Spikey John x 木村太一 対談 | Spikey Johnが木村太一にディレクションを学ぶ

Nulbarich作品のミュージックビデオを手がけたり、2018年 DRUM&BASS ARENA AWARDSの年間優秀ビデオ賞を獲得したロンドン在住の映像作家木村太一と日本のヒップホップ・ニュージェネレーションのMVを数多く手がけるSpikey John。FNMNLの年末企画のスピンオフとして、2人にお互いのビデオから1つベストを選んでもらい、制作について、映像作家のありかたについて語ってもらった。Spikey Johnが師と仰ぐ木村太一との対談。はたしてどうなるだろう?

取材・構成・写真: Jun Yokoyama (Twitter / Instagram)

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Spikey Johnが選ぶ木村太一の2018年ベスト作品 - Nulbarich "Almost There"

まず先攻はSpike Johnから行きましょうか。

Spikey John - まだ悩んでるんですけど、2本あって。Chase & Statusの"Retreat2018"とNulbarichの"Almost There"です。けどNulbarichさんのビデオかな。初めててこのビデオを見た時、曲の雰囲気ととマッチしたそのシンプルな構成に感動しましたね。微妙に絵がぶれている感じで、写真らしいビデオだと思うんですが、本来なら三脚使いそうなシチュエーションですが、使わなかった理由とかありますか?

Spikey John

木村太一 - 三脚も借りていたんだけど、絵に三脚が合わなかったんだよね。なんていうか自分がこのビデオで提示したい「ストリート・ドキュメンタリー感」が薄れちゃうから。ブレはなくなるけど「固定された世界」になっちゃう。MVなんでもちろんフィクションのドキュメンタリーですが、持ってるようで持ってない、持ってる?くらいの感じを出したかった。リアルな感じを出したかったから、撮影場所も出演してくれたNYのキッズたちが本当にハングアウトしたりチルしてるところでも撮っていたりする。

広角レンズを使って被写体にぐっと寄っている印象がありますが、そのドキュメンタリー感や距離感は意識していますか?

木村太一 - ビデオの中で使用しているのもほとんどが広角レンズですね。自分の作品『LOST YOUTH』以来、広角レンズを使って、被写体の近い距離で撮るという手法を意識してます。周辺が歪むぎりぎりまで寄っていったり。

木村太一

Spikey John - おかしな言い方になっちゃうかもしれませんが、音がなくても、この色彩や構図で見れちゃうというか。写真のスライドショーのような、けどストーリーが進んでいくみたいな。太一さんのビデオ以外の年間1本を選ぶとなったとしても、これを選びますね。青いオブジェクトとか赤いオブジェクトとかプロップスは事前に準備していたんですか?

木村太一 - 事前に用意した道具ももちろんあるよ。観葉植物とか赤のスプレーとか。フルフェイスヘルメットやベイプとか。けど赤い壁みたいなやつは部屋を貸してくれたフォトグラファーの部屋にあったから採用した。Spikeyがストリートとかでスポットを見つけて撮っちゃうやり方とすごく似ていると思う。最初の企画や絵コンテでイメージがなくても、潜在意識の中でイメージが統一されてたら自然と絵に出てくるよね。

Spikey John - 自分もShurken Pupのビデオを撮影して、編集し終わった時に気づいたことがあって。オレンジがキーカラーになったんですよ。彼らの衣装がオレンジだったんですけど、自分が「ここがいいな」って思った駐車場にもオレンジのラインがあったんです。それは意識的にしたわけじゃなくて、撮影現場で起こるシンクロの不思議を感じましたね。

あと16:9の構図がとてもきれいだなと思いましたね。いつも自分も16:9でビデオを作ろうとチャレンジするのですが、より「映像」の雰囲気が出るシネスコ(12:5)にして逃げちゃうときがあります。Shuriken Pupの"Trap City"は逃げないでいけました。来年はちゃんと16:9と向き合いたいですね。

木村太一 - シネスコってやっちゃったら勝ちみたいなところあるから。雰囲気あるからね。安いバジェットで制作してててもシネスコにしたら雰囲気良くなるもんね。

Spikey Johnならこのビデオをこうは撮らないな、とか自分が気になっちゃうところとか教えてください。

Spikey John - これはありますね。(笑) 自分は神経質すぎるタイプなので、自分なら端っこの青いタイルが斜めになっているところや、白くもやってなっているところが入ったりとか、自分だったら編集の段階でトリミングしたりするかもしれませんね。

木村太一 - 自分としてはその不完全さを映像に残しておかないと、ドキュメンタリー感が薄れちゃうと思ったんだよね。さっきも言ったけどテーマがストリート・キッズのドキュメンタリー「風」ビデオだから。

Spikey John - 自分はドキュメンタリーだろうがインスタだろうが、すべてにおいて細かいところ気にしちゃうんですよね。

木村太一 - 押さえるところを押さえておけばいいと思っているし、そういうポイントをもし視聴者の人が気になって映像に集中できない、とかなったら自分の負けだと思っている。それはどういうことかと言うと、その部分は自分が見せたいところじゃないから。基本的にこの真ん中に写っている人とストーリーに集中してもらいたい。構図だったり映像の細かいところは脇役。不完全らしさが人間らしさというか。お寿司を食べるシーンも、箸からお寿司がポロって落ちちゃうアウトテイクを採用してるんです。

Spikey John - 自分は本当に神経質すぎて仲間に「それは気にしすぎ」ってよく言われるんですよ。納得行かない時はカットを変えちゃうときもあるんですよね。

木村太一 - それはもったいないよ。あくまで絵を撮るわけじゃなくて、主題やストーリーを撮るわけだから、気にしすぎないほうがいいと思うけど。コンセプトを真ん中に持っていったほうがいいよね。実はNulbarichの他の自分が撮ったビデオには映像の中にスタッフの手が入っちゃってるシーンがあるんだけど、それは誰も気づいてないから、俺の勝ち。(笑) ストーリーの邪魔をするまでじゃないなら、映像が完璧じゃないからって理由でカットすることはないね。自分はその不完全さをパワープレイや編集なんかで押し殺す勢いでやってる。フォーカスなんか合ってないところばっかりだし。

木村太一が選ぶSpikey Johnの2018年ベスト作品 - WILYWNKA - See You Later feat. 変態紳士クラブ (Prod. GeG) 

Spikey John - 初めて太一さんにちょっと攻め込みましたね。太一さんは自分が作ったビデオをいつもけちょんけちょんに言ってくるんですよ。(笑)

木村太一 - それは感想を聞かれたから真剣に答えてるだけだよ。(笑) けど、WILYWNKAの"See You Later"のビデオは良かったよね。

Spikey John - これは初めてストーリーを企画の段階でちゃんと考えて作ったビデオなんです。今まではコンセプトを元にして映像を作り上げてきたんですが、ストーリーを軸に撮ったはじめての作品です。

木村太一 - Spikeyのいいところは説明っぽくなくて「かっこいいからいいじゃん」っていうところなんだよね。一番このビデオで好きなところは。WILYWNKAが大阪でタクシーに乗ったら東京に着くシーン。あと、お昼に居酒屋に入って出たら夜になっているところとか、ストーリーを全部細かく説明せず、理屈なしにぶっ飛ばしていくところがいいよね。HIPHOPのMVって単調になりがちなんだよね。複数のシチュエーションでリップシンクしているのを組み合わせる感じで。

けどこのビデオだとタクシーで東京に来ちゃうっていう、強引なストーリーの展開があって面白い。自分が大人になっちゃったのかもしれないけど、やっぱり「タクシーで東京?そんなわけないじゃん」って思っちゃってやんないもん。(笑) それがジェネレーションなのかもしれないけどね。いろんなものをぶっ飛ばしていくかっこよさ、Spikeyのいいところだよね。渋谷でゲリラで撮っちゃうところもいいし。

Spikey John - 渋谷は俺の街ですからね。(笑)

木村太一 - 勝手に言ってろよ。(笑)

このビデオで気になったところは監督がキャラクターに対するディレクションが少ないってところかな。エモーショナルなことをラップしているのに、それが表現として少ないと言うか。

Spikey John - 確かに人物の動きの流れ「ここで入ってきて、友達とハイタッチして、居酒屋に入る…」みたいなレベルまでのディレクションはできてるんですが、表情とか動きとか、ラップの強弱とかの演技のディレクションまではまだできていないかもしれませんね。

木村太一 - HIPHOPのいいところって感情がむき出しになるところじゃん。「Sad Boy」なジェレーションになってきてそこまで強い表現をしなくなってのもあると思うんだけど、感情表現を上手に出してかっこいいって思わせるアーティストもいるじゃん。例えばYDIZZYとか。彼はそこらへんのディレクションがなくても自分でできちゃう人だから。MdNのインタビューでも言ったけど、KEIJUのMV撮影前には、その表現について、「いいラッパーと悪いラッパーの魅せ方の違い」とかの話を撮影前にめちゃくちゃ話した。ライブの時は出来てるんだろうと思うし、歌詞の内容もエモくてかっこいいけど、もしMVの時にそれができないなら監督のせいでもあるから。

Spikey John - まだまだ自分の、ディレクションにおける語彙が少ない気がするんですよね。「もっとぶち上げて!」くらいしかないと言うか。

木村太一 - 工夫レベルの話なんだけど「もっとリップシンクの口の動きを大きくして!」とはよく言いますね。そうすると歌詞に入っている感情も一緒に出てくるし。それだけでもっとエモーショナルになる。そういう意味で自分のビデオの細かい「絵」のところが気になるっていうSpikeyはかわいいなって思いますね。(笑)

Spikey John - ラッパーや演者のナチュラルな才能にまかせてしまっていた部分はあるかもしれませんね。逆に自分がもっとディレクションしていいのかと気づいたというか。

木村太一 - 監督の根本的な仕事だよね。Spikeyはもっとディレクションしたほうがいい。むしろ、Spikeyに言ってもらったほうが一緒に作っている人は、気にかけてくれているんだって嬉しいと思うよ。あと、ちょっと自由にやらせてから後から「ここはこうしてほしい」って言うより、最初に自分が考えるかっこいい映像や「ラッパーってかっこいいもの」っていうテーマをちゃんと伝えて、認識を共有させるのが大事ですね。

木村太一 - ディレクションって感情の奥の奥まで行かなくちゃいけなくて、ラッパーに対して「楽しい感じで」ってシンプルなディレクションをするんじゃなくて「一人で居るから楽しい」、「みんなで居るから楽しい」、「悲しいことがあったから楽しくしようとする」とかたくさんの種類があるから、そこを解像度高く認識して、伝えていかないとミュージシャンであろうがもちろん役者であろうが付いてきてくれないと思うもん。

木村太一 - 海外のラッパーってそのディレクションをしなくてもいいくらいのスキルやストーリーがあるんだよね。自分が撮った中ではGiggsはディレクションできる雰囲気なんかゼロだよ。もうすでに普段の所作から彼のストーリーや雰囲気が出てるよね。

Spikey John - Shurkn Papの"Trap City HIMEJI"は彼らがMVに慣れたのもあるのか、動きや感情表現がちょっと洗練されてきましたね。そう思うとkZmくん、YDIZZYさんやAwichさんなんかは雰囲気あったなと思いますね。

木村太一 - 本当にいつも思うけど、スパイキーは映像が好きなんだなーって思う。映像に対する執着心がすごい。俺の撮影にもよく来るし、何か学ぼうとする姿勢が素晴らしいと思う。生意気さがあるし、監督して必要なエゴと繊細さも持っている。勢いのある監督だから、自分も負けじと頑張らなきゃと思います。

彼との最初の出会いを覚えていますか?

木村太一 - 彼と出会ったのは2017年の『LOST YOUTH』のプレミアが最初。いきなりインスタで連絡が来て、イベント来たいって言って、握手したのは覚えてる。それが今じゃ俺と対談できるくらいの映像監督になったんだから、彼をすごい誇りに思います。MY G love ya. でも、俺みたいになるのは100年早いからな。(笑)

Spikey John - もう対談というより勉強会って感じでした。アーティストへのディレクションの話は僕がずっとモヤモヤしていた事だったので。そして、僕が気になってた所も全部論破されてなんか映像の一番大事な事を教えられた気分でした。

僕の映像人生が始まったのは太一さんの作品と太一さんと出会ったのがきっかけで、今も沢山の影響を受けてます。太一さんはロンドンに住んでいてなんだかんだ会う機会は少ないのですが僕にとっては大きな存在で一番信頼している先輩です。太一さんの自慢の後輩になれるようこれからも日本でぶちかましていきます!

今年の振り返りと来年について一言お願いします。

木村太一 - 今年は今までのキャリアを振り返っても特に充実していたと思います。しかし来年は、更にエキサイティングなプロジェクトが既にラインナップされているんで、今年の勢いを超えるような活動が出来るように頑張りたいと思います。とりあえず、2月か3月にヤバイニュースがあるんで期待しててください。

Spikey John - 今年は自分にとってめちゃくちゃいい年でした。メジャーの方々とお仕事ができたり、中学生の頃からファンだった清水翔太さんのツアーのオープニング映像を担当させて頂いたり、去年に比べると仕事の規模がかなり大きくなりました。来年も今のペースでどんどん大きなプロジェクトに関わっていきたいです。そして、日本語ラップシーンも影で支えていけたらなと思います。ヒップホップのビデオを撮るのは楽しいですし、そのおかげでここまで来れたと思うので。ラッパーの皆さん来年もよろしくお願いします!

Spikey John

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木村太一

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