという提案ができるのは、実際に会ってるからこそできることだよね。
- "Fresh All Day"のミュージックビデオで、Ryanがプールサイドでヘッドバンギングのような動きをしていますよね。あのシーンはどのように撮影されたんですか?
Ryan Hemsworth - あのシーンはプールでナチュラルに撮られたものだよ、曲も流してて。ビデオで前に出たいタイプじゃないから、5%くらいの出方でOKなんだ。1つの印象的なシーンになればいいんだ(笑)僕はPuff Daddyとは違うから。
- これまでは英語のラップが自分のビートにのることが多かったと思うんだけど、いまは日本語や韓国語も増えてますよね。他の言語がのる事で自分のビートの聞こえ方もかわったりしますか?
Ryan Hemsworth - ほとんどは外国語のラップって感じに聴こえるだけなんだけど、ゆるふわギャングとか他の日本のアーティストでいうとTohjiのラップを聴くと、言葉はわからないけどフィールするものがあるし、韓国だとR&Bのシンガーの曲とかが似た感覚にさせてくれるね。ゆるふわギャングとかTohjiの面白さはラッパーという枠をこえて、自分たちの生き方とか、オルタナティブなものを持ち込もうとしているし、すごく音楽的な行動をしていると思う。しかも彼らは自分たちの道もわかっているし、それに対し自分がどれだけ貢献できるかっていうのは、すごく楽しみでワクワクする。『Free Rave』でTohjiのステージをみたけど、すごいエネルギーだったよ。ゆるふわギャングとのツアーもとても楽しんでるよ。
- ここまでゆるふわギャングなどの話を聞いてきましたが、Ryan自身も昨年アルバム『Elsewhere』をリリースしましたよね。本当にRyanでしかできない様々なタイプのアーティストが参加したアルバムとなりましたね。
Ryan Hemsworth - 前のアルバムから2~3年経って、ようやくリリースすることができた。前作をリリースしてから、次はどうするって考えたときに全部ラップのアルバムにすることもできたし、今回みたいな様々なタイプの音楽が入るタイプの作品にすることもできて。自分のスタイルって何かと考えたときに、ラップだったりサッドな曲だったり、エネルギッシュなもの、オルタナティブな曲が混ざっているのが自分だと思ったし、色々なタイプのミュージシャンとできてすごい幸せだし、聴く人によっては「この2曲が好き」とか、幅広いリアクションがあると思うけど、そういうリアクションが出ること自体がとてもよかったね。
- 1人のプロデューサーが作ったコンピレーションという感じがします。
Ryan Hemsworth - 本当にそんな感じだね。現代のプロデューサーの作品ってそのプロデューサー自体ががメインになることは少なくて、自分の作品にも、例えばJojiがいて半分は彼の曲だけど、もう半分は確かに自分の曲といえるし、そういうバランスが自分にとってはいいんじゃないかな。このアルバムのあとゆるふわギャングと1対1で『CIRCUS CIRCUS』に取り組めたのはとてもよかったね。
- アルバムにも参加しているTaquwamiの1ヶ月連続リリース企画を、昨年自身のレーベルSecret Songsで去年やったのは、どういうきっかけで?
Ryan Hemsworth - あれは自分のアイディアだよ。彼は40曲も送ってくれて、全てよかったんだよね。10枚のEPにすることもできたけど、面白い形でリリースしようという話をしたんだ。Taquwamiは彼自身の世界観がしっかりあるアーティストで、どういう理由かわからないけど自分を信頼してくれて、一緒にリリースができてすごいよかった。まだ会ったことないけどね(笑)
- 2年前のインタビューではアフロビーツが面白いと言ってましたが、いまは何か気に入っているジャンルはありますか?
Ryan Hemsworth - 今は何が新しいかっていうのはすごく難しいよね。若い世代の人は、いろんなジャンルを聴くよね。自分が子供のときはラップが好きならロックは聴かないという感じだったけど、今は関係ない。自分自身はアメリカのポップスシーンで受け入れられてるとは思わないけど、アジアのアーティストはオープンマインドに接してくれるので、すごい楽しく曲が作れるよ。あといまサイドプロジェクトをスタートしていて、ギターなどの楽器もプレイしているよ。バンドのサウンドなんだけど、そこにラップのエッセンスを入れたりしている。自分は真ん中の立ち位置にいる人間だから、とてもいまの状況は楽しめているよ。
- さっきRyanが言ったように、今は色々なものが混ざっていますよね。Billie Eilishもポップスとラップの要素が自然にブレンドされていたり。RyanがSoundCloudにアップしていたリミックスのような楽曲が普通にオリジナルの楽曲として出てきている時代になっています。
Ryan Hemsworth - 10年前、自分がリミックスをアップしていたときはなんだよこれみたいな感じで言われたけど、今やカントリートラップが全米ナンバー1だよ(笑)いまは色んなジャンルが混ざるのが普通になっているし、面白いよね。