【直前特集】電子音楽とデジタルアートの祭典 MUTEK.JP 2018 | 革新的なサウンドを携えた6組の注目アーティスト

11月1日(木)より4日間にわたって開催される、MUTEK.JP 2018。モントリオールから生まれて世界各地に広がる、テクノロジーを駆使した最先端の表現が集う「電子音楽×デジタルアートの祭典」だ。KDDIによる自由視点VR、音のVRを応用したインスタレーション作品「Block Universe #001」が披露されるなど、最先端の技術も堪能できるMUTEK.JP 2018のFNMNL的な注目アクトを、エレクトロニックミュージックシーンに精通するライターのimdkm、高岡謙太郎、WWWβを拠点に自身でパーティーオーガナイズなども行いDJとしても活動するShimpei Kaihoの3名が紹介してくれた。

machina

韓国出身で、現在は東京を拠点として活動するmachìnaは、エレクトロニックなサウンドに自身の力強く表現力豊かなヴォーカルを溶け込ませる作風で知られるプロデューサー/パフォーマーだ。最初に彼女を知ったのは、PARKGOLF("Ever"『REO』2017年)や食品まつり a.k.a. foodman("CLOCK"『ARU OTOKO NO DENSETSU』2018年)といったプロデューサーの作品への客演を通じてだったので、比較的最近のことだ。客演で見せたヴォーカリストとしての存在感に惹かれてEPやライヴパフォーマンスの記録をチェックすると、自身の作品もまた、空間をたゆたうような厚いシンセとエッジのきいた骨太のビートが同居する素晴らしいものだった。

とりわけライヴパフォーマンスでは、モジュラーシンセから発されるむき出しの電子音のうえで豊かな旋律を歌い上げ、その歌声が無造作に鳴り響くアルペジオやビートにエモーショナルな起伏を与えていく――そのさまは唯一無二だ。

Masayoshi Fujita

ベルリンを拠点とするヴィブラフォン奏者、Masayoshi Fujitaは、ヴィブラフォンという比較的若い楽器の可能性を拡張してきた。20世紀の初頭に生まれたヴィブラフォンは鉄琴の一種で、その名前の通り音を振動(ヴァイブレート)させる機構を持つ。とりわけジャズで馴染み深い楽器だが、Fujitaは弓で音板を擦ったり、アルミフォイルやオブジェを音板の上において叩いたりと特殊奏法を多用し、ヴィブラフォンの持つサウンドそのものにフォーカスした作品を制作している。2018年7月には最新作『Book of Life』を発表したばかり。よく澄んだヴィブラフォン独特の響きを中心としながら、演奏のプロセスから生じる微細なノイズやアンビエンスまでをもコントロールするかのようなサウンドは、ぜひライヴで体験してみたい。

ちなみに、FACTmagazineの名物企画「Against the Clock」に登場した際に披露した、ループペダルとエフェクターを用いたインプロヴィゼーションは一見の価値がある。

奇しくも二組とも、アコースティックなサウンド――「声」と「ヴィブラフォン」――と電子音が接近する地点で自身の音楽を追求するアーティストたちだ。この二組に限らず、まさにこうしたアーティストたちに出会うことこそ、テクノロジーへの関心を中心におくMUTEKの精神にふさわしいと言えるかもしれない。machìnaはヴィジュアル・アーティストのShohei Fujimotoと共に3日(土)のプログラム「Play 2」に出演するほか、同日昼に行われるパネルディスカッション「Digi Lab 4: Creative Lab by Ableton」にも登壇する。Fujitaは4日(日)のプログラム「Ambience」に出演。ぜひチェックしてほしい。(imdkm)

X-102

とにかく、まずは2010年の野外フェス『METAMORPHOSE』でのライブ動画を観てほしい。X-102のコンセプトとなる「土星の輪」を投影しながら、サイレンが鳴り響くデステクノでひたすら絶叫を巻き起こす、まさにレイヴという状況となっている。映像は写真家トーマス・ルフの作品のようにも見え、壮大さに圧倒される。

今回のMUTEKに登場するのは、ジャジーさやエモーショナルな曲調の多いデトロイト・テクノのUnderground ResistanceとしてのMad Mikeではなく、現在は東京フィルハーモ二交響楽団とのコラボしたクラシックやTerry Rileyとのコラボした現代音楽を披露するJeff Millsでもなく、あえて2人が90年代初頭に組んでいたユニットX-102となったことは、見どころといって間違いないだろう。

1991年、デトロイト・テクノの名門レーベルとして現在名高いUnderground Resistanceは、転機となるアルバム『X-101』をリリース。怒りを原動力にしたかのような煽情的なハードコア・テクノの名曲「Sonic Destroyer」を中心に、過去作を上回る高揚感を与え、ドイツのテクノレーベルTresorからもリリースされるほどの反響を得た(日本盤も発売)。
それに続く、1992年にリリースされた本プロジェクト『X-102』では、エクスペリメンタルテクノの原型となるトラックや、アルバム単位の世界観を構築することが少なかった時期にいままでに接点の少なかった「宇宙」というコンセプトを取り入れたことで、他のテクノのアルバムとは異質の雰囲気を醸し出していた。

彼らの原点回帰となるX-102としての来日は8年ぶりで、天体の周期のようになかなか観られない。太陽系最大の惑星である木星のように、とてつもなく巨大な存在を目撃することになるはず。

Fatima Al Qadiri

時代と向き合い、リリースごとにテーマが変わるベースミュージック・シーンの異才、Fatima Al Qadiriも見逃せない。直近の作品『shanee'a EP』(2017年)では、ハリージ(アラブ音楽)のメロディが乗ったグライムとトラップを掛け合わせた楽曲をリリース。毎回社会問題に切り込み、今回のコンセプトは中東のジェンダー問題となる。イスラム教下では男性と女性に性の役割がはっきり別れてしまうが、そこにドラッグクイーンのメイクをした邪悪な女王のジャケットを持ち込んだ。重苦しさのあった過去のリリースから刷新して、政治的なコンセプトがありながらも軽快なダンストラックと、極端なメイクで作られたペルソナによってエネルギッシュに垢抜けた。ただ、どことなく切迫感が漂う不穏な雰囲気が時代性を感じさせ、ヒリヒリさせてくれる。日本のステージでも妖艶なダンスを披露するのかが気になるところだ。

Fatima Al Qadiriはセネガル生まれのクウェート育ち。ニューヨークに移住し、現在はベルリンを拠点とするコンセプチュアルアーティスト。ソロだけでなく、Warp Recordsからリリースしたベース・ミュージックユニットFuture Brownの一員でもある。そういった生い立ちもあってか一箇所に留まらない活動をする。

Hyperdubからリリースしたファーストアルバム『Asiatish』では、訪れたことのない中国をファンタジックに描いたシノグライム(東洋風のメロディを入れたグライム)を奏で、2ndアルバム『Brute』では、アメリカにおける警察の残虐行為をテーマにしたウェイトレスグライムを構築した。このように彼女の過去の経歴から察すると、時代に合わせて問題提起と曲調を変えるアーティストというのがわかる。今回を見逃すと次は同じものが観られないだろう。

X-102とFatima Al Qadariの2組とも11/3(土)に未来館でパフォーマンスを披露する予定だ。(高岡謙太郎)

Aïsha Devi & Emile Barret

2010年代のエレクトロニック・ミュージックの最もオルタナティブな進化として未だ発展にあるスタイル「脱構築」をボーカル、ビジュアル、舞台演出も交え、よりフィジカルなサウンドとパフォーマンスで現代のハイブリディティを試みるアーティスト。世界各国で湧き上がるナショナリズムへの反発から、これまでの音から人へもフォーカスされる現代のエレクトロニック・ミュージックの変化を表すように、ネパールとチベットにをルーツに持つ彼女のアプローチは瞑想へと導かれ、分断とデジタル化が進む現在の社会をディストピアとしたサイバーパンクの近未来的な世界観を描く。攻撃的なサウンドとスピリチュアルなボーカルを織り交ぜながら”破壊”と”祈り”のような儀式を遂行しているかに響く。

アジアの繋がりから、最近行われた中国人ビジュアル・アーティストTianzhuo Chenや上海ALLでもレギュラー・パーティを行うアート・コレクティブAsian Dope Boysとのコレボレーションではミュージカルなダンス・パフォーマンスも披露している。今回のMUTEKでは長年コラボレートしているフォトグラファーのEmile Barretがビジュアルを担当する。

Laurel Halo

近年のエレクトロニック・ミュージックの進化と共に最もユニークな変化を見せてきた、洗練とアップデートを続けるアーティスト。2010年にブレイク前のGames (OPNの別プロジェクト)、ARCA等を輩出してきた今は亡きNYの最先鋭レーベルHippos In Tanksからデビューし、当初からシーンの担い手として注目され、その後もアルバム、コラボレーション、楽曲の提供や参加も含めRVNG Intl.、Hyperdub、Honest Jon’s、PAN、最新作はLatencyからと、近年のエレクトロニック・ミュージックを牽引する名だたるレーベルからのリリースが彼女の輝かしいキャリアと作品ごとのテーマを元に一貫とした実験性と先鋭性を物語っている。

またアルバムの創作における音楽的なジャンルやインスピレーションも変化し続け、シンセ・ポップ、テクノ、ボーカロイド、ジャズ、アンビエント、クラシックに及び、手法もコンポジション、ソング・ライティング、トラック・メイク、セッションなど、その柔軟なセンスと実践は、根底にある前衛精神を元に今回のMUTEKで披露される彼女のDJセットにもよく表れるだろう。(Shimpei Kaiho [WWWβ / melting bot])

Info

公演名:MUTEK.JP 2018
日程:2018 年 11 月 1 日から 11 月 4 日の 4 日間
会場:日本科学未来館、渋谷 WWW/「WWWX、代官山 UNIT(東京都) 主催:一般社団法人 MUTEK Japan/KDDI 株式会社
特別協力:日本科学未来館
MUTEK Japan 詳細は以下参照ください http://mutek.jp/

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