【特集】ZAYN『Icarus Falls』| 音楽性とスタイルから現代のポップスターを考察する
「チル」の時代と物語――ZAYN『Icarus Falls』に2018年を見る
イギリスのポップアクト、ZAYNのセカンド・アルバム『Icarus Falls』がリリースされた。ZAYNことZayn Malikは、2015年にイギリスの人気ヴォーカルユニットOne Direction(1D)を脱退したのち、ソロで活動を開始。同作は2016年のデビュー作『Mind Of Mine』以来2年ぶりのアルバムだが、コンスタントなシングルリリースで注目を集めてきた。
『Icarus Falls』は、レイドバックしたR&Bフィーリングの楽曲が集まった2枚組、全27曲(+ボーナストラックが2曲)の大作だ。とはいえ、全曲あわせても100分を超えることはない。3分台のポップソングで構成された、ボリューミーだがタイトなアルバムだ。甘美なラヴソングが集められ、タイトルが示唆する通り天に昇っていくかのようなディスク1の『Icarus』と、太陽に翼を焼かれて墜落するイカロスの姿をなぞるように愛の喪失へとなだれこんでいくディスク2、『Falls』。という具合に、2枚を貫くのは筋の通ったわかりやすいストーリーだが、単なる愛と喪失の物語だけではなく、One Directionからの脱退を経てソロ活動に乗り出したZAYNのキャリアを重ね合わせるリスナーも多いだろう。ソロ活動後の彼の作品には、どうしてもそうしたコノテーションがついてまわるし、実際にそう思わせるフシもある。
楽曲に目を向けてみると、完全にモードは「チル」。テンポは遅めで、アタックを過度に強調しないやわらかなサウンドで統一されていて、ダンサブルなサウンドであってもダンスホール~アフロバッシュメントの感覚でクールにまとめている。もっとも激しく身体を揺さぶるのはNicki Minajをフィーチャーした"No Candle No Light"だが、リズムはレゲトン風だ。本稿では、『Icarus Falls』のサウンドをこうした「チル」の観点からまとめて、2018年のモードとしての「チル」像を描いてみたい。
80年代風のベタ打ちのドラムスやスラップベース、ブラスシンセは2010年代のポップスにしばしば登場するサウンドだが、本作ではそうした要素をふんだんに盛り込みつつも、あえて高揚感のあるアレンジは避けている。まずそこに、「チル」のモードが感じられる。Christine and the QueensやTroye Sivanなどのポップアクトに見られるようなシンセポップのリバイバルとも距離があり、いたずらにアゲず、セクシーですらあるクールさにとどまるのは、たとえばGeorge Michaelのよう。イギリスを拠点とした80年代のポップスターのひとりとして、ZAYNがロールモデルにしている可能性は高そうだ。
また、80年代のエッセンスとしては、当時のヒットチャートを彩ったメロディアスなバラードへの回帰も感じられる。アルバムの冒頭を飾る"Let Me"、また"Back To Life"や"There You Are"、"Sour Diesel"のようなバラードはまさにその例だ。とはいえ、過剰にエモーショナルなヴォーカルや凝ったクドい展開は控えられ、ましてこれみよがしのギターソロもない。
サウンドの鍵をにぎるプロデューサーの多くは、前作からZAYNと作業してきたMalay(Frank Oceanの『Channel Orange』や『blonde』の多くの楽曲に参加しているほか、Lorde、Sam Smith、Lykke Liといったポップアクトも手掛ける)、Levi Lennox(M.I.A.にも楽曲を提供)、MakeYouKnowLoveなど。今回は加えてSALTWIVESが11曲と半分近くを占める。いずれも、エレクトロニックでミニマルなアプローチを得意とするR&B系のプロデューサーだ。ただ、ここで重用されているSALTWIVESはIggy AzaleaやBebe Rexha、Charli XCXに楽曲提供するプロデューサーだが、その他の仕事はそれほど多くない。前作から引き続いたプロデューサー陣も多いことから考えて、ネームバリューを優先するよりも信頼できるチームとタッグを組むことを重視していることが伺える。ディスクごとに筋の通ったコンセプトを成立させているのは、こうした座組の力も大きそうだ。
さて、サウンドをより細かに検討していくと、本作が注意深く組み立てた「チル」のモードがより鮮明になる。
まず注目したいのは、低域の扱いだ。地を這うようなサブベースまでを鳴らしきるよりも、ベースに存在感をもたせ、ZAYNのヴォーカルを中心に中域を鳴らすアプローチがとられている。そのヴォーカルを聞かせるさらなる工夫としては、ステレオ感を強調して中央に位置するヴォーカルの存在感を強めたり、音数を減らしてヴォーカルを際立たせているのがわかる。かなりたっぷりとしたリヴァーブ(残響)がヴォーカルにかけられているのも印象的で、80'sのリッチなサウンドを思わせる。
ヴォーカルそのものの表現も興味深い。歌唱力を見せつけるかのような歌い上げるパートはなく、むしろ抑えたトーンの歌唱がつづく。さりげなく添えられたハモりやエフェクトで感情の抑揚を表現していて、エモーショナルなのに暑苦しさやクドさがない。
前作『Mind Of Mine』のサウンドは、輪郭のはっきりしたビートやシンセリフが中心で、ヴォーカルへのリヴァーブも控えめだ。前作と本作を比較すると、力強いビートで壮大さを演出するポップスから、「チル」そして「メロウ」の時代への移行がはっきり感じられる。これにはもちろんZAYN本人の成長とか表現の洗練という面もあるだろうが、時代が迎えたモードチェンジと言ったほうがいいだろう。
たとえば、Drakeはポップスの「チル」志向をヒップホップサイドから推し進めてきた功労者だ。輪郭がぼやけたようなアトモスフェリックな上モノや、歌とラップの中間をいく「盛り上げすぎない」ヴォーカルは、『More Life』から『Scorpion』まで特に顕著だ。『More Life』収録の"Passionfruit"は、YaejiからCornelius、Benny Sings、Paramoreなどを魅了しカヴァーさせた、ここ数年のポップシーンの基準点となるような一曲といっていい。とはいえ『Scorpion』をひとたびプレイすればわかるように、プロダクション自体はやはりヒップホップ色が強く、シンプルな数小節のビートを反復するループミュージックの構造と、誇張された低域やアタックの強いビートが前面に押し出されている。
その点、『Icarus Falls』と比較するなら、ベテランディーヴァであるMariah Careyの近作との共通点のほうが多いかもしれない。2018年リリースの『Caution』は日本版のボーナストラックにKohhがフィーチャーされたことでも話題を呼んだが、アルバム自体も興味深い好リリースだった。80年代~90年代生まれの若いプロデューサーを揃え、オーセンティックなR&Bと現行のヒップホップをミックスしたようなビートも良いし、いかにもディーヴァ然とした歌い上げるヴォーカルを抑え、ビートと調和した「チル」のフィーリングを湛えたパフォーマンスもとても現代的な聴き心地だった。なにより、サウンドのさりげないレイヤーによってドラマチックな展開を演出する点が共通している。
加えて言うなら、ちょっと意外かもしれないが、先に言及した80年代のバラードを思わせるサウンドには、今年を代表する名作との評価もあるThe 1975『A Brief Inquiry into Online Relationship』を彷彿とさせるものがある。同作はポスト・パンクからシンセポップ、EDM、オルタナティヴR&B、ネオソウルなど、楽曲ごとに軽々とジャンルを横断しつつ、見事なストーリーを紡いだ一枚。Belinda Carlisleかと見まごうようなポップソング"It's Not Living (If It's Not With You)"もさることながら、FMシンセ系のピアノやギターソロが印象的な"I Couldn’t Be More In Love"は、『Icarus Falls』の"Let Me"などと並べて聴くと、「これが2018年?」という具合のいい意味でアナクロニックな体験ができる。
こうして2018年のポップシーンを横目に見ながら『Icarus Falls』を聴いてみると、こと豊作だった2018年のポップミュージックのなかでひとつの流れを成している「チル」を、ZAYNのパーソナルヒストリーとも重なるエモーショナルなナラティヴと結びつけた興味深い一作と言える。ドラマチックな仰々しさを避けながらも、普遍的な愛とその喪失――そこには男性のエゴや栄光がもたらす不信も含まれる――を語った本作に使われた様々な手法は、今後もっと多く見られるようになるかもしれない。
imdkm
ブロガー。1989年生まれ。いち音楽ファンとして、山形の片隅で音楽について調べたり、考えたりすることで生きている。
ブログ「ただの風邪。」 http://caughtacold.hatenablog.com/
ZAYN『Icarus Falls』に至るまでのスタイルの変遷
全米1位を獲得したソローデビューから2年、25歳になったZAYNの新作アルバム『Icarus Falls』は愛を綴った楽曲が多い。
そんな彼の生い立ち・人間性や魅力・ファッションなどについて紹介しようと思う。
ZAYNが音楽や芸術に惹かれるようになったのは、パキスタン人の父親(ヤーマル・マリク)の影響が大きい。
ヤーマルは2PacやNotorious B.I.Gなどの90年代ラップ、Bob Marleyなどのレゲエが好きであり、ZAYN自身はR・KellyやPrince、地元ブラッドフォードのラッパーなど多様なジャンルの音楽を聴いて育った。
Xファクターのオーディション当日に、ベッドで眠り続けていたZAYNを起こしたのは母親(トリシャ・マリク)である。トリシャはヤーマルと結婚した際にイスラム教に改宗し、ZAYNをモスクに通わせた。イスラム教徒のイギリス人である事について、Digital SpyのインタビューでZAYNは自身の環境についてこう語っている。
「この業界で僕のような背景を持つ人は珍しいし、プライドと責任感を持っている。イスラム教の教えの中で育って、自分を作ってきたもの。でも自分は自分でしかない、宗教や文化的背景で説明されたくはない。」
毎月の家賃を払うのでさえ苦労をする家庭で育ったが、決してそれを困難だったとは語らない。家族や環境に影響を受けながら、ZAYNの芸術性は育っていった。
そして、ZAYNはXファクターで才能を認められ、One Directionのメンバーに選ばれ2010年から活動を開始したが、人気絶頂の2015年に突然の脱退を発表。
ガールズグループとして活動していたガールフレンドと別れ、Frank Oceanのプロデューサーとデビューアルバム『Mind Of Mine』を制作する。アルバムは全米1位を獲得し念願のソロアーティストとして絶大なカリスマ性で支持を得ることになった『Mind Of Mine』の歌詞はすべてZAYN自身が作詞している。
ZAYNはヴィクトリア・シークレット等の有名ブランドのショーに出演・広告を飾っている、世界的トップモデルのGigi Hadidと交際していたのは有名だろう。
『Pillowtalk』のMVはGigiと共演し、タイトルらしいお互いを求め合うセクシーな作品として話題になった。Gigiとは2年半交際し、2018年春に破局するも、10月に無事復縁!
今年のGQ誌のインタビューでZAYNはGigiとの関係についてこう語っている。
『ソロアルバムのレコーディングをしている時に、ネガティブに物事を見るようになってしまった。彼女は前向きに物事と向き合えるように手伝ってくれたんだ。』さらに『彼女に出会えて本当に感謝してる。僕たちは大人だし、関係をハッキリさせる必要はない、みんなの期待に応えるための行動はしない。』とも語っている
全世界に注目されるという苦悩がありながら、前向きで彼を応援するジジとは深い愛情を育んできたようだ。そして前作より磨きをかけた表現力とディープで甘い歌声を惜しげも無く披露し、愛を綴った曲を多く収録したのがニューアルバム『Icarus Falls』彼のセクシーな魅力や才能はどこまで成長するのだろうか?
多彩なアイテムをスマートに着こなし、ビジュアル面でもファンの心を掴むZAYNの最新ファッションを紹介しよう
黒髪のイメージが強かったZAYNだが、今年になって髪とヒゲをブリーチしワイルドなイメージにガラリとチェンジ!
Pillow Talkでブリーチヘアを見せて以来のブロンドヘアで、Gigiとの決別?または続編か?という憶測がされた
今年になり大きな薔薇のタトゥを首にオン、全身に入ったタトゥはすべて独自のデザインによるもの。
『Peter Max Cosmic Flyer Graphic』のサイケなTシャツを着たある日
ファーやアニマル柄を着こなした『GQ Mapazine』のシュートは話題に!
British Vogueでは、赤いスーツでエレガントな雰囲気を魅せている
今まであまりパーソナルな部分について語ってこなかったZAYNは、自伝本『ZAYN』を発売している。
自伝本は『写真で彼の人生の旅路を伝える』ものであり『パーソナルな話、考え、インスピレーション、絵、メモ、歌詞』などが含まれているようだ。
『男らしくあれ、壁を作って感情を表に出すな』という最初に体験した音楽界は辛かったと語り、『女性が貢献できる場を増やせば、世界で起きている問題の多くが解決できると思う。もっと多くの女性が決定権のある地位についてほしいと思ってるんだ。』と世界中の女性の活躍を期待するような、フェミニスト的発言もしている。
ZAYNは『出来る限りメディアや他人の言葉ではなく、自分自身の表現で読者に自分を知ってもらえるように』と自伝本について語っている。
メディアには語らない繊細な彼の内側が覗ける自伝本、今回のアルバム『Icarus Falls』を聴いて彼のパーソナルな部分について気になった方は、是非読んでみてはいかがだろうか?
mai
都内在住の20代OL。音楽・映画・LGBTQ・韓国カルチャーなどのエンパワーメントな情報をSNSで発信しています。
https://twitter.com/sonicmainic
Info
ゼイン|ZAYN
ニュー・アルバム
『イカロス・フォールズ|ICARUS FALLS』
2018年リリース・シングル全6曲+日本限定ボーナストラック収録(全29曲)
●配信
配信中
全29曲 / 2,500円
●国内盤CD
2018年12月21日(金)全世界同時発売
全29曲(Disc1「イカロス」:14曲/Disc2「フォールズ」:15曲)
先着で購入者特典あり(ジャケット写真絵柄の特製ミニクリアファイル)
SICP5903-4 / 2,800円+税
●輸入盤CD
2018年12月21日(金)発売予定
全27曲/Disc1「ICARUS」:13曲/Disc2「FALLS」:14曲)
試聴・アルバム購入リンク:
https://lnk.to/ZAYN_IcarusFalls